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魔王様の右腕 ーwithディアボロスー  作者: 餅の上
アルタの村
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8.悪い噂②

「虐げてるって、差別とか迫害ってこと?」


 達巳が驚きながらシエルに尋ねた。するとシエルも顔をしかめてよく分からないのだと首を振る。


「確証がなくて、本当の事かは分からないんです。でも魔王さんは知っているかと思ったんですけど……」


 隔世から戻ってきたヴォルホークが噂の真相を知る由も無かった。しかしヴォルホークにはとても魔人が迫害されているとは思えなかった。


「この国の人口約2割が魔人だ、それら全てを迫害しているのか?」


「それどころか獣人も同じように迫害を受けているらしいです。魔人まびと獣人けものびと、合わせれば国の人口4割強になります。とても正気じゃないですよ」


「ああ。いくら芒王ほうおうのヤツが頭固くて融通の利かない娘っ子でも馬鹿げていると分かるはずだが……いや、あり得るかも」


「信用無いんですね」


 肩の上の魔王が揺れる様を見て、芒王が然程評価されていないと悟った。


 ヴォルホーク曰く現芒王、ハモルフィア・アモルネアは頑固な女性で、代々続くアモルネア国の女王なのだという。

 広大なアモルネア国は長い歴史の中で女王が治めてきた歴史を持つが、ハモルフィアの曽祖父、祖父、父に渡り国土拡大の無理な遠征を続けた結果土地は荒れ、人は疲れてしまった。

 彼女の父の代で遂に遠征出来なくなるまで疲弊し、遠征をやめた。

 女王たちが長い時間をかけ築き上げた国が男三代で大きく傾いたわけだが、前代アモルネア王は中央再建に注力して遠征で手に入れた土地や都市から離れた町や村の支援からは手を引いた。

 そのせいで男に王は任せられないと国民が憤り、三代ぶりにハモルフィアが女王として現芒王を務めているとのことであった。


「遠征しか頭になかったバカ王族の娘だけあって頭固いんだよなあの娘。

 儂が魔王って呼ばれるようになったら無理やり城に呼び出して『無法者を集めて何を企んでいるのですか?』とかぬかしやがって。

 お前の親が焼き払った土地に住んでいた身より無い魔人や獣人が集まってきただけだってーの!」


 思い出すだけでも腹が立つようで、ヴォルホークは鼻息荒く歯ぎしりを立てた。

 達巳はプンスカ怒るヴォルホークに苦笑いで応えてシエルの方へ向き直ると、目が潤み両手で口を覆ったシエルが聞き入っていた。


「魔王さん……身寄りのない人たちを引き取っていたんですね、凄いです!

 私、何も知らないで悪い人とばかり勘違いしていました……ごめんなさい……!」


「確かに。国が面倒を見られない人たちの世話をしていたなんて流石王様ですよ!」


 達巳もシエルに同調してヴォルホークに尊敬の言葉を述べる。


(やべっ、それが面倒になって隔世に逃げたって言えない流れだコレ)


 そう、ヴォルホークは自分の元に集まってくる縁も無い人々の世話が煩わしくてわざと勇者に敗れた振りをして隔世へ逃げたのだった。

 当初の目論見通りならば今頃、隔世で優雅に隠居生活を過ごしている予定だったのである。


 そうとは知らぬ達巳たちの熱い視線に、真実を伝えづらくなったヴォルホークは「ま、まあな!」と言って誤魔化した。


「魔王さん、お願いします!

 私と一緒に芒王様に迫害を止めるよう謁見していただけないでしょうか!?

 魔王様ほどの人の言葉なら芒王様も耳を傾けてくれると思うんです!」


「ええ、無理じゃねーか?

 勇者差し向けてまで儂を殺したかったわけじゃん?絶対話聞かないって」


「うっ、確かに……っ」


 言い返せずシエルはそれ以上何も言えなくなってしまった。

 丁度その時、遠目に集落らしきものが見えてきた。達巳はシエルにあれがアルタの村なのか尋ねると、シエルが頷く。


「はい、ここがアルタの村です!

 私は冬を越す間お世話になる代わりに、村の用心棒をしていたんですよ!」


 改めてシエルが明るい声で返事する。ヴォルホークとの会話で苦い顔をした様子はもう見られず、彼女らしい明るい表情をみせた。

 アルタの村は低い塀に囲まれおり、森の中にぽつり佇む侘しい村といった印象を受けた。往く人も高齢の人が多いように感じる。

村人は見慣れない達巳たちの姿に最初は浮足立つが、シエルの姿を見るとほっとしたように安堵した様子だった。


「俺たちそんなに怪しい格好してる?」


達巳が怪奇の目に戸惑ってシエルに尋ねる。


「いえ。最近村に魔人の盗賊が出るようになってちょっと被害が出ているんです。

人の出入りも少ない村だから、見たことの無い人に対して警戒しちゃうだけですよ」


「割とすぐ近くに城を構えていた儂でも知らなかったからなぁ」


「私も知らなかったです。もしカルムさんに見つけてもらっていなかった今頃凍えて死んじゃってましたよ」


 どれだけ人知れずにある村なんだと達巳は困惑する。

 しかし二人が気付かないのも無理も無いレベルで寂れた村なのも事実である。古くなって色の抜けた壁や苔むした塀が、村の秘境感を演出している。


「そのカルムさんって村の人?」


 話の中に登場した人物について質問すると、シエルは首を横に振った。


「獣人の旅人ですよ!」


「けものびと?」


 芽実が首を傾げる。達巳もそれが何なのか気になる。先程二人の会話でも聞いた単語だ。

二人が首を傾げたのを見たヴォルホークが、獣の特徴を持った容姿の人々をそう呼ぶのだと説明した。


「獣人以外にも、儂やミレアのように悪魔と人の特徴を持っている者達を魔人、伝説上の天使の翼を持つ者たちをそのまま天使、もしくは召人などと呼ぶ。

 達巳や芽実、シエルの様に悪魔や獣の特徴を持たない者は徒人と呼ばれているな」


 ヴォルホーク曰く、様々な身体的特徴を持つ人々が住む世界なのだという。

 達巳が話を聞き入っている横で、芽実は「けもの……耳……もふもふ……」と小言を言って興奮していたが、達巳はそのまま見なかったことにして流した。


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