蜜の興奮
「はあ……はあ……はあ……。」
俺は興奮している。
扉の向こうにある風景、自分が見たいと切望していたそれがあった。
それは非力な自分ではどう足掻いても実現させる事の出来ない。
だからこそ思い、興奮する。
ザクザクザク。
何度も何度も、目の前にいるそいつと物体と化した『それ』が奏でる不協和音に耳を傾ける。
心地好い。
こう思うのはおかしい事だろうか。
そんな事は無いと断言出来る。
何故なら望んでいた事だからだ。
俺はそれを望まずにはいられなかった。
俺も加わりたい。
なあ、ちょっとくらいいいだろ?
俺だってやりたいんだ。
飛び出して言いたいくらいに。
『……たまにはそういうきっかけもいいか。』
「は?」
声を発してから自分の過ちに気付いた。
目の前にいたそいつは、その行為を生業にしている訳じゃない。
俺の事を見込んで仲間にしてくれる訳でもない。
そいつはただ声のした方を振り向いてにやりと笑っただけで。
そいつは段々と近づいてくる。
ぎらぎらと鈍い光を放つ物を右手にしながら。
『ばんじきゅうすだな。さてどうする。このままいのちをけすか。それともあらたなせかいをつくるか。』
一体誰のせいでこうなったんだと思いながらも俺は冷静に考える。
時間がやけに長い。
扉の向こうのそいつは、嬉々としてこちらに来ている。
筈なのにやけにスローに見える。
「新たな世界ってなんだ?」
『それはきみがきめることだ。』
「そうか。」
そいつはまだ来ない。
さっさと来ればいいのにと思いながら、俺は結論を出した。
「じゃあ新たな世界で。」
『ずいぶんかるいいいようだ。きにいった。よろしい。きみをつぎの権限者。DynamicWorldのにないてとみとめよう。』
瞬間、そいつと俺の世界は逆転し、俺は望みを実現した。
実現をしない事で。