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ワンダーエンド  作者: 凩夏明野
第一章-興奮エンド-
14/52

対策未発見

食堂まで戻った俺達を待っていたのは凛と頼子ちゃん、それと探そうとしていた博士だった。

その他の科学者や一般人は皆避難させたらしい。

それは好都合と俺はさっきあった事を説明した。

「……ふむ。つまり此処にスパイがおり、そのスパイの仲間も其奴に会いに此処まで来て、しかも仲代を攫おうとしておる訳か。」


「そういう事です。だから早く手を打たないと。」


「うーむ。手を打つと言ってもの。相手がイヴなのか、それとも一般人なのか、それすらも分からんのではスパイを探すのは難しい。」


「どうしてなん?ちゃんと説明すれば何かしら対策が打てると思うんやけど。」


確かにそうだ。

スパイが入り込んでいる何て話を一般人に聞かれたら面倒だとは思うが、それでも話すべきだろう。

そうすればスパイを炙り出すのも簡単だ。


「無駄に不安を煽りかねん。それに炙り出そうとした結果、そのスパイが何か行動を起こすのは間違いないじゃろう。そうなった場合一般人を守るのは中々難しい。お前らが思っている以上に此処には人がいるからの。」


「それは確かにそうかもしれませんが、でもそうとばかりも言っていられないでしょう。」


「ふむ。では取り敢えずイヴには話しておくとしようかの。そうすればまだお前達が会っていない者達とも会えるだろう。一石二鳥じゃな。」


確かにまだ会えていない人達もいるから一石二鳥かもしれないけど、この人考え方軽過ぎだろ。


「そうと決まれば招集を掛けるとするかの。場所は司令塔の地下3階会議室じゃ。仲代君に案内してもらって先に行っておれ。」


「分かりました。」


という訳で俺達は会議室に来た。

程無くして他のイヴ達も集まった訳だが、そんなに数いないんだな。

俺、宗司、凛、頼子ちゃん、博士、凛パパさん、パーキンスさん、その他に三人だけとは。


「ふむ集まったな。では単刀直入に言おうかの。此処に侵入者が現れた。しかも二人もな。」


「薫君と宗司君が対応したんだったね?風体は分かるのかい?」


「いえ、二人共男で片方は少し幼い感じがしたっていうくらいしか分かりません。なあ宗司。」


「……。」


「宗司?」


「ん?あ、いや、そうやな。」


どうしたんだ険しい顔して。

何か考え込んでいる様だけど。


「は、男二人ってそんな程度の情報じゃ何も分かってねえのと一緒だな。」


「小僧、もう少し口が悪いのをどうにかしろ。」


「うるせえな爺。」


頼子ちゃんと見た目的には年齢が同じ様な少年と博士よりも歳を取っていそうな老人。

この二人にはさっき会っていないが、一体どういう能力を使うんだろう。


「ンー、つまりはその二人を捕まえてみな分からねいうことネー。」


「それが出来ないから此処に集めたんだろ。話し合う為にな。」


パーキンスさんと話している男も、前の二人同様会えなかった人だ。

多分俺や宗司と年齢は同じくらいか。


「こんな時こそ宏さんの直感何じゃないか。それこそあーだこーだ考えているよりぱっと決めた方が話が早い。」


「うーんそうだね。確かに羽多野の言う事は分かるけど、残念ながら打開策は思い浮かばないね。」


「如月から聞いた二人の会話からすると、どうやら潜り込んでいる方は結構な期間を此処で過ごしている様じゃ。炙り出すのは難しいじゃろう。となると、出来る事と言えば万が一に備える事くらいかの。」


万が一か……。

スパイによって此処の位置が特定されれば、IFLCは攻め込んでくるだろう。

いや、もうバレているのか。

スパイと会っていた人間は此処に来ていた。

つまりもうバレて……ん?


