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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第三章 新時代編 全41話

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第78話 『じゃじゃ馬娘来日』

 駐日イルリハラン大使館で消費される物資は、原則として母国と日本からの半々の輸入で成り立っている。

 元来なら駐在先で消耗品は購入するのだが、異星国家である日本が相手だとそうは行かなかった。

 代替出来るものなら経費削減で日本産を入手し、日本産ではどうしようもないものは母国から輸入するほかない。

 特筆するとすれば食料だった。


 いかに検疫で問題なく、アレルギーや栄養素でも摂取して問題ないとしても、母国の料理は忘れられない。

 よってひと月に一度のペースで本国からの補給を行っている。

 なお、排泄物を処理する浄水設備は万単位の浮遊島でなければ場所と資金の問題から設置できない。五万人を収容するラッサロン浮遊基地には設置されても、イルリハラン大使館にはないため地上に垂れ流すか回収するかのどちらかだ。

 当然駐日イルリハラン大使館は後者を義務としている。地上で生活する日本に汚物を垂れ流すわけにはいかない。


 前年は日本転移から始まり、ムルート進路変更問題と怒涛の外交問題が目白押しであったが、新年を迎えると一気に平和となった。

 今後はイルフォルン観光やユーストルの開発特区の協定調印と問題は多くあれ、有事は今のところない。

 もちろん、見えないところで様々なことが起きていることに疑いはなかった。

 平和とは秘密裏の攻防があっての結果だ。

 その攻防が秘密裏に出来なくなってしまうと目に見える有事となる。

 エルマまでそんな秘密裏の攻防の情報は伝わってはいないが、政府を始め情報省や外務省が尽力しているのだろう。


 次に出てきそうなシィルヴァス共和国やメロストロ合衆国が何も言わないのがその証左だ。

 エルマはそうした問題に神経を使うことなく、目の前の仕事に取り組むことができる。

 しかし、その仕事量は大量にあり、はっきり言って一人でするには酷と言えた。

 他の大使であれば歴代の仕事を引き継ぐだけだが、対日本では全てを新規でしなければならないからだ。

 例えば他の大使であればすでにある百個の仕事を引き継ぐだけなのに対し、日本はその同じ百の仕事を新規でしなければならない。マニュアルがあるとしても、途中と新規では必要とするエネルギー量は何倍と違う。


 もう一つにエルマは突然大使に任命され、それに対する研修も何一つしてはいなかった。

 マニュアルがあるとはいえエルマ自身も大使として素人だ。少しでも大使として一人前になるべく、本来なら休日の日でも仕事をしていた。

 日本はそのエルマの境遇を察してか、エルマと会うにしても自分の都合を優先することはせずにタイミングを見計らって来てくれている。

 そうした相手に配慮が出来るからこそ、異星国家であっても好感が持てる。

 そこは日本の長所と言えよう。

 少なくとも日本を知って以来嫌悪感を抱いたことがない。

 そんな平和ながら忙しい大使業務を、エルマは楽しんでいた。

 新年を迎えて早ひと月が過ぎた二月上旬。大使執務室の固定電話が鳴った。

 日本との直通のではなくイルリハランとの電話だ。


「はい、エルマです」

『エルマ様、ただいま浮遊艇が到着しました』

「分かりました」


 電話は秘書官で、その連絡をもって仕事を一旦止めた。

 本日は大使館職員の補充がされるのだ。

 すでにこの浮遊島には外務省だけでなく、関連省庁の職員も居住している。

 なにせ中央省庁全てに絡み、ユーストルにある浮遊島はラッサロンと大使館の二島のみだ。対日本専用職員浮遊島の用意など出来ないから、この二島で実質日本と交流を余儀なくされる。

