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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第二章 政戦編 全35話
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第34話 『異星国家対応委員会』

「ごめんなさい。私はどなたとも交際をするつもりはないの」


 ルィルはそうはっきりと答えた。

 場所はラッサロン浮遊基地の通路で、ルィルの目の前にはしっかりとした体格をした男性兵士が一人いた。顔を見ると中々のイケメンの部類に入る。

 返事で分かる通り、男性兵士はルィルに告白をしたのだ。それを彼女は反射的な早さでお断りをしたのであった。


「それは、もう誰かと付き合っているから?」

「誰とも付き合っていないわ、ただ結婚願望がないだけよ。付き合っている人も婚約者もいないし、みんな聞いてくるけどハグマなんて論外ね」


 この論外は人としてではなく恋愛相手としての意味だ。地に付く人種とは、どれだけ親しくなって愛してしまっても生活環境の違いで必ず破たんする。

 これまでの付き合いと一週間のニホン観光でそれを実感した。


「それとリィア大尉とエルマ大使との噂も全くないから。変な勘繰りはしないでくれると嬉しいわ」


 これで一体何度目の告白か。ニホンが転移してくる前は注目が集まっていなかったからそれほどでもなかったのに、ニホン問題で活動するようになっては十倍近く膨れ上がった。

 その都度丁寧に可能性は皆無で噂もないことを伝えているのに、告白が無駄という情報は広まってくれない。

 それどころか誰がルィルを落とすか賭けか勝負をしているような節も感じる。


「……いっそ不祥事でも起こそうかしら」

「何物騒なこと言ってるんですか」

「ティア」


 男性兵士とすれ違うようにティアが来ては、ルィルの呟きに反応する。

「私の人柄が言葉通り地に落ちたら、うっとうしい告白や食事の誘いがなくなると思ってね」

 規則として兵士同士の恋愛は禁止していない。万単位で活動している基地でも閉鎖環境には違いなく、課業以外であれば性行為を除く男女交際は特に問題視されない。


 だからこそ課業以外の時間帯で、食事の誘いやら告白を受けてしまう。

 いまルィルは人気だからモテてしまうわけであって、大勢の女性兵を敵に回すだろうが不人気になってモテたくないのだ。

 ただ、地に付くまで不人気になってしまうと、今度はニホン問題から離されてしまう。


「そんな駄目ですよ。曹長は冷静で熱い人じゃないと」

「なによそれ。矛盾してるじゃない」

「とにかく曹長は今のままでいるべきです!」

「あ、そう。それで私に何か用?」


「そうですそうです。今度フォロン結晶石がユーストルにあるかニホンと一緒に地質調査しますよね? 私、そこの通訳として同伴することになりました」

「あら、よかったじゃない。今一番気になる調査に同行できるなんて」

「それはそうなんですけど、なんで私なんでしょうか。そりゃニホン語はそこそこ喋れるようにはなりましたけど、大事な調査だからルィル曹長やハグマ博士の方がいいと思うんですが」


 いま、イルリハランの中でニホン語が堪能なのはユリアーティ偵察部隊だ。毎日ひたすらに互いの言葉を覚えるつもりで会話をすれば、ただ勉強するよりは早く身に付く。

 なのでニホン語の教本化のために手を貸すこともあり、重要な対話で駆り出されることもある。


 フォロン結晶石の有無を調べるための地質調査は重要なことだ。確かにルィルやハグマが出てきても不思議とは言えないが、ルィルはそんな話は来ていないし、その地質調査でハグマが行くことも聞いていなかった。

 第一地質調査は軍人のルィルも言語学者の羽熊も全くの素人だ。すごく喋れるしか役に立たないのなら、そこそこ喋れるだけの人で十分だろう。


「そうね。役に立ってすごく喋れる人がいないなら、ただすごく喋れる人よりそこそこ喋れる方が、すごく喋れる人を他のところに行かせられるからじゃないかしら」

「ああ、なるほど」

 ティアは納得したかのように自分の手をポンと叩く。


「曹長やハグマさんはすごく喋れますからね。だったらもっといるべき場所はありますよね」

 調査する場所も、今いる場所からニホン本州を挟んだ反対側だ。

 なぜそこかと言うと、ラッサロン側だと先の戦闘のようにレーゲンが手を出しやすいことを懸念して、ニホンの領域そのものを盾にしようとしての判断らしい。

 もし最初の位置で発見してレーゲンらが動き出しても、横断出来ないニホンが邪魔で南北に迂回しないとならない。宇宙から見ればニホンは小さいが、近くで見るとそれなりに広いから半日近くは時間が稼げる。