「すみません今考えてて思ったんですけど、スパイと会っていた奴は何処に消えたんですかね。」


「あ、そう言えばそうね。確か入って来るのにも出て行くにのにも司令塔を経由して電車に乗るっていう話だったわよね?だったらそれを利用した人間が怪しいと思うのだけれど。」


「ふむ、スパイにばかり気を取られていてそちらを完全に忘れておったな。大塔君、早速調べてもらってよいかの?」


「分かりました。」


返事をするのと同時に凛パパさんは部屋から出て行った。

全く、何だってこんな事を忘れていたんだか。


「んじゃ一旦解散って事でいいのか?さっきまで寝ててまだねみーんだけど。」


「そうじゃな。取り敢えず解散でいいじゃろう。どの道スパイに対する策は無いからの。」


「へっへー流石は軽石さん話が分かるね。じゃあ俺はこれで―――」


「待て小僧。その前に新入りに挨拶をしろ。」


老人が走って行こうとした少年の襟首を掴み止めた。

歳の割にかなり俊敏に動くなこの人。


「はあ?そんなもん必要なねえだろ。」


「阿保が。そんな事では貴様は真っ先に死ぬ事になるぞ馬鹿が。」


「二回も貶してんじゃねえよ爺!」


「済まんな。何分まだまだ子供の小童でな。私の名前は水無月喜一だ。軽石と違って老人言葉で喋ったりはせんが立派な老人だな。これから宜しく頼む。」


差し出された右手を握る。

……立派な老人とか言ってるけど、この人の握力老人とは思えないくらい強いぞ。


「如月薫です。あと大塔凛と杵築宗司です。」


「何であんたが私達の名前まで言うのよ。」


「別にいいだろ。そっちの方が効率いいし。」


「はっは、確かにそうだな。では此方もそれに倣うとしよう。この小僧の名は石川鏡也と言う。愚か者だが仲良くしてやってくれ。」


「誰が愚か者なんだよクソ爺!大体あんたが紹介するなら俺がいる必要ねえだろ!」


……一理あるな。


「喧しい喚くな。如月、杵築、大塔の能力は聞いているから説明はしなくていい。とは言え、此方の力を知らないのでは公平でないな。私は姿を消す力を持っている。」


「姿を消す、ですか。」


「何れ見る事になるだろう。そして小僧の力は未来を弄る事が出来る。説明としてはこれくらいだ。」


さらっと言われたけどさらっと流していい所じゃないのは分かる。

未来を弄るだって?

そんな力が有り得るのか。


「ふん、有り得ねえって顔してんな。だったらあんたの未来を今から弄って、いてっ!痛えじゃねえか爺!」


「馬鹿者が。目上の者に対する態度かそれが。来い、久し振りに礼儀という物を叩き込んでくれるわ。」


「は?またあの地獄を始める気か?!止めろ引っ張るな!おい!このくそじじ、ぐはっ!?」


「済まんかったな如月よ。小僧には死ぬ程言い聞かせておく。」


「は、はあ。」


右ストレートで腹を強打して話せなくさせるとか。

この人拳法の達人か何かなのか。

水無月さんは石川の襟首を掴み、引き摺って外に出て行った。


「全く、御老体は相変わらず恐ろしい。さて、次は俺の番だな。羽多野祥、21歳だ。アダムはあらゆる武器を使いこなせる“Weapon”。宜しく。」


「宜しく。同い年くらいかなとは思っていたけどまさか年下だったとはな。」


「大人びていると言われたと思っておく事にしよう。杵築と大塔も宜しくな。」


「宜しく。」


「……。」


ん?

