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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第一部 第一章 国家承認編 全26話
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序章 『小惑星 レヴィアン』

 今回は『陸上の渚』を読んでいただきありがとうございます。

 今作は典型的な『日本全体が転移した』の逆をコンセプトに創作しております。


 ・自衛隊無双をしない。

 ・文明格差による無双をしない。

 ・ハーレムをしない。

 ・主人公が大人。周りも大人。

 ・魔法がない。

 ・ステータスやスキルがない。

 ・ギルドや冒険者がない。

 等々を念頭に創作をしております。


 注意点として作品全体で『外交』が全面に出ており、この手の作品で期待する『戦闘』は少なめです。

 1話が大体5千から1万文字に収まるように書き、内容も硬派になっております。

 読む人を選ぶ作品ですので、ご理解の上で読んでいただきますようお願いいたします。

 一九八七年 六月五日 本日新聞

『太陽圏外より飛来する小惑星を発見。

 アメリカ航空宇宙局(NASA)は四月十六日に、太陽圏外で小惑星を発見したと発表した。

 デネボラと呼ばれる恒星の方角で発見されたこの小惑星は、太陽系に向かう軌道を取っている。火星や木星の間にある小惑星のような楕円軌道を取っていないため速度や質量など詳細な情報は把握していないが、ひょっとしたらハレーすい星に次ぐ天体ショーが見られるかもしれない』


 一九九四年 一月九日 本日新聞

『1987HK、地球近傍を通過か。

 一九八七年四月十六日に発見された直径約三キロの1987HKはNASAの計算によると地球の近傍を通過する結果が出た。1987HKは火星や木星の間に無数ある小惑星群とは違い、デネボラと呼ばれる恒星の方角から向かってきている。速度は推定秒速十㎞。

 現在把握している軌道では地球と月の間を垂直方向で通り抜けるとされ、天文学的には非常に近いとのこと。通過予定日は二〇一九年四月十一日、万が一衝突すれば人類存続の危機もありうる。

 NASAは現状では衝突することはないとし、噂やデマに惑わされないように注意を呼び掛けている』


 一九九五年 十二月十四日 日売新聞

『NASA、1987HKのトリノスケールを六に指定。

 NASAは十三日、二〇一九年に地球近傍を通過すると発表していた1987HKの衝突危険度を現すトリノスケールを初の六に指定した。十段階中の六である。

 トリノスケール六は世界的大災害発生の恐れのある深刻な、しかしまだ不確実な大きな物体の近接遭遇で、衝突が確定したわけではないが対策を含めた警戒が必要とされる。

 直径三キロ、推定質量一千億トン、秒速十キロの小惑星が落下すれば、ヒロシマ型原爆一千万発に匹敵し、恐竜絶滅の二の舞になる恐れとなる。

 日本の宇宙開発事業団、フランス国立宇宙研究センター、ロシア連邦宇宙局はNASAの発表を支持し、欧州宇宙機関は衝突コースにあると計算結果を出した。』


 一九九六年 一月七日 本日新聞

『国際宇宙ステーション建設中止。レヴィアン対策に予算を使用。

 一九九九年より建設が始まる予定だった国際宇宙ステーション(以下ISS)の中止を、アメリカを始め参加国すべての同意で決定した。参加国は日本、ロシア、カナダ、ESA。その理由は二十三年後に接近するレヴィアン(1987HK)対策にISSの予算をつぎ込むためである。研究中または開発途中だったISSモジュールはすべて凍結し、約七兆円に及ぶ残りの予算全てがレヴィアン対策に当てられる。よって、レヴィアン対策参加国はそのままISS計画参加国が担うことになった。