 幸いこの浮遊島は百人は居住と業務ができる作りとなっており、同時にラッサロンも支えることで交流人員を確保していた。


 だがエルマの力不足とユーストルの開発特区計画もあるため、どうしても今の人員では足りないのだ。

 とはいえ駐日大使館であるため日本語が話せない職員が来ても意味がなく、異星人に対して差別意識を持つ職員が来ても困る。

 よって日本語を日常会話程度まで学び、日本に対して敵意を持たない職員を選別しなければならなくなり、順次追加する形となった。

 今日来るのは第四次追加メンバーだ。


 可能なら大使業務を補佐してくれる人が欲しいのだが、エルマの立場がそれを邪魔する。

 エルマが一般人で外務省職員だったならまだしも、王室の一員であるため隣に立てる人がいないのだ。出来て秘書を増やす程度で、今回の追加メンバーにいるらしい。

 大使館のエントランスに行くと、すでに追加メンバーである十一人の各省庁の職員が、自己浮遊する大荷物を持っていて、エルマの到着を待っていた。

「初めまして。駐日イルリハラン大使のエルマです。遠路はるばるご苦労様でした。皆さんの着任を歓迎します」

 王室であり大使の役職を持つエルマは、この大使館の中では最も地位が高い。

 常識なら部下に対して敬語を使うべきではないのだが、エルマは自分の地位をひけらかさない。


 王室の中では異例の軍に属し、大使として未熟で年齢も誰よりも下だ。

 それでも上に立つ者としてついてきてもらうために、寄り添う態度を取ろうと自分で決めていた。秘書や王室に関わる人からは品格や威厳のためやめるように言われても、エルマはそれを通している。

 エルマの持論として、威厳を見せることが品位を保つことではないとしているからだ。

 品格とは風格であり、その人の態度で人は認識を改める。

 エルマは礼儀をもって接することが、自分なりの王室としての品格としていた。


「我々一同も、エルマ様と共に働けれ大変うれしく思います。母国の繁栄のため誠心誠意勤めさせていただきます」

 追加メンバーの代表である、男性職員が挨拶をしてエルマと握手を交わす。

「ここでは王室のエルマとしてではなく大使のエルマとして扱ってください。王室の肩書きはここにいるきっかけに過ぎませんので、イルリハラン全権大使のエルマとして見てください」

「分かりました。そう心がけるよう努めます」

 本音としては難しいと思うだろう。肩書きを気にするなと言われてもしてしまうのが権威の弊害だ。


「ここは世界で初めて置かれた異星国家との交流が出来る窓口です。私たちの仕事次第で日本との信頼が揺らぐことも十分あり得ます。しかし日本にへりくだり過ぎた態度を取るのではなく、我が国を背負う気概で接してください。日本は未知の国であっても危険な国ではありません。誠意をもって話をすれば向こうも誠意をもって返事をしてくれます。異星人と言う先入観は捨て、新しくできた隣国として接してください。くれぐれも地に付く人種だからと見下さないように」


 はい、と一同の返事が来る。

 あいさつはこのくらいと、追加メンバーの職員たちは居住区へ荷物を下ろしに向かってもらった。

 本格的な仕事は明日からで、今日はこのまま一度接続地域へと向かって顔合わせと名刺交換をする予定だ。

 エルマは秘書官から追加メンバーリストを受け取って目を通す。

 外務省や防務省はもちろんのこと、経流省に農耕省、法政省など各省庁から一人から二人が新たに加わる。ひとまずはここら辺が上限だろうと、既に活動をしている人を含めて区切りをつける。


「エルマ」

 その声を聞いて、エルマは小さく嘆息した。

 一体年末から今日に掛けて、どんな荒業を使ったのだろうかと疑問に思うほど、ここにいるはずのない人物が堂々と来ている。

「随分と大使としての風格を見せてるね。見てびっくりしたわ」

「そういうお前も、よくもまあ丸め込んできたな」

 追加メンバーの職員たちは居住区に向かう中、十一人目はそのままエントランスに残っていた。


 エルマは十一人目をよく知っており、心の片隅でこうなる予想はなんとなく考えてはいた。

 しかし実現するとは思っておらず、堂々と来た根性にただただ感服する。

 エミリル・レ・イルリハラン。エルマから見てはとこに当たる王室の一人だ。

 王室とはいえエルマより年下で、大学生の身分なため公務はしていない。

 年末の総会で日本に対して強い意識を持っていることは知っていたが、ハウアー国王によってここに来ることは止められていた。

 なのにいま彼女はここにいる。


「大変だったのよ。おじ様たちを説得するの」

「よく許してくれたな。まだ早いって言われたのに」

「許してもらうために頑張って肩書きを作ったのよ」


 王室だからとして安易に来れる場所ではなく、来るだけの人材でなければならない。

 そのためエミリルは、『イルフォルン観光日本人民間グループガイドコーディネーター』と言う肩書きをひと月で用意したのだ。

 日本民間人を王室の一人、それも若い女性がガイドをすれば世論の心象はよいものとなるプレゼンを、関連省庁長官やお目付け役、さらにはハウアー国王にもしてごり押ししたのだ。