宗司が何やらまた思案顔だな。


「さて、俺も部屋に戻るとするかな。作戦明けでまだ眠くてな。スパイに関して何か分かったらまた教えてくれ。」


「ああ。」


水無月さん達に続いて羽多野も部屋を後にした。


「おい宗司、さっきからどうしたんだお前?何かおかしいぞ。」


「そうね。私もそう思っていたけど何かあったの?」


「いや、何でもない。」


確実に何でもある顔と返事だな。

まあ無理に聞こうとは思わないが。

誰にだって人に話しにくい事はあるだろう。


「ならいいけどな。で、俺達はどうする?」


「夕食も摂った事だし皆と一緒で解散という事でいいんじゃないかしら。各々やりたい事もあるだろうし。」


「そうだな。じゃあ博士、俺達も部屋に……って俺達の部屋はどうなってるんだ?」


「ふむ、一軒家は今空いておらんの。アパートなら丁度三部屋空いている所があるから取り敢えずはそこに住んでもらうしかないの。」


アパートか。

まあ俺は雨風凌げてそれなりに寛げる部屋なら何でもいい。

パーソナルスペースさえ確保出来ているのなら問題はナッシングだ。

だが凛はどうなんだろうか。


「防音がしっかりしているのならそれでいいわ。」


「その辺りは製作者のお墨付きじゃ。細かい所にはやたら凝るからの。」


「ならそのアパートで良いです。宗司も良いわよね?」


「……ん、ああ、ええで勿論。ほな早速行こか。」


うーん。

無理に聞こうとは思わないけど、やっぱ気になるな。

抜けているというか惚けているというか。

とにかく心此処にあらずって感じだ。

とは言え宗司が話したがらないのなら仕方ない。

話せる様になるまで待つか、それとも宗司が勝手に解決するか。

どちらかに落ち着くだろうから、やっぱり気にしても仕方ない。

さて、俺達は司令塔を出て件のアパートにやって来た。

空いている三部屋は全て二階にある。

階段を上って直ぐの部屋には住人がおり、その隣から三部屋って感じだ。

間取りは全ての部屋で異なる様なので一度見てからどの部屋が良いかを決めるかという話になったんだが。


「私は別にどれでもいいわよ。」


「俺もそんな感じでええで。」


自己主張の無い奴らだ。

どれでもいい何て言う奴に限って決まった後に文句を言い始めるんだ。


「……じゃあ俺は一番角で。」


「なら私はその隣でいいわ。」


「俺はその隣やな。」


今の所文句は無しか。

それならそれでいいけど。


「じゃあおやすみなさい。」


「あ、ちょっと待ってくれ凛。」


「何よ。詰まらない要件なら地獄の果てに飛ばすわよ。」


万能過ぎるだろ。

殺すとかじゃなくて地獄に直行とか。


「いやちょっと気になっててな。頼子ちゃんと話してた時にお前無理矢理話題転換しただろ?何でそんな事したんだ?」


「……そうね。此処にいる以上何時か耳にする事だし、話してあげるわ。2052年の10月15〜17日に何があったか、覚えているかしら。」


2052年の10月……。

ふむ、確かに何かあった様な気がする。

その月、その日にと言うよりその年に。


「2052年10月と言えば、ヨーロッパやな。」


「ヨーロッパ……あ。」


「そう、その年は色々な事が起きたけれど結果的に国、と言うよりは大陸、それが一つ消え失せたのはその災害だけだった。」


「……あれをやったのが頼子ちゃんだって言うのか。」


「ええ。」


2052年10月15、16、17日に起きた“たった三日の崩壊”と呼ばれる超自然災害によってヨーロッパは消滅した。

実際には消えた訳ではなく、単純に人が干渉出来なくなっただけだが。

最初の日照りによって湿度0%、干ばつ遅滞へと変え、その数時間後から降り始めた大雨は大地に潤いを与えるどころか凡ゆる地域を水没させた。

二日目、地震による地割れで水は引いたが代わりに凡ゆる建造物は崩壊し、落雷によってその瓦礫に火がつき街を炎で埋め尽くした。

三日目、死に切った大陸に高さ1kmを超える津波が襲いかかり全てを流し尽くした。

そして現在、ヨーロッパの周囲には高さ一万kmを超える水の壁が聳え立っており、中に入ろうものなら、というかその壁に触れた瞬間、触れた物質はまるでダイヤモンドカッターで豆腐を切る様にスッパリと切られ無くなる。

