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水泳部1年春  作者: 田尻山 一由
16/24

中学一年生 〜安達秋の今の実力〜

「もう、いいだろ。こんなに泳いだらひざ壊すって。」


スポーツにけがはつきもの。という言葉があるが、水泳の場合、その言葉が最も出るのはBrである。ひざに太もも、股関節、腰といった箇所を簡単に壊す。


「じゃあ、四季のBrの鑑賞はこれで終わりにするか。今の見てわかると思うけど、Brの上半身の動きで最も大事なのは、手を返すところな。身体をあげてそこから体重移動で前に進む。そこが遅いと、身体が後ろに持ってかれてキックで進もうとしたら、止まった状態からのスタートになって、しっかり進まなくなる。だから、水をかいたあとの手の戻す動作を速くする。ここを注意して、手だけで、25m10本を1分サークルにして、休憩を多めにとるから丁寧に一本一本集中してやってみよう。」


そして、山井コーチは分針と秒針だけの大きな時計の0のところを指し、「時計が0になったら行くぞ」と合図を出した。時計が0を指してから、各コース1人ずつ10秒間隔でスタートした。一列目で泳いだ秋は、一列目で一番遅かった。それは、丁寧に泳いだからといった様な差ではなかった。


「安達さーん。泳ぎ汚いぞー。」


四季が秋に告げたのだが、その言葉に怒って泉子が反論する。


「綺麗なだけな人が言わないでください。JOで優勝してからしか、あなたに文句言う権利はありません」


「いや、お前じゃねぇし。俺はお前の姉の方に言ってんだよ。現役の時は、雑だけどパワーを伝えるのがうまかったのに、今はただ雑なだけじゃん。」


安達秋が小5の時のBrは、パワーで前に進むBrだった。でも、パワーだけじゃタイムは出せないのだが、ピアノをやっていることもあって、手と足の動かすタイミング、伸びを入れる間の取り方がとても上手かった。それを武器としてJO連覇を果たせていた。


「分かってるから、言わなくてもいいから。」


秋自身、酷い泳ぎをしているという自覚があるのか、少し戸惑いがあるように四季には見えた。


2本目、3本目と泳いでも、秋のBrは良くなる傾向が全くなかった。結局、Brのフォーム練習は秋にとって全て散々な手応えだった。


「荒れてますなー。」


四季が秋のことを茶化す。しかし、秋は本気で悩んでいるため、そんな言葉は耳に入ってはいかない。


「秋さーん。そのままじゃ、速くなれませんよー。」


「速くなれない」という単語に反応して、秋は四季を睨み、目線を合わせて、


「じゃあ、山Cは分かるの?私の速くなる方法を。分からないなら黙って。考えるから。」


とは、言うものの、今から本日のラストメニューの、50m4本のスプリント練習があるので、これを楽しみにしていた四季には、その考える時間がとても邪魔だった。


「やっと、スピード練習なんやから、早くしろよ。俺はこの練習をしたかったから、フォーム練習にしててんから。」


「はいはい。分かったから。じゃあ、次の始めよ。」


秋がそう言いながら山井コーチを見ると、山井コーチは頷き、時計の0を指差し「次の0から始める」と言った。一列目は、四季、秋、涼介、石田、の4人で並んだ。種目はFrだ。


「よーはい。」


コーチの合図に、4人が一斉に泳ぎ出した。スタートは、ドルフィンが上手い四季が10mラインの近くで浮き上がり、一番速かった。が、25mのターンの時点で秋が並ぶと、ターン後からは、秋が一気に抜き去って一本目は、秋、四季、石田、涼介だった。サークルは60秒。25秒ほど休んですぐに出る計算だ。


2本目も、似たような展開だったが、ラスト12.5mで、秋が急に失速。四季が秋を抜かした。そして、涼介が追い上げをみせたが、石田がなんとかかわす。四季、秋、石田、涼介


3本目は、四季のドルフィンに誰も追いつけず終わるかと思いきや、四季も後半に急激な失速。涼介はドルフィンが苦手なため、一番スタートは遅かったが、全く疲れを見せぬ泳ぎで石田だけでなく、四季、秋も追い抜かした。涼介、秋、四季、石田。


4本目。残るは一本だけ。ということもあって、それまでの泳ぎからは想像できないほどのスピードで石田が泳ぎ、それに、体力がギリギリ持っている、涼介が続き、秋と四季の疲れ切った二人は、浮いているといっても過言ではない常態だった。石田、涼介、四季、秋


「あの女の人めちゃくちゃ速いっすね。あれ、なんなんですかね?俺気になる。」


50m4本で疲れ切っている四季に石田がハイテンションで声をかけた。


「ラスト一本で2秒上がって、誰よりも早かった奴がそれ言っても、なんも速い人って感じしないけどな。まあ、あいつは、JOの元連覇者だよ。Brのな。」


「ヒェ〜。そんな人が転校してくるとか、まあ、俺は男やからリレーメンから外されんからいいけど、女子とかすこしもめるやろこのままやと。」


「女子はリレーに気合入ってないからいいんじゃね?」


男子のリレーは、皆揃ってなりたがる。リレーでのタイムが悪いと戦犯扱いされ、例え順位が一位であったり、その泳順で一位であっても関係ない。現に、昨年のJSCCで、四季がFrリレーのアンカーで抜かれて2位だった時、相手はJOファイナリストだったから、持ちタイムから計算して、抜かれるのは当たり前なのだが、後から「四季のせいで負けた」や、「四季勝負に弱すぎ」など、ボロクソだった。


対して、女子のリレーはというと、選手の人数そのものが多いせいで、リレーからもれるのはせいぜい一人二人で、メンバーになれて当たり前、なれなくても「漏れた」程度。だから、例えそのリレーが遅くても、「メンバーが揃わなかった」で完結する。


「でも、Frは速かったけど、Br遅かったというか、下手やったな。」


「そうか?俺は、速かった片鱗ていうか、速かったんだろうなーというのは感じたけど。」


「でも、あれは手引きすぎだろ。あれじゃいつまでたっても俺ぐらいまでにしかなれないって。」


「そうね。確かにそうかもね。」


安達秋の笑顔が炸裂していた。そして、運悪くその時に気づいてしまった。気づいてはいけないところに四季は気づいてしまった。


「お前が水泳部に来た時に可愛く見えた理由やっと分かったわ。ゴツいんだな。安達さん」


この四季の駄目押しで、とうとう秋がキレた。キレッキレのビンタが2発。四季の頬と石田の頬を貫いて2発。四季も石田も、練習後なこともあって、顔が真っ赤だったのに追加して、秋のビンタでさらに赤くなったのだった。


「俺なんか悪いこと言った?」


「言った。」

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