第40話 『反省会』
「奴さん、相当我々を邪魔したいようですね」
「文字通り金に糸目は付けない上に、直手を汚さない狡猾さもあるな」
「ですがおかげで基地内の裏切り者の目星がつきました。おそらく家族や恋人が人質にされて仕方なくでしょう。さすがに自らが売り込んで工作活動は人目があります」
「ちなみにこの箱、どこの国が製造をしたのか分かりますか?」
「いえ、証拠になりそうな刻印等はありませんでした。今のところでは自作自演と言われても否定する証拠がありません」
「もちろん精査は続けます。ですが……向こうもカードを逆手に使いましたね」
静まり返った交流会場からほど近い、日本側政府専用交流プレハブ小屋二階。
そこで日イ両軍に加え、両国大使が集まって秘密会議を行っていた。
時刻は午後十時を過ぎ、昼間の熱気は消え失せてユーストルには静寂が訪れている。
「てっきりフェロモンとかに惹かれて来たのかと思ったんですが、それでは多種が近づいてくる説明は出来ませんね」
多くの動物を引き寄せるには餌やフェロモンがある。しかし巨大動物の中には肉食もあり、さらには多種の野生動物だから一種のフェロモンで全てが移動させるのは難しい。
羊飼いみたいに牧羊犬を放って誘導することはあっても、巨大動物を誘導させられる牧羊犬のような動物がいれば誰が見てもどれか分かるだろう。
ガチガチに身動きが取れないようにし、さらに遮るものがなく見晴らしがいいから巨大動物の心配は低いとしたが、まさかこれを使うとはさすがに考えが及ばなかった。
テーブルの上には一メートル四方の金属製の箱がある。上部が開く開閉装置が備えられ、その横には紺色の鉱石が置かれている。
大きさは直径二十センチくらいの球体。色合いは紺色で、見た目は水晶のように透明性があり、ライトを直接つければ光がうっすらと反対側から見えるくらいはある。
この紺色の鉱石が、このフィリア社会が喉から手が出るほどほしい結晶フォロン。
一キロで五千億円する超高価物質だ。
これが箱の中に入れられていた。
「まさか一兆セムも投入して巨大動物を一斉に誘導するとは……」
巨大動物が、その巨体を維持するには生体レヴィロン機関が欠かせない。それがなければ自分の体重を支えられずに動けなくなるからだ。レヴィロン機関によって浮かずとも体を持ち上げて、体重を軽くして移動することが可能となる。
すると代謝で排出されるフォロンを補うためにフォロンを摂取する必要があり、本能的に大量の結晶フォロンがあると近づいてくるらしい。それが昼間起きた巨大動物接近だった。
ならここユーストルには無尽蔵の結晶フォロンがあるから、その理屈では世界中の巨大動物が集まることになる。しかし実際にはそれがないことを考えると、箱程度でも障害物があると感知しないのかもしれない。これはすぐに調べられることではないから今後の課題だ。
巨大動物は、日本的に言えば怪獣のような姿でも生命力は普通の動物と変わらない。さすがに猟銃では絶命こそさせられないが、最新護衛艦に搭載されている艦載砲であれば一発で絶命させられる。
よって巨大動物そのものに脅威はなかったものの、排除するために殺しては動物愛護団体が騒ぐ恐れがあった。地球のエコテロリスト同様に、フィリアでも巨大動物を特に擁護する動物愛護団体がいるらしく、食用でもと殺はしてはならないと活動している。
そこで百頭近い巨大動物を殺しては、世界に散らばる動物愛護団体が団結して動く可能性があった。交流会の邪魔と世論を敵に回させるためにしたのだろうが、日イはその手も考えていた。さすがに数が多すぎて、三基の音響兵器では対処できなかったが、さらなる手として飛行艦を壁にすることでなんとか被害を最小限に出来た。
飛行艦の被害も、別に突進して来たわけではなく外壁の小破くらいで済んでいるらしい。
「ただ交流を邪魔するだけに五千億円。いくらこれから結晶フォロンが流通するからといって、使い捨てで出来る金額ではありませんよ」
先進国レベルでも五千億円もの大金を安易にねん出は普通出来ない。数十年単位で活用するならまだしも、確実性もなく交流会を邪魔するだけで使うとは、どんな金銭感覚なのかと疑うほどだ。
「考えるまでもなく、フォロンの価値が下がると知っているレーゲンが出所でしょう。ユーストルに隣接する国なら、山脈の外でも結晶フォロンがあっても不思議じゃありませんし」