「だから通訳がんばってね。最近軍人よりは通訳ばかりの仕事だけど、これも立派な仕事だから」

「あはは、桁とか単位とか間違えないようにします」

 ティアはそう自分に言い聞かせ、ルィルに「失礼します」と敬礼をして去っていく。

 そしてルィルも移動を始めた。

 あと数日で、状況証拠から来るフォロン結晶石の鉱脈を調べる地質調査が始まる。


      *


 イルリハラン王国がニホン国と共同でユーストルの地質調査を行い出した頃、アルタランではニホン問題として当該国であるイルリハランと隣国であるレーゲン、理事国七ヶ国と選抜された三ヶ国の計二十一人によって会議が行われていた。


 十万もの人が居住できるアルタラン専用特大浮遊島は、アルタラン総本部の他に国際組織が集中しており、合わせて住居、ショッピングが出来るよう計画的に設計され、生産以外であれば完結した街と言える。

 通常、浮遊島は建設した国の国籍としてその領空に滞空し、よほどの理由がない限り国境を超えることはない。

 しかしアルタランは世界唯一の国際機関であるため、癒着や依存性を作らないよう常に移動し続けている。

 

 森林都市のように不動ではなく可動であることを活かし、赤道上を四年かけて一周していた。

 現在アルタランがいる場所は、三大大陸であるマルターニ大陸とユリタシア大陸の間にある三小大陸シィルヴァス大陸だ。

 もうじき東海岸に差し掛かり、海を越えてイルリハラン王国へと入国。ユーストルまで数万キロにまで近づく。

 だからこそか、ニホン問題は日に日に熱くなり始めていた。


「イルリハラン大使、一体いつになればイルリハラン以外の国家はニホンと接触が出来るのですか?」


 ニホン問題は異星国家対応委員会と言う形でアルタランのある会議室に設置され、その中で一人の大使が質問してきた。

 イルリハランは依然とユーストルへの移動許可は自国のそれも政治・軍関係しか認めていない。

 人類史だけでなく、フィリア史上初の異星人国家の転移、さらに平和的人種と判明すれば接触したいのは知的生物としては自然な考えだ。

 しかしイルリハランは一貫してそれを認めない。すでに複数の国が後追いでニホンを国家として承認する意思を示していて、着実にニホンはこの世界で馴染もうとしている。


 なのにイルリハランは未だに政府と軍関係しか入域を認めないことに、各国は不満を募らせ始めたのだ。

 最初はニホン問題を全部イルリハランに任せてしまおうと言う腹だったが、ニホンが平和主義と知るや接触させろと言うのだから現金なものである。

 ただ、これはイルリハラン国内でも不満の声はあった。


 空前絶後の異星国家の転移なのに、メディアが関われたのは一度っきりの記者会見で、それ以来は国営メディアであっても認められなかった。政府としては安全上の問題としているが、二ヶ月以上もシャットアウトされると陰謀論が浮上してくる。

 イルリハランとニホンは密約を交わし、何かしらの作戦を実施していると。

 いまだにアルタラン内では表面化していないフォロン結晶石の有無を、共同で調べているのだからあながち間違っているとは言えないが。


「現在イルリハランとニホンは高度に政治的やり取りをしています。両国の関係は良好ですがデリケートな状態でもあり、他の人々の自由な移動を許可した場合、どのようなトラブルが起きるか予測が出来ません。ニホンとの関係が落ち着くまでは、これまで同様入域制限を維持する考えですし、ニホンに関する情報は防務省と外務省ホームページにて公開し続けていきます」


 イルリハラン全権大使のパラミア・ウェル・シーロンが答える。


「その公開する情報が偏向ではない証明は出来るのですか?」

 民間であれば報道の自由と言う法を盾に、ある程度の制限は仕方ないにしても公開できるが、軍や外務省と言う国の組織であれば自由に内容が決定できる。

「偏向情報かどうかの答え合わせは、いずれ自由化される入域によって果たされるでしょう」


 あくまで現状はイルリハラン主導での情報公開しかしないと言う意向だ。

「しかしニホンが国家として承認された以上、ニホンは貴国の言いなりにはならないはずでは? それではニホンの主権が無く、貴国の属国と考えられますが?」

「ニホンがどの国と外交するかに関して、我が国は特に制限を設けるつもりはありません。ですがニホンに向かうには我が国の領土であるユーストルを移動することになります」


 大気圏を超えるロケット旅客機以外の国境を超える浮遊機は、鉄則として事前にフライトプランをその国に通告しなければならない。他国がニホンの領土となったフォロン有効圏内に行くには、ニホンとイルリハランの領空を移動する許可が必要だ。

