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水泳部1年春  作者: 田尻山 一由
15/24

中学一年生 〜安達秋の日〜

JSC木田はストレッチや、軽い筋トレをした後に時間が生まれていた。


「ねぇ。山C。」


四季が適当に動いていると、安達秋が声をかけた。


「この時間って何?私がいた時は確か二人組でのストレッチとか、チューブトレーニングとかあったよね?」


2年前から大幅に変わり、そして、弱小クラブになった理由の一つを安達秋が聞いた。


「チューブはコーチいないと使用不可で、コーチは基本、選手コースの陸トレを観に来ない。そして、リーダーというリーダーがいないから、この余った時間はみんな横になって喋るのが基本になってるよ。そりゃ弱くなるよね。まあ、俺は家で腹筋2.3種類とか、石田はチューブを親が買ったみたいで、よく使ってるらしいから、陸トレで必要なのは各自、家でやってるよ。」


四季は半ば自虐的に言った。このスクールはもう弱小だ。それを自分に言い聞かせるように。今までも、何度も何度も何度も何度も…


「私が入ったらまた、強豪に戻れるかなー…」


安達秋がポロリと言葉をもらした。それは、四季にしか聞こえていない。四季は、そんなことは出来ない。と思っていたが、JSC木田の安達秋を復活させるために嘘をついた。


「戻るさ。だって、強かった時の女エースの復帰だろ?チーム全体が盛り上がる。そうしたら、もっと楽しくなるんだろうな〜。」


「そう。まあ、今日泳いでみて決めることにするわ。」


安達秋はちょっと笑顔だった。


★☆★☆


「えーっと、今日は体験?をさそてもらいます。安達秋です。よろしくお願いします。」


また笑顔。山井班は女が3人しかいない。安達秋がいた時に、選手コースで練習していたのは、四季、涼介と女子2人だけだそのうちの一人が安達秋をとても歓迎していた。


「秋、久し振り。秋おらんくなってた間メドレーリレーの平泳ぎのところは私がやってたのよー。すっごい恥ずかしかってんからね?いつも2泳の平泳ぎは秋だったから、飯田コーチなんて、私は気づかなかったけど、四季が言うには飯田コーチなんかため息ついたらしいし。本当に。」


歓迎ではないようだと、四季は思った。が、涼介は笑っていた。


「冬子が言ってたのは安達さんのことだったのか。会いたかったくせに、そんな言葉しか出せないとか。ちゃんと歓迎してやれよ。」


涼介は、話している途中からニヤニヤしていた。その顔にもちろん横田冬子(よこた とうこ)は不機嫌になった。


横田冬子。小学校時代は100mが得意だった。でも今は、小6の後期に来た成長期のおかげもあって、150㎝超の身長をうまく使ったスプリンターとなっている。専門はBa、Brの二種目。苦手はFr。100m10本や、200m3本などの長く泳ぐ練習が苦手。可愛いか不細工かだと可愛い。が、綺麗ではない。


「冬子は、山Cと仲悪いの?なんか、さっきから山Cからの殺気がが凄いんだけど。」


「殺気なんか出してねぇよ。」


その言葉からは確かに、四季がイライラとしていることがありありと出ていた。それを見て、冬子が軽蔑した目を向けると、すぐに、四季が理由を言い始めた。


「この練習がつまらんからイライラしとるだけや。」


四季が見ていたのは、練習メニューが書いてあるホワイトボードだった。


「ほとんどBrのフォーム練習。しかも、見本は全部俺とか…俺の練習にならんじゃねぇか。」


「それほど、お前のBrは綺麗だったからな。それをもう一度思い出させるために、皆んなから見られるというプレッシャーを与えて、思い出してもらおうかなと思ってな。」


やっと山井コーチが声を発した。


「その綺麗なBrをしようとすると、タイムが落ちるからやめたのに、もう一回その綺麗な泳ぎをするのはおかしいと思います。」


何を隠そう、四季の綺麗なBrはもう封印したのだ。四季は強く反対の意を示すために「ます。」で言葉を閉めたのだが、そんなことは山井コーチには分からない。


「まっ、今日はこんなやから、秋が水中久しぶりでも普通に楽しめると思うけど?このメニューでいいか?」


どうやら、今日の練習は完全に安達秋のためにすることにしたらしい山井コーチは、少し満足気に安達秋にいった。


「私はいいですけど、山Cがそれで納得してくれたらいいんですけど…山C…ダメ?」


またしても笑顔が待っていた。


(あっ、これ、俺、反対できないやつだわ。)


困った時の笑顔は四季にもバリバリ聞いたようで、渋々四季はOKを出した。どちらにせよ、今日の主役は安達秋なのだ。


ウォーミングアップをした後から、安達秋の表情は険しい物になっていった。昔泳いでいた時と感覚が全然違うのだ。水は手からすり抜けるように感じ、足は動かしているが、空を切るような感覚が伝わり、水を蹴った時に起こる独特な引っかかる感覚が全く伝わって来ないのだ。


「安達さんはやっぱりまだ、なまってる?」


涼介の言葉に一瞬だけ安達秋は、反応が遅れた。


(この人誰だっけ?)


そう思いつつも、安達秋は涼介の話を聞いていた。

暫く休んだ後の水の抜けるような感覚を「なまる」と、彼らは言うらしい。そして、それは2.3日で治る場合と1.2週間もかかってしまうことがあることも知った。昔は練習を一度も休んでなかったため、安達秋はこの、なまる感覚を知らなかったのだ。


「それでも、俺よりかは速いでしょ安達さんは。」


涼介が少し優越感に浸っている時に四季が声をかけた。もちろん涼介は嫌な顔をしたが、そんなのすぐに消えた。


「お姉ちゃん。」


安達秋の妹の泉子だった。どうやら、今日は遅刻らしい。


「お姉ちゃんが帰ってこなかったから、来るの遅くなった。お姉ちゃんねせいだからね。」


秋のせいだった。それには四季も秋も苦笑い。


「まあ、水泳をもう一回しようと思ってくれたなら今回は、水に洗ってあげましょう。」


「それ、水に流す、ね。あと、今日は体験だし、山Cが「俺の芸術的な平泳ぎをとくとご覧あれ」って言ってたから見てあげようと思ってね。」


四季の平泳ぎの話が出たからか、姉の秋の心を動かしたのが四季の平泳ぎだったからか、まあ、どちらにせよ「四季」という名前が出てきたことによって、泉子は機嫌を悪くした。つまり、拗ねたのだ。


「どうせ、私のはパワーBrですよーだ。フン」


めんどくさいと思ったのか、四季も秋も泉子のその態度を見なかったことにして、ウォーミングアップの続きをした、


★☆★☆



「よーし、アップも終わったし、四季のBrでも見るか。」


「そんな、ノリで俺の泳ぎ見せるって、どんなだよ。」


30分ほどかけてウォーミングアップを終えた後、10分ほどのフォーム練習という名の四季のBrのショーが行われた。


「もう一本。」「もう一本」


ひたすらと秋が注文し、四季が泳ぐ。を繰り返すだけだ。四季はおよそ300mほど泳いだ。

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