 中国とインドもこの杞憂的状況に参加を表明したが、これ以上の参加国の増加は不要と拒否。

 NASAは今世紀中にはレヴィアンを確実に月軌道まで逸らす対策案を構築し、計画に移す考えを発表。それに伴い、NASAに国際レヴィアン対策局が設置される』


 二〇〇〇年 三月二十八日 日本新聞

『レヴィアン軌道変更案二種制定。

 NASAに設置された国際レヴィアン対策局は、地球に迫るレヴィアンの軌道を変更する計画をまとめた。

 対策としてはレヴィアンに大型推進器を設置して噴射、わずかに軌道を変えるものである。 その推進器を設置するため宇宙空間に一隻の宇宙船を建設、約五年の航海を経て増速し、2AU(3億キロ)よりレヴィアンと並行する。出港日は二〇一三年で到着予定は二〇一八年。衝突まで一年しかないが、距離は地球の公転軌道の直径までの距離があり、わずかでも動かせればその距離の間に離れていく。

 同時に、代替案として地上より迎撃するレールガンの研究開発も決定した。元々はアメリカ海軍が次世代速射砲として駆逐艦に搭載することを想定して研究されたレールガンで、この研究データを基に全長八百mになる砲台を建設。最大秒速二十㎞の砲弾を発射し、相対速度秒速二十五㎞で迎撃する。万が一軌道変更作戦が失敗した場合、最終防衛線はこのレールガンと常任理事国が保有する核ミサイルだけとなる』


 二〇〇〇年 五月一四日 大和テレビ 10:00~10:59 報道番組

『私は馬鹿馬鹿しいとしか思えませんがね。落ちるのが確定すらしていないえーと、レヴィアンでしたっけ、そんな対策に七兆円もの多額の予算をつぎ込むなんて、落ちなければ全くのムダ金じゃないですか。しかもたったの三キロ、はっ、たった三キロの石っころが落ちただけで人類が絶滅とか情報操作としか思えませんね。地球の表面なんてその何万倍もあるんだ。どうやって滅べるのかぜひとも知りたいね。私は間違いなく七兆円もの金を得るためにNASAが仕掛けた陰謀と断言します』


 二〇〇〇年 八月二十日 本日新聞

『レヴィアン迎撃反対派がデモ行進。

 本日午前、国会議事堂前にてレヴィアン迎撃を支持する政府に対し、反対派の市民三千人がデモ行進を行った。たった三キロの小惑星のために七兆円もの税金を導入するのはおかしいという意見が多い。中には自然現象に手を加えるべきでない意見も見られた。七兆円の予算は、その多くがアメリカのNASAから出され、その次に日本の宇宙開発研究所から出資している。日本政府はこのデモに対し「衝突する場合、分かった日から準備をしては遅すぎる。このISSに用いるはずだった予算は、人類存命の保険料と考えてもらいたい」と答えた。地対宙レールガンの開発建設については「ミサイル等による迎撃では推定一兆トンを超すとされるレヴィアンの軌道変更は効果が少ない。そのため最高速度秒速二十㎞で砲弾を打ち出す必要がある」と答えた。兵器転用問題は「発射許可は常任理事国と非常任理事国の総意である。よってある国が私的に利用をするのは困難であり、戦争や地域紛争の解決に用いることも難しい」と返した』


 二〇〇〇年十二月十二日 日本新聞

『経産省、全ての原発を完全防水化にすることを決定。

 経産省は国内にある全ての原発に対し、津波やその他の災害で完全に水没をしようと半月の電源を確保し、無人でも燃料棒の保護を万全とする改修工事をすることを決定した。この背景にはレヴィアンの落下に起こるかもしれない巨大大津波と今後起こりうる可能性がある巨大地震への対応を考えてのことである。既存の施設でも津波に対し防潮堤を設置や電源車の確保で対策はしているが、レヴィアンの落下で生まれる津波は数百メートルを超す。五十以上ある原発が津波に襲われ、メルトダウンをすれば数万年に渡り居住が困難となる。そのため日本政府は閣議で大規模改修を決議し、経産省がそれを発表した。十九年までには全ての原発に施す予定だが、まずは三陸沖地震、南海東南海地震を心配する福島第一、第二原子力発電所をはじめ東北沿岸の原発と、浜岡原発をはじめとする南海東南海地方の原発を優先的に改修する予定だ。予算は二兆円から三兆円は必要とし、その多くは国が負担してそのほかは各電力会社が持つことになる』