 それがない限り他国の浮遊機がニホンに向かうことは叶わず、ニホンが許可してもイルリハランが許可しなければ行くことは出来ない。

 結果的に言えば、イルリハランが許可しない限りニホンを独占し続けることになる。


「そのことでニホンはなんと?」

「ニホンはどの国とも外交をする意識はありますが、今のところ我が国以外の国と外交は控えたいとしています」

 この発言で異星国家対応委員会の大使全員がざわつく。


「その理由はニホン全体が極度に疲弊しておりまして、二ヶ国以上を相手にする余裕がないからです。国土転移の原因と思われる巨大隕石の落下が確実となり、合わせて政治経済が停止、食料の生産の減少ともあれば疲弊して当然でしょう。そんな国がたった二ヶ月で複数の国と外交をするには厳しいでしょう」


「それは本当にニホンが言ったのですか?」

「はい」

 国際会議の場での虚偽はそのまま国の信用低下に繋がる。はっきりと肯定する以上は、イルリハラン王国の言葉を信用するしかない。

「すっかり異星人の首に輪をかけたな」

 そんな中、皮肉たっぷりに言い放つのは、隣国と言うだけで参加したレーゲン共和国大使である。


「それは聞き捨てなりませんね、レーゲン大使」

 はっきり言って侮辱の言葉に、大国の一つと自負しているパラミア大使はすぐに噛みついた。ただでさえ先の戦闘による謝罪を受けておらず、両国の政治経済関係は最悪と言えるのだ。可能であればこの会議にすら出席してほしくないところでの暴言だ。

「一体いつニホンに首輪を掛けた」

 熱くなってはならないのが鉄則の外交官のボルテージを上げるには十分だった。


「完全に異星国家の主導権を握っているではないか。有無を言わせないのだから首輪を掛けている以外どう表現できると言うのだ?」

 レーゲン大使の言っていることは的外れとは言い難い。あくまで外部から傍観した場合の見方であるが、良くも悪くもニホンが内向的な性格がそのような誤解を招いていた。

「ニホンはなるべくフィリア社会に悪影響を与えないようにしている。先の記者会見で話していたことを、まさかニホン問題に関わっていると言うのに聞いていないと? ニホンの文化が広がった場合を心配することを話していたはずだが?」


「外交と文化浸透は別問題ではないのか?」

「外交も一種の文化だ。事実、ラッサロン浮遊基地の軍人はフィリアの国とニホンとではかなりの違いがあると報告している」

 ただ、その違いが良い意味であったがため、異星国家を相手にしても平和的に外交を続けることが出来た。謙虚そうに見えて芯を持つ大国であると現場からの報告から何度も来ている。

 イルリハランから見てニホンは、謙虚だからと見下さず、強気にならないからと敬意を払わない国ではない。

 転移当時は保護国にするよう考えたが、その考えももう持っていない。


「レーゲンがただそう見えているに過ぎない。我が国はニホンを一つの国としている」

「ではなぜ門戸を開けない。ニホンの主権と主導権を握っていないのであれば、ユーストルの自由航行を認めろ」

「ふっ……貴国がよくそんなことが言えるもんだ」


 数十年前から突然宗教上の聖地としてユーストルの領有権を主張しだし、無断で領空侵犯すれば転移して何も知らないニホン軍へ攻撃。しかもユーストル防衛戦まで勃発までさせた。

 ユーストルの秩序を乱した国がよくもまあ言えたものと、パラミアン大使は笑った。

 だがユーストル領有権に関する話はこの場ですることではない。


「何度も言うが、イルリハランとニホンは良好な関係だがデリケートな状態でもある。一ヶ国とも十分な外交が出来ないのに、何ヶ国も増えれば不要なトラブルを起こしかねない。ニホン問題は我が国の領土内で起きたのだから、我が国が落ち着けるところまで持っていくのが筋と言えよう」


