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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第二章 政戦編 全35話

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第53話 『いざ決戦の地へ』

 パタン、と言う音が寝室に響き、ウィスラーはハッとして引き金から指を離した。


 音の出所を見ると、テーブルに置いてあった写真立てが倒れていた。

 風もなく、レヴィロン機関の不具合でテーブルが揺れた様子でもない。もちろん寝室に誰かがいることもなかった。

 まるでウィスラーが自決することを見えない何かが止めるかのように、写真立ては倒れたのだ。

 酒が回り、頑なに守ってきた秘密に手が触れられた焦燥から、とんでもないことをしようとしていたことに遅まきながら気づく。


 ここで自決をしたところで何の意味もないことに。


 ニホンが提示した条件は、ウィスラーがハーフでは『ない』ことが証明されれば農奴政策を受け入れるだ。つまり証明されない限り受け入れないから、ここでウィスラーが永久に退場して真相を闇に葬ろうと事態は好転しない。そもそも遺伝子検査をしない保証はないし、ニホンが圧力を掛けて検査させる可能性もある。


 何よりこの拳銃で自決したとなれば、遺伝子調査をせずとも事実と認めているようなものだ。

 一瞬でもこれが最善策と考えた自分が憎たらしく思う。

 ウィスラーは拳銃から弾を抜いて金庫へとしまい、倒れた写真立てを直す。

 まだこの事実を知る前の、黒い髪生やしていた頃の幼い自分と母の写真。

 数十年も前に亡くなった、母の最期の言葉は今も覚えている。


 生きて。


 この呪われた人生を今日まで生き抜くことが出来たのは、この言葉があってのことだ。

「母さん、死んでもまだ生きてと言いますか……」

 写真立てが倒れなければ、今頃側頭部に穴が開いていた。


 この人生に果たして意味があるのか、周囲の同年代が小中と学校に行っている頃から考えていた。違う外見、同年代と比べて学校にも行っていないウィスラーの学習能力の高さ。

 飛び級しても何ら問題ない学力に加え、常人の倍以上とも言えた身体能力。

 さすがに年を取ったことで全盛期と比べて身体能力は下がれど、まだ特殊部隊に負けはしない。


 一般的な文武両道の倍以上を基礎として持っており、力が第一のこの国だからこそ、異端児であるウィスラーはある意味どん底以下から大統領までのし上がることが出来た。

 ウィスラーの人生は、全て「生きて」の一言に尽きる。

 ゆえに、ここで母の言葉に反して絶てば、全てが無駄だったことになる。

 それでは母に顔向けできない。


「このままでは終われない」


 愛する国、愛した母、愛すべきリーアンのためにも、絶対遺伝する異星の遺伝子を流出させてはならない。

 ウィスラーは椅子に座りなおしてじっくりと考え直す。


 酒はもう飲まない。


      *


 レーゲン政府から返事が来たのは、会議終了後から五日後のことだった。


 レーゲン外務省がイルリハラン外務省に通達し、ラッサロン天空基地を経由して日本へとその意向が伝わる。

 結果は日本の要求に応じると言うことで、場所はレーゲン大使の要望通りアルタラン本部となった。


 建前としては日本がレーゲンに謝罪を要求し、それに応える形だ。


 日本人とリーアンのハーフこそいずれ後悔しないとならないが、ウィスラーがハーフである疑惑は永久に秘密としなければならない。そのため、建前として日本がレーゲンに謝罪を求める形となり、レーゲン大統領を引っ張り出すことに成功した。


 無論、実はハーフではない可能性も捨てきれないが、それだと日本は隷従させられるため、宣言した以上押し通さないとならない。

 仮にウィスラーがハーフでないのなら、普通は日本の受け入れ宣言を素直に喜ぶ。

 なにせ労せずに日本が言うことを聞くのだから、レーゲンにとって都合の良い事はない。

 なのに素直に喜ばず抵抗をしたと言うことは、ハーフであることを暗に認めていることになる。


 カードとしては核兵器でウィスラーを引っ張り出すこともできたが、それをすると最悪戦争になる。そうなればその先は大量の屍が出ていただろう。

 地球・日本の意地として徹底抗戦する案も佐々木総理は考えたが、負け確定で何百何千万の命を失うか、負けても誰も死なない二つに、総理は後者を選んだ。


 結果、日本はいまだ誰も殺さずに今に至っている。


 来たるアルタラン決戦は二日後で、調印式から見て十八日後だ。

 いくらハウアー国王の容態に意味が無くなったとはいえ、目を覚ます前に終わらせたいようだ。

 この通達を受け、日本はすぐに動いた。


 二日の猶予はあれ、二万キロを移動しないとならないのだ。超低燃費で移動が出来るレヴィロン機関を持たない日本は、自前の航空機で二日で二万キロは移動できない。

 往復ならば四万キロだし、垂直離陸が当たり前のこの世界ではそもそも滑走路がない。

 よって移動はラッサロン所有のソルトロンで、二万キロを移動するなら今すぐ移動するしかなかった。


 フィリア社会では、レヴィロン機関とジェットエンジンを使ってのジェット旅客機か、フォロン有効圏内までレヴィロン機関で上昇、ロケットエンジンを使って宇宙弾頭飛行・衛星軌道で移動するロケット旅客機がある。


 近距離であればジェット旅客機で、中・遠距離ならロケット旅客機が使われる。

 レヴィロン機関によってどちらも超低燃費で滞空移動できるので、補助機関としてジェットとロケットエンジンを使い、中・遠距離の短時間移動が可能となった。


 ユーストルからアルタラン天空都市までならロケット旅客機で行く方が速いが、生憎とラッサロン天空基地にはロケット旅客機がない。

 地道にレヴィロン機関のみで移動するしかなく、ソルトロンを含む艦隊で移動することにした。


 準備自体は日本とラッサロン共に終わっているので、いつ出発かだけを待つだけだった。

 スケジュールも調整して、いつでも動けるよう超国際会議以降は副総理である財務大臣が総理の代わりに執務をこなしている。


 それだけこのアルタラン決戦は最重要で、文字通り日本の命運を確定するのだ。


 スケジュールの都合で行けないと言う事態は絶対に避けなければならず、会談が確定する前から無期限でスケジュールを空けたのだった。

 通常の海外出張であれば百人以上の人が随行するが、世界の真相に触れるため異例の十人以下で、全員がハーフを知っている人に限定された。


 十人以下にする公の理由は、初のユーストルを超えるためどんな不測の事態が発生するのか分からないということにした。

 それでもありえないことだが、責任を取る発言を度々する佐々木総理ならと流された。

 転移してから突発的な会議や会談をしょっちゅうしているから、マヒしている部分もあるのだろう。


 なんにせよ、日本はラッサロンの協力によって決戦の地へと向かった。

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