 二〇〇二年 四月二十七日 日売新聞

『惑星間往還船インディアナと地対宙磁気加速式半固定砲台アドバンスの開発が決定。

 インディアナ、二〇一三年出航。アドバンス二〇一八年運用開始。

 NASAのレヴィアン対策局と国連の地球外接近天体用対策機構は先日、レヴィアン軌道変換対策で計画を立てていた宇宙船とレールガンの開発に着手した。

 二〇〇二年二月二十六日現在、レヴィアンの衝突確率は十五%と決して高くないが、万が一衝突する場合、地球上どの場所であっても人類文明の崩壊は避けられない。そのためNASAを中心とするレヴィアン対策局と、国連の地球外接近天体用対策機構は二種類の軌道変換計画を始動した。

 惑星往還船インディアナは、元々地球と火星を行き来するために研究中だった宇宙船で、その計画を前倒す形で実行することとなった。

 主な仕様は全長:二百三m、全幅:四十五m、エンジン:固体燃料モーター、総推力:一万t、比推力:五百十三秒、定員:十五名、航行日数約六年、最高速度:秒速二十五㎞。

 対小惑星用軌道変更推進器の仕様は推力:千二百t、全長十m、全幅五m、エンジン:固体燃料モーターが十基インディアナ格納庫に保管。

 インディアナにはISSの主任務にするはずだったきぼうクラスの研究室も設けられ、無重力下の研究および人類初となる小惑星の採取解析を行う予定。建設場所は衛星軌道上。

 地対宙磁気加速式半固定砲台アドバンスの仕様は、砲身の全長八十六m、砲台二〇〇m、標準角度最大一〇度、必要電力六〇〇MW(発射のみ)、軌道計算用スーパーコンピューター一式、砲弾:耐熱処理を施した徹甲弾と榴弾、最大射程距離一〇〇万㎞(地上限定では一万五千㎞)。初速:秒速二十六、大気圏突破時:秒速二十。建設場所:アメリカ合衆国アラスカ州某所。

 インディアナとアドバンスは本年度から建造を開始する予定だ。』


 二〇〇二年 十月一日 TSBコロンビア号発射報道

『ただいま、ケネディ国際宇宙センターロケット発射場からスペースシャトルコロンビア号が打ち上げられました! すさまじい轟音を発しながらコロンビア号は青空へと上昇していきます! コロンビア号には迫るレヴィアンの軌道変更作戦として建造が開始されるインディアナの船体モジュールが搭載されています。史上最大の宇宙船であるインディアナは九十近いパーツに区分けされ、十一年の歳月をかけて建設。日本やロシアからもモジュールを打ち上げ、一隻の宇宙船として二〇一三年四月に出航予定です。

 コロンビア号はもう点でしか見えません。ロケットから排出された排煙だけを残し、コロンビア号は宇宙へと旅立ちました。インディアナはスペースシャトルとは違い、宇宙空間で燃料を大量に使用するため、地上からによる打ち上げをせず燃料を最小限に出来る大気圏外からの出航となります。一度の打ち上げ失敗でも大幅な計画の遅れが見込まれるため、NASAを始めインディアナだけでなく打ち上げロケットを製造する企業も細心の注意を払い製造をしているとのことです。以上、ケネディ宇宙センターロケット発射場からでした』


 二〇〇七年 九月八日 日本新聞

『レヴィアン衝突確率、五十七%に上昇

 レヴィアンの監視を続けるNASAは、地球に衝突する確率を五十七%まで上昇したことを発表した。この数字は、天文学的にはほぼ確定と言ってもいいとされる。そのため現在建設途中である宇宙船インディアナと、地対宙磁気加速式半固定砲台アドバンスが必要不可欠となった。衝突可能性地域は、現在の軌道を維持する場合北極からユーラシア大陸に当たり、より正確な場所はより近づかなければ不明』