 元々、ニホン問題はイルリハランが全部請け負う考えで、アルタランを始め各国も不安を表明しつつも何もしなかったし、任せるつもりだった。もっと言えばこの異星国家対応委員会もイルリハランに任せて形だけだった。

 異星国家が現れたのにアルタランが動かないわけにはいかないためで、当初はほとんどイルリハランが提供する情報を精査するに過ぎない。

 そこにちょっかいを出してきたのがレーゲンとその同盟国で、それをきっかけにニホンを国家承認したことによって本格的に活動した経緯がある。


 本格的であってもニホン問題の主導権は依然とイルリハランが握っている。理事国だろうと言えないのだ。なぜならニホンは目に見えない不安を持たせても、目に見える不安は与えていないから動く根拠がないからである。

 転移当初から軍事的侵略行為をしてくれたら、イルリハランの都合など無視して世界秩序のため世界軍を派遣をしていた。


「少なくともニホン国内の情勢が落ち着くまでは、ユーストルへの入域は避けるのがイルリハラン政府の方針です」

 と、パラミア大使は威厳を保ちながら語りつつ、アレを話す機会を伺っていた。

 アレとはずばり地質調査のことだ。

 アルタランは知ってか知らずか、状況から推測出来る地下物質について何も言ってこない。何も言わないのに言うのは政治的には先手を取れるが、秘密にしておきたいカードの絵柄を見せてもしまう。


 ただ、イルリハラン外務省からはこの事への発言の許可は下りているから、外交でタブーの一つである『口を滑らせる』をしても問題ない。

 カードを切るにはそのカードの威力が最大限になるのが得策だ。

 最悪なのはカードを切る前にカードの効果がなくなってしまうこと。この場合はカードを切る前に、フォロン結晶石の有無を知るための地質調査がバレてしまうことだ。

 例え秘密裏に情報共有されても、公式で先手を打てばそれが先出しとなる。

 だからこそタイミングが重要なのだった。


「ところで、現状ニホンは平和的な活動しかしていないわけですが、アルタランとして例の五つの案のうちどれにするんですか?」

 今までずっと黙っていた理事国の女性大使が呟く。

「六つだ」

 レーゲン大使がぼやくがスルーする。

「異星国家であっても軍事的侵略はしないし、文化的浸透もする気持ちがない。国家運営と最低限の国交が出来れば十分となれば、『現状維持』が一番穏便な気がしますが」


 正直なところ、イルリハランに代わってアルタランが外交権を持ったところで、進み具合が圧倒的に遅くなる上に、『国際組織』としても中身が多国籍の人々が集まったに過ぎないから、全員母国の意向によって統一意思が混沌としてしまう。

 殲滅するにしてはする理由がなく、チキュウに還すにしても転移技術と言う超常現象、取っ掛かりすらない状態だ。


 完全隔離にしても、衛星と円形山脈からによる遠目の監視では、ニホンが何をしても分かりようがない。

 消去法から現状維持がコストパフォーマンスを含め一番理に適っていると言えるのだ。

 懸念として、イルリハランとニホンがしている地質調査と理由そのまま話すと、一気にアルタランによる外交と殲滅の案が出てきてしまう。

 地質調査が始まった今、今間接的にでも話すのがカードを不発にしない機会といえる。


「イルリハランとしても現状維持を推奨します。ニホンは国家運営に多くの地下資源を必要とするのですが、イルリハランだけの供給では必要最低量すら届かない可能性があります。その解消として、現在ニホンは我が軍の監視の元で地質調査を行っています。地面に何の抵抗もなくいられるのはそれだけで宝ですね。もし石油等が採掘出来るのであれば、過剰採掘分を得ることが出来ます。そう言う観点から現状維持が最良ではないかと思います」


