対人トラブルありませんか?私が解決します。一二三クリニック院長、優和七五三
世にはどのように職業につこうとも悩める人が存在する。そんな存在に対して、時には「神父」「占い師」「barのマスター」「カウンセラー」「コールセンターのオペレーター」「相談員」など職を変えて、あらゆる職業の人間の悩みを聞き、解決へと導く男、その男の名は「優和七五三」しかし、この名も彼の名前の1つであり、本当の名前は誰もしれない。今回の悩める人は「元X県の検察」の真理一(80)である。そして七五三の職業は「barのマスター」患者の経歴を簡単に言うと、小・中・高と進学校を過ぎ、最高学府という名高い大学に入りながら、弁護士資格を取ったというエリート中のエリートである。そんな一に対して、本音を話せと言っても土台無理な話でカウンセラー・占い師などの類は選択として×である。だから彼には「barのマスター」という役割で話をするのが彼のプライドは傷つかないし、アルコールが入ることによって彼の緊張もとれる。
「マスター、俺の息子、本当にぼんくらなだよ。」
一はこのbarに来るのは4回目であるが、それは偶然ではない。依頼人は一の妻(直美(78))とその友人(柏正人(65))である。直美は息子(健司(40))の家庭内暴力に対して心を悩ませていた。そんな時、自分の存在を知っていた正人から電話があり、正式な依頼が来た。正人の依頼を受ける前に家に監視カメラをつけ、「健司の暴行」というものを確認した。端的に言うと「末期だ」
直美の話によると彼女の娘は息子の性奴隷となり、自殺した。最初は一も自身の力を使い、健司を服従させてきたが、ある時、健司が反抗したことによって健司と彼の家族の立場は逆転していた。健司は飯の時間が遅れると怒りだし、一と直美を殴るという行為にでる。七五三はそんな事例を沢山みてきたが、その時の対処の方法は2つである。一つは無難ではあるが入院させるという行為だ。これは無難であるが一番の正解である。なぜなら、これで傷つく人間は少なくなるし、息子の人格矯正も可能であるからである。だが、七五三は今回はこの方法は使わない。なぜなら、今回は全ての人間に等しい罰を与えなくてはいけないという確信を持っていたからだ。
「そんなことないでしょうー。確か一さん優秀な弁護士さんって話をしてましたよ正人さんが」
「いや、そりゃ俺は優秀かもしれないよ。だけど息子は違うんだよ。」
七五三は今の言葉で入院させる案は完全に消滅したと思った。なぜなら、この男は自分のプライドの高さから今の現状に陥っていることを分かっていない。だからこの男に入院というプランを提示しても笑われて終わりだ。
「へぇーそうなんですか?でも、ぼんくらって言ってもいい学校でてるんでしょう?」
健司は中退したが全国でも2、3番目にあたる大学に通っていたという話は直美から聞いていた。これはこの男が唯一自慢できる息子の話だ。
「まあね、そこそこの学校には通っていたけど、それだけさ、学歴だけじゃ社会に通用しないって話だよ」
全国で2、3番にあたる学校に入ってさえもそんな扱いか、この男は自分の経験でしか物事を判断できない男だな。
「じゃあ、いい職業につかれてるでしょう?」
「最初はね、だけど、社会にでてからは全くだめ。自分の身の振り方もわからないし、なにもできない男だよ。」
これが暴行の動画で息子を様付けで呼んでいた男か・・・哀れだな。
「でも、息子さん生まれたときはかわいかったでしょう?」
一の飲んでいたグラスが止まり、走馬灯のように生まれた瞬間の息子の顔を思い出した。しかし、グラスは止まったが、グラスに入っていた液体は一の意識とは関係なく、喉の奥に入り、一は咳き込んだ
「ゴホ、ゴホ」
七五三はその隙を見逃さない。笑顔で一におしぼりを渡す
「あ、ありがとう」
眼鏡をはずし、涙をおしぼりで拭いた。
「そうだな・・・そんな頃もあったな」
一は遠い昔の思い出を懐かしんでいた。七五三はカクテルを作り、一に差し出した
「ん?頼んでないよ?」
「サービスです。」
カクテル飲む一
「美味い。なんていうカクテル?」
「スレッジハンマーというカクテルです。意味は「心の扉を叩いて」という意味です。」
「・・・そうか。私はまちがっていたのかな?」
一は七五三は見つめた。一は笑顔で話した