 そうしたこともあってエミリルは顔合わせと事前協議に参加するため、駐日大使館に堂々と来たのであった。


「まあ言われてるとは思うだろうけど、責任は重大だぞ。お前の判断次第で日本との信頼は変わるからな。政府間はともかく、民間からもいい印象は得なきゃならない」

「もちろん分かっているわ。私としても政治はどうでもよくて、民間とは仲良くしておきたいもの」

「それ言うの俺だけにしとけよ」

「分かってる。それでは大使、今日からよろしくお願いしますね」

「頼むから慎みをもって動いてくれよ。暴走なんてしたら王室だけじゃなくてイルリハランの恥になるんだからな」

「はーい」


 ここ大使館や、接続地域で活動する職員たちにはないあどけなさが残る笑顔を見せ、エミリルは荷物を置きに居住区へと向かって行った。

「……まあ一人くらいいてもいいか」


 大使館に勤める全員が、イルリハランの国益のため確固たる使命をもって働いている。

 休日はあっても娯楽は少ないから必然的に笑みが薄れる傾向にあり、エミリルのように活発で明るい性格の人が混ざることで改善出来れば幸いだ。

 もっともここの職員の娯楽は接続地域で日本人と話をすることで、休日はよく接続地域に向かっている。

 自由に異星人と話せるのはここの特権だ。


      *


「初メマシテ。私ハ鍬田美子トイイマス。皆様ニ会エテトテモ光栄デス」

「……うん、アクセントは大丈夫だね」

「ソレハヨカッタデス。コレデ試験ハ合格デイイデスヨネ?」

「まあいいだろ。たった二週間で、よくまあここまで上達したものだね」

「ソリャマルターニ語ヲ勉強スル以上ハ、リーアント話ヲシナイト始マラナイジャナイデスカ」


 執念とは恐ろしいものだ。どんな難問でも解決する原動力となる。

 年末の頃はまだメモを見ながら片言で読み上げる程度だったが、二週間前に女性王室が一人日本に来ると知るや猛勉強を始めたのだ。

 前々から勉強を怠けてはいなかったものの、この二週間は普段の何倍と集中力と勉強を見せ、瞬く間に流暢なマルターニ語が喋れるようになった。

 さすがに無理だろうと思っていた羽熊であったが、ここまで流暢に喋れるとなると交流の一環として考えないわけにはいかない。

 えこひいきと言われようと、元々ある程度喋れるようになれば話をする決まりなのだ。

 羽熊が許可しなくても誰かが許可をしていただろう。


「今日来ルエミリル様ト会ッテモ構イマセンカ?」

「いいよ。上の方には話しておく」


 エミリル王女殿下は公務についておらず身分は大学生としている。なら大学院生である鍬田とは相性がいいはずだ。

 他にも修学に来ている大学生や大学院生はいるものの、鍬田ほど喋れるようにはなっていない。王室王女相手に未熟なしゃべりしか出来ない学生を当てるわけにはいかないから、会うとなれば鍬田のみとなろう。

 周りからは贔屓と言われかねないが、実力に関しては贔屓しない。喋れなければ問答無用で不合格にしていた。


「んあー」

 合格となると鍬田は大きく背伸びをした。

「終わったー!」

「終わってない終わってない。むしろ今日からスタートだから」

「でもこれで言語学習は一旦終了ですよね」

「まだ文字の読み書きが残ってるんだけど」

「まあまあ固いこと言わないでくださいよ。いやーうれしいですね。最初に会えるリーアンがイルリハラン軍や政府の人じゃなくて王女殿下なんて!」

「エルマ大使から懇願されたよ。なんとか日本側から言語学習中の女学生を出してくれって」


 元々は来る手はずではなかったエミリル王女殿下は、なんとしても来たい一心からごり押しで来ることが公式に決まり、急遽彼女の相手が必要となった。

 ただ、彼女の身分は王室であり大学生であることで、対応する人を選ばなければならないのだ。

 権威から行けば日本側も皇室の内親王殿下や皇女殿下が当たるものの、急な対応を宮内庁は嫌がる。なによりイルリハラン政府としては王女殿下扱いをしないでほしいと念を押してきていたのだ。