 ここでピンポイントでフォロン結晶石の有無と言えば、外交権の変更と殲滅が出るかもしれないが、地下資源目的と銘打っていればその案が出てくることはない。

 アルタランが話題に出さないように、イルリハランも結晶石の可能性は公表していないから、予想通り出て来たとしても思いも知らなかったで終わる。

 例え実際に結晶石が無かったとしても、ニホンが地下資源を必要としているのは事実だ。

 この言い方であればどう進もうと、不利に陥ることはまずないだろう。

 出来れば最大限利益を生む時に結晶石絡みで話したかったが、二つの案がある限りは難しい。


「地質調査か……それを存分に出来るのであれば人材としてはこの上ない価値があるな」

「確かに。地上が安全だと分かっていても近寄る事すら出来ませんからね。そこにいるのが当たり前だと思えると本当に素晴らしく思えます」

「試算では何の制限なく採掘活動をすれば、今の百倍以上の採掘量が望めるらしいな」

「ニホン人の人口は一億二千万以上。一割でも一千万以上は地下資源採掘に従事させられる」


 なにやら不穏な流れに進みだし、パラミア大使は内心不安を感じ始めた。


「なにせいま、地下資源採掘事業に従事しているのは全世界で一万人もいないからな。一千万でも百万でも地下資源に回せたら、莫大な資源が世界を満たせる」

「石油にレアメタルにレアアース、天然ガスに金属。これらが百倍以上も増えれば、世界は一気に潤うでしょう」

「それだけじゃないですね。地上に耐性があるなら、作物の育成にも貢献できるんじゃないですか? わざわざ農業専用浮遊島を建造せず、そのまま地上で農業をさせればかなりのコストダウンにもつながるわ」


 ここでパラミア大使は切ったばかりのカードの危険性に気づく。

 地質調査の情報のカードを、可もなく不可もない状態で切ろうとしたが、切ること自体が罠だったのだ。しかも切らずとも地質調査のことがこの場でなくとも広まれば、外交権の変更や殲滅へと持っていくことが出来る。

 衛星で世界各国がユーストルを覗いている以上、地質調査も採掘事業も分かってしまうから、どんな形であれこの状態に持っていくことが出来た。


 そう、アルタランはフォロン結晶石の有無以上に、ニホン人を狙っていたのだ。


 フォロン結晶石と言う超高価の上にあるかどうかも分からない物質より、あることが分かり切っている人材を狙う方が安価だ。その上、現代文明水準の知性を持ち、最大で一億二千万もの人がいる。

 何も知らない動物を調教するよりはるかにローリスクで超ハイリターンが望める。


 アルタランの狙いはニホン人の奴隷化。


「一体なにを話しているのか理解しているのですか。いまみなさんが話していることは、歴史の汚点文化の一つ……奴隷制度を蘇らせようとしているんですぞ」


 パラミア大使は一度もニホン人と接触したことも会話をしたこともない。

 だが現地から上がって来た膨大な資料を、映像や画像を込みで調べに調べつくしたことで十二分にニホンを理解している。

 決して地に付く人種だからと言って見下すべき種族ではない。同レベルとして見るべき相手だ。だからこそ、世界の利益のために異星人だけで持つべき人権を無視するわけにはいかなかった。


 なにより現代社会で奴隷制度は存在しない。過去の悪意として絶たれたはずの奴隷を、史上初の異星人に使おうなどあってはならない。

 いくらフォロン結晶石には劣るも莫大な利益が得るとはいえだ。


「奴隷ではなく、労働としてすればいいではないかな?」

「ニホン人にも就業の自由があるはずです。元々その仕事をしていたのならまだしも、全く関係ない仕事をしていた人まで無理やり採掘事業をさせるおつもりか」

「ニホンは隕石問題で経済がマヒしているんだろう? 失業者もいるならそいつらを働かせればいいではないか。なにもタダ働きをさせるわけじゃない。十分に給金を与えればいいだろう?」

「地上付近で生活をするだけで差別を受ける時代だ。地上でしか生きられないニホン人をばらまけば、いくら給金を払おうと現地人からひどい差別を受けるのは目に見えて分かるはずだ。それに住居はどうするおつもりか」


 フィリア社会では地上に住居を構えるノウハウがない。

 資源採掘業者の居住は小型の浮遊島か、近くの巨木森林で居を構えるので、地上に建造物を作ることがなかった。


 一千万でも百万人でも、それだけの人数を賄うだけの居住を短期間で構えるのは不可能だ。老朽化した浮遊島は解体してレヴィロン機関は使いまわされるし、大小関係なく浮遊島は地上から直接乗り移るよう設計もされていない。


