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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第二章 政戦編 全35話
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第57話 『アルタラン決戦④ 多数決』

 フィリア社会の国際機関で、安全保障理事会を含む十四ヶ国と異星国家との昼食会。


 日本より以前に地球人がこの星に来ている事実はあれ、公式では史上初の会食だ。

 しかも前の会談と違ってメディア関係者に公開されるため、メディア関係者は我先に撮影をとごった返しとなった。

 ただ、それは始まる前の話で、いざ始まれば強制排除されてアルタラン広報官の数人だけが撮影する運びとなる。


 昼食会となった会場は、どこの機関用かは分からないが食堂らしい趣が感じられた。

 大衆食堂よりは、国会議事堂内の食堂だろう。テレビでしか羽熊は見たことないが。

 それでも異星国家を交えての昼食会として選ばれたためか、豪華な装飾が施されている。

 不要なテーブルの撤去は当然で、長い長方形のテーブルが一つ置かれて電気式の燭台が等間隔で置かれている。

 上座付近にはアルタランの旗と、どうやって用意したのか日本の国旗が交差させる形で宙に浮いている。


 棒自身にレヴィロン機関が搭載されているのだろう。

 結晶フォロンは確かに非常に高価だが、粒子レベルでは一般市民でも楽々買える価格まで下落する。0・1グラムで一トンだから、粒子レベルでも問題ない。

 そうでなければ、国旗を浮かすためだけに結晶フォロンを使うのはコスパが悪い。

 メディア関係者がアルタラン広報官だけとなり、会場はシンと静まり返る。


 すると調理場からウェイターらしいリーアンが数人現れ、各国大使の前に料理が配膳された。

 フィリアの食器は羽熊達から言えば時代錯誤と言いたくなる木製が主だ。原料が地面由来である陶磁器やプラスチックよりは安く流通量が多いためだが、さすがに安物の木製は出せないらしい。ちなみにこの世界では箸、スプーン、フォークの三種類は存在している。今回はスプーンとフォークだ。


 出て来たのは陶磁器だが模様が華やかで、おそらく高級ブランドの食器だろう。

 威厳を保つためにこうした物を用意するのだからつくづくメンタリティは似ている。

 食事はコース形式で、最初に振る舞われたのはサラダだ。

 もちろん地球の野菜とはまるで違い、似ている物があっても味は違ったりする。味で言えば未経験だが美味しいと言える。


 普通この手の昼食会での通訳の参加はしないのだが、日本にアルタランの事を知ってもらうため同席が許された。

 一応異地の食事自体はおむすび提供後に振る舞われたが、本格的なコース料理は初めてだ。

 もしここが大衆食堂であれば味の感想をし合うところ、そんなことを出来ることもなく静かに食事を続けていく。


「いかがですかな? こちらの料理は」


 モーロット議長が尋ねる。


「初めてこの星の食べ物を頂きましたが、大変おいしく思います」


 ここでマズイと言えばどうなるか試してみたいものだ。

 せっかく好転しつつあるのに邪魔は出来ない。


「私もニホンの料理は食べてみたいものだ」

「私は遠慮願いたいな。危害はないだろうが異星と言うだけで食欲が失せる」


 モーロットの言葉に釘を刺すようにウィスラーが言う。

 さすがに公開する昼食会だけあって、話す言葉は選んでいる。それでも刺々しいが。


「きっと気に入る食事がありますよ」


 佐々木総理はフォークでサラダを刺し、口に運びながら言い返す。

 逆に今ここで総理や羽熊を殺しても利点はない。次の総理が抵抗をするだけだ。


「是非とも我が国の料理を振る舞いたい、と言いたいところですが、今ここで言っても媚びを売っているしか聞こえませんのでやめましょう」

 すると小さな笑いが起きる。


「せっかくの機会です。先ほどの事は一度忘れて食事を交えながらお話をしませんか?」

 先の会談や超国際会議でも横道にそれることなく直球で話を進めた。

 しかし時には横道にそれることも相手を知ることでは重要なことだ。

 日本と異地は決して対立する姿勢にない。それを示したいかのように提案をする。


「そうですね。ニホンとは重い話ししかしていません。食事中だと言うのに重い話をすることもないでしょう。時には軽い話もしたいですね」

 と理事国の大使が乗っかり、他の大使たちも顔を見合わせながら賛同の声を上げる。


「ハグマ博士、一つ前々から聞きたかったことがあるのですがいいですか?」

 佐々木総理ではなく羽熊に対しての質問を女性大使がして、水を飲もうとしていた羽熊は水と一緒に空気を飲み込んでしまった。

「っ、わ、私ですか?」

「先の会談のことも絡むのですが、ハグマ博士は転移当初からイルリハラン軍のルィル兵士と交流をしていますが」

「ルィルさんと交際する意思はありません」


 女性大使が言い切る前に、羽熊はきっぱりを否定する。

 元々羽熊はルィルと知り合い以上の関係にならないよう意識し、深入りもしようとしていない。そしてすでに公となったハーフ問題も相まって、仮説が出来た段階から彼女には一メートル以上距離を取っている。

 ゴシップ好きな人達から見れば残念なことかもしれないが、彼女からしても困ることだ。

 ただでさえハーフが世界共通の課題となるのに、率先と作れるわけがない。

 知り合いとしてならば今後も接点は持ちたいがそこまでだ。


「確認は取っていませんが、おそらく彼女も同じ考えだと思います。これまでの交流で、お互いにプライベートのことはほとんど聞いていません。家族構成や趣味嗜好等一切です」

「そうなのですか? 噂では抱擁をしたことがあると聞きましたが」


 死亡フラグを言いかけた時の事か、と羽熊は痛い部分を思い出す。

 自分らしくない行動に、時々フラッシュバックして悶絶する時があるから忘れようがない。


「確かに事実ではありますが、我々にしか分からない理由でして、性的な目的は一切ありません。そのことについては謝罪をして理解ももらっています」


 抱き着いた理由が死亡フラグを言いかけたなんて理由は決して言えない。

 品位がないしバカバカしすぎるし、結局フラグは立ってしまった。


「そうですか。ハーフ問題はありますがロマンチックと思ったのですけど」

「今後も知り合いとして接するのは歓迎しますが、私自身としてはこれ以上仲良くなるつもりはありません。これは決して彼女が嫌いではなく、発展しないよう線引きをしたいのです」


 互いにここまでと境界線を引けば、これ以上仲良くなることはなくなる。

 羽熊自身、あくまで人としてであって女性としてではないが、ルィルのことは好きだ。

 しかし、踏み込んで交流をすれば人ではなく女性として見てしまいかねないから、世間の目がどうあってもそうした考えとなる。

 日本で一番異地と接しているからこそ、交際した先の苦難が手に取るようにわかる。

 文字通り、その人のいない世界に未練がないと心の底から言えない限り、リーアンとの結婚生活は困難だ。

 それでもくっ付くカップルはいつか必ず出来るから、愛は凄いと言える。

 愛を否定はしないが、せめて皆が羨む純愛であってほしい。


「しかしハグマ博士は我々の言葉をよく数ヶ月でマスターした。チキュウ人は言語の理解が速いのですかな?」

「いえ、たまたまマルターニ語の文法が日本語に近く、昼夜問わず熱心に教えてくれたイルリハラン軍のおかげです」


 史上初の異星人の言語を理解出来る学術的興味に加え、短期間による理解を果たさなければ文字通り一億二千万人の命にかかわる。

 一人の双肩に負わせられる数ではないが、羽熊はこの問題の適任者としてそれを成した。


 頃合いを見て食事が次々と振る舞われる。

 スープに魚料理、肉料理に異地の主食であるキノコ類のケアを使った料理と来た。

 この世界での魚も陸上動物同様巨大で、地球で言うサンマがマグロ並みにある。その地球のマグロが異地ではジンベイザメ並みに巨大だから、この星で漁業をするにはタンカークラスの船が必要だろう。


 この分では五十メートルから百メートルに達する魚がいても不思議ではない。

 陸上の大型動物でさえ大きすぎて恐怖するのに、海でそれだけ巨大ではより恐怖だ。

 ケアを使った料理はリゾットのようなもので、ケアそのものは米だ。味こそ違っても食感や栄養は米と変わりない。

 一言で言えば、日本人が食べても何ら問題ない。

 検疫もこれまでで引っかかったことはないから、今後異地の食材を輸入出来れば食糧問題はかなり改善できるだろう。


 食事中の会話は思いのほか弾んだ。

 初接触時の印象から、それぞれの国柄やどう日本のことが報道されたのかとか、先の会談の重々しいものとは打って変わり、普段の接続地域での交流のような和やかな雰囲気で進んだ。

 公の場であるためウィスラー大統領も、棘のある言葉で牽制はしても致命的なことは言わない。リクト国王代理も黙々と食事を続ける。

 食事はどんな形であれ、相手を知るには絶好の機会だ。

 アルタランに日本を知ってもらい、少しでも隔離より特区の方が妙案だと思い込んでもらう。本国の判断が絶対だとしても、確率を上げるなら何でもする。


 戦争だけは絶対に回避だ。

 約一時間半に及ぶ昼食会は滞りなく進み、三十分間の一服もとい本国からの返事を受けて再び会談の会場へと戻った。

 広報用の写真も着席までで、その人達も退室するとまた重い空気が会議室に満ちる。


「……では会談を再開するとしようか」


 楽しいひと時はあっという間に終わる。

 モーロット議長は昼食会で見せた穏やかな表情とは違い、真剣な表情で日本委員会を一瞥しながら会談の再開宣言をする。


「まず確認をする。本国からの返事は来ているかな?」


 すると大使は全員頷き、一人の大使がその後に手を上げる。


「返事は受け取ってはいますが、急な話であり決定ではなく方向性と言う考えです」

「私の本国でも同じだ。決定までは下せていない。おそらく全ての国がそうであろう。たった一時間半程度で決定するにはあまりにも重すぎる」

「ならば最初の案でいいではないか。ニホンの案が出るまでは隔離案で決定だったはずだ」


 ウィスラーが自分の案を推し通そうと突っかかる。


「決定だったのはそれしか案が無かったからだ。しかしニホンの案で各国政府も考えが変わりつつある」


 さすがに今日突然一つだけだった案の代案が出てきて、それを一時間半で検討して決定は無理だ。

 するならそれに対するメリットとデメリット、コストパフォーマンスなど入念に議論をして決定を下す。おそらく全ての国で政府上層部のみの判断となろうが前例はないだろう。

 隔離案は日本人を国から出さず、特区案はハーフを最低限許容する。

 どんな判断であれ世界規模で巻き込むから、どの国も安易な判断はしたくない。


「本来なら十分な時間を持って議論をするところだが、ハーフを公表した以上は短期決戦が望ましい」


 日本としてもこの問題は先延ばしはしたくない。なぜなら日本委員会以外の国は日本をほとんど知らないからだ。核についての理解も不十分だろうから、安保理ではなく総会で決議をすると負ける可能性が高い。

 地球の国連だと総会は勧告のみで法的拘束力はないが、アルタランでは総会でも安保理に匹敵する法的拘束力を持つ。


 安保理だけなら七ヶ国すべてが日本委員会に含まれるため、委員会の判断が事実上の安保理決議に至れる。いわゆる出来レースとなって、後の安保理ではスムーズに行くだろう。

 なら総会はする意味あるのかとなるが、『安全保障』以外の事案で安保理は開かれない。日本問題は明らかに安全保障に関わるから安保理で問題ない。

 問題があるならば安保理以外の国が特区を選び、安保理の国全てが隔離を選べば多数決で特区となっても後の安保理では隔離になる恐れがある。わずかな間に意識の変化があるかもしれないが、望みは薄いだろう。

 こればかりは天命の赴くままだ。人事は尽くした。


「なんにせよ、議論を続けたところでレーゲンとニホンで意見は平行線だ。ここは民主主義に則り、多数決で委員会としての決議を行いたい」

「議論不十分で強行決議を取るつもりか」

「隔離案のみだろうと議論不十分だ。それに、細かい調整は条約を制定する時に整えるのも事前の方針だったのではないか? ウィスラー大統領」

「……」


 今日決めるのは日本委員会、強いてはアルタラン安全保障理事会の政策。

 その後正式な安保理で政策を決議し、その決議を元に総会で条約に続けさせて細かい調整をすればいい。


「ニホンの案があろうとなかろうと実質は何も変わらないのだ。ウィスラー大統領の案が有力だとするならば、他の国もおのずと隔離案が選ばれる。それとも自分の案に不安がるのか?」

