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水泳部1年春  作者: 田尻山 一由
14/24

中学一年生 〜そして、弱くなった〜

JSC木田 フロント


「今度は大丈夫か?吐き気とか、頭がクラクラするとか無い?」


必要以上に心配しているのはもちろん涼介。安達秋の笑顔に心を完全に捕まえられたようだが、


「えーっと…ん?」


安達秋には、名前を覚えてもらっていなかったようだ。


「ほら、さっきここまで一緒に来たやつの一人だよ。名前くらい覚えとけよ。これから同じ部活にいるんだし…それに同じ学級委員だろ?」


「あぁ、よろしくお願いします。」ニコッ


四季はそれを横で見ながら。「魔女がいる…」とボソッと呟いていた。涼介の心配は無用だったようだ。


「でも、大丈夫そうで、安心したよ。明日からの水中練習も大丈夫そうだな。」


フロントにある長椅子に安達秋を座らせて、3人で話しているとおばちゃんが一人やって来た。


「あら、秋ちゃんじゃない。元気にしてた?急に辞めちゃったから、ちょっと心配やったんよー。」


「元気でしたよ。今日はちょっと近く寄ったんで顔出そうかなと思って来ました。」


そして、また笑顔を作っている。そばにいる全員が分かるくらいの作り笑顔だった。特に、話しを少しだけ知っている四季にとってその笑顔は、少し辛いものだった。


「今日って、私は泳いでもいいんですか?ポッときて、いきなり泳ぐのはダメだと思うんですけど…」


「いいですよ。俺見ますから。」


山井コーチがコーチ室から出てきていた。山井コーチはニコニコしながら、安達秋を見て更に言葉を続けた。


「あれから泳いでないんか?泳いでないなら、そういうふうにメニュー組むけど。今日一日くらいメニュー弄ったって問題無いし、俺はもうここの副主任だからな、飯田コーチがいない今は俺が主任のようなもんだ。はっはっはー。」


安達秋は四季の方を少し見てから、「よろしくお願いします。」と言った。




安達秋がトレーニングルームに入ると1番先に反応したのは、やはり岡島だった。


「おっ、秋じゃん。どうしたんだよこんなとこに。もう水泳辞めたんじゃなかったのか?」


岡島は、何も知らないようだった。だから四季は、岡島の言葉がひどく安達秋を傷付けているのを軽く流した。


「岡島って、安達さんのこと知ってたん?」


「そりゃそうよ。昔ここにいたからね。丁度甲斐田コーチがいなくなったころにやめたよな。」


「うん。そのくらいで、やめたかな。なんていうか、泳ぐのがつまらなくなってね。もっと楽にスーッと進んだらたのしかったやろうけどね。」


岡島は楽しそうに昔を思い出していた。その顔を見ながら四季がふと思い出した。


「そういえば、今日って飯田班やすみじゃね?飯田班って、月曜日休みやったやろ?」


「今日は休みやから体操だけしに来たんや。昨日までの合宿めちゃくちゃきつかったし。でも、ま、本当に来てよかったわ。懐かしい人にあえたし。」


岡島はものすごい笑顔だった。


「岡島は今何秒くらい?」


「50のBrなら、だいたい34くらいやな。長水は苦手やから36くらいやけど。もう、今年の県中学は優勝確定やー」


岡島はドヤ顔でそういった。岡島はドヤ顔でそういった。安達秋はひいていた。そして、四季はいつものくだりだなと、声を出した。


「はぁ…50Brは、県中学に無いやろ?これ何回目だよ。」


その通り、何を言おう県中学の種目には、50メートルのBrは存在しないのだ。


「秋に突っ込ませたかったんに…お前が言うといつも通り過ぎて面白くないわー。ないわー。」


顔はかっこいいのにこの口調。岡島はやはり残念なイケメンである。


「えっ、そうなん?あたし50Br出る予定やった。じゃあ、100が最短かー…ヤバいかも。」


「Frなら、50もあるし、50Frと、100Br出れば?それなら、メンバーになれるだろ。」


「山Cは簡単に言うけどさ、私は2年間全く泳いでないんやよ?出れると思う?…校内の選抜大会でも負けそうやし。あんまり出たくないかも。」


「誰だっけ…えーっと…棚…なんたらさんに負けたくないとかは無いの?」


その言葉には安達秋がかなり鋭く反応した。


「どういうこと?」


安達秋が一気に声のトーンを落として言ったので、岡島は少し上体をそらして、声を震わせながら言った。


「昔仲良かったなーと思ってさ…ほら、棚…「棚葉」…そう。棚葉さんと仲良かったなと。あの人に馬鹿にされたくないとかあるなら、馬鹿にされるとかはないと思うけど…」


安達秋は混乱していた。


「あー。思い出した。こないだな大会の優勝者か。あれめっちゃ速かったな。JO出れなかったのにすごいイライラしてたな。」


四季の言葉にさらに安達秋は混乱していた。


「棚さん…水泳してるの?」


「いま、3年生だろ?あの人今年の全中出場と、地方優勝目指してるからなー。今県でBr1番速いだろ。」


安達秋は、岡島が告げた言葉に、今度は勇気をもらっていた。


(そっか…棚さん…)


「ちょっと受付行ってくる。」


安達秋は、トレーニングルームを飛び出てどこかへ走っていった。


「もうすぐ体操始めるのにな。」


「とは言っても、体操も今じゃ、俺が主体だろ?安達さんがいたころから考えると、本当に弱いクラブになったよな。木田は。」


そうして、四季と岡島は暗い顔になっていた。

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