それ故にヨーロッパ大陸は現在誰の手も及ばない不可侵領域になっている。


「そんな事態を、頼子ちゃんが引き起こしたって言うのか?とてもじゃないが信じられん。」


「せやな。俺も信じられへんわ。あの子がそんな事する様には思えん。」


「そうね。私も思わない。けれどそれが事実なのよ。尤も、私もそこまでしか知らないわ。詳細は博士かパパしか知らない。ただ、頼ちゃんが家に来た時、それは“たった三日の崩壊”が起きて直ぐだったんだけど、とても憔悴していたわ。だから思うのよ、きっとあれは起こしたくて起こしたものじゃないって。勿論そうとは言ってもやってしまった事に変わりはない。亡くなった人達はさぞ恨んでいるでしょう。それでも私は彼女を愛おしいと思っているわ。だから、何であれ彼女に害を成す者は叩き潰す。」


……相変わらず怖いなこいつは。

でもまあ、そうだな。


「それは俺だって一緒だ。」


「俺も同感やな。過去がどうあれあの子はあの子や。現在をどう生きるかが重要なんとちゃうかな。結局身内贔屓の綺麗事かもしれんが。」


「それは否めないわね。でも人間ってそういう生き物だから仕方ないわ。」


確かに。

他の動物がどうかは知らないが、少なくとも人間には感情がある。

そして知性がある。

それらがある以上何かを良いと感じたり悪いと感じたりするのは仕方のない事だ。

他人の不幸が必ずしも自らにとっての不幸とは限らないし、自らの幸福が他人にとっての幸福とは限らない。

大勢の人間がこの世から消え去り、その元凶は頼子ちゃんにある。

絶対的に見れば悪いのは頼子ちゃんという事になるのだろう。

だが相対的に見れば、一方だけが単純に悪いとは言い切れないものだ。

勿論あの場で何があったのかを俺達は知らないから、ただただ盲信しているだけの可能性は無きにしも非ずな訳だが。


「……あれ、そう言えば俺がした根本的な質問の答えにはなってない気がするんだが。」


「ん?ああ、話を逸らした理由ね。頼ちゃんにはその時の記憶が無いのよ。と言うより、それが起きた事自体を覚えていない。」


「それはつまり、ヨーロッパが“たった三日の崩壊”で滅んだ事を知らんっちゅう事か?」


「ええ。自ら記憶に蓋をしたのか、それとも何か外因があったのか。それは分からないらしいわ。だから頼ちゃんが思い出さない様にその辺りには気を付けろってパパに言われてたのよ。」


成る程。

だからあんな無理矢理な話題転換をしたのか。


「合点がいった。俺も今度から気を付ける事にする。」


「当たり前よ。もしあんたが彼女の記憶を引き出すなんて馬鹿な事をしたら、伝説の拷問師も思い付かない様な責め苦を一年中続けるわ。」


「それだけ拷問出来るってもう世界記録だろ……。」


「冗談よ。さてと、長話に切りもついた事だし私はお暇させてもらうわ。宗司、さっさと悩み事を解決しなさいよ。これから忙しくなるんだから。」


ズバッと言い残し凛は消えた。

こんな事で能力を使うなよな……。


「ほんまに一々言う事がキツイ女やな。」


「同意せずにいられない。だけど本当にさっさと解決しろよ?何時迄もうだうだやってるなんてお前らしくないぜ。」


「あらら、薫にもお見通しやったんやな。」


「明らかに考え込んでたからな。まあそれが悩み事なのかどうかまでは分からなかったが。俺に出来る事があるなら相談くらいしろよ?」


「大丈夫や。心配は有り難いけど直ぐケリつけたるわ。じゃあ俺もそろそろ寝るわ。もう今日は疲れて疲れてしゃーない。」


「ああ。じゃ、お休み。」


「お休み。」


……ふむ。

悩み事なのは分かったけど、直ぐにケリをつけられる程度の悩みなのか。

なら心配する必要は無いな。

何かそこまで重大じゃなさそうだし。


「ん、んんん!よし、俺も寝るか。」


地下だというのに下りてきた夜の帳から抜け出し俺は眠りについた。

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