当然日本とイルリハランはそんなものは用意していない。
PR合戦を考えると外部からの工作を防ぐために自作自演も考えられるのだが、万が一バレてしまえば信用は急転直下だ。
それだけはしてはならないとして、自作自演だけはしないと決めていた。
だが、超高価な物質をふんだんに使う策であるため、間違いなく個人や組織レベルではない。闇ルートで結晶フォロンがあったとしても、キロ級の管理は例外なく国家だ。巨大闇組織でも世界的大企業でも、キロを超す結晶フォロンの管理は出来ないとされる。なぜなら円形山脈外で手に入れて売りさばこうとしても、五千億円級では闇でも足が付くからだ。
証拠がないためアルタランの理事国なのか、一番邪魔したいレーゲンなのか分からないが、証拠がない以上自作自演でイルリハランも容疑国に上がる。
なにせ無尽蔵の結晶フォロンが眠っているのだから、キロ級の結晶フォロンの用意は難しくない。
どこかの国を示す証拠がなく、自らを否定する証拠もない。状況証拠から言えば、結晶フォロンを用意できるイルリハランに容疑がかけられ、結果自作自演への考えへ向けられる。
「相手ながら考えてますね。これでは接近の原因は公表しても詳しいことは迂闊には言えません。ネットで自作自演と噂を流されればたちまち広がってしまいます」
口元に手を持っていき、悩むようなしぐさを見せながらエルマは呟いた。
「成功すれば交流の邪魔をして失敗しても非難は受けない。狡猾ですね」
エルマの呟きに木宮が答える。
「この分では明日明後日の信任状捧呈式、明々後日の異星国家間条約調印式も今日以上の何かをしてきそうですね」
「明日のエルマ大使の信任状捧呈式は大丈夫でしょう。日本国内で行われるので、妨害をしようにも手出しが出来ません」
出来るとすればミサイル攻撃だが、当然監視の目はより厳重なので不可能だ。バスタトリア砲はする意味がなく、日本大使の信任状捧呈式も妨害したところで意味はない。不幸なテロ行為で終わりだ。
日本を悪者にするための工作だから、偽装が難しい信任状捧呈式は問題ない。
残すは両国首脳が揃う異星国家間条約調印式。
こればかりは史上初のイベントだから、代理人によって行われるわけにはいかなかった。
会場はラッサロン天空基地で、この基地内で日本国総理大臣の佐々木源五郎とイルリハラン王国国王のハウアー・フ・イルリハランは初めて首脳レベルで会う。
今までは代理人として若井や木宮とエルマで進めてきたが、明々後日を契機に政府レベルで国交が進む。
だからこそ、ハウアー国王以下政府首脳関係者が凶弾に倒れることは避けないとならない。
邪魔する側から見れば、日本側からイルリハラン政府関係者を撃つのが理想だが、そうでなくても日本と関わりを持ったばかりに撃たれただけでも、日本の不信感を与えられる。
「リィア大尉、先ほど基地内の裏切り者の目星が付いたと言っておりましたが、何人ほど付いていますか?」
「三人はほぼ確定と言えます。現在は拘留して尋問中ですが、大方家族や恋人を人質に取られ、やむなく従ったというところでしょう。そうであれば情状酌量の余地はありますが、もちろん法に則って処罰いたします」
こうなることを避けるため、一週間前からラッサロンでは一切のプライベート通信は禁止にしていた。それでも動かさせるのだから油断ならない。
「おそらくまだ駒にされている兵がいるはずですので、当日の武器の扱いは予定通りゴム弾のみとします」
ゴム弾であれば、怪我こそ負っても命は守られる。武器としての価値は下がるが、最悪の事態を考えれば妥協できる選択だ。
「まあ、それでもしてくるでしょうけど」
フィクションでは警戒をしつくしても突破して悪事を行うことは当たり前にある。イルリハランもだが、日本からすれば現実でありながらまるでフィクションのように物事が進んでいる。であればガチガチに身動きが取れないようにしても何らかの手を打ってくることは、間違いなくあり得ると言えた。
「同感です。本来であれば今日と同じようにメディア関係者を会場に入れるべきなんですが、定点カメラによる中継のみとします」
これは日本側も同意だ。今日はただの交流会だったから巨大動物の接近による妨害しかしなかったが、調印式ではそうはいかない。世間からすればブーイングでも、それで防げる可能性が高まるなら安い代償だ。
