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異形の咆哮  作者: onyx
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事後処理

役場を出てそれぞれの持ち場へと向かう。亀山は駐在と前原を含めた全ての刑事たちと共に消防車の撤収や役場内に設置した本部の解体、囮用に作った餌の作業場の片付け等を開始。一生分のやりたい放題に匹敵する行為の片付けは容易ではなかった。

SATと銃対については県警本部警備部長より早急な撤収をとの通達があったので先に引き上げる事となった。銃対隊員たちと交わした堅い握手は忘れる事はないだろう。逆に県機隊員たちは現場に残り撤収作業の主力を任された。薬莢やガス弾頭の回収、アスファルトに撒いたガソリンの洗い流し等、仕事は山積みである。翌日になって増援の管区機動隊1個中隊も投入され迅速な撤収作業が進んだ。


陸自も粗方の薬莢回収や装備紛失有無等の確認が終わると、ヤツの周囲に戦力を集中させ監視業務へと任務を移行させていった。こちらに関しては日を跨がない内に特殊武器防護隊や自衛隊化学学校の調査チームが現地入り。川に流れ込んだ血の除染とヤツの焼却処分、飛び散った肉片や臓器等の収集が行われ、最終的には全てが焼かれた後に灰ごと回収され村を去って行った。ヤツが破壊した家屋や家財等に関しては自治体経由で政府から特別給付金が支払われ、行政の主導で直す事となったらしい。


村は事件後3日目の朝を迎え、役場職員や消防団員たちが戻って来た事で行政が回復。店舗も営業を再開し始める。その後、約一週間に渡ってバリケードの撤去や損壊した機動隊のバス移動等が行われた。マンパワーと重機が必要な作業が終わった段階で陸自は本部班を残し撤収。住民たちが少しずつ村に戻り出し活気が取り戻されていく。最終日には役場前で簡単な解散式が開かれ、柴田警視が全員を前に短い言葉を述べ出た。

「得体の知れないものを相手によくやれたと思っています、全て皆さんのおかげです。ありがとうございました。流れを変えるようであれですが、近い内に亡くなられた住民の方と吉沢警部の合同葬儀が執り行われます。時間の許す方は是非とも参列をお願いしたく思います。私からは以上です。」

第1次阻止線で殉職した銃器対策部隊分隊長こと吉沢巡査部長(二階級特進にて警部)の名が全員の心に冷たい風を吹き込んだ。腕を食われた隊員の方は命に別状はなかったが、銃対隊員としてはもうやっていけないので部署異動となったらしい。爪で胸部や腹部に裂傷を負った隊員も現在入院中だそうだ。

「では、亀山警部補からも」

「はい?」

キラーパスに思わず変な声が出た。そんな事を言われても何も考えていないのにどうしろというのだ。警備陣の幹部に背中を押されて前に出させられる。

「あー……最後の時に自分のような駐在が出しゃばって、警備部や刑事部の皆さんをこき使った事をここで謝らせて頂きます。申し訳ありませんでした。同時に本当にありがとうございました。」

疲れ切ったような気のない拍手が起こる。もうそろそろいいだろう。

「それでは、これで撤収します。各員乗車を急いで下さい。」

機動隊員たちがバスに乗り込み、1台ずつ発車していく。柴田とも握手を交わして別れた。安本一尉率いる本部班たちもここで撤収。最後にこの事件の最初から関わっていた前原と刑事たちが残る。

「お疲れ様でした」

「君もな」

1人1人と噛み締めるように手を握り合い、車列は上野原署へと帰路についていった。村全体が静けさに包まれる。人生でこれまでにない濃密な数日間だった。業務を近藤以下の人員に任せた亀山は先に帰宅。流石に疲れが押し寄せて来ていて限界である。窓を全て開け放ち、居間に布団を敷いて横になるとそのまま意識が落ちて行った。


「来るぞ!逃げろ!」

「気を引くだけでいい!撃ちまくれ!」

盾を構えた隊員が強烈なパンチで吹き飛ぶ。出鱈目なパワーで突き飛ばされた刑事はブロック塀に頭をぶつけ酷く出血。引きずって助け出そうとした別の刑事に噛み付いて体を無残にも引き裂いた。

「班長!」

近藤の叫び声が聴こえた。振り向くと、凶悪な爪が両腕に突き刺さりそのまま地面に押し倒された。鋭い牙の生えた大きい口が顔に降りてくる。


年甲斐も無く情けない声を出して飛び起きた。全身に嫌な汗が纏わり付く。

「はぁ、はぁ」

「大丈夫?」

顔を上げると妻の恵子が怪訝な表情で見下ろしている。昨日になってようやく連絡を出来る時間が取れたので電話したのを忘れていた。

「………終わったんだよな」

「だから電話して来たんでしょ、違うの?」

「いや、終わった。全部終わった。」

「大変だったみたいね」

振り返ってみても今までにない日々だった。二度と味わいたいとも思わない日々でもある。

「……お義父さん、元気だったか?」

「相変わらずで」

「今度温泉でもどうだ、うちの親父とお袋も連れて」

「そんな時間あるの?」

「どうにかして作るよ」

「じゃ、期待しないで待ってますね」

腹の底を見透かされているようだ。取りあえず起き上がって汗を流すべく浴室へと向かう。

高い青空が村をいつもの平和な空気に包み込んでいた。たった数日までの血生臭い事件を洗い流すように…

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