 二〇〇七年 九月十日 大和テレビ報道番組

『NASAがレヴィアン衝突確率を五十七%まで上昇したことを発表したことに、世界中が衝撃を受けています。軌道変更作戦の準備は順当に進んでいますが、不安が重なり暴動がイギリスやアメリカを始め世界各国で起こっています。日本でも地下シェルターを施工する企業の株価が急上昇し、中にはある地域では例え落ちようと被害がないと謡い、土地を買わせる不動産詐欺もこの三日間で十五件起きています。政府はこの事態に会見を開き、「小惑星に関する情報は包み隠さず国民の皆様に報告をします。件の被害のない地域は残念ながら地球上のどこにもありません。不安を煽る言い方ですが、その不安を払しょくするために世界共同で軌道変更作戦の準備を順当に進めています。そして接近日は十二年後の二〇一九年ですので、どうぞ慌てずに普段通りの生活を送ってください」と答え不安の鎮静化を図っています』


 二〇〇九年 十月二日 号外

『五十二年ぶりの開催! 二〇一六年東京オリンピック開催決定!

 先ほど行われた第121次IOC選考会にて、オリンピックの候補地として争っていたリオデジャネイロとの決選投票で、リオを下し東京が二〇一六年第三一回オリンピック開催地として決定した。

 二〇一九年に小惑星レヴィアンの落下を前にしてのオリンピック。関係者はこれが最後のオリンピックになるのではとの意識が強く、東京、リオデジャネイロ、マドリード、シカゴで最大規模のプレゼンとロビー活動が行われた。投票ではマドリードとシカゴが落選し、東京とリオデジャネイロが残った。そして決選投票にて、六十六対三十二で東京が選ばれた。プレゼンを行ったアーチェリー銀メダリストの鳳翔拓篤さんは「すごくうれしいです。最高のオリンピックにしたいですね」と満面の笑みで答えた』


 二〇一一年 三月十八日 日売新聞

『先週十一日午後二時四十六分に起こった東日本大震災から一週間が過ぎた。死者数はなおも増加を続け、被災地の避難場所では過酷な避難生活が続いている。

 一時最悪の事態になりかけた福島第一、第二原子力発電所は十一年前に実施された無人式電源冷却密閉改修工事により自己発電能力と炉心は海水から保護され、発電こそ出来ないが遮断された外部電力の復旧によりメルトダウンの心配は完全に脱したとのこと。しかしその他の施設のダメージが大きく、再び発電送電するには時間がかかり復旧のめどは全く立っていない』


 二〇一二年 九月九日 本日新聞

『インディアナ建造終了。

 地球の軌道上で建設が行われていたインディアナの建造が、七日に打ち上げられた日本のH2Aロケットに搭載したモジュールを取り付けたことにより、惑星間往還船インディアナの建造は終了した。すでに宇宙飛行士七名がインディアナに滞在し、各システムの点検を行っている。メインエンジンを始め全ての機構が正常に稼働すれば、翌年四月三日、インディアナは地球の公転と自転から離脱し本来とは全く異なる軌道を持って大海原を航海する。インディアナの乗組員はNASAを中心とする委員会が厳正に審査し、心技体それぞれこれ以上ないメンバーが選ばれた。全十五名中半数はアメリカ人が担い、そのほかはロシア人、EU選抜、日本人が当たる予定だ』


 二〇一三年 一月三十一日 日本新聞

『中国海軍、海上自衛隊護衛艦「ゆうだち」に速射砲を発砲!

 笠原防衛大臣は昨日午前一〇時ごろ、東シナ海において中国人民解放軍海軍所属の江衛Ⅱ型フリゲート「連雲港」(522)が、海上自衛隊第七護衛隊所属の護衛艦「ゆうだち」に向け、79A式56口径100㎜連装砲を発砲したと発表した。幸い放たれた砲弾は「ゆうだち」には当たらず、回避行動を取り沈没は免れた。

 この発砲により「ゆうだち」の自衛権の行使は法的に許される形となったが、高度に政治的な問題からそれを見送られた。

 外務省は三十日深夜に中国大使を呼び、これまでにない厳重注意をした。

 中国外務省はこれは日本のねつ造報道と非難したが、日本側は発砲の瞬間の映像と火器管制レーダーの記録などを大量に保持し、機密の部分があるため公開は控えるが言い逃れのできない証拠は十分にあると外務省経由で中国に反論した。』


