第16話 サクラちゃんの今後の方針
朝。
サクラちゃんが来る前にログインして開院の準備を済ませ、鼻歌交じりで待っていると、サクラちゃんがログインしてきた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「痛みはない?」
「もう、ほとんど消えました。」
「そう、よかった。」
沈黙する。
「ゆうべ、あなたを助けてくれた人から聞いたんだけどね。あなた、すっごく強いモンスターと戦ってたそうじゃない。まだ初心者でしょう?どうして、そんな、上級者でも倒せないようなモンスターに立ち向かうなんて無茶、したの?」
サクラちゃんはしばらくうつむいて、こう答えた。
「……強く、なりたかったからです。」
「強くなりたいからと言って、何も勝ち目がないようなモンスターと戦わなくたっていいじゃない。最初は、少しずつ、自分のかなうモンスターを倒していって、自分が勝てる相手を増やしていって、そうやってすべての敵に勝てるように、つまり強くなっていくんじゃないの?」
彼女はうつむいたまま、答えない。ぶっちゃけ、ジョーさんから聞いて大体のいきさつは知ってるんだけど、ここはサクラちゃんの口から聞くのが大事なんだ。さらに、ぼろがでないように注意してたたみかける。
「それに、十分なスキルがない状態でかなわない相手と戦ったって、スキルは貰えるかもしれないけれど、どこが悪くて負けたかもわからないし、負けてばっかりいたら、ゲームが楽しくなくなっちゃうわよ?楽しむために、ゲームやってるんじゃないの?」
「……そうです。」
「なら、楽しくもないのに強い敵と戦う意味って、何?」
サクラちゃんは虚をつかれたような顔で、何か言いたげに口を動かした。ぱたぱたと、その膝に涙が零れ落ちる。
しゃくりあげながら話すサクラちゃんの声を懸命に拾った結果、ジョーさんから聞いたこととほぼ同じ話が得られた。やっぱりこの子で間違いないね。
「……サクラちゃん。悪いけど、そういうってことは、その『ビーチ』ってパーティーは、サクラちゃんのことを追い出したいみたいよ。」
「……え?でも、倒したら入れてやるって……」
「そこなのよ。こんな初心者、絶対倒せるわけがないって思って、あきらめさせるために言ったんじゃないかしら。」
「ひどい……」
「でもね、そんな人たちがいるパーティー、いて楽しいと思う?」
「……思いません。」
「だったらさ、もうこの際、あきらめちゃいましょう。あの人たちの思うつぼではあるけれど、ぐっとこらえて、大人の対応を見せるのよ。」
……いや、サクラちゃんどう見たって子供だし私より年下だけどさ。
「あいつらは、大人のくせに大人の気配りができない。そう思えばいいのよ。」
「……そうですね!」
「ところで、私も、仕事柄いろんな人の話を聞くことが多いんだけどね。『ビーチ』は、薬師がいないらしいの。サクラちゃんは戦いたいって言ったから追い出されちゃったけど、もし今、サクラちゃんがお薬を作れるようになって、薬師として協力したいって言ったら、きっと手のひら返したように入れてくれるわよ。」
「でも、あんなとこ、もういやです……」
「でしょ?だから、想像するの。薬師としてあいつらの目の前に現れて、入ってくれって頼みこむのをバッサリ断るサクラちゃんを。どう?すっきりしない?」
「あ、なんだか、気持ちがちょっと晴れてきました。でも、私……強くなりたいんです!薬師として、ちまちまサポートなんて……」
「強くなる形は、戦闘要員として名をあげることだけじゃないわ。もちろんそういう方法もあるけれど、新しい魔術を生み出して魔法使いさんを支える人とか、私のように疲れをいやす人とかも、ちゃんと自分の強みをもっているの。最強の戦士と呼ばれる人だって、周りの名もなきメンバーの支えなしでは、最強たりえないのよ。きっと、最強の土台を支える力も、強みだと、私は思う。どう強くなりたいかはサクラちゃん次第だけど、私は、そういう道もあるっていうことを、知ってほしいな。」
サクラちゃんは、「ちょっと時間をください」といって、考えこもうとした。
「ああ、1階はお掃除で使うから、そうね……」
院長室はアオバの衣装が放り出してあるから論外として。
「考えるなら、施薬室の中で考えてもらえるかしら。」
「わかりました!」
聞き分けよく、ツインテールをぴょこっとはねさせて立ち上がるサクラちゃん。
……たまたま空いてたのが施薬室ってだけだよ?特別何も思惑はないよ?




