原点使い
ここで原点使いについて説明しておこう。
博士から聞いた話をそのまま話すだけだけどな。
原点使いとは言わば全てのイヴの御先祖様みたいなもんだ。
『火』、『水』、『電気』、『重力』、『大地』、『物質』、『光』。
ま、有りがちだな。
彼等の力はこの地球を創造した物だ。
それ故に純粋で強力。
そんな奴をこんな序盤で相手にするなんて、俺はとても幸運で逆に付いてないのかもしれないな。
「……なあ薫。もしかしてやけど、俺ら目茶苦茶やばい奴の前に立っとるんとちゃうか?」
「……。」
返事が出来ない。
まるで目の前の甚平野郎に吸い寄せられる様な嫌な感覚だけが俺を支配している。
「はっはは。そういやてめえのアダムは体の加速だっけなぁ。つー事は光か電気だ。光なら俺との相性激悪だ。」
「なに、訳の分かんねえ事言ってやがる。」
つっかえながらも何とか強がって見せる。
駄目だ……気持ち悪い。
「分かんねえなら分かんねえでいいわ。おらさっさとこっち来いや。勝てねえ事くらいは分かんだろうが。」
「喧しいわおっさん。やってもねえのに分かる程あんたのおつむは出来てないやろ。」
「はっははー。確かにそれはあるな。」
くそ……。
凜は何やってるんだ。
急げ急いでくれ急ぐんだ。
じゃないと俺達此処で死ぬ。
「薫。」
「っ!」
小声で名前を呼ばれてびくっとする。
「そないに震えてどうしたん。普段のお前らしくないで?」
「……お前は感じないのか。こう、吸い寄せられるっていうか、引き寄せられる様な感じ。」
「?いや、特に感じへんで。」
……何で俺だけ。
今も嫌な感じが続いている。
あいつはただ変な言葉を口ずさんだだけなのに。
「さーて、考えは纏まったかガキ共。ならさっさと来るんだな。でねえと、最良でも重篤、最悪で死ぬ事になる。」
「く……。」
その言葉に、更に足が震え始める。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
『大丈夫だから。』
「え……?」
『大丈夫。薫さんはこんなとこで死なないよ。死ぬ運命は決まってる。でも此処じゃない。なら、大丈夫。薫さんは死なない。』
「……。」
幻聴が聞こえるくらいびびっているのか俺は。
……死ぬ運命、か。
それがもしこのタイミングなら、俺はどう足掻いても死ぬ。
「……なら、足掻いてやるよ。」
「薫?」
人間の生への執着心は異常だ。
不老不死を求めるくらいに。
そこまででは無いにしても、俺も人間で、生きる事を止めたいとは思っていない。
「足掻いて、抗って、命を勝ち取る。」
「……よー分からんが吹っ切ったみたいやな。上々やで薫。ほな行くか。」
「ああ。」
「やっとこっちに来る覚悟が出来たか?なら―――」
「Burned。」
「うわっちちち!」
甚平の手に火が付く。
どういう訳か、火は下に『落ちて』消えたが。
「っち。交渉完全決裂だな。俺の顔は一度までだ。噛み付いたなら徹底的にいたぶってやる。」
「ふん。簡単に出来ると思うんじゃねえぞ。」
腰に結わえてある鞘からナイフを引き抜く。
「お前なんかが、俺を捉えられると思うなよ。光よりは遅い。でも速い。“Quick”。」
体を加速させて、戦闘開始だ。