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親子シリーズ

俺と息子。

作者: 緋絽


どうも、緋絽ですm(_ _)m

その節はお世話になりました。え?お世話してないって?またまたぁ。


………すみません、やってみたかったんです。

きっと自分に罪はないorz



短編です。長いけど。




大樹(だいき)、あなた、確か独り身だったわよね?一人ぐらい養えるでしょ?」

叔母がそう言って体よく押し付けてきたものは、まだ4歳にも満たないガキんちょだった。



「おーら、(しげる)ー、起きろー」

布団で丸まっている幼稚園児(男)の頬を軽く叩く。

邪魔すんじゃねぇとばかりに滋が体全体を背けた。

「よい子の幼稚園児は起きてる時間ですよー」

滋が布団を被る。

こいつ!うるせえとか思ってやがるな!?

布団を乱暴に剥ぎ取って滋の前髪をグシャグシャにかき混ぜる。

「遅刻するっつってんだよ!さっさと起きやがれ!」

滋がボンヤリと目を開けた。

「おはよう寝坊助。飯食って出掛ける準備しろ。迎えのバス来んぞ」

「…………うん」

ノロノロと滋が着替え始める。

こいつを引き取って3ヶ月。

ようやく生活リズムがなじみ始めた。

朝飯を終えた滋と滋の荷物を抱え上げ全力でバス停まで走る。

バスの発車直前に着いて今日もなんとか滋を送り出した。

────滋は、俺のかなり遠縁にあたる人の子供だった。

親は離婚していて母親に引き取られたが、その母親が病にかかり死亡し、父親への連絡先は残されていなかった。

その後色々なところをたらい回しにされ、今に至る。

滋は、寝起きが悪い以外、手の掛からない子供だった。



「やっべえ」

残業をしてしまったせいで、幼稚園へ迎えに行くのが遅くなった。

「遅れてすみませーん、保利 滋の迎えに来ましたー!」

俺の声に奥から先生が出てくる。

「あっ滋君、お父さんきたよー」

お父さんじゃないですけどね。

「先生違います。大樹さんはお父さんじゃないです」

滋が鞄を肩から下げて出てきながら言った。

「えー?何言ってるのよ滋君」

冗談言ってー、と先生が笑う。

冗談でもねぇけどな。

「今日は遅かったですね。お仕事、大変だったんですか?」

「はぁ、まぁ。書類の整理がなかなか終わらなくて」

「そうだったんですねー。滋君、いい子にして待ってましたよ」

「あ、そうですか」

靴を履いた滋が出てくる。

「おし、帰るか」

滋が頷いた。

「ほんと、遅くまですみませんでした。失礼します」

頭を下げて幼稚園を出る。

しばらく無言のままテクテクと帰路についていた。

俺はなんとなく滋の顔を見た。

特に何の表情もない、普通の顔。

こいつって、子供っぽくないよな。

「滋、ごめんな。今日遅くなって」

「……平気」

「なんか食いたいもん、ある?」

「…おにぎり」

「おにぎり!?……よ、よしわかった。具は?」

「塩むすびが、いい」

通な食い方だな、幼稚園児にしては。

「了解。んじゃ今日は唐揚げにすっか」

「うん」

滋が頷いた。

無表情。でも、感情がないわけじゃないだろう。

俺は滋の頭をグシャグシャとかき混ぜた。

滋が頭を押さえて俺を見上げた。驚いたように少し目を丸くしている。

俺は笑ってから滋の手を取って歩き始めた。

そっと滋が握りかえしてくる。

小さな手は、とても温かかった。



芋掘り保育。

という物があるらしい。

滋の幼稚園の鞄を漁っていたらそんなのが出てきた。

お父さんお母さんとおいもをほろう!

