タイムスリップ
朝日が大学寮の一室を照らしていた。
その部屋の主は西園寺 薫である。
身仕度を整え部屋を出ようとしていた。
すると玄関からチャイムの音が聞こえた。
俺は素早く玄関に行くと相手が入ろうとする前にドアを開けた。予想したとおりそいつはドアに激突し痛みにうずくまった。
俺はそいつを置き去りにするとさっさと階段を下った。少しするとそいつが猛スピードで走ってきた。
「痛ってな。いつも、何で呼びに行くとやるんだよ」
そう言って叫んだのは先ほどドアに激突した男、草加部 元親である。
「いつも、うるさいからだ。俺は迎えに来てくれなんて言っていない」
「いいじゃないか。俺とお前の中だろ」
「勝手にしたしげにするな」
話している間に下駄箱に着いたので、靴を履き替えようとした時猫の鳴き声がした。
「桜、お前ついて来たのか」
優しい声音でそう言うと猫を抱き上げた。
薫の飼い猫である。真っ白てふわふわな毛並みが特徴の猫である。雨の日に捨てられていたのを薫が拾ってきたのだ。
「どうするんだよ。薫」
「保健医の先生に預かってもらう。前にもあったからな」
猫を抱いたまま靴を取り出そうとしたとき下駄箱に一通の手紙が入っていた。
「草加部、先に行っててくれ」
「その手紙どうすんだよ」
「捨てるに決まっている」
「なっ、お前読んでから捨てろよ」
「読む必要がない」
だいたい、俺に手紙がくる事じたいおかしい
俺には手紙をくれるような人もいないしな。
俺が草加部を置いて保健室に向かおうとした時、いきなり手紙を草加部に奪われた。
「返せ」
「読まなきゃくれた子に失礼だろ」
手紙を開けようとしたので猫を抱いていない方の手で草加部の肩をつかんだ。
「おい、やめろ」
俺が叫んだのも聞かずに草加部が手紙を開いた。その瞬間桜吹雪が俺と草加部を包んだ。
意識が途切れそうになった時、俺の耳に声が聞こえた。
「どうか都をお救いください」
ふざけんな、そんな事を思いながら桜吹雪にのまれていった。
「おい、起きろよ」
草加部の声が聞こえ俺は目を開けた。
そして、目の前の後景に息を飲んだ。
「なんだ、これは」
目の前に現れたのは、まるで時代劇のセットのような後景だった。