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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ2 潜入偏 全15話
144/192

第133話『土竜対策室』

『ほーら亜妃、お父さんですよぉ』

 タブレット端末には、目を開けて画面越しに羽熊を見る愛娘の全身が映し出されていた。

「亜季、元気にしているかい? お父さんだよ」


 世間では発音のしやすいようにパパやママと自称して子供に認識させる割合が一定数いるが、羽熊家ではお父さんとお母さんで統一することを決めていた。

 一度その呼び名が定着すると自然的に変えるのは難しいから、二人ともその呼び名だったように最初からそう呼ぶことにしていた。

 亜妃はまだ羽熊の顔が父と認識している最中なのか、ジッと顔を見てくる。

 向こうでも美子がタブレットで羽熊の顔を亜季に見せているのだ。

 日本を取り巻く状況がどんどん悪化する中、アドバイザーでしかない羽熊も官邸に缶詰めとなってしまってより家に帰れなくなった。

 それでは生まれたばかりの愛しい妻と子の顔すら見る時間が減ってしまい、苦肉の策としてビデオ通話で顔を見せ合うことにした。

 そこは現代の子育てだ。昭和中期から平成後期では難しかった遠距離での顔合わせも、ネットが発達した今ではこうして互いに顔を見ることが出来る。


「美子、そっちの様子はどうだい?」

『まだ夜泣きは始まってないけど、いつ始まるのかビクビクしちゃってるよ。でもお母さんがいるから大丈夫』

 画角が動いて美子が画面いっぱいに映し出される。

『あなたのほうはどう? 家に帰れそう?』

「出来ても寝に帰るくらいかな。美子のご飯が恋しいよ」


 帰っても深夜だ。美子は専業主婦で帰ってくるまで起きていてくれるが、さすがに夕食は食べて来ているから少し喋って寝てしまうくらいである。

 家族団らんはテロ以降ほとんど出来ていない。

 だからこそネット環境を利用しての対面は重宝された。


『またカップラーメンかコンビニ弁当? 首相官邸にいるんだから幕の内弁当とか出ないの?』

「職員全員それだったら予算吹き飛んでるよ。内閣の人は違うかもだけどね」

 同席したことがないからどんな夕食を取っているかは知らない。

『あなただって政府の中心で働いてるのに不公平だよ』

「そこは権限とか責任の差だよ」


 羽熊は調べた情報を独自に処理し、解釈して発言するもののその発言をどう受け止めるかは内閣に委ねられ、判断に影響は多少あっても絶対ではないから同時に責任もない。

 なのに食事を豪華にしろとは図々しくて言えなかった。

 画面の中で亜季が小さな手を伸ばして何かを掴もうとする。

 羽熊たち大人にとっては経験済みも、亜季にとっては毎日が初めての体験だ。

 日々の糧としてただの景色や家の内装を見て覚えていく。確か新生児は生まれて間もなくは目は成長途中で細かくは見えていないらしいが、それでも見えはするので覚えようとする。

 美子と会う前は他人事と考えていた育児。こうして体感すると至福の二文字が脳裏に浮かぶ。


「そろそろ戻るよ。側にいてあげられなくてごめん」

『日本のためだもん。これくらいは我慢するよ。不満は言うけどね』

「どんどん言ってよ。育児に参加できない分、美子のサンドバックにはなるから」

『それじゃ、体には気を付けてね。太らないでよ」

「生活習慣病にならないようにするよ」


 名残惜しいが仕事が滞っている。あと数時間はこうして話をしたいが、やむなく切り上げて通話アプリを終了させた。

 同時並行で発生する緊急の課題に、官邸内では複数の対策室が設置されている。

 テロ対策室に土竜対策室。それに伴う経済対策室と設置し、関連省庁の職員が来ては法案や対策案作成に不眠不休で活動していた。

 羽熊はその全てに関係するとして特定の部屋に入るのではなく、持ち回りで各部屋を回ってアドバイスをする形式を取っていた。

 あくまでアドバイスなので義務も責任もない。それでも各対策室で凝り固まった考えに変化を与えられるとして、幸か不幸かのけ者扱いはされなかった。

 なによりこの一連の事件の裏を知る羽熊を、総括する若井総理が手放したくない考えもあることを知っており、羽熊も無理に辞退することはしなかった。

 羽熊はまず土竜対策室の戸を開けた。


「まず大事なのは土竜の総数だろ。須田町と採掘場だけをカバーしただけじゃ安全なんて保障できないぞ」

「ユーストルはアメリカと同じ広さなんですよ。どうやって探知機を埋め込むんです。製造だって数を揃えるだけで何年も掛かります」

「昭和だったらまだしも今じゃ安全が何より最優先だ。人食い生物がいるかもしれない土地に人を送れるか。するならユーストル全域でのカバーしないと政府どころか星務省も経産省も吹っ飛ぶぞ」

「準備するまでに国が終わりますよ。部分的カバーがコストと時間、両方で最善です」

「だーかーら、国が大丈夫と言って食われたらそれこそ最悪だと言ってるんだ」


 中々に白熱した議論をしていた。

 土竜対策で、対策室では二つの方法論で分裂しているのだ。

 一つは人の活動区域周辺に改良型地震計を設置して土竜の移動を津波ブイのような形で探知、近づいていると分かれば地上から避難する方法。

 もう一つはユーストル全域に死角がないように地震計を設置し、発見次第駆除して全滅する方法だ。

 前者は避難を前提にし、後者は全滅を前提としている。

 安全だけを考えれば後者であるが、それにはコストと時間がどうしても足を引っ張り、土竜以上に財務省が敵となる。

 財務省としても対策予算の許可は下りるだろうが、広大で且つイルリハラン領にもなるユーストルに膨大な地震計の設置予算を出すとは思えない。

 イルリハランからすれば天敵対策をしてくれるなら無下にはしないだろう。それでもユーストルは広大だ。

 出来て日本領ユーストルだろう。

 それでも万単位の個数は必要だが。


「あ、羽熊さん、羽熊さんの意見を聞かせてもらえませんか?」

 コスト削減派の職員が羽熊に気付いて声を掛けてくる。

「避難優先か監視駆除優先かで意見が割れているんです」

「安全を考えたらそらユーストル全域をカバーするべきでも、コストも時間もないんだ。だったら活動域十キロをカバーすれば十分避難出来るだろ」

「すり抜けたらどうするんですか。避けられる被害を天災みたいな感じで諦めろとでも言うんですか? 遺族は納得しませんよ。国が殺したって訴訟が起きます」

「万全の準備をしている間に国民が餓死したらどうするんだ。唯一の外界との補給路が絶たれてるんだぞ。国内備蓄じゃせいぜい数ヶ月だ」


 話は平行線だ。互いの意見はもっともで、同時に反対意見ももっともだ。

 場を纏めるにはコストと時間の折衷案が求められる。

 速攻性と安全性、どちらに軍配を上げるか。または、第三の案を出すか。

「一応異地でも土竜対策として、軍事企業のチャリオスがイルリハランに地中探査が出来る飛行艦と武器を売るらしいですよ」

 その情報が出たのは土竜出現の翌日で、国防軍によって十体の駆除が終了したあとのことだ。その後に採掘場でも出現して、異地のネットでその情報が公表された。

「だとしても空に飛ぶ人種と地面に立つ人種では大きく違うでしょう。向こうからすれば空にいれば危険は無くても、こちら側は命の危険があるんです。命の保障をイルリハランに委ねるなんて出来ません」

「なにより須田町は日本領だ。元イルリハラン領でも、主権は日本にあるから日本が対処しないと意味がない」

 日本の沽券にかかわるから、元他星他国の領土でも日本領なら日本が対処するプライドは譲れない。

 民間人からすればそれより安全と命だろと言いたくなるが、国を背負っているからこそ敢えてそう言うしかないのだ。

「だからこその二分なんです。何か妙案はありませんかね」

「妙案……と言われましてもね。ちょっと資料読ませてもらっていいですか?」


 数十人が働いているだけあって、数時間と離れているだけでパソコンの共有フォルダには新しい資料が並列でアップされる。

 羽熊は近くの机に腰を下ろしてパソコンを操作した。

 共有フォルダから検討案のファイルを選んで開き、内閣や総理に提示する書面を目に通す。

 掻い摘んで言えば職員が対立しているように、低範囲に探知機を設置しての避難型とユーストル全域に設置して探知次第即殲滅する全滅型が候補として挙がった。

 そのどちらも国防軍による土竜駆除は行われるも、生活保障の方法はこの二つに絞られた。

 とはいえどちらもメリットとデメリットがあり、どちらを上申するかで揉めている。

 いっそのこと両方を上げればと思うが、どちらもデメリットが大きいから上げられないのだ。

「羽熊さん、どちらがいいですかね」

 二つの派閥が羽熊に羨望の眼差しを送る。

 一体いつから羽熊の発言に決定権が付与されたのだろうか。それでなくてもカルト的な信仰も生まれている気がしてならない。

 過去の経歴から、羽熊の発言イコール正解と思われても困る。


「……じゃあこの案は一旦考えるのやめましょう」


 それでも意見を言えと言うので、羽熊は思ったことを言った。

「……はい? どういうことですか?」

「どれだけ話したって平行線なら、いっそのことこの案を止めて別の案をそれぞれか一緒に考えるんですよ。避難でも殲滅でもない第三か第四の案をですね。考えてもこの二つの案を上回る案が出ないかもしれないし、ひょっとしたら良い案が浮かぶかもしれない。みなさんはこの二つに固執して考えることを止めてるので、別のを考えてみましょう。せっかく優秀な頭脳が数十個もあるんですから」

「羽熊さん、それでは時間が……」

「次の案を考える時間と、二つの案の折衷案を考える時間、どっちが短くて長いんです?」


 多数決を取ろうとしても結局は言い合いになるだろうし、若井総理に上申するとしてもデメリットが大きくて時間が掛かる。

 ならば別のことを考えて考え方をリセットしたほうがいい。

「例えば避難や殲滅ではなく、そもそも人の活動域に土竜を近寄らせないとかどうです?」

「地下に壁を作るってことですか? それじゃもっとコストが掛かりますよ。それ以前に埋め込み作業で被害が出ます」

「……いや、確かグイボラは十メートルから五メートルの地中を移動するから、十メートルの鉄柱を等間隔。そうだな、直径が五メートルだから三メートル間隔で打てば通れなくなる」

「鉄檻のようにするってことですか? けどどうやって十メートルの鉄柱を打ち込むんです? それこそ作業中に襲われますよ?」

「鉄柱にレヴィロン機関を取り付けて沈めこませたらどうです?」

 話が進んでいるところで羽熊も加わって思いついたアイデアを話す。


「レヴィロン機関は少なくとも一トン以上のパワーを持ってますから、胴体をドリルにして回転して埋めることも出来ますし、十五トンクラスのレヴィロン機関だけ外付けで打ち込めればドリルの数だけレヴィロン機関を用意する必要もないですね」

 それこそドローンのようにして次々に自動操縦で埋めていけば、探知機を埋めるより安価に対策は可能だ。

 事実、鉄柱があるビルでの被害は一件とない。

「鉄柱を釘みたいに上部を平たくして露出させたら、土竜がぶつかれば来ていることも分かるな」

 地中でぶつかれば鉄柱は大なり小なり曲がる。その時露出している部分にも変化が訪れるから、時期は不明でも来たことは分かる。

「少しその案でも考えてみるか。出来れば町中でも打ちたいな」

「すでに須田町は土竜に侵略されてるので、道路も舗装し直しだからそのときにするのもアリですね。同時に真下にいる奴らの駆除もできます」

 それでも十平方メートルで約九本。一平方キロなら一万本は必要だ。須田町と採掘場だけでも十数万本は必要だろう。

 場所によっては省けるからより少なくなるとしても、決して安いコストではない。

 探知機と鉄柱、コストパフォーマンスではどちらが安く早いかは羽熊には分からないが、二つしかなかった案に三つ目を出すことが出来た。


「行き詰った時は少し戻って脇道を探す方がいいこともあります。それが正解かどうかは分からなくても選択肢は増える。選択肢が少ないのと多いのとでは考え付く先が違うことは皆さんが一番よく知ってるでしょう?」

 人を襲う土竜に対して早期解決案を出さねばならないと言う焦燥感から焦ってしまい、思いついた二つが絶対として対立した。

 果たしてこの案が第三として活用されるかは分からないが、羽熊の役割は果たせただろう。

 と、自分から言い出した鉄柱の話と、つい最近収拾した知識が統合してもう一つのアイデアが生まれた。

「……もしその鉄柱から土竜を追い払う高周波を発することが出来たらより近づかなくなるか? 電気柵みたいになって」

 チャリオスがユーストル進出のためだろうイルリハランに提案した対グイボラ兵器のロームウォー。これは電子レンジのような感じで近距離のグイボラを特殊な高周波で体内から破壊する。地中を伝播する使用上から遠方までは効かなくとも、電気柵のように近寄らせないようにはできるはずだ。

「確かに。それならただの鉄柱と高周波を出す鉄柱でより安全は高まりますね」

「すぐにロームウォーの資料を集めてくれ。チャリオスの最新式は社外秘だろうが百年前のなら資料があるはずだ。イルリハランに星務省経由で連絡を」

「は、はい」


 羽熊の閃きで職員は慌ただしく動き始めた。

 ロームウォーを併用しての策なら避難型の案でも殲滅でも使えない事もない。爆薬を使っての単発でなければ持続性も期待できるから、ひょっとしたら名案かもしれない。

 それはそれで羽熊の株を上げてしまい、より信者を増やしかねないが今は国民優先だ。

「……」

 羽熊は手を口に近づけて考えるポーズを決めながら思案する。

 チャリオスの狙いはユーストルに土竜を放ち、その混乱を機に常駐する既成事実を作って徐々に支配。または別のきっかけを作って一気に実効支配すると思われる。

 なら日本の対策はチャリオスの狙いを妨げる要因になるやもしれない。

 日本独自に土竜対策と撃退が可能なら、イルリハラン政府もチャリオスの提案を飲むことはない。まだ日本に任せた方がいいと踏むはずだ。

 コスト面からしても新型ロームウォーを導入するより、日本に丸投げするほうがいいからだ。

 ただそれだとエルマ達の行動の妨げになるのかもしれない不安も出る。

 向こうも向こうで日本に事情を言わずに動いているから、情報共有せずに動いて互いに阻害しあえば何もかもが失敗しかねない。

 こればかりは三つ巴の動きとなり、どう因果が絡み合い未来が作られるかは想像もできない。

 動いた方がいいのか、動かない方がいいのか。

 それはエルマもチャリオスも同様に考えている事だろう。

 エミエストロンの心配はあるがエルマと連絡を取るべきか。

 とはいえ独断で動いて悪手となるのも避けたい。


「まあいいか」

 羽熊はスマートフォンを取り出してアドレス帳を開いた。

 言えない事は向こうが止めるだろう。ともかく日本の方針は伝えておいた方がエルマ側も動きやすいだろう。エミエストロンで盗聴されようと、どの道日本は対策を公表して実行するから大差は無い。

 転移技術で爆発物を先手で送られなければ、だが。

「私もイルリハランは政府と軍に知り合いがいるので、ロームウォーについて聞いてみます」

「ありがとうございます。もし要求を求められたら、とりあえず向こうの言い分をそのまま聞いてください。あとはこちらでやります」

「分かりました」

 羽熊は対策室から離れ、ひと気のない所で通話ボタンを押す。

 四度目のコール音でエルマは出た。

『羽熊さん、そろそろ連絡が来ると思っていました』

 土竜が出現してから三日目。確かにするなら今頃だろう。


「いま大丈夫ですか?」

『羽熊さんとの電話であれば作りますよ。話は土竜についてですね?』

 互いに察しが良いと話の進みが早い。

「まだ正式な決定ではなく、ある種リークになりますが日本は独自に土竜対策を行います。もしかしたら貴国にとって余計なことかもしれませんが」

『……そうですね。どのように動くかによりますが……」

 やはり日本の動き次第で悪影響を及ぼすかもしれない。

「そちらの行動は機密でしょうから詳しいことは聞きません。けどこれだけはしないでほしいことは教えてくれますか?」

『そうですね。色々とありますが、端的に言えば土竜問題の解決はしないでほしいです』

「え?」

 さすがに想定外の返事に羽熊の思考が止まる。

 日本は土竜に対して何もしないことがエルマやルィルにとって都合がいいと言うことだ。日本としてはそれを容認することはできない。


『我々の都合としてはチャリオスの望みの通りに行かせたいんです。もちろんチャリオスを勝たせるつもりはありませんが、今すぐに対処をされて成功されると少し困るんですよね』

 言質は取らずとも事情は察しているが、対策を止めろと言われて察することは羽熊にもできなかった。

「いや、それはいくらなんでも出来ない相談ですね」

『分かっています。もちろん羽熊さんに遅延工作をお願いするつもりはありません。ただ、こちらはこちらで動いていますのでそれだけは分かってください』

 土竜に自由にさせること、強いてはチャリオスの計画通りに進めることが同時にエルマ達の策でもあると言うことだ。

 しかし、エルマ達への『信用』が無ければチャリオスと結託している懸念も出る。むしろその懸念する人が大勢いるだろう。

 そんなことはないと確信していても、日本に不利なことをするのだから羽熊も揺らいでしまう。少なくとも遅延工作は出来ず、むしろ推進派だ。

「これは直に正規ルートで行くと思うんですが、土竜対策としてロームウォーを必要とするかもしれません。イルリハランには当時駆除に使用していたロームウォーの設計図などはありますか?」

『ロームウォーですか?』


「駆除に使うのではなく、土竜を近寄らせないために使いたいんです」

 異地社会では地上で畜産をしないため電気柵の概念がない。ある程度の日本の知識があるとしても羽熊は簡略的に伝えた。

『私の記憶では保有していた記憶はありませんね。当時はまだパソコンが無くて紙媒体でしたし、不要の長物として保管場所も取ることから紙類も破棄していたと思います』

「ではイルリハランはロームウォーの製造は出来ないと?」

『おそらくは』

 別段ロームウォーの利用は案の一つだからなくても構わないものの、それではまた殲滅案と避難案の対立となる。鉄杭を打ち込んで移動の妨害案も残っても地雷原の上で生活するので安心は出来ない。

『日本はロームウォーを作って土竜を駆除する決定をしたのですか?』

「いえ、資料を見るにロームウォーは土竜の体内を破壊して殺処分するので、なら常時展開し続ければ土竜は身の危険を察して近寄らないのではと。地上への影響や、基礎通じて高層ビルへの影響がどうなるかは分かりませんが」

『そうですね。ロームウォーは地中で使用可能な電子レンジのイメージでいいのですが、極短時間なら水分の多いグイボラをピンポイントで攻撃できますが、長時間ですと地中の水分も蒸発させてしまうので何らかの影響はあるかと』

「常時稼働は厳しいですか」

『人工物の無い場所ならですが、記録でもミサイルのような単発使用なので常時使用は不明です』

 案としては有力でも危険度は未知数。しかも過去の遺物だ。即時設置とは行かない。

 唯一持っているのが敵であるチャリオスなのだからもどかしさを覚える。


「チャリオスから情報貰えませんかね」

 と羽熊は冗談交じりに呟いた。

 もしかしたら使用を吟味すれば常時使用をしても大丈夫かもしれないからだ。

『それは笑えない冗談ですね。表向きは敵対してないとはいえ、裏では互いに敵対している中で情報提供を求めるんですか?』

 正気の沙汰ではないのは羽熊も承知している。

 しかしだからこその意表をついて疑心を植え付けられる。

「だからこその嫌味にもなりますね」

『……羽熊さん、まさか本当に依頼するつもりですか? チャリオスは国ではなく企業なので取り引きだとしても企業秘密の新型ロームウォーの情報を出すとは思えませんよ? それこそユーストルに在住するような提案を求められます』

 イルリハランは一式の提供だからまだ取り引きできても、羽熊の場合は自国製造を前提としてだ。いわば最新兵器のブラックボックスの中身を教えてと言うようなものだから、常識としては教えるはずがない。


「でもチャリオスに有利な状況を作ればエルマ達の動きもしやすいですよね?」

『それはそうですけど、いえ、両方で有利なら逆にインパクトは強いか……』

「こちらとしてもやられっぱなしは癪ですからね。決めるのは政府ですけど話だけはしてみます」

『気を付けてください。表向きは取引でも、事情を知る側ならそれは売国ですから』

「ありがとうございます。ではまた」

 羽熊は通話を切った。

 ここでチャリオスに有利な条件でロームウォーの情報を手に入れれば、エルマ達の手助けになり、チャリオスにとって有利過ぎて逆にブレーキを掛ける可能性もある。

 まずはコネを使って簡易ながら情報を手に入れたことを伝えるため、再び土竜対策室へと羽熊は戻るのだった。


      *


 百年ぶりに出現したグイボラ、通称土竜で全世界が騒然となっている中、ひっそりと社会に根強く蔓延っていた組織が壊滅した。


 人身売買組織ウォーフ。

 反異星国家組織クレイム。

 秘密工作集団ラーラ


 クレイムは日本が国土転移して間もなく結成したことで歴史は浅いが、反異星主義の中では過激派で有名で、その多くが主義主張をするに留まるのにサイバー攻撃や日本の輸入品の破壊。少しでも日本が絡む施設を破壊し、世界から厄介者とされていた。

 ウォーフとラーラの凶悪さは今更語るまでもなく、世界各国でも特級の調査対象組織だった。

 なのに壊滅出来なかったのはその利用客に国や企業、富豪が含んでいることが大きい。

 国にとっても富豪にとっても、表沙汰にしたくない仕事をさせるには都合がよく。金が物を言うから御しやすいことが見逃されていた。

 だがその三つが同時に壊滅したのだ。

 土竜騒動が無ければ間違いなくトップニュースだが土竜の脅威はケタ違いで上回り、注目度で言えば土竜の十分の一程度でひっそりと流された。

 ネットでも特に話題にならずに流され、テレビでも同じだった。

 ただ、組織の知名度からしての報道の薄さには作為が感じられるが、そのことに疑問を抱く人は多くない。

 利用する頻度が高いと言うことは、その分壊滅も望んでいると言うことだ。話題が大きくなれば利用者にも火の粉が降りかかるため、ひっそりと消えてくれたことを望む者は多かった。

 壊滅作戦は世界規模且つ同時期に行われ、各国の警察とある企業が規模と人脈、保有する装備を駆使して秘密裏に成し遂げた。


「三つの組織は常々我が社も頭を抱える存在でした。我が社の販売する武器装備は官民問わず自衛と安全を安価にお渡しするものが、三つの組織の主な兵装として使われていました。被害に遭われた方からのクレームも数多く各国支部から本社に伝わっており、信用の問題からも解決したい意向でした。我が社では最先端の技術開発に勢力を注ぎ、その成果を社会に広げております。その数多の技術を使い、世界中の警察と連携をして水面下で三組織の母体を捜索。土竜騒動で注意がそれている間に一斉検挙を行いました。世間一般では大きな話題にはなってはいないでしょうが、警察と企業が共同で対処した大作戦です。我が社はイメージとして武器の販売や兵士の派遣として忌み嫌われてはおりますが、平和のために貢献していることを分かってもらえれば幸いです」


 その多大な貢献を見せた民間軍事企業チャリオス会長、ハオラ・テオ・コンロードはインタビューにそう答えた。

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