「地上で平気なんだから、地面を掘って住まわせればいいんじゃないか?」

 パラミア大使以外の大使全員が笑う。


 こいつら全員がグルか。


 水面下で地下資源のことで繋がりがあると思ったが、想定より最悪の形で手を組んでいたらしい。

 世界の意思統一機関が聞いて飽きれる。

 単に異星国家と深く関わったか関わっていないかの差か、それとも地下資源利益による盲目か。


「これからはいかにニホン人を採掘事業に連れ出すか話し合うとしましょうか」

「そうですね。さっきは現状維持が良いと言いましたが、採掘事業を考えるならイルリハランから外交権をアルタランに変えるべきじゃないですか?」


 ニッと不敵な笑みを現状維持を主張した女性大使が浮かべる。

 見事に地質調査を話す機会を伺っていることを察しされ、言うように誘導されたわけだ。

 全権大使として屈辱の極みだ。パラミア大使は手から血がにじみ出るほどに握りしめる。


「……あくまで奴隷としてではなく、労働と言うことでニホン人を採掘事業をさせるのならば、ニホン政府が容認しなければできない。それはニホン側の問題だから我が国がとやかくは言えないが、外交権の変更はこちらの問題だ。そのことについてははっきりと反対させてもらう」

「それは、アルタランと対立すると言う意向でよいのか?」


 パラミア大使の目の前にいるのは、世界の安全保障を決定する理事国と議長国の全権大使。この七人の多数決によって武力攻撃を可とすることができ、その七ヶ国を選抜したのは世界各国。幸い今期にはシィルヴァス共和国は理事国としていないが、みな先進の国々だ。

 イルリハランも内の一ヶ国に投票したから、責任の一端はイルリハランにもある。

 しかし、この決定はあまりにも理不尽で容認できない。


「断固としてイルリハランはその方針に全面的に反対する。多大な利益と言う欲に塗れた人以下の決定などな」

 もしユーストルに大量のフォロン結晶石が眠っていようと、世界経済を壊さない程度で輸出することを考えていた。出来るだけ誰も傷つけないよう考えてだ。

 なのにアルタランはニホンを犠牲にして利益を得ようとしている。それは大きな間違いだ。


「まあさすがに今すぐ方針を決めても難しいでしょう。内容もですし調整も必要ですから」

 この調整にイルリハランとニホンは含んでないか軽く扱っているが。

 確かにニホン人の意思を無視してリーアンの都合で動かせれば、フィリア社会に今の百倍以上の資源が出回り、今以上の幸福が来るだろう。


 だがそれは高度に発展した現代社会の思想とは相反する悪に当てはまることだ。

 異星人だからと人道的に扱わず、人権も無視していいなんて道理がまかり通るはずがない。

 異星人だろうと地に付けるよう進化したリーアンだろうと、人間的であれば人権は無条件で保証されなければならないのだ。


「では詳細なことは後日として今日はここまでにしましょう。イルリハラン王国も考えることがありそうですし」

「ええ、そうですね」


 世界連盟大使たるもの感情は殺して淡々とするべきだが、こればかりは怒りの感情を抑えることは出来なかった。

「採掘事業でニホン人を強制労働させるのが異星国家対応委員会の考えならば、我が国も然るべき答えを提示しなければなりません」

 必死で無表情を作っているつもりだが、はたから見れば怒りの形相だろう。


「それでは失礼します」

 パラミア大使は書類を纏め、誰よりも早く会議室から退室した。

「……クソッ!」

 前後上下で誰もいない通路に来たパラミア大使は、体内に溜まった怒りを全て右腕に注いで壁に拳を叩きつけた。


「これがグイボラを絶滅に追い込んだ名誉あるアルタランが出す答えか!」

 これではアルタランがグイボラと同じになるではないか。

 二百年間守り続けた誇りを、埃として吹き飛ばしてどうする。

 異星人でも敬意を払える相手なら、敬意を持って対応するべきではないか。なぜ史上初の異星人にそんな仕打ちが出来る。

 彼らは悲運な天災が原因で転移してきた被害者だ。

 手を差し伸べることはあれど、労働力として強制させる相手ではない。


「レーゲンがなにか吹き込んだか?」

 この分では強制労働と合わせてフォロン結晶石を狙っているのも考えるべきかだ。

 多少時間はあるとはいえ、残された時間は多くない。

 パラミア大使は、全権大使として全うできないことを激しく悔やみながら、携帯電話を取り出した。

 なぜ当該国同士が平和的に事を進めていると言うのに、外部が余計なことをしてくる。


 最悪アルタラン脱退も視野に動くことになるかもしれない。

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