 二〇一三年 二月十九日 週刊神宝

『憲法改正へ議論深まる。

 日本は戦後一度として憲法改正をしたことがない。これは憲法改正するための手続きが難しいこと、国民の理解を得ることが難しいことが挙げられたが、先月に起きた中国駆逐艦砲撃事件により国内世論が大きく変わった。憲法九条を保護する団体は、憲法自体が日本を守る。よって憲法は守らねばならない。自衛隊は不要と唱えたが、それが通用せず逆に日本をバカにしていると流布する形となった。

 国際的に見れば日本の行動は間違っていると言わざるを得ない。相手国に砲撃されてまで反撃をしないのは防衛組織として成り立っていないからだ。どの国でさえ相手に撃たれれば身を守るために反撃をする。これは国内法だけでなく国際法で認められているからだ。撃つ側は撃たれる覚悟をもって、撃たれた側は撃つ権利を持つ。しかし日本は撃つことも撃ち返すことも出来ない。張りぼての虎では馬鹿にされて当然なのだ。

 九条を保護する団体はそれでも平和憲法を守るべきと騒ぐが、自分の子供がその船に乗っていて同じことが言えるのかと改正派と議論が絶えない。

 さらにレヴィアンの接近もあり、二〇世紀の情勢とは大きく変わった。

 それでも衆参両議院の議席三分の一以上を占める野党は、世論に乗っかろうとしない。元々憲法改正派である与党の自友党はこの流れに便乗したいが、あと一つか二つの野党を味方にしなければ憲法改正の決議は叶わないだろう。

 反対団体はよく憲法九条があるから日本は六十八年間平和でいられたと語る。

 それは誤りだ。

 法は人を守らない。人が法を守るのだ。

 法的効力と言えばそれらしく思えても、究極的には言葉の羅列だ。人がその言葉を守るから効力があるだけで、国民全員がそれを無視をすれば法としての効力は持たない。

 もちろん国家が法を蔑ろにすれば三流以下の国家に成り下がり、国際的信用は最底辺にまで下がるだろう。それは防衛組織を持っているのに防衛をしない、出来ないのも同義だ。

 法は人を守らない。人を守るのは結局人なのだ。

 日本人は、六十八年の年月を経て、ようやく悟ったのかもしれない』


 二〇一三年 四月三日 大和テレビ

『二〇〇二年から十一年かけて建造し、七か月の月日をかけて試運転と調整を続けていたレヴィアン軌道変換用惑星間往還船インディアナが、今日人類の未来を守るために出航します!

 まずは月へと向かい、スイングバイと呼ばれる星の重力を利用して加速する方法を取り、地球と月から見て垂直方向へと進路を取ってレヴィアンへと向かいます。燃料の節約を兼ねて宇宙空間で建造されたインディアナは史上最大の宇宙船で、十五名の宇宙飛行士が五年の歳月を経てレヴィアンに接近し、一年間共にして地球へと戻ってきます。接触する場所は地球と太陽を往復する三億キロと途方もない距離ですが、遠ければ遠いほど軌道を変える角度は少なくて済みます。あ、いま出航しました。最後の物資を搬入するため打ち上げられたスペースシャトルアトランティス号からの映像で、月に向けてエンジンを始動したインディアナの姿が見れました。いってらっしゃい』


 二〇一五年 五月二十八日 号外

『日本、憲法初改正!

 三か月前、衆参議会で三分の二以上の賛成を得て可決した憲法改正決議を経て行われた憲法改正の是非を問う国民投票で、賛成票五十八%反対票四十二%となり、日本は戦後初の憲法改正を実施することとなった。

 改正する主な部分は、硬性憲法の最たるものである九六条の憲法改正と九条の戦闘放棄で、憲法改正は国会の発議が三分の二から二分の一に引き下げる。憲法九条は武力による国際紛争の解決の放棄はそのままに、自衛隊を正規軍に改変。個別、集団自衛権の合憲化に主眼を置いた。