とイラストと一緒にデカデカと書いてあった。

まぁ、それはいい。

問題は、これが3日前に渡されてた物だってことだ。

滋が幼稚園からの手紙を出し忘れることなんて今までなかった。

つまりこれは、意図的に隠そうとしてたのかってことで。

「おーい滋くーん。ちょっと来なさーい」

机を指で叩いて滋を呼ぶ。

「どうかしたの?」

相変わらずちょっと無表情な滋が本を置いてこちらへ来た。

目の前に座らせる。

「これ、どした?」

手紙を見せるとビクッと滋が目を逸らした。

「え、えっと…」

「こういうのはちゃんと報告しろって言ったよな」

見る間に滋の顔が曇っていく。

あの、とか、えっと、とかモゴモゴ言っている。

俺は溜め息を吐いた。手を伸ばして滋の頭をグシャグシャとかき混ぜた。

滋がそろりと俺を見上げた。

子供には、保護者が全てだ。

特にこいつの場合は。

「俺は怒ってるわけじゃねぇぞ、滋。嘘吐かずに、ちゃんと理由言ってみな」

滋が探るように俺を見た。

本当に怒らないのか、気にしてるようだ。

「本当だよ。俺はお前に隠し事されんのが嫌なだけだ。ほれ、言ってみ」

躊躇うように滋が目をさまよわせた後、きつく唇を閉じた。

「……この間も、遅かったから」

「え?」

「この間も、迎えに来るの、遅かったから。…これに来たら、大樹さん、また残業しなきゃいけなくなるでしょ。……疲れるじゃん」

滋が俯く。

こいつ、マジで子供っぽくねぇよな。

「滋」

「……はい」

脇に手を入れて滋を引き寄せる。

たった3ヶ月なのに、この時期の子供は驚くほど成長する。随分重くなった。

「ばーか」

額に凸ピンを喰らわせた。

滋がのけぞった後に驚いたように目を丸くした。

「ば、ばかって」

「ばかだろ」

滋の頭を軽く叩く。

「お前はな、変に気を遣わなくていいんだよ。幼稚園児のくせしてませたこと言いやがって」

「だって、」

グシャグシャとまた滋の頭をかき混ぜる。

「いい子は黙って甘える時です、滋君。お前はまだ気にしなくてもいいんだから」

「………」

「それとも何か?俺に来られちゃ迷惑か?」

同じクラスのガキんちょにイヤなこと言われたかな。

「ち、違う」

滋が俺の腕を握って首を横に振った。

その必死さに笑えてくる。

脇腹をポンポンと二回叩く。

「じゃあ、行ってもいいな?がっぽり芋掘って、食費浮かせよーぜ」

滋が強張ったように引き結んでいた唇を少し緩ませた。

嬉しいとか、思ってくれてたらいいなー。

あれ、これ父性?父性芽生えたかな?まぁ、いいか。

滋の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してニカッと笑う。

こいつといんのは、悪くない。



芋掘り保育も終わり、季節は冬になっていた。

「す…すんません。また、残業で…」

「もー。またですかー?困りますよ、滋君のお父さん」

だから、父親じゃねーって。

「先生、怒らないでください。あと、大樹さんは僕のお父さんじゃないです」

滋が靴を履きながら言った。

あら、滋君また冗談?と先生が苦笑いする。

「すみません、場所を変えてお話してもよろしいですよね?」

疑問じゃなく、確認ですか。

保護者の都合は考えないんですか?子供、早く返さなきゃいけないのに矛盾してませんか?

と心の中で屁理屈をこねてみる。

はい、すみません。どう考えても俺が悪いです。

滋を教室に残し、昇降口に連れて行かれ、なんとなく肩身の狭い気分になる。

このところ一週間近く残業が続き、滋を迎えに行くのが遅くなっていた。

こりゃ早々に働く部署変えてもらわなきゃダメかな。でも、滋の将来考えたら学費いるしな。最近の学費はバカにならねえって言うし。

「はぁ…すんません」

「子供がこんな時間まで家の外にいるなんて、子供の精神衛生上も、身体的にも悪いんですからね?わかってますか?」

────わかってるから謝ってんじゃねーか!

愚痴が思わず口から飛び出しそうになる。

ただでさえ忙しくて参ってるときに、正論での攻撃は痛い。モーレツに痛い。つまり、ストレスにしかならないのだ。

わかってても自由に動けないのが人間というものです。

「はい、そりゃもう」

「明日は早く来られますか?」

ウグ、と言葉を呑み込む。

む、無理かもしれない。

年末だから書類整理だ、忘年会の幹事だなんだと忙しくなってきているのだ。

俺はこれでも早めに帰らせてもらってるほうで、今でも会社では同僚や先輩達が目を血走らせて悪鬼の如く形相で働いているだろう。

その時、ボソッと小さい声で、「今日は合コンだったのに…」と聞こえた。

ごめんなさいという気持ちが波が引くように薄れていく。

それと同時にあぁ、なんだ、と納得した。

ようはお前は早く帰りたいだけなんだろ?そりゃ迷惑かけてんのはこっちだし、明らかに俺が悪いけど、そっちは自分でその職業選んだんