岡島剛
「岡島剛といいます。小学1年です。よろしくお願いします。」
「山田四季です。小1です。よろしくです。俺は、とにかく速くなりたいです!」
これが俺と山田四季との出会いだった。
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「四季ぼさっとするな!」
「してねぇし、俺、ちゃんと体操してるやん。」
といいながら、ジーパンで体操をし始める四季。
「ジーパンで体操とか、そんなんじゃのびるところものびねぇし、やっても効果低すぎだろ。」
「しゃあないって、今日ジーパンしかないもん。」
「しゃあないってのは、お前が言う言葉じゃない。お前が言うのはしゃあないじゃなくて、すいませんか、「次からジャージか短パン持ってきます」だろが。」
四季は、俺の目を少し見た後、「わかった。」と言った。小2の春。
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「四季、お前の泳ぎ雑すぎだろ。」
「雑でもいいやん、こっちの方がパワフルでよく進むし。」
「お前は、俺と一緒なBrなんだから、俺と似たようにしても、身長の分だけ俺の方が速くなるだろうが」
「俺だって、身長ぐらいのびるし。暫くしたら、お前よりも背が伸びて俺の方が速くなるかもしれんだろ?」
はー。何センチ違うと思ってんだよ。10センチちがうんだぜ?はー…
「じゃあ、種目被らんように、俺が50.100お前が200.100ってことでいいか?」
「200mなんて種目ないし。何間違えとるん?岡島」
ガハガハと口を大きく開けて笑う四季。
「小学生にはなくても、中学、高校ではそっちの方がメインやぞ?メイン譲ってやってんから喜べや。」
「えー。まあ、どうしてもって言うんなら?いいけど?」
「分かったから。どうしてもお願いします。」
「よし。俺が200で県一位になるから、貴殿は50で県一位になられよ。」
「ウゼェ。」
これが、まだ、仲よかった頃の小学3年生の春
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「おい、四季。最近どうだよ、タイムあんま伸びてないように見えるけど。」
「そりゃあ、お前と比べたら遅いに決まってるだろ?俺はお前よりも10も背が低いし、生まれも5ヶ月も違うし、何よりも、jo予選のチャレンジレースにも出られるんやからさ。」
「四季は最近そればっかやな。」
「住む世界が、俺とお前とじゃあ、違いすぎるもん。」
四季の目は死んでいた。あの時の、「速くなりたい」という目がなくなっていた。そうか。俺のせいか。でも俺は…
「俺は、200なら、四季の方が速いと思っとるけどな。ずっと前から。」
「それ、ここ半年の間ずっと言ってるけど、こないだのJSCスクール内記録会で、俺の方が10秒も遅かったの覚えてるだろ?お前の方が上だよ。俺は、お前の一歩後ろ兼、メドレーとFrのリレーの4番手でチームを盛り上げるよ。」
まだ四季の目は活き活きとしている。もう一度、四季と本気の…本当の勝負がしたい。俺に「200は俺な」と、言って欲しい。
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「JO出場おめでとう。岡島。」
四季に言われて、嬉しかった。俺はこいつにだけは勝たなくちゃならない。こいつから「速く泳ぐ」ことを奪ってしまったから。
「まあ、一回だしな。もっともっと出て、常連になって、決勝くらい出てやるよ。」
「出てやるよ。じゃやくて、出るんだろ?お前ならすぐなれそうだな。だって、うちのエースの岡島剛だぜ?」
そうだ。ここの小学生男子のトップは俺だ。
俺が、こいつを引っ張ってかないと。
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「お前らが仲良いのなんか変やよなー。」
「いや、俺ら同級生だし、それに、水泳に関しては岡島と俺が選手コース、Jr選手コースの同期だからあれくらいの仲には普通なるだろ。って、いつもいってるだろ?」
そうか、四季はそう思ってたのか。良かった。まだあいつとの関わりは残ってる。変な時期に選手コースに入ったせいか、同期は俺と四季の二人だけだったからな。
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何でだよ…何で俺の足が…俺の足がこうなるんだよ。
「おい。足大丈夫か?剛。」
「大丈夫です。」
「そうか。なら、救急車使うか?」
は?何でだよ。何でだよ。俺の足は大丈夫だって。
俺はまだやれるって。
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「こりゃあ、ダメですねー。完全に切れてますね。全治半年ですかね。速くても4.5ヶ月ですよ。」
「何でだよ。何で俺なんだよ…」
「水泳でこの怪我は珍しいんですけどねー。水泳なら、腰とか、肩とか、太ももなんですけど。まあ、怪我したらしょうがない。治るまでは我慢ですね。」
終わりだ。あーあ。俺の水泳は終わりだ。俺は泣かねぇぞ。俺は泣かねぇぞ…
「ほら、涙拭いて。辛いのは分かるから。」
やっぱり泣いてたか。俺、水泳好きだもんな…くそ。