「そんなことはないと思いますよ。でも今まで息子さんと腹を割って話すという機会が少なかったのかもしれないですね。だから、そんな時こそ「心の扉を叩いて」相手と話をしてみることが大事なのかもしれませんね。」
一は無言で考え込み、2、3分経った頃、また七五三の顔みた。
「そうか・・・、ありがとうマスター。帰ったら息子と話をしてみるよ。」
七五三も自分用のウーロン茶を作り、一と一緒に乾杯した。
一がbarを出て、5分ぐらいたった後、後ろのスタッフルームから正人が顔をだした
「お疲れ」
「お疲れ様です。」
正人が席に座ると七五三は正人がいつも飲んでいる酒の水割りを置き、自分は食器洗いを始めた。
「あれで家庭内暴力がなくなるのか?」
「ええ・・・。」
「ただ単に話をすると言っただけじゃないか?」
「ええ・・・。」
「それでなんでなくなるんだ?」
七五三は水洗いを止め、食器を拭きだした。
「たしかに、通常の場合ですと、親子が腹を割って話をし、殴り合いか和解で終わりかもしれません。ただ・・・」
食器を拭き終わり、ウーロン茶を飲みだした。
「ただなんだ?」
「まあ、種は蒔いたので実るかどうか当人しだいと言ったとこでしょうか?それにもし種が実らずとも、またここに来るかもしれませんしね。」
「おいおい、そんなことじゃいくら相談したとしても、お前に成功報酬の40万は払えないぞ、というかお前に渡した。基本料金の10万円も返して欲しいわ。」
苦笑する七五三
「なにがおかしい!」
テーブルを叩き怒る正人
「俺があんたのことを何も知らないと思っているのか?」
「どういうことだ?」
当惑する正人
「あんたも健司もクソ野郎って話さ?」
青ざめる正人
「い、いやあれは仕方なかったんだ。奥さんの方から・・・」
苦笑する七五三
「おいおい、あんたは俺の依頼人だぜ?別にあんたを責めるつもりもないし、脅すつもりもない。ただあんたが基本料金を返してほしいと言ったんで、そこは違うだろ?って話をしたんだ。今のでなんとなくわかっただろ?基本料金がなぜ必要なのかという理由が、ウチの会社は「誠心誠意」が売りだからな。だからあんたはここでは傍観者に徹していればいいって話さ、ちなみに成功報酬は結果が出次第はらってもらう。もし払わないっていうのなら、あんたは傍観者でいられなくなるぜ?もちろん、結果は胡散臭い形ではなく、クリアな形ででるから安心しろ」
七五三の笑顔はさっきの一に対する笑顔となんら変わりなかったが、正人からすると何者よりも恐ろしい笑顔でしかなかった。
ーーーーーー3日後--------
X県の「一二三クリニック」で七五三はローカルニュースをパイプ椅子に座りながら見ていた。
穴橋裕子という美人アナウンサーがニュースを読んでいた。
「やっぱアナちゃんキレイだね~~~ミサキちゃん」
隣でソファーに座りながらファッション雑誌を見ていたミサキが穴橋をみると
「え~、そうですか?なんかヤリマンぽいじゃないですか?」
七五三は立ち上がり
「そんなことないよ!アナちゃんは処女だよ!処女!」
ミサキは鼻で笑った
「あ~信じてないでしょ!ミサキちゃん」
と詰め寄る七五三。ミサキは面倒臭そうに
「信じてますって、先生は診断中は天才ですから」
「え~何それ、診断中以外はバカってこと?」
「はいはい、私が悪うございました。」
「も~ミサキちゃん!」
面倒臭そうに七五三をかわすミサキ。
「次のニュースです。N県のN市にある住宅で真理一容疑者が息子の真理健司さんを殺害するという事件が起きました。容疑者の真理一さんは殺すしか方法がなかったとのことです。次のニュースです。今日午前7時頃、S県N市で強盗が・・・」
二人ともニュース画面を見ていた。
「これって昨日、先生に見せてもらった動画の人ですよね。」
ミサキは驚いていたが、七五三は無表情だった。
「ああ、だがここまで早く芽吹くとは思っていなかったよ。もしくは芽吹く前に俺のところに訪れて欲しいという思いがあった。そうすれば、末期ではあったが、この人の「生きる希望」を作ることが出来ただろうし、もしかしたら、健司だけを追い詰めることもできたかもしれない。」
「追い詰めるって?」
七五三はミサキが座っているソファーの隣に座り、ため息をつき
「言わなくてもわかるだろ?」
と無表情で天井をみながら言った。ミサキは唾をゴクッと飲んだ。
「まあ、最悪の事態は一時的に避けられたからよかったのかもな。」
「最悪の事態って?」
天井をみながら七五三は言った
「一家全員の死だよ・・・。」