第24話 素材は現物限り。
私とサクラちゃんは、二人で施薬室にこもり、朝からある作業をマッハで行っていた。
「ネイヒー、ここにもありませんでした!」
「ここにもない!どうしましょう……。」
今日、私たちは整体院のドアに「一身上の都合につきお休みします」と貼り出して、あるものを探していた。それはネイチャーヒーラー、略してネイヒー。「癒しの茶」の材料だ。昨日、バルトさんとレン君に淹れたら、なくなっちゃって。どこかにないかなーって、探してたところ。実はこのネイヒー、回復作用のあるお薬には、ほとんど入っている。イベント期間に回復薬が作れないのはかなり大変。サクラちゃんも私も必死なのよ。
「……コユキさん、これ、何でしょうね?」
棚の引き出しを探していたサクラちゃんが、折りたたまれた布を取り出した。
「何かな?どれどれ……」
毛織物
院長のペットのメーメー君から刈り取った毛の織物。防寒、防暑、防水、耐久性に優れる。
「メーメーってことは……」
「羊、ですかね……。」
「いかにも安直な。でも、ここに羊なんていなかったわよ?」
「逃げ出したんですかね?」
「確かに、いったん廃病院になってるから、そういう設定でもおかしくないわね。」
そのあとしばらく探したけれど、結局ネイヒーは見つからなかった。
「……こういうわけで、今日はお茶は入れられないんです。」
私が正直に白状すると、ジョーさんはうなずいた。
「そうかあ、じゃあしょうがないn」
「え、ネイヒー?その辺に生えてるよー?」
レン君が、ケロッとしてジョーさんの答えをさえぎった。
「ほ、ほんとですかっ!?」
「ホント、レン君!」
サクラちゃんと私は食らいついた。
「い、いや、近いよ、近いってー、二人とも!北の森の入り口近くの、ちょっと開けた場所には、たいてい生えてるから!何なら、今からでも行こうかー?まだ昼下がりだしー。採集はそこまで手間じゃないもん。」
「行きます、行きます!」
「ぜひ、一緒に!」
「はいはーい、じゃあジョーはお留守番ねー!」
「なんでだよ!俺も、俺も行きますって!」
にぎやかに北の森まで歩いていき、木の少ないところを見つけて採集を始めた。
「これですよ、コユキさん。この、スペード形の葉っぱが目印です。」
「あら、そうなの。」
「それからこっちがバラカブト、うまく調合すれば麻酔っぽく使えるけど、一歩間違えると猛毒になるよー!」
「へぇ……ジョーさんもレン君も、よく知ってますねぇ……」
「たいていのプレイヤーは、まずお金を稼いで装備を強くします。だから、いわゆるクエストのようなものをいくつも受けているうちに、採集の技術は一通り見についちゃうんですよね。」
「サクラみたいに、初期装備のまんまパーティーに参加したいなんて言うのは、論外なんだよー!」
「むっ!うるさいですね!悪いですか!」
「悪くはないけどー、馬鹿正直というか、考えが足らないというかー。」
「むきー、です!」
「ハイハイ、二人ともコントはその辺にして……」
「コントじゃねー(です)!」
「コユキさん、進み具合はどうですか?」
「だいぶ取れましたよ。このくらいにしておきます。」
と言いながら、私はある気配が気になっていた。走ってきたら、逃げ切れるか……。
「じゃあ、今日は切り上げるとしますか……と言いたかったですが。」
同じく気配に気づいたらしいジョーさんの声が硬さを帯び、眼光鋭くあたりを見回す。レン君も同様で、ふざけた表情は鳴りを潜めている。
「20メーターくらいか?」
「おー。」
「じゃあ、レン、頼む。」
「りょうかーい。」
あ、マジになっても口調は変わらないのね。
レン君が、背中にしょった大きな弓を前に出し、矢をつがえて引き絞る。慎重にある一点を見つめて……
パン!
小気味よい音が、木立に響く。
「どうだ?」
「もち、当てたよー。KOさー。」
「そうか、よかった。」
ジョーさんは軽くうなずき、私を見た。
「さっき、ボス級のモンスターがこちらを見ていましてね。もう仕留めたので、大丈夫ですよ。」
「は、はい、ありがとうございます。」
二人ともすごいなあ。アオバなんていなくたって、十分すぎるくらい戦えそうじゃん。
「なにさー、ジョーは何もしてないでしょー?仕留めたのは俺だよ、お・れ!」
「うるせー、ガキは黙ってろ!」
ああ、これさえなければ……。




