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第8話 セルリアスの宴会

ここは、ゲーム内の酒場のある個室。男ばかりのプレイヤーたちが呑みながらしゃべっていると、突如引き戸が急いで開けられ、中年のひげ面男が顔を出した。


「セルリアス様!や、やばいです!」

このようないい年こいたおっさんが若者言葉を使うのは、違和感しかない。

個室の平均年齢が二十代の若者言葉ネイティブは、お互い口に出さないがそう思う。

「どうした、ダス」

個室のテーブルの一番奥の中央に堂々と陣取った、銀髪に青い目の青年が問いかける。

「さ、ささささっき、アオバが……『最強』のアオバが!」

そう、このおっさんは、アオバがうざがって振り払い、コユキがアオバの名を出して撃退したあのおっさんである。年齢は見た目通りのアラフィフ。本名が須田なので、それをひっくり返してダス。このゲームでの職業は、銀髪碧眼青年、もといセルリアスの腰ぎんちゃく。アオバの見立てにたがわず雑魚の小物だ。

「何、アオバが?お前、見たのか?」

「はい、この目で、しっかりと!それに、ある小娘が、施薬エリアの鍵をアオバから譲り受けたと!」

「む、施薬エリアがアオバによって解放された?」

セルリアスがインベントリを見ると、持っていたはずの「廃病院の鍵」が、いつの間にか消えている。そこで初めて彼の表情に動揺が浮かび、切れ長の目が細められる。

「あの訳の分からん院長を、いかようにしてねじ伏せたのか……」


セルリアスは、これまで何度もあの廃病院に挑み、毎回敗北を喫していた。自分では会心の一撃を入れたつもりが、自分が知らないうちにダメージを入れられて死んでいる。どんなに初撃を速くしても、どれだけ防御を固めても、無駄だった。あの狂医師は、自分の存在を、自分が相手に切りかかるより素早く感知し、自分が即死するような攻撃を与えてくる。

(自分の鍛錬が足りないのか……。)

彼の目には、そう見えていた。鍛錬が足りないのではなく、単に彼の観察力が低いだけであることを、彼は気づけない。


セルリアスが施薬エリアを欲しがった理由のひとつは、彼のパーティーに薬師をはじめとする回復職がいないことだ。施薬エリアには、回復薬のみならず、そこのエリア以外には存在しないような薬があるという、そんな彼にとっては垂涎ものの噂を聞きつけ、エリアが出現してからは足しげく攻略に通い、ことごとく失敗してきた。エリア開放のチャンスはすべてのプレイヤーに与えられるが、開放した後のエリアの所有権、つまりエリアの鍵は開放したプレイヤーにのみ与えられ、挑戦者の持つ鍵はすべて消滅する。所有者となったプレイヤーは、そこを皆のために広く開けるもよし、自分のためだけに使うもよし、あるいは爆薬で吹き飛ばしてしまうもよし。セルリアスは、施薬エリアを手に入れた暁には、彼とそのパーティーで占有し、ほかの誰も得られないような力を得て、「最強」になろうと望んだ。それが、施薬エリアを欲しがったもう一つの理由である。そんな彼にとって、別のゲームとはいえ「最強」の異名を取っていたアオバの出現は、自分がどう頑張っても手に入らなかった施薬エリアの所有権を、彼女にやすやすと奪取されたことは、好ましくない事態以外の何ものでもなかった。


「……ダス」

「は、はいい!!」

「貴様、その女と、連絡はつくのか?」

「い、いえ……」

「……使えん」

ぼそりとつぶやく。

「使えん奴は、いらん!」

こぶしでテーブルをたたくと、パーティーのメンバーたちが驚いたようにセルリアスを見る。

「ダス!」

「ひっ!」

「お前はアオバの情報を中途半端な形で俺によこした!詳細を何も調べないままに、だ!」

「はひい、申し訳ございません!」

「これが許される行為と思ってか!」

「お、お許しください、どうか!」

「むろん殺しはしない」

ダスがほっとした顔になる。

「だが、お前は今日を持ってこのパーティーを追放処分とする!ここから出ていけ!」

ほっとした顔がたちまち凍り付くのに構わず、セルリアスは指を鳴らした。二人の男がダスを両側から押さえつけ、個室から引きずり出した。ダスの騒ぐ声が遠ざかる。

「ボス、あいつ追っ払っちゃって、よかったんすか?あいつ雑魚いしKYっしたけど、今のとこ『アオバ』に関する情報持ってんの、あいつだけっすよ?」

ダスの退場により、平均年齢がさらに下がった酒盛りの場で、若い金髪の男がセルリアスに話しかける。

「心配ない、そこまで計算済みだ。考えてもみろ、あいつがあのままおとなしくしていると思うか?」

「いえ、おおかた元のさやに戻ろうとして交渉仕掛けてくるっしょうね。」

「その時は、うまく人に取り入ろうとするだけが取り柄のあいつのことだ。何か『アオバ』についての有力な情報を手土産に持ってくるはずさ。なに、ちょっとでくの坊を置いとくだけで情報が手に入るんだから安いものだ。」

「さっすがぁ。」

彼は納得したようだ。


金髪男が去った後、セルリアスは食事の手を止めたまま、目の前の空間をにらみつける。

「……『最強格闘少女』アオバ」

薄い唇が、その言葉を紡ぐ。

「貴様のその『最強』の二つ名も、名誉も……すべて俺が奪ってやる。徹底的にぶちのめして、俺が真の『最強』になる……!」

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