アタシ×りぼん=嵐の予感
東郷学園3年B組は朝から不穏な、
ザワ……ザワ……
に包まれていた。
「誰だ、あの美少女は?」
「ショートカット黒縁メガネ萌え」
「萌えじゃねーよ。森重の席に座っちゃってるじゃねーか。だれかなんか言えよ」
「いや……だってなんか、いやにしっくり来ると言うか……いつも見ている背中に見えるっていうか、スカートをはいてなかったら、森重……」
「いやいやいやいや、ない!それはない!あの硬派な森重が、まさかスカートなんか……。なぁ」
ザワ……ザワ……
しているだけのクラスメートを見渡し、クラス委員長の三船紗英が代表して声をかけた。
「おはよう、森重くん。一つ質問があるんだけど」
「やだ(はぁと)委員長、アタシのことは、真澄って呼んで(はぁと)」
ザワっ!とヒソヒソ声がひときわ大きくなり、シンと痛いほどの沈黙が訪れた。
紗英がため息で、その沈黙をやぶった。
「……森重くん。なぜスカートをはいているの?」
「かわいいから(はぁと)」
「……とりあえず語尾に、(はぁと)をつけるのをやめてくれる?」
「はぁい」
真澄は左手を口元で握り、右手を右ななめ上へ上げてみせた。
紗英は再び深いため息をついた。
「かわいくないとは言わないわ。わりと似合ってないこともない」
「いゃん、誉められちやった」
「誉めてはいないつもりだけど。それより男性は、一般的にスカートをはかないわよね?」
「アタシ、フツーはやめたの。これからは、我慢しないでいきるの(はぁと)」
「だから!語尾に(はぁと)を……」
「オレ、けっこうイイと思う。森重の女装」
真澄の隣席の三鷹がボソリとつぶやいた。紗英は目を見開いて、三鷹から一歩遠のいた。
「オレも、可愛いと思う」
「オレも」
次々とクラス中の男子生徒が可愛い可愛いと言い出し、最後にはクラスを揺るがすシュプレヒコールとなった。
真澄は両手を口元にあて、にんまり笑う。
「いゃん、かわいいだなんて。真澄、恥・ず・か・し・い(はぁと)」
「(はぁと)をつけないでってば」
クラスが盛り上がってるうちに、真澄の女装はなんとなく受け入れられたようだ。