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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第一部 第一章 国家承認編 全26話
28/192

第24話 『アーク』

 転移した日本には約百万人の外国籍の人々が在住している。

 多くの外国人は最期の時は母国でと帰国していったが、日本人と結婚や日本の生活が性に合ったり、日本を死に場所に決めた人々が残ったりしてそれが百万人に上る。


 国籍は五十ヶ国以上で、人口の割合で言えば韓国人と中国人が全体の半分を占める。

 さらにビザが失効したり行方をくらました不法在留者が五万人ほどいるが、いま日本で外国籍の人を保護する大使館は一ヶ国も存在しない。


 在留外国人は自らの意思で日本に留まっているが大使館の職員は仕事として来ていたため、レヴィアン落下に伴い、日本にある各国大使館は本国の命令によって自由意思による在留を除き帰国していった。


 帰国をするのなら責任は国が持つが、残るのであれば自己責任とされて残る職員はいなかった。なぜなら大使館の職員が残れば、在留外国人の依り代として集中するからだ。

 その証拠としてもっとも人口の多い韓国と中国の大使館職員は、同時期に出た各国の帰国命令よりも早くに帰国していった。


 これは在留韓国人と中国人はひどい失望感を覚え、なぜか日本の外務省にデモ抗議を行ったが、日本ではネット内だけでテレビではほとんど報道されていない。

 帰国を拒否した以上、その責任は国ではなく個人が負い、日本政府も在留希望者を強制的に帰国させることはせず出来なかった。


 そのために日本が異星に転移してからは、百万の外国人たちは底知れぬ不安に駆られていた。

 外国籍でも日本生まれ日本育ちで、日本で生活基盤を確立していれば本国と切り離されても大したショックは受けない。その人にとってその国は母国ではなく外国の印象を覚えるからだが、向こうで生まれて日本に来た人々はそうはいかない。帰属意識から完全に切り離されてしまう絶望感は、ある意味両親と死別する以上に覚える。


 異国の地で本国が消滅し、本国の文化に触れられない。さらに異星に飛ばされてしまっては孤独感も相まって精神を圧迫してしまう。

 元々死を覚悟しての在留であったが、転移して半月以上生き残ったことで意識が逆転。母国への帰国意識が強まっていった。


 かといって戻ることは叶わないし、日本政府の主張の通り砕けたレヴィアンが日本近海に落ちたのであれば、砕けても数十から数百メートル級の津波が発生し、環太平洋沿岸の国々に壊滅的な被害を出しているだろう。さらに巻き上げられる粉じんによって太陽光が遮断され、ユーラシア大陸広域か地球全土が寒冷化して地獄が訪れている可能性がある。


 居ても辛く、戻っても辛く、在留外国人たちはどこか依り代を得ようと自然と動き出した。

 日本全国に散らばった同胞たちが気持ちを分かち合えるように。

 幸い日本には物理的距離があろうと意思疎通できるシステムが稼働している。


 世界規模で発展しつつ、多くの問題と闇を抱えるインターネット。もっと言えばSNSだ。

 北海道から鹿児島まで、回線が繋がっていれば距離を無視してやり取りができる。

 国内で展開する巨大掲示板ではなく、外国籍用掲示板サイト『アーク』が転移から二週間目で在留外国人によって開設されると、口コミによって急速に会員数を増やし、一週間で五十万人もの在留外国人が登録する中堅サイトへとなって度々サーバーが落ちた。


 ただし、登録時に身分証提示必須のサイトではないため日本人も登録したり成りすましも出来る。信ぴょう性は高くないが多くの外国人がアークを利用していた。

 このサイトでは自動翻訳ソフトが組み込まれており、登録した国籍の言葉が自動的に翻訳される。高性能ではないため多少の誤訳はあるが、皆母国語か日本語で会話をしていた。


「思うんだが、日本の国家承認って地球への裏切りじゃないか?」(アメリカ)

「どうした突然」(アメリカ)

「いや、日本って三週間もしないでこっちの社会に食い込んだんだぜ? 地球じゃ大変な目に遭ってるっていうのによ」(アメリカ)


「見放してる感はあるけど、どうやればいいんだ? JAXAの発表じゃ太陽系らしい場所ってここから四十光年くらい離れてるらしいし」(パキスタン)

「いくら日本でも宇宙船ならまだしも島をワープさせるなんて映画でも出ないぜ?」(中国)

「どうかな。アノ日本だからレヴィアン発見から密かに研究してたかもしれないぞ」(韓国)


「アノは分かりませんが、無理でしょ。ササキ首相も前に言ってましたけど、それが出来るなら国土じゃなくてレヴィアンを転移させた方が安上がりですよ」(フィリピン)

「安上がり? あんたバカ? 宇宙に一キロを上げるのに何万ドル掛かると思ってるわけ? 転移装置なんて何千何万トンもするの、どうやって宇宙にあげんだよ」(韓国)


「それだけで文明が助かるなら出すでしょ。インディアナやアドバンスの建造費を全部そっちに回せばさ」(パキスタン)

「ないね。日本は歴史を清算するために逃げたんだよ。悪逆の歴史をリセットして、新しい歴史を作るためにな。もちろん悪逆非道の」(韓国)

「俺も韓国人だがそれは思う。全ての国で良い歴史もあれば悪い歴史もあるんだ。いくら自分の国がやられたからって自分の事を棚に上げるのは違うだろ」(韓国)


「確かに日本は大戦時色々としたかもしれないけど、じゃああんたらの国は何もしてないっていうわけ? 全世界でクリーンな歴史を持つ国があるわけ? 歴史を忘れろとは言わないが、大事なのは今だろ」(アメリカ)

「世界中に戦争を売ってるやつがなに良いこと言ってんだボケ」(韓国)


「陰謀論を語るならそれ用のスレを立ててから話してください。ここは多国籍の雑談スレですよ」(フィリピン)

「善人ぶりやがって」(韓国)

「これ以上暴言を吐くなら管理者に連絡してアカウントを停止してもらうぞ」(ロシア)

「あの皆さん、一人による反日コメが目立ちますけど、全員が全員じゃないので誤解しないでください」(韓国)

「それくらい分かってるよ」(ベトナム)

「そうそう、もうすぐササキ首相が会見を開くらくな」(中国)

「JAXAが発表した太陽系の位置の事も含めて話すんじゃない?」(ブラジル)


「話すことと言ったら国家承認のことや今後の展望じゃないか?」(イギリス)

「誰か首相の言葉を英語に訳してくれ」(アメリカ)

「日本に残るって決めたのに日本語分からないの?」(アメリカ」

「いいだろ。日本の空気が性に合うんだ。日本人も親切だし」(アメリカ)

「そうそう、噂じゃ北方領土も来たことで占拠してるロシア人も大量に来てるらしい。そのことも話すんじゃないか?」(カナダ)


「それ本当か? 北方領土ってどこ?」(ロシア)

「日露で領土問題起こしてる土地なのに知らないの? 北海道から北東にある島だよ」(スイス)

「ロシア人だって国際問題を何でも知ってるわけじゃない。じゃあ何千か何万人はいるのか。占拠してるってことは軍もいるか?」(ロシア)

「例えロシア軍がいたって政府がないんだから武装解除して日本政府か防衛省の監視下に入るだろ。ここで日露戦争をするわけにはいかないし」(アメリカ)

「いや、自治体があるならそこを正当政府として開府するのもありだ」(ロシア)


「いやいやねーよ」(中国)

「だな。まず日本政府が認めない。北方領土は実効支配はロシアでも、日本が自国の領土としているんだからなにがどうなっても認めないだろ。それに経済力も軍事力もないのに国になったらややこしくなる以外にない」(アメリカ)

「お前ら全員自国民だけの自治体がないから嫉妬してるんだろ。けどな、小さくても自治と領土と土地があれば国になるだろ」(ロシア)


「島嶼の自治体を政府って、ソ連からロシアに弱体化した以上に弱体化してんじゃん」(韓国)

「お前住んでるところどこだ。会いに行ってやる」(ロシア)

「みんなテレビを見てください。始まりますよ」(フィリピン)

「翻訳よろしく(^▽^)/」(アメリカ)

「あんた、本当に日本語知らないの?」(アメリカ)


『国民の皆さん、前代未聞の国土転移から本日で三週間が過ぎました。

 直径三キロになるレヴィアンが日本に向かい、幾たびの軌道変更作戦、国防軍の総攻撃によって粉々に粉砕することに成功しましたが、無数の破片が日本を覆うように落ちました。

 最新の観測では大きいものでは五百メートルのものもあり、海に落ちれば数十から数百メートルもの巨大津波が我が国と周辺諸国を襲っていたでしょう。


 日本政府は現在地球を襲っているであろう災難に対し、深い哀悼の意を表します。一人でも多くの人々が、一ヶ国でも多くの国の被害が少ないことを切に願います。

 国民の中にはこの国土転移は政府により行われたと思う方もいるでしょうが、それは違うと明言いたします。先の国会で答弁しましたように、物質の転移技術を所持していたのであれば、国土を転移するのではなく迫るレヴィアンを転移させていました。


 密かに研究し確立していた物質の転送技術を公表したあとの国際社会を考えても、地球文明を確実に守れるのであれば日本はその技術を公表しております。

 地球の多くの人々を見捨て、沖縄に住まう人々を見捨てて我が国だけ他の星に避難をする非道は到底考えられません。

 さらには国土転移からわずか十六日でイルリハラン王国に国家承認されたことにより、陰謀論を疑う方もいますでしょうがこれもまた違うと言わせてもらいます。


 この国家承認は我が国に対する最低限の信用と、ユーストル内で勃発したイルリハラン軍と多国籍軍の戦争の早期休戦を考えてされました。

 対話による交流を主とする日本と、転移したここユーストルを聖地として軍事侵攻する多国籍軍。イルリハラン政府は天秤に掛け、日本を選んだ結果が国家承認であります。

 転移以前より存在を認知し、交流があったことは一切ありません。

 ですので国民の皆さん、この国土転移は政府による陰謀とする噂には惑わされないようお願いいたします』


「まあそういうしかないよな。いくらなんでも早すぎるし」(中国)

「普通に考えて日本だけがフィリアを把握して、他の国が把握してないってことはないだろ。JAXAってNASAより優秀なのか?」(アメリカ)

「NASAとJAXAって予算や人とか総合的に見て十数倍と差があるっぽい。もちろんJAXAが少ない」(カナダ)


「それ以前にフィリアの太陽系と地球の太陽系って四十光年離れてるんだろ? 往復で八十年掛かるのにどうやって意思疎通すんの? 電波も転移するわけ?」(ブラジル)

「仮にフィリア太陽系を数十年前から見つけていたとしても、それを世界規模で隠ぺいなんて無理ですよ。プロアマが世界中で観測してたんですから。国が先に見つけても他の人が見つけて発表してますって」(フィリピン)

「どうかな。逆に世界規模で知っていて俺たちに知らせないようにしてたかもしれねー」(韓国)

「それこそないでしょ。こんな歴史的事実を知って隠すなんて無理。どこか必ず漏れるわ。どれだけ優れた諜報員とかいても絶対にバレる」(ロシア)


『日本が一ヶ国だけとはいえ国家として承認されたことにより、本格的な外交が始まります。

 開始される外交の最優先事項として、食料と燃料の輸入を五ヶ月以内に行えるよう平和的に進めていきます。その際、我々地球人が食したとしても害のない安全であることを幾度と確認した上で流通させます。燃料も同様です。


 すでに複数の検査機関でイルリハランが主に食する食材サンプルの検査を依頼しており、現時点で人体に害する物質は発見されていません。ですが地球外の物質が数種類発見されてそれが害を及ぼすか検査中です。

 食の安全に対しての責任は政府及び食品安全委員会が負い、まずは私が食することで安全を確認させていただきます』


「はい出ました総理の責任取ります宣言」(日本)

「前もだけど責任とりすぎだろ。いや最高責任者だから分かるけど、死ぬ責任取り過ぎだろ!」(フランス)

「指導者の鑑といや鑑だけど、なんでこの人率先してあぶないことすんの? 首相だろ首相」(アメリカ)


「日本はコロコロ変わるから替えが利くんじゃない?」(パキスタン)

「けど誰かが毒味しないと始まらないし、首相が食べたら俺たちもまあ食べれる」(中国)

「それだったら現場で動いてる国防軍が適任じゃないか? 日本だって向こうの軍人に米食べさせてるし」(ロシア)

「向こうにしたことを同じことしたら信用されるだろ。それに軍人なら国のために動くから適任だな」(オーストラリア)


「正直この世界の食材は食べてみたい。どんな味がするんだろ」(イタリア)

「輸入するとしても接続地域からだろ? 地図見てみたけどそこ交通が悪すぎて全国に広げるの無理だろ。せいぜい関東じゃないか?」(アメリカ)

「逆に関東の食料は日本全国に広がるんじゃないか? 俺は正直食べたい気持ちないからそっちのほうがいいけど」(韓国)


「北海道沖と鹿児島沖に貿易港を作るだろ。そうしたら一気に広がりやすくなる」(パキスタン)

「一体何年かかるんだか」(中国)

「皆さん日本に在留しているだけあって詳しいですね」(日本)


『イルリハランと国交するにあたり両国に大使館を設置することになります。設置する場所は、日本は検疫と安全上からラッサロン天空基地に、イルリハランはフォロンの関係上国内ではなく接続地域近辺に浮遊施設を設置することとなります。


 イルリハラン大使館設置と国交開始に伴い、円滑に出来るようイルリハラン王国は共に転移した海岸線から十キロを日本領として割譲してもよいと提案を出しました。

 今後輸出入を全国で行うため、貿易港又は空港の建設が欠かせないことから、日本はこの提案を受けることとしました。割譲に関しての詳細なことは大使館設置後、協議によって定めていきます』


「始まった。ついに日本の侵略が始まった! 気を付けろ、すぐに軍事侵攻始めるぞ」(韓国)

「てっきり接続地域近辺と思ったんだけどな。まさか全周とは思わなかったわ」(アメリカ)

「おい、聞いただろ今の。日本がついに牙を見せたんだ。侵略だろこれ!」(韓国)

「貿易港はまあ海岸沿いだろうけど、空港って浮遊島を用意するのかな。じゃないと怪獣に潰されるだろ?」(ロシア)


「いったい領土を奪うために何人のリーアンを殺したんだろうな。日本軍の奴ら」(韓国)

「自衛隊って怪獣駆除とかするのかな?」(インドネシア)

「国防軍な。自衛隊って今は〇軍と同じ意味合いで使うんだろ? 陸自=陸軍で」(インド)

「おい聞けよ! 良いのかよお前らは! 日本が異星の領土を侵略してるんだぞ!」(韓国)

「同じ国の人として恥ずかしいです。もう黙ってください」(韓国)

「お前馬鹿か? 日本に設置しなきゃならない大使館を自分の領土に置いてどうすんだよ。首都や大都市に大使館や総領事は置かなきゃならないんだぞ。けどリーアンが日本に入ったら飛べないから、ユーストル側に大使館置くために一応の領土化はしかたないだろ」(アメリカ)


「ならなんで日本全周なんだよ」(韓国)

「合理的に考えたら北海道や鹿児島へスムーズに物を運ぶためだろうな。交通の便の悪い接続地域に大規模な貿易港や空港を作ったって流れが悪いだろ。だったら大動脈の近いところに置くよう考えるのは当然だと俺は思うな」(ロシア)


「それにイルリハラン王国の領土は地球の面積並みだぞ。日本が転移したユーストルだって日本の何倍もあるんだ。たかが十キロくらい痛くないだろ。そもそもここに人は住んでないって言うし」(イスラエル)

「お前らそれでいいのかよ。日本が大戦中になにをしたのか分かってんのかよ!」(韓国)

「だったらなんで日本に残ってんだよ。そんなに嫌いなら母国に帰れよ!」(不明)


『現在政府は国土転移に伴い、憲法九十八条、九十九条の規定により緊急事態宣言を発令し、現在も継続中であります。この宣言は転移当時対応できる法律がなく、速やかな行動をする必要があるために宣言しましたが、この宣言を解除するにあたり対応できる国土転移関連法を国会に提出。先日可決されました。国土転移関連法としまして、リーアンの人権を保護する法案。接続地域に置ける国防軍の常時活動を容認する法案。接続地域の防衛、疾病等からの安全確保法案。転移に伴い全国で発生した大量の離職者、失業者の再雇用を促進する労働基準法の改正案等があります。この法案の可決により、本日午後十二時付で緊急事態宣言を解除します』


「ようやく解除か」(中国)

「独裁政治もこれで終わるな」(韓国)

「独裁政治って、別にそれらしいことしてたか?」(トルコ)

「親日家はお気楽だな」(韓国)

「ならなぜ戻らなかったんですか!」(韓国)

「親日の人、あんたに同情するよ。大丈夫、あんたは悪くないから」(トルコ)


「燃料供給制限。食料配布制限。接続地域近辺の住人排除。イルリハランとの交流内容秘匿。出したらキリないぜ」(韓国)

「いや、普通の事だろ。無制限にしたら一気になくなるし、万が一不治の病があったら一気に全国に広がるぞ。まああったらどの道終わりだけどな」(トルコ)

「ある程度の制限は当然だな。独裁をいうなら、国民を見捨てて色々とやることだろ。でも日本政府がしたのって制限はしても国のためだと思うぞ」(アメリカ)


「お気楽な奴ら。それは表面だろ。絶対に裏で色々としてるに決まってる」(韓国)

「決まってると言っている限り信憑無いのワカッテル?」(ロシア)

「そろそろ韓国人相手にするの疲れたな。無視しようぜ」(不明)

「だな。日本叩きが十八番でも、この状況でしてなんか意味あんのかね。母国も無くなったのに」(イスラエル)


「そうしてストレス発散してるんだろ。唯一頼らなきゃならない国に喧嘩を売るくらいじゃないと発散できないんだから好きにさせろよ」(カナダ)

「親日派の人、火消し頑張らなくても分かってるから気にすんな」(アメリカ)

「すみません、ありがとうございます」(韓国)

「私も日本叩きは無駄と思いますが、心配はした方がいいと思いますよ」(不明)


「心配ってなんの」(ブラジル)

「レヴィアンによって地球の被害がどれくらいかは分かりません。ひょっとしたら津波が襲う環太平洋沿岸の国々だけかもしれない。逆に地球全体で文明が崩壊してしまったかもしれません。どちらにせよ転移によって地球との連絡は絶たれた以上、私たちは母国を失ったのと同じです」(不明)


「つまり私たちは無国籍です。さすがに日本も私たちを無国籍として扱うとは思えませんが、ひょっとしたら強制帰化で日本人にさせられるかもしれません。私たちは日本に残ることを決めましたが、国籍を棄てたつもりはありません。日本のことは好きですが、やはり母国を愛しています。ですが、このままでは自分の愛した国や文化、宗教がなくなるかも知れない。その心配です」(不明)

「母国に帰るのを蹴って残って愛を語ってもね。俺たちは国を裏切ったのと同じじゃん」(フランス)


「最悪地球が崩壊であれば、それぞれの国の文化を守れるのは我々だけではありませんか? 文化、宗教、生活、日本の生活が好きでも時には戻りたいときがあるではありませんか。いくら日本でも我々の文化まで手を回すとは思えません」(不明)

「まどろっこしいな。あんたはなにをやりたいんだ」(中国)

「国に頼らす、我々だけでそれぞれの国の文化を守る行動を取りませんか?」(不明)


『すでにJAXAより発表がありましたが、観測できる天体から地球のある太陽系がここより四十光年離れた星系である可能性が出てきました。現在このフィリアに光をもたらす恒星はデネボラ。太陽からデネボラまでは四十光年離れており、観測する限りではデネボラ星系であるのが妥当とのことです。ですが断言はできないため、あくまで可能性と言わせていただきます。


 日本が四十光年離れたこの星に転移した原因は分かっておりません。状況証拠より砕けたレヴィアンである可能性が濃厚で、レヴィアンと同じ物質であるレヴィニウムから調べる方針です。依頼するのは独立行政法人の物質・材質研究機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構、石油天然ガス・金属鉱物資源機構、大学は東京大学や筑波大学を始め十校、民間企業からもその分野に秀でた企業に依頼する予定です。ですがレヴィニウムについてはすでにこのフィリア社会で研究されている物質であり、フォロンを含め研究の成果が空を飛ぶに至っています。状況から転移原理存在の可能性はありますが、実際にあるかどうかは分かりません』


「うわ、日本無能だな」(中国)

「お前よりかは有能だろ」(ロシア)

「普通政府が分からないって言うか? 政治家失格じゃねーの?」(イタリア)

「分からないのに分かるような言い回しするよりはすっきりするだろ。それに転移技術だぜ。分からない方が普通だ。俺は間違ったとは思わないね」(トルコ)


「国民に希望を持たせるのが首相の役目だろ。希望と同時に絶望も与えてどうすんの」(中国)

「どの道死ぬ運命だったんだからいいだろ。それに戻ったら戻ったで大変だし」(台湾)

「お前らの島もな」(中国)

「そうだな。そう思うとさっきの文化を守るコメは少し考えちまうな」(フィリピン)

「地球に戻れるか分からなくて、無事かどうかも分からないんじゃ、最悪日本に残った人たちだけで文化を守らないとならない」(イタリア)


「こういうのは細々じゃなくて大規模に動く方がいいだろ。一人二人じゃなくて、千人一万人規模で」(アルゼンチン)

「理想を言えば集会とか開いてこうした掲示板だけじゃなく面と面を合わせて話をするべきなんです」(不明)

「不明さん出た」(アメリカ)

「家族や住んでいる場所にもよりますが、文化を守るなら集まるべきなんです」(不明)


「集まって、話をして、そのあとどうすんの? それぞれの国の店でも開く?」(韓国)

「街を作るのが良いですね。各国の人々や家族が集まって、その国の文化色を強く出す街を作るんです。そうすれば維持と継続が出来ます」(不明)

「作るってどこに? 多分空いてる土地は農業用にするし、そういう場所って大抵交通が悪いだろ。作ったところですぐに枯れるし、資金はどうすんの?」(アメリカ)

「あるじゃないですか。今ササキ首相が言った新しい土地が」(不明)


『フィリアは地球より大きく、そのために外周に違いが生まれ、フィリアの大地に日本の南北が沈み込む形で転移しております。その結果、東北から北海道、近畿から鹿児島に至り、数度の傾斜が発生し大勢の方が睡眠障害やめまいなど体調不良に悩まされております。


 傾斜問題は資源問題同様迅速且つ大規模同時期の解決をしなければなりません。しかし解決をするには資金、資材、人材の不足がありますが、関係各所と協議を行い、段階的に解決していく方針を固めているところです。

 詳細なことは後日発表となりますが、失業者問題、傾斜問題の同時解決案として進めていきます』


「これは本当に早く何とかしてほしい。気持ち悪くて何度も吐いた:鹿児島」(韓国)

「寝ようとしても寝れないんだよな。ここんところ四時間くらいしか寝れてない:北海道」(スウェーデン)

「近い場所のガソリンスタンドは全閉鎖。店じゃ食い物はない。配給もコンビニ弁くらいの量だけ。その上生活の全てが斜めだからもう無理:広島」(中国)


「対策としてベッドの足に本を挟んで水平にしてる。床はどうしようもないけど、それでだいぶ楽になった:北海道」(韓国)

「それ俺もやってみる:青森」(中国)

「俺東京在住だから全然平気:東京」(中国)

「日本政府が考えてる対策って大方あれだろ。失業者を集めて建設工事させるんじゃねーか? 人材派遣な感じで」(アメリカ)


「だろうな。失業者何て数百万から千万単位でいるんだから、そいつら全員を使えば人海戦術で一気に解決に動けるだろ」(中国)

「いやいや、そう簡単にはいかないよ。その人たち住んでる近所ならいいけど、遠地にいくなら宿泊費や食費とか色々と掛かるし、建築のノウハウがないからスムーズにはいかないと思うよ?」(フランス)


「そこは全国各地の失業者を利用するんだろ? 自分が行かなくてもそこにいる奴がやればいいじゃん。技術だって多分各建設企業のやつが出てきて指導するだろうし」(タイ)

「けど失業者の多くって東京とか大都市だろ。最南北だからそうなると仕事があってもいけない人が大量に出て来るぞ」(ブラジル)

「東京は東京でいい仕事があるじゃん。異地って言う広大な仕事場が。ぜってー日本でも天空都市を作るから、そこを仕事にすれば安泰だろ」(中国)

「お前頭いいな。あ、そうだ。そのどさくさで文化保存特区のような天空都市を作らないか?(イギリス)


「日本の海から十キロが自由になるなら、中国やアメリカとかその国籍の人たちだけで構成する天空の都市を作るのはいいな」(中国)

「でも一つの国に対して一つじゃいくつ作らなきゃならないかって話だ。だったら十万人級の島をいくつか作るのはどうだ? そこを計画的に区分して各国の街を作る」(アメリカ)

「拡張の余地は残した方がいい。必ず人口は増えるから今現在の人口比で作ったらパンクする」(アメリカ)

「問題は日本が文化保存特区を認めるかだな」(ロシア)


「認めますよ。数の暴力は国にとって脅威ですからね。秩序ある行動を取る日本人と違って、我々が動けば何らかの手を考えないとなりません。向こうは我々を重要視していない」(不明)

「重要視してない?」(オーストラリア)

「今のササキ首相の会見、一度も我々外国籍の事を話していません。共に来た北方領土のこともです。北方領土は単に把握していないか、それとも秘匿する理由があるのか分かりませんが政府からの会見で我々のことはわずかしか話していません。帰れる機会をふいにしたから自業自得と見ているのか、無国籍だから平気と見ているのかもしれませんが、我々は日本人ではなく、生まれ育った国があります。日本が意識しないのなら我々が立ち上がるしかありません」(不明)


「けどさ、天空都市を作るにしても十年か二十年はかかるぞ。イルリハランはノウハウは持っても、こっちは持ってないんだ。技術提供があったとしても日本だぞ。慎重に慎重で何年なるか」(アメリカ)

「なら最初の都市を作ればいい。試作天空都市を我々のために作るよう政府を動かすんです」(不明)

「領土、人口、主権、国家独立の条件は揃うな」(韓国)

「地球が壊滅であれば地球の意思を継ぐのは我々しかいません。独自の文化文明を持つ日本だけが継いでは偏りが生まれる。地球を思うのであれば、我々も立ち上がらなければならないんです。我々が今生きていることは偶然でも奇跡でも神の考えでも何でも構いません。生きた責任を果たすんです。未来に残す責任を」(不明)


「おおー、かっくいー」(フィリピン)

「じゃあその天空都市が出来たら新国連でも作るか」(アメリカ)

「それいいな。日本が蛮行に走らないように監視者として指図するか。常任理事国は人口比で決めようぜ」(韓国)

「お前らは人口多いから別の天空都市で勝手に暮らせ。こっちに関わるな」(ロシア)

「今はこのサイトの中だけの理想話ですが、全ては理想から始まります。現実味があろうとなかろうと、全てはこうしたいと言う思いから始まったのです。小さな火も集まれば大火となる。ここから地球の意思を、それぞれの国の誇りを増大させていきましょう。このサイト名であるように、我々が各国の文化の箱舟(アーク)となるのです」(不明)


「じゃああんたの名はノアだな、不明さん」(アメリカ)

「そうだな。そこまで言うならリーダーとなって引っ張れよ。それとも口を出すだけで他力本願か? ノアよ」

「皆さんが良いのであれば」(不明)

「やろうぜ。自分の国を蘇らせるんだ。アーク、気に入った!」(フランス)


「日本は大好きだけど、やっぱり自分の国に戻りたい。どこまで再現できるか分からないけど、やりたいな」(台湾)

「日本と同等とまではいかないが、無視できないくらいの力を持とうぜ。独立は無理でも四十八番目の都道府県の一つになれるようになろうぜ。百万人もいれば認定されるだろ」(ロシア)

「そこは独立を目指せよ。新国連、世界国、合衆国、いいね、目指そうぜ」(韓国)

「頑張りましょう皆さん。ここが第一歩です」(不明)


 国土転移から三週間が過ぎ、日本の内外で様々な考えで動きを始めている。

 ネット内からも一つ、在日外国人グループ『アーク』が発足し、得意分野を持つ人々を集めながら議論を開始した。

 もちろん、国内でテロなど治安を脅かすことを恐れる日本が気づいていないわけでなく、公安がしっかりとマークを付けていた。

 日本は国土転移直後の騒乱期を過ごし、新たな期間に突入する。


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