「不安などない。いま、ここでニホンの封じ込めをしなければリーアンと言う種が遠い未来絶滅、またはハーフによって種の管理がされるのだ。必ずや選ばれる」

「では――」

「もし隔離案が決議されないのであれば、我が国はユーストルに進軍をする」


 突然のウィスラー大統領の宣戦布告に、衝撃が会議場を走る。


「な、何を馬鹿なことを!」


 瞬時に反応するはリクト国王代理。


「貴様、我が国に攻め入る気か!」

「イルリハラン王国ではない。ユーストルにだ」

「ユーストルが我が国固有の領土だ。ユーストルに攻めると言うことは我が国を攻めるのと同じだ!」

「半分近くをニホンに売っておいてよく言える」

「兄は国をニホンに売り渡して等おらん」

「実質売っているようなものだ。このままニホンの案を通せば、ハーフが微増とはいえ増えて制御できない勢力にまでいずれは拡大する。それを防ぐためにも今ここでニホンを殲滅するべきだ」


 隔離、特区の他に、殲滅案をウィスラーは出した。

 確かに日本側も特区案を出したあとに出る可能性があると、事前の協議で出してはいたが普通は選ばない。

 抵抗は必至だし、隔離と違って世界の協力がない。

 そして戦争で勝つならいざ知らず、一億二千万人を根絶やしにするのは現状不可能だ。


 それでもレーゲン一ヶ国で日本を殲滅させるならば、狙うは原発。

 一基でもミサイルが命中すれば放射性物質がまき散らされ、ユーストルは失うが日本は滅ぶ。原発の位置は一切公開していなくても、それらしい施設の目星くらいは付けているはずだ。

 原発は人が管理して初めて安全が保てるが、一切管理をしないと軒並みメルトダウンを起こす。

 東日本大震災時も、津波対策と当時の職員が不眠不休で管理をしたから最悪の事故は防げた。もしメルトダウンを第一第二で起きていたら、関東と東北は放棄せざるを得ない可能性があったらしい。

 それを考えると、一基でもチェルノブイリ並の事故が起きれば連鎖的にメルトダウンが起きるかもしれない。


「無茶だ。ニホンには向こうの最強兵器があるんだぞ。報復を受ければ何百万もの人が死ぬ」

「ハーフを広げさせるよりはマシだ」


 自暴自棄、に見せかけた政治的駆け引きをウィスラーはする。

 おそらく特区案が決議されれば本気で進軍し、その脅迫で隔離案に持ち込もうとするつもりだ。

 結果的に日本の抵抗は変わらないものの、一国と世界で異なる。

 このような事案だとアルタランは一ヶ国に好き勝手にさせたくないし、レーゲンも本音では一ヶ国で攻めたくはないはずだ。

 一ヶ国が攻めて制御不能の大惨事を招くなら、まだ世界が攻める方がリスクは低い。

 ウィスラーはそう考えて宣戦布告をしたのだ。

 この場合、世界は日本とレーゲンどちらに付くかにも分かれるが。


「ではモーロット議長、決議を取ろうか?」


 民主主義が聞いて呆れる。


「ウィスラー大統領、これでまともな決議が出来るとお思いか?」

「ニホンこそ特区でなければ核兵器を使用すると示唆している。条件は五分五分だ」


 確かにウィスラーの言う通り、特区でなければ明言は避けても抵抗と称して使うと示唆している。

 そうした意味では日本はウィスラーを責められない。

 向こうも向こうで政治家だ。抜け目ない。

 だがこれでは結論が出せない。どう選択しようと戦争が勃発してしまう。

 日本としては今日終わらせたく、そのためにはウィスラーの心を折る必要がある。


 しかし、ウィスラーの生い立ちからみて優遇や賄賂は意味がない。彼は自分の全てを賭してハーフ出生防止に取り組んでいる。そう言う大義を持って動いている人は、物や金ではむしろ侮辱として受け取る。

 羽熊も、金や地位などで異地の機密情報を聞き出そうとすれば激怒するからそれと同じだ。


「……そうですね。どちらかが有利な選択はもはや選択とは言えません。同じくらいのリスクとリターンがあるからこそ、公平な判断が出来ると言うものです。決議を取りましょう」

「ササキ首相、それでよいのか? 私の目からしても不利としか思えないが」

「どの道話し合いを続けても、永遠に平行線を続けるだけです。終わらないのであれば割る方法を取るほかありません」


 モーロット議長の言う通り、羽熊も佐々木総理の言葉を訳しながら公平なのかと疑う。

 そもそも転移してきた時点で日本は常に不利だ。普通なら最初から敵対しておかしくないイルリハランと友好的な関係を築けていること自体奇跡的とも言えて、常に日本は追い込まれる形でここまで来た。

