オレ様×ナニサマ=拓海様
「よし」
拓海の部屋から奪取した全身鏡の前でネクタイを締めて、真澄は身仕度を終えた。
茶色のブレザー、深緑のスラックス、深緑のネクタイが東郷学園の男子制服である。
真澄は、髪を7・3に分け、黒縁の眼鏡をかけ、優等生然とした姿勢で部屋を出た。
ドガン!と車がガードレールに激突したような音を立て、拓海が部屋から出てきた。
こちらも東郷学園の制服である。真澄とまったく同じ装いだが、ネクタイはゆるく首にぶらさがるだけ、短い茶髪はツンツンと立ち上がり、いかにも軟派な風情である。
「拓海!なんだ、その格好は!」
「ウッセーな。校則は守ってるんだからいいだろ」
「いいわけがあるか!なんで妹のお前が男子の制服を着ているんだ!」
「だぁから!校則は守ってるって言ってるだろーが」
「何をバカな……!」
拓海は胸ポケットから学生手帳を取り出すと、ガナリ続ける真澄に向かって放り投げた。
「読めよ、校則」
拓海に言われ、しぶしぶ学生手帳のページを繰り出した真澄の手がだんだん早くなる。
最後のページまで読み終わると、また最初から繰り出した。
目を皿のように開き、ページの端から端まで食い入るように読む。
それを二度、三度繰り返し、茫然とつぶやいた。
「ない……女子が男子の制服を着てはいけないと書いてない…」
真澄はハッとして顔を上げる。
「あ!拓海がいない!」
急いで階段を駆け下り、玄関を出ると
「拓海センパイ今日もステキですぅ」
「あー!ミユ!ズルい!センパイと腕くんだ!」
「ははは、ケイ、腕はもう一本あるよ」
「二人だけズルい〜」
拓海を取り巻く二十人ほどの女子によるハーレムが形成されていた。
真澄はワナワナと両手を震わせ、拓海に向かい叫んだ。
「拓海!」
拓海がうろんげな目で振り返る。
「なんだよ、なんか文句あるのか?兄貴」
真澄は続けて叫ぶ。
「文句はない!
お前の女子の制服を貸してくれ!!」
その場の空気が凍てついた。
「ああ、いいぜ」
拓海の言葉を聞くと、真澄はぱあっと花のような笑顔を浮かべ、家に駆け戻った。
「……なにあれ?」
ぽかんと一部始終を見ていた女の子の一人が口を開く。
「さあ?脳ミソに虫でもわいたんじゃないか?」
「やぁだ、拓海くんったら、毒舌ぅ」
拓海と女の子たちは笑いながら学園に向かった。