 エルマ曰く、エミリルは日本に強い関心を持っていて来日を強く希望していたそうだ。

 しかしハウアー国王に止められていたらしいのだが、肩書きを手にすることで来ることを可能にした。

 肩書き上では王室とは無縁なので、大学生の身分を全面に出して帳尻合わせをしたいのだ。

 羽熊はまだ顔写真くらいしか知らないが、結構な元気いっぱいでやんちゃな娘と言う印象だ。

 ならば同じくやんちゃな鍬田と会わせるのは、案外良い選択とも思える。

 逆に相性が良すぎて厄介もとい、面倒な結果にならなければいいが。

 そんな羽熊の心配とはよそに、鍬田は期待で胸を膨らませていた。


      *


 新年を迎えてからひと月が過ぎ、あと二ヶ月で須田空港が正式稼働する。

 転移してから八ヶ月が過ぎ、砂浜と草原だけだった接続地域は大きく様変わりした。

 二キロになる砂浜と草原の境には日本人の不法出入を防ぐため壁が建てられたが、境界から十キロまで日本領となったことで撤去することが決まった。人と物の移動をスムーズにするためにも欠かせず、合理性を考えて景観を損なう壁はなくなる。

 巨大動物への対処は浮遊化を施した音響兵器を設置することで日イで合意した。ムルートに関しては別途協議だ。


 出入国を管理する空港は元々利用していた交流場所を使うことで決着が付き、羽田空港並みの巨大施設となって日本人とリーアンは同じ場所と出入国手続きをする。

 史上初の国境検問所は、日本領ユーストルが生まれたことで凍結された。

 なぜなら接続地域のみなら検問所として機能するが、ユーストルも日本領となるとどうしようもないからだ。

 そこは地球時代の排他的経済水域のようなもので、全周から来る不審船を完全に遮断することは出来ないのと同じだ。なにより空を飛べるリーアンに壁は意味がない。

 もし意図的に気体フォロンを消せるなら、見えない壁を作ることは出来るか。

 浜辺に建設された須田駐屯地としての建物は、出入国としては意味が薄くなるため関連省庁の出張所として利用するらしい。

 もちろん運営している国防軍は撤退して、配置している装備品も全て元の配置場所に戻る。

 一応は日本領ユーストルで駐屯地の設置もしたいのだが、装備品の浮遊化がするまでは見送ることとなった。

 最初は突貫で始めた接続地域開発は、次第に精錬されていく。

 上空から見て整っているとは言えないものの、次への歩みは着実に続いていた。


 イルリハラン人は日本人同様時間に厳格だ。

 よほどの事情がない限り約束の時間に遅れることはなく、公共の乗り物の時刻表もまた十数秒の前後で到着するほどらしい。

 そうした日本の国民性と類似する部分が多くあることから、ネット上でイルリハランは『異星の日本』と比喩されたりしている。

 日本側からしてもその国民性はありがたいばかりだ。

 ある意味自分を相手にするようなものだから動きがある程度予測ができる。

 半面、本気で怒らせたら大変であることも分かってしまうが、怒らせる理由もない。

 よって約束の時間丁度に接続地域国境検問所に飛行車が四台と来た。

 羽熊達はリーアン専用出入口となる三階ルーフバルコニーで、日本側も新規で来た職員が数住人といる。


「いよいよですね」

 その中で就職活動中の大学生にしか見えないリクルートスーツを着る鍬田は、胸に手を当てながら緊張を表現していた。

「異星人だからって緊張することないよ。日本生まれ日本育ちのアメリカ人に会うようなもんだ」

「半年以上毎日会ってるのと、今日初めて会うのとじゃ違いますよ。異星人ですよ異星人! ここにいても遠目でしか見てないんですから緊張しますよ。もし不作法なんてしたらもうどうなることか……」

「ならないよ。向こうだって承知してるから露骨な非難をしなければ気にしないって」

「案ずるが産むが易しですか」

「案ずるより産むが易しね」

「ニュアンスが通じればどっちでもいいですよ」


 少々言葉に棘があって余裕がないことが分かる。

 いくら大丈夫と周りが言い聞かせても、自身の実体験がなければ確信には至れない。

 羽熊も鍬田と同じ立ち位置なら同様のことを言っていただろう。

 そう話しているうちに飛行車の扉が開き、続々とイルリハラン人が降りてきた。

 初めてここに来た職員たちは自前のスマホやデジカメで、空を飛ぶ人間を撮影する。

 逆にイルリハラン人も、地に立つ人をあらゆるカメラで撮る。

 もはやこの一幕を向かえないで交流はない。

 時間にして三十秒ほどの撮影タイムが終了すると、代表としてエルマ大使が先に床から一メートルほどの高さまで降りてきた。

 大地には強い拒絶感を持つリーアンも、人口の床であれば触れることは出来ずとも一メートル以下にまで降りることは出来る。


「日本の皆さん、今日も天気が良くて何よりです」

「今日も、というのは日本としては悩みどころではありますがね。台風のような低気圧が来てほしい所です」


 答えるのは接続地域で活動する官僚を一時的にまとめる内閣府職員の多木則友(たきのりとも)だ。

 若井大臣は東京に戻っており、いない間はこの多木が務める。

 これは確定事項だが、いま接続地域で働く職員は全員が今後発足する星務省に入省し、多木が事務次官を務めるらしい。


「海から大分離れていますからね。巨大な低気圧がここまで来る事はさすがにありませんね」

 海からユーストルまで一万キロ以上離れており、尚且つ赤道付近ともあって巨大低気圧がユーストルに来ることはない。しかし様々な異地の気象条件が合わさり、転移してきた日本の海も供給源となって雨は降っていた。

 地球時代ほど潤沢ではないが、海水をろ過して真水を得る事業と同時並行することで水不足は回避できている。

 けれど少し雨が降ってほしいところであった。


「多木さん、後ろにいる方々が今日までに増員された職員ですか?」

「ええ、一応今回で増員は終了する予定です」

「我が国の方でも浮遊島の居住人数を考えたら今回で終わりですね」

「では最後の名刺交換を行いましょうか」

「お願いします」


 代表者の挨拶が終わると名刺交換の開始だ。

 須田空港は天地生活圏の違いを可能な限り減らすため、イルリハラン王国から輸入したレヴィロン機関搭載の台車を配置している。

 センサーが付いていて床から最大一メートルまで浮くことができる。

 これは荷物運搬と対話用足場にもなり、リーアンとの対話に使われる。

 もちろんレヴィロン機関を生で見ることは新人たちにとって初体験だ。

 空港の室内から運ばれていく高さ一メートルまで浮いた台車に驚きの声を上げ、それにも写真を撮る職員が数人。

 有線コントローラーで一度床に接地し、職員を立たせて浮かせるとまた驚きの声を上げる。

 ただレヴィロン機関は不動性に優れたものだから、脚立のように足場がしっかりしていると分かると、職員たちは足元に気を付けつつ名刺交換を始めた。

 羽熊は無事に名刺交換と顔合わせが始まったのを確認して、一人のじゃじゃ馬娘を探す。


 と、まだ台車に乗らず床に立ったままの鍬田と、二メートルの高さで浮く他の女性と別格と一目で分かる女性リーアンが対峙していた。

 確認するまでもなくイルリハラン王国王室の一人、エミリル・レ・イルリハランと分かる。

 鍬田は何かをしゃべろうとしても緊張しているのか口を開けては閉じてしまう。

 エミリル王女殿下も同じだ。

 初めて見る地に立つ人種に声を掛けようとしても、何を話せばいいのか分からないのか言葉を選ぼうとしているのがよくわかる。

 ここは手を差し伸べるしかないか。

 羽熊とエルマは同時に動き出した。


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