それでも政府側に裏切り者がいるなど、こうした悩みは果てしなく続く。
「ところでエルマ大使、今日の事で世間の反応とかは出ていたりしますか?」
「それはもうお祭り騒ぎですね。我々が一方的に公表する情報の裏付けが出来て、民間レベルで気になる情報を得られるのですから、ネットもテレビも凄まじかったそうです」
それは日本側も大体同じだ。収録して編集し、要点だけを放送するのと違ってほぼノーカットで在京テレビが放送することはない。JHKだけならしそうでも全チャンネルでするなら、大震災級の災害が起きたくらいだ。
それを計画的に行うのだから、異地に対しての注目度は非常に高い。
やはり政府に対する疑心暗鬼がある程度のレベルであることを示唆している。
「巨大動物の接近と言うトラブルはありましたが、今日のイベントは成功と言えるでしょう」
そのエルマの言葉に、一同全員が頷く。
「これで幾分かは我々が先手を取り続けられてますね」
先のレーゲンに翻弄された記憶がまだ残っている日イ。だからこそ、上手く進められていることは褒められた。
「はい。だからこそ油断は出来ません。たった一つのミスで全部がひっくり返られる状況には変わりませんから」
信用を得るには時間と労力を掛けて積み重ねるが、無くすのは一瞬で簡単にできてしまう。ここまで上手く行っても一つのミスで全てが変わることは十分にあり得た。
転移してから日本は常に綱渡りをしている。渡り切るか転落するかの二つに一つ。
共に手を携えてくれるイルリハランがいるとはいえ、渡り切るまでは一瞬の油断も許されない。
「そのミスを向こうは見つけるために各国の工作員も混ざって来たんでしょうけど」
「さすがに目的こそわかりませんがなにも出来なかったでしょう。常に監視の目を見張らせていましたから」
日本人の拉致はもちろん、秘密裏に世間に知られたくない情報を得ようとしたり、国防軍やイルリハラン兵に賄賂を渡して情報屋に仕立てようとしても、お見合い形式ではそれが出来ない。
双方の言葉を多く公表していない事や、通訳のランダムに配置した両国軍、カメラによる世間の目によって工作行為をする余裕を少しでも与えなかったから、ただただメディア関係者として従事して終わりだ。
フリージャーナリストなど単身で来た人は特に警戒していて、現場からの報告を聞いても『メディア』以外の事をする人は一人もいなかった。
「では工作、諜報員に関しては骨折り損のくたびれ儲けと言うことですね」
国家ぐるみで経歴を偽装してメディア各社に圧力を掛けて潜り込んでも、何も出来ずに帰ったのであればまさにそれで、諜報機関としては最大限の屈辱だろう。
もしかしたら巨大動物来襲のどさくさで工作をするつもりだったのだろうが、そこも混乱をする前に防いでしまったばかりに出鼻をくじかれてしまった。
果たして成果を残せなかった工作員に未来はあるのか。
それはさて置き、巨大動物来襲の犯人こそすぐには分からずとも、日イにとって不利な状況にはならないのは良かった。
「ではこれくらいにしましょうか。明日はよろしくお願いします」
エルマはそういって、机に置いた結晶フォロンを箱の中へとしまう。
「こちらこそよろしくお願いします」
天地生活圏を考えればどちらともフォロン有効圏内でするべきなのだが、エルマのたっての希望で日本の伝統に合わせた信任状捧呈式を行うことになった。
史上初の異星国家の大使となると言うのに、安全だけを考えた式をしても意味がない。長年維持し続けた伝統的な式があるというなら、不便だろうと何だろうとするべきとエルマは語り、天皇陛下のことも考慮して日本側は伝統的な信任状捧呈式をすることとなった。
それは東京駅を出発して、宮殿南車寄までの移動も含む。
日本の信任状捧呈式と言えば、皇居で天皇陛下に書状を捧呈する以上に、儀装馬車を含んだ車列が移動する方が有名だろう。
「ハグマさんも、明日は通訳と介助をお願いします」
「分かりました」
エルマの日本語も誰が聞いても問題ないくらい流ちょうになっているが、それでも天皇陛下に謁見すると言うことで、下手な日本語はしたくないらしい。そのため一番流暢に通訳が出来る羽熊が、エルマが乗る車いすを押す係となったのだ。
最初に思い付いたのが、俺がその大役をやっていいのかとそれをして問題はないのかの二つだ。
はっきり言って、その手の話は羽熊はテレビで見る側だ。その場にいて厳かに儀式を行う側ではなく、普段着を着てテレビを見ながら何も考えずに見る側である。
しかも政府職員ではなく、今でこそ有名人でも立ち位置的には大学准教授だ。
皇居に入ったところか近づいたこともない自分が、介助とはいえ天皇陛下に謁見するとは飛び過ぎにもほどがあった。
それを言うのなら人類史上初の異星人初接触の方が、天皇陛下に会う以上に難しいが。
ただ、今回羽熊は即否定をしなかった。
仕事とはいえ異国の地、それも異星で生態的に避けたい地面の上に行き、さらに日本の象徴と謁見するのだ。少しでも気の許せる人がそばにいてほしいのは理解できる。
しかも護衛としてルィルたちが来ても地に立てなければ足手まといなので、一番日本人として接している羽熊に白羽の矢がたった。
仕事と言うよりは友人の頼みに近く、羽熊からすると少し方針にそぐわないが、名誉なこととしてそのことは何も言わずに引き受けた。
日本側も羽熊が介助として同行するのは大丈夫らしい。
大丈夫と言っても、一人の書類上無関係に近い人間を正式に信任状捧呈式に紛れ込ませるのは面倒らしい。宮内庁を中心に外務省や文部科学省も巻き込むので、調整に調整と一週間はかかったとのこと。
民間レベルであれば一時間も掛からずに済むことも、政府レベルのそれも天皇関係ではそうはいかないようだ。
ちなみにラッサロン天空基地で行われれる、日本大使信任状捧呈式と異星国家間条約調印式、日イ首脳会談でも通訳で駆り出される。よってこの一連のイベントは全て出ることになる。
これで最後、であればまだがんばれるのだが、生憎と日本政府は羽熊を自由にはさせたくないようで、教本化が終わっても日イの橋渡しとして仕事をさせる気満々らしい。
噂では准教授から外務省か文科省、はたまた内閣職員に転向させようとしているとか。
さすがに民間人閣僚にはしないだろうが、ここまで来て大学に戻るのも難しいかなと思うところがあった。
もうこの生活に対してため息もでない。
逆に、この生活に慣れてしまった自分にため息が出る。
「ではエルマ大使、今後ともよろしくお願いします」
そう言ってこの場では初めて来る背広を着た初老の男性がエルマに手を伸ばす。
日本側が任命した日本大使の魚川澄平だ。三ヶ国と大使も務めたことのあるベテラン大使で、レヴィアン落下の二年前に退職して田舎に戻っていたが、熟練の人を大使にしようとして呼び戻したらしい。
「よろしくお願いします、ウオカワ大使」
エルマはさわやかな笑顔で握手に応じ、会釈をしてプレハブを出た。羽熊達も見送りのために外に出ると、直上で滞空している飛行車へと乗り込んで、駐日イルリハラン大使館用天空島へと向かって行った。その光景を見ながら一同頭を下げる。
「私たちも戻りましょうか。明日からいよいよ歴史的な行事が続きますので、十分に休みましょう」
若井が締め、日本側もぞろぞろと階段を降り始める。
「羽熊」
階段を下り切ったところで、最後尾にいる雨宮が呼んだ。
「なに?」
「明日明後日はまあ大丈夫だろうけど、それでもがある。くれぐれも用心しろよ」
国防軍による警護は国交正式樹立後でも持続される。
これはSPでは対処できない問題が起きる可能性が高いからで、SP以上に武力に通じた隊員がする方が安全性が高いため、このままユーストルでの警護は国防軍が続けることとなった。
代わりにユーストル内のラッサロン天空基地など、リーアン居住地域はイルリハラン兵が警護することとなっている。
つまり、事実上国交行事期間中の羽熊の警護は終わりとなるのだ。
「用心と言っても、何かが起きてもしゃがみ込むしか出来ないよ」
「もし発砲があったらすぐに頭を抱えて伏せろ」
「いや、リーアンから撃たれるなら空からだから、伏せる方が的になるんじゃないか?」
同じ目線同士なら、伏せることで面積を幾分か減らせるが、空から俯瞰されるとむしろ面積を増やしてしまう。立っている方が当たる範囲は少ない。
「万が一に備えて秘密兵器があるとしても慢心はしないよ。それに俺を撃ったって、日本への心証が悪くなるわけじゃないし」
日本人が凶弾に倒れてもテロで終わる。日本人がイルリハラン人を撃つのが理想であって、その逆をしても日本に同情して終わるだけだ。
「そら俺たちの考えはそうでも、向こうはそれでなにか画策する可能性があるだろ」
「分かってる。気を付けるよ」
この世に絶対はない。なにせ国土転移と言うトンデモがあるのだから、リーアンが日本人を撃つことで、日本を悪に仕立てる策があっても不思議ではない。
可能性は無数。結果は一つ。未来は誰も知らない。
なんとか日イにとって理想の結果をつかみ取るしかないのだ。
羽熊達は再び歩き出して、須田駐屯地へと戻っていった。
*
壁に掛けてある六十インチの液晶テレビから零れる光のみで照らされる部屋。
二十畳はあろうその部屋は寝室で、宙に浮くベッドに多くの家具が壁際にあり、その中央にある円形のテーブルが不動で浮いていた。
テーブルには異星国家のと比べるとやや形が綺麗とは言えないビンとグラスが置かれ、その傍らには同じく宙に座る一人の男がいる。
グラスに手を伸ばして掴み、中に入っている酒を口に含んだ。
今は亡き母が好きだったある酒造メーカーの安酒。身分からすればもっと高級な酒を手にすることなど造作もないが、他の酒と比べるとこれに勝るものに出会えたことがない。
今まで多くの酒を飲んだが、母が好み貧困だった頃から飲んでいたこの酒を超えることはなかった。だから齢六十七になろうと、子供の小遣いでも買えるような安酒を飲んでいた。
テレビではおそらく全世界で流れているだろうフィリア各国のメディア関係者と、異星国家メディア関係者の交流特集が放送されている。今流れているのは日中の交流会から編集で抽出した部分だ。それをスタジオで色々な考察をしながらあらゆる分野の人達で話し合わせている。
当然、一時中断した原因となる巨大動物接近のもある。
民間レベルでの異星国家との初接触は、世界中が注目する歴史的行事。だからこそ世界中の諜報機関は動いた。
大抵は情報収集と、ニホン側の情報提供者の確保だろう。この国でも一人だけ他国のメディア関係者の一人に紛れ込ませて交流会へと行かせた。
決して安くない代償を払って送り込ませたと言うのに、果たせたのはメディア関係者として働いて生で異星人を見ただけと言う、諜報員以下のことだけだった。
もちろんそんな無能は迅速に処分した。今頃は変死体となってどこかの地面に落ちているだろう。
いくら交流方法を事前に入手できず、身動き一つとれない状況だからとしてもだ。本職ではなく仮の仕事だけをして帰るとは何と情けないことか。
それをしやすくするために、幼少の頃に手にして大事にしていた結晶フォロンを投入したというのに無駄にした。
こちらの苦労を無駄にするクズは、いかに有能だったとしても活かしておく義理はない。
これ以上の失態を出す前にこの世から去ることが、我が国へのわずかな貢献と言うものだ。
思い出しただけでも怒りが湧き、手に持つグラスをテレビに向けて投げつけた。
グラスは砕け、テレビ画面にはヒビが入って大部分が暗くなった。
テレビの明かりが減ったことで寝室はさらに暗くなり、手探りでテーブルの上に置いた携帯電話を取って操作する。
「……私だ、調印式でカタを付けろ。失敗は許さん。何としても異星国家とイルリハランの国交を成させるな。あの異星人を野放しにすれば、必ずやリーアンは滅亡する。この星のためにも、異星国家は厳重に管理下に置いてぼろ雑巾のように使って捨てさせるんだ」
異星国家としての利用価値は周知の事実だが、繁栄させることも現状を維持する必要もない。
経済、貿易、軍事とありとあらゆる圧力と実行を掛けて異星人をフォロン有効圏内へと連れ出しては使役し、死んだら捨てて新たな異星人で事業を強要させる。
少なくとも絶滅こそさせるのは困難だが、インフラを破壊し、反攻と抵抗力を可能な限り排除し、領土外に出てくる異星人がいれば捕らえて働かせ続ける。
絶滅すればそれでよし、出てこなくてもそれでよし。殺人物質が流出して近寄れなくても最悪と比べればまだマシだ。
何があろうと、異星人を領土外で自由にはさせてはならない。
そうでなければあの最悪の事態が静かに起こっていき、止められなくなる。
幸いイルリハランを除く異星国家対応委員会は、危機的状況を理解して農奴政策に同意した。
あの野蛮な外来種に人道的措置をする必要などない。
グイボラのように超長期的にでも解決するには、スタートに立とうとする今が大事なのだ。
今を逃せば、この星に未来はない。
「異星人は悪でしかないんだ」
ペチンと自分の頭を叩き、ビンの三分の一ほど入った酒を一気のみで胃に流し込んだ。
一部灯っていたテレビの画面が切れた。