 これに伴い自衛隊の名が変わる可能性がある。

 早ければ六月下旬から七月上旬には改正憲法が施行される』


 二〇一五年 七月三日 日売新聞

『改正憲法施行

 五月二十八日に行われた国民投票により日本国憲法は初の改正をした。

 改正前憲法の基本的人権尊重主義はそのままに、時代のニーズにこたえた改正が行われた。

 それに伴い注目された自衛隊は、六十年間利用されたその名はそのままに国防軍の名がつく形となった。『日本国国防軍〇〇自衛隊』(○○には陸上、海上、航空がつく)が正式名となり、英訳はSelf Defense Forceからarmy、navy、Airforceへと改名される。

 自衛隊の名を残す背景は、六十年間使われ国民に愛着を持たれたこと、陸軍等にすることによる威圧感を与えない配慮が見受けられる。専守防衛の理念は緩和され、先に血を流さなければ自衛権の行使を行えない事態はなくなる。中国と韓国はこの憲法改正には軍拡や平和を忘れたなどと終始反対だった』


 二〇一六年 七月二十五日 本日新聞

『二〇一六年東京オリンピック開幕

 五十二年ぶりに東京オリンピックが開幕した。最新技術を駆使した開会式が行われ世界各国から来た観客らを楽しませた。参加国は述べ二〇四か国、一万人の選手が参加する。開催期間は七月二十四日から八月九日までで、二十六競技三十二種目が行われる予定だ。韓国と中国は去年の憲法改正で参加を見送る意向を見せていたが、オリンピックに政治を持ち込むべきではないと言うICOを始め主要スポーツ国際協会から非難の声が上がり、開会式では選手は少ないが参加した』


 二〇一七年 一月四日 日本新聞

『レヴィアン落下地点判明

 NASAはレヴィアンの落下場所をロシアのケメロヴォ州であると発表した。

 海に落下しないため巨大津波の発生はなくなったが、一千億tに至る小惑星が落ちればマグニチュード九から十クラスの地震が襲い、日本も震度六弱から六強の揺れが襲うとされる。

 この発表に伴い、被害予想地域の避難が予想される。その数は数千万から一億人に達すると言われ、それだけの数をどう受け入れるか議論が必要となる。中国政府は避難民の受け入れは拒否するとすでに公表しており、フィリピンやインドネシアも同様に受け入れに難色を示している。そもそも落ちれば地球が滅ぶため、避難は時間と労力、金銭の無駄の意見も強い』


 二〇一八年 三月十日 日本新聞

『地対宙磁気加速式半固定砲台アドバンス建造終了

 アメリカのアラスカ州某所(テロ防止のため場所は未公開)で建造を続けていたレールガンが先日完成したと国防総省が発表し、一部の資料をメディアに公開した。場所こそ機密扱いされ民間人には知らされていなかったが、完成を経て一部の情報が公開された。

 システムチェックと試射を行い、一ヶ月後に並行を開始するインディアナの軌道変更が失敗した場合、理想最大射程百万㎞に達したところから発射を繰り返して被害を最小限から軌道の完全変更を目指す』


 二〇一八年 四月九日 日売新聞

『インディアナ、レヴィアンと接触

 来年四月十一日に衝突が確定しているレヴィアンとインディアナが相対速度〇で接近した。距離は三㎞を維持して並行し、初めて鮮明なデータを取り地球に送信した。

 レヴィアンは既存の小惑星とは異なり、赤い結晶体で構成され見た目だけで言えば巨大なルビーと言える。この宇宙には月クラスのダイヤがあるとされ、驚きこそあれ不思議ではないらしい。

 すでにレヴィアンの重心の位置は観測され、最適な位置に軌道変更用エンジン十基を設置。最大出力で押し出し、ほんのわずかでも角度をつけられれば回避成功となる。

 変更作戦開始は予定通りに行けば日本時間十日夜に行われる』


 二〇一八年 四月十一日 本日新聞

『軌道変更ならず

 日本時間十日午後十時十八分に行われたレヴィアン軌道変更作戦は、計画通りの軌道に乗らなかったとNASAは発表した。

 十基の推進器は予定通り最大出力で二四六秒間噴射し続けたが、観測以上にレヴィアンは質量を有しており、全くと言っていいほど軌道が変わらなかったようだ。

 人類の未来を託して建造し、五年の長きにわたる航海を経ても人類は己の未来を変えることも出来ないらしい。

 NASAの発表によればこの作戦によって落下地点が変わり、ロシアのケメロヴォ州から中国の四川省にズレた。結局のところ地球への落下には変わらないため、あとはアラスカ州に建造されたレールガンのアドバンスと世界各国が保有するミサイルのみとなる。