 その上ハーフ問題で不利に立たされ、特区案が出るまで隔離案一択だった。

 不利しかない状況で公平とはどういうことだろう。


「全員、それでよろしいか?」


 偶然かこれを狙ってか参加国は十五ヶ国。棄権は認めず隔離か特区の二択が選択される。

 つまり絶対に過半数を超えてどちらかが決まるのだ。

 突然の第二の方針とその方針のリスク化を図られ、各国政府からの決断を待たずの決議。

 しかしここにいる全員が国の全権を持つ人達だ。未来への不安はあれ各国の意思を反映できる。

 日本委員会の面々は全員頷いた。


「では改めて宣言する。これより十五ヶ国による多数決を取る。その内容は、『異星人種間によるハーフ発生回避のため、ハーフ発生の原因たるニホンに対する異星国家対策委員会の方針の確定。その方針は後に安全保障理事会にて改めて確定し、関する条約は総会により制定する。』現在方針は二つある。一つはニホン人をニホン領域に隔離し、隔離に掛かる費用はニホン自らが捻出する。これを『隔離案』とする。もう一つはユーストルを開発特区とし、ハーフは法で規制しつつ人権を容認しながらユーストル内で生活をしてもらう。これを『特区案』とする。これで異存がなければ挙手を」


 ウィスラーの宣戦布告は特区が選ばれた場合だから宣言には含まれない。

 会議場にいる投票権を持つ人ほぼ全員が挙手をする。

 一人を除いて。


「ウィスラー大統領、不服かね?」

「一つ確認したい。多数決の際、理事会の投票が同数だった場合はどうなる」


 ウィスラーもやはり同じことを考えていた。

 例え過半数を超えて委員会としての方針が決定しても、安保理の過半数が逆では逆転負けがありえる。

 国連安保理の拒否権に近いものと考えればいい。


「その時は過半数が確定していても私も投票する。ただし、必ずしも今回の多数決が後の安保理決議に繋がることはないがな」


 とモーロット議長は説明しながらもウィスラー大統領を牽制する。

 今回の多数決は委員会であって安保理としてではない。後の安全保障理事会までに大使や本国の考えが変われば良い意味でも悪い意味でも大逆転がありえる。


「ならば異存はない」


 ウィスラー大統領も手を挙げた。


「よろしい。では多数決を取る。『隔離案』に賛同する国は挙手を」


 運命の多数決が始まった。

 一度全員手を下ろし、再び手を上げる。

 最初に手を上げるのはウィスラー大統領。続いて他の国々も挙手をする。

 気になるイルリハランは手を上げず、上がったのは五人。

 五ヶ国が『隔離案』に賛同した。

 棄権がない以上、もう一つの『特区案』は九ヶ国が賛同することになる。

 気になる安全保障理事会は――。


「……三ヶ国」


 小さく羽熊は呟いた。

 議長国を除く理事国六ヶ国の内、三ヶ国が『隔離案』の賛同をしていた。

 これでは残り全員が『特区案』を賛同してくれても、最後のモーロット議長の選択で安保理で負ける可能性が生まれる。


「では『特区案』に賛同する国は挙手を」


 分かり切っても確認を取るのが政治の多数決だ。

 日本とイルリハランを始め、モーロット議長を除く九ヶ国が手を挙げた。

 これで九対五となり、日本委員会の方針は一応確定した。

 安保理に限定すれば三対三の同数。


「最後は私か……」


 委員会の方針を確定しただけでも大喜びするべきだが、安保理がイーブンではまだ我慢である。

 ウィスラー大統領も『特区案』が委員会の方針として決まったとしても静観したままだ。

 そしてモーロット議長は言った。


「私が賛同するのは『特区案』だ」


 運命の選択があっけなくも今なされた。

 委員会、安保理、共に選んだのは日本発案の特区政策。

 ハーフと言う種の存続に関わる問題に対し、規制しつつ最小限の管理をして世界がより発展へとつなげていくことを、半数以上の国が選んだのだ。

 結果だけで言えば日本側の大勝利と言っていい。

 しかし、これで心の底から安堵できるほど事態はまだ終わっていない。

 羽熊はウィスラー大統領を見る。


「……残念だ」


 小さくそう呟いていた。

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