第33話 フォースで共にあらんことを
レンの機嫌を直しているうちに日は暮れて、その日はいったんお開きにした。
次の日。
穴を降りると、いつの間にやら私の左手首はジョーの右手首と、手錠でつながれていた。
サクラの右手も、レンの左手と、同様に手錠でつながっている。
「なーんか、囚人気分ー……」
さっきのダンジョンでは、言葉遊び(?)に引っ掛かって早々に退場したし、今度も体の自由を制限されているレンはふくれっ面だ。
「まぁまぁ。おっ、ここも貼り紙がある。」
ジョーが、壁の貼り紙につかつかと歩み寄る。手錠でつながれた私の左手首が引っ張られ、バランスを崩す。
「うわぁっ!おい、急に歩くな!」
「あ、サーセン!」
「全くもう!」
「ごめんったら。」
あー、このいい加減な感じは……。
「お前、ほんとにいくつだ」
「いくつに見えます?」
「合コンじゃないんだから」
「ジョーさん、私も知りたいです!」
横からサクラが、目をキラキラさせて聞く。
「ぐっ、いたいけな子供のキラキラ目線と来たか……。」
「ジョー、俺からも頼むよー、お願い、教えてー!」
「レン、お前がやってもキモいだけだからやめとけ。」
「えー、ひどーい!これでもまだ12だよー!」
「お前、12でこのキンキン声か!」
「悪いかー!ボーイソプラノ、ばんざーい!」
「ジョーさん、知りたいんです、お願い、教えてくださいです!」
ジョーは、何かに貫かれたかのようにがっくりと膝を折った。
「引っ張られるからやめいって!」
「あー、悪い悪い。……俺の年は、16です。」
やっぱり。ちょうどクラスメートの男子たちみたいな感じだなー、と思ってたところだよ。
「ふーん、私と同じだな」
「あー、そっすか。」
ジョーはそれほど驚いた様子は見せない。ま、あの天国っぽいダンジョンでは、割と正確に年齢当ててたし、予想の範囲内か。
「で、問題の貼り紙には……。」
こんな文句が書いてあった。
「手錠でつながった人同士、ペアを組んで脱出してください
つながった人のどちらかが倒れるともう一人も倒れます
またここには看守が多数見回りしておりますのでご注意ください」
「なーるほど、刑務所仕様ってわけかい。」
「それでは、固まって動くと看守さんに見つかる確率も上がりますので、別行動にしましょう!アオバさん、ジョーさん、健闘を祈ります!」
サクラがビシッと敬礼をする。
「サクラ、それ、陸上自衛隊の敬礼だー。」
「それ以外の自衛隊は違うんですか?」
「そーそー、聞いた話だと、海上自衛隊は、舟の上で場所が少ないから、ひじをなるべく横に突っ張らないで、省スペースで敬礼するんだってー。」
「そうなんですか!」
どや顔のレンに、好奇心のためか、さっきとはまた違ったキラキラを帯びた目をするサクラ。レンとサクラも、この調子だとうまくやれそうだ。
で、私はさっきから気になってることがあるんだけど……。
「あのー、すみませーん……」
ダミーコユキが、おそるおそる、と言った感じで挙手する。
「コユキ院長、どうしたんですか?」
「私、誰ともつながれてないんですけども……」
ダミーコユキが、現状ぼっちなんだ。奇数だからあぶれたのか、そもそもプレイヤーじゃないからカウントされなかったのかはわからないけれど。
「あー……どうしましょうね。」
ジョーが、眉をハの字にして考え込む。
「仕方ない、私たちと共に来るがいい」
理由は操作が利かない以下略。
「は、はい、わかりました。」
「ジョーも、それでいいか?」
「もちろん。」
「じゃ、改めまして健闘を祈ります!」
「上に同じくー!」
サクラとレンは、お互い空いている手をぶんぶん振りながら遠ざかっていく。
「おう、オーブ取って戻って来いよー!」
「頑張れよ!」
こちらも負けじと手を振り返す。
「……そういえば」
「ん?」
「ここも、オーブ一つなんですかね?」
「原則にのっとるなら。」
「んじゃ……なんか、きっついですね。」
「確かに。オーブの取り合いになるわけだからな」
「はい。ま、気にしていてもいいことありませんし、とにかく行きましょう。」
「ああ。ところで……お前も同い年なんだから、敬語なんて、使わなくていいんだぞ?」
「いや、『最強格闘少女』のアオバさんにタメ口なんて、畏れ多くってできませんよ。」
「ランキング2位の『金色の風』が何を言うか」
「とはいっても、『2位』と『最強』じゃ……」
「くだらん口論はその辺にするぞ。ちょっと肩、触らせろ」
「え?あ、はい……」
ジョーの肩に手を触れ、「透明化」を発動する。続いてコユキにもかける。片手しか使えないから二度手間だな。何とかならんもんか。
ダンジョンは分かれ道はあるけれど袋小路はなく、迷路というよりは本当に、看守から逃げきるというコンセプトのようだった。足はつながれてはいないけれど、効率よくバランスを崩さずに進もうとすると、自然と二人三脚のような格好になる。
「今度、体育祭で二人三脚あるんですよ。」
「本当か?奇遇だな、私の学校もだ」
歩いていると、紺色の警察官のような恰好をした人が角を曲がろうとしていた。
「看守か、姿は見えていないはずだが、見つからないようにせねばな」
ジョーに語り掛けるが、その表情は厳しい。
「……アオバさん、こいつは看守なんかじゃありませんよ」
警察官風衣装の人の左手からは鎖が伸び、迷彩服の人がつながれていた。
「俺の知り合い、『ビーチ』のメンバーです。アオバさん、この透明にするやつ、解いてください。」
『透明化』を解除する。
「おやおやおや、出奔者のジョーじゃないかい。」
「手錠につながれてるのは、誰かねえ?ものおじして、出てこないとは。」
「チキンの相方はチキンってか?」
がははとぶしつけに笑う二人組。
ジョーは無言のまま、私の脇腹を小突く。
「やりますよ。」
黙ってうなずき返した。
「その言葉、十倍二十倍にして、返してやるよ!!」
二人で息を合わせ、飛び上がった。