 失敗したインディアナは減速用燃料しか持ち合わせておらず、その燃料を例え同時に使ったとしても軌道変更は不可能であるためこれ以上のことはせず並行し地球に帰還する予定だ』


 二〇一八年 四月十二日 日本新聞

『世界規模で暴動多発! 株価暴落で世界経済大打撃!

 人類を滅亡に追い込むレヴィアンの軌道変更作戦が失敗したと発表されたことにより、世界中で大規模な暴動が起きた。一年後に滅亡する悲壮感から抑圧された感情をむき出しにし、治安の優れない国々では略奪が相次いだ。株価も世界規模で売りに出され、日経平均株価も二万円を推移していたところ市場が開けると同時に軒並み下落、一時一万円を切るにまで至り、市場停止にまで追い込まれた。

 日本国内では大規模暴動は今のところない。

 国連は「軌道変更作戦が失敗したのは残念でならない。しかしレヴィアンが衝突するのは一年後であるため、それまでは現代人らしく生活を続けてほしい」と暴動の抑制にやっきだ』


 二〇一九年 四月五日 本日新聞

『アドバンス、レヴィアンに向け砲撃開始

 国連安保理常任理事国各国と非常任理事国各国はアドバンスに対し砲撃命令を全会一致で申請した。現在の精度では命中できる保証はないが、それでもしなければならないほど切迫している。

 余命が残り一週間を切り、仕事を辞めて家族を過ごす人もいれば、世紀末のように破壊の限りを過ごす人も世界中で多発。日本もインフラ維持が出来なくなった県が何県も出たりした。

 この新聞もいつまで出せるか分からないだろう。刷ることが出来ても届かないかもしれない。

 例え地球にいくつか落ちようと被害を何割か減らせればまだいい考えから、残弾の続く限り連続砲撃を命じた。

 どうか軌道を外れてくれ』


 二〇一九年 四月十一日 ネットニュース

『これが最後の記事となるだろう。インターネットもいつまでつながるのか分からないが記させてもらう。すでに新聞は輪転機が止まり、もうテレビもラジオも放送をしようとする人もいない。

 電気水道ガスと止まった都道府県は十を超え、経済も完全に停止。大都心東京でも経済目的で走る車は皆無と言っていい。警察や消防も使命感を強く携えた人だけが残り、使命より余命を取った公務員は次々と辞めていった。国会も閣僚は残れどほとんど停止状態と言っていい。だが彼らを責めることを誰が出来る。明日があれば責めれよう。しかし、明日がなければ働く意義はない。働くのは明日のため、未来のためなのだから。

 レヴィアンの軌道変更作戦は悉く失敗し、Bプランであった超ド級巨砲レールガンアドバンスの連続射撃も、ダメージを与え四分の一を逸らして落下場所を中国四川省から日本に切り替えただけに終わった。

 今更落ちる場所が変わったくらいで動揺はしないだろう。四川省に落ちようと日本に落ちようとブラジルに落ちようと助かる道はないのだ。

 それでも抗うのが人の性なのだろう。

 日本政府は最後の抵抗として、海自と陸自に対して迎撃ミサイルの発射を先日命令をした。

 例え破壊できたとしても数百億tもの隕石が落ちてくるため、結局滅亡には変わらない。

 だが終わるのなら出し惜しむ必要がないのも事実だ。

 国防軍……いや、自衛隊として最初で最後の出動が自衛なのは自衛隊冥利なのだろう。

 それでは皆さん、ごきげんよう、さようなら』

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― 新着の感想 ―
[一言] 5月14日の書き込みでこんな被害はあり得んとほざいたアホは現実に立憲民主党や共産党なら必ず言うやろうな。科学的根拠無しでこの期に及んで自民党を攻撃するとはね。実際にやるね共産主義者は基地外や…
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