オレ様×アタシ=なんたる不可解
ズバン!
と大砲が打ち出されたような音を立て部屋に入ってきた拓海は、
鏡の前でポーズをとっている真澄と目が合うと、地を這うような声を喉の奥から絞り出した。
「妹の部屋に忍び込んで、何をしとるんだ、おのれは。ん?言ってみろ」
「やだあ、拓海ちゃん、こわぁい。そんなに怒らな・い・で」
左手は軽く握り口元に置き、右手の人差し指を言葉に会わせて振る真澄は、オフホワイトのワンピースに柄タイツという出で立ちだった。
長身ではあるが、華奢とも言えるほど細い体は、ワンピースのAラインに包まれ可憐とも見える。
さらさらと揺れる、少し茶色がかった髪、端正な顔立ち、いくら日に当たっても焼けない白い肌とが相まって、まるで少女のように見えた。
「その……アホみたいな喋り方を止めろ!バカ兄貴!」
「いやぁん、拓海ちゃん、こわぁい。真澄、泣いちゃう」
「両手を目の下に当てるな!上目使いで見るな!内股で立つなあー!」
ズカズカと大股で近づいてヒラヒラするワンピースを掴もうとした拓海の腕の下を、真澄は、スルリと掻い潜った。
「ん、もぅ。拓海ちゃんったら、乱暴なんだから。たまにはオシャレしなさ・い・よ」
「だから、その話し方を、止めんかぁー!
だいたい、なんで私の部屋で女装してんだよ、自分の部屋でコッソリやってくれ!」
「だって……。拓海ちゃんの部屋にしか、大きな鏡がないんですもの」
ワンピースの裾を握りながら、鏡を指差す真澄を、拓海はワナワナと震えながら睨み付けた。
「鏡をかついで、さっさと出ていけー!」
拓海の怒号は三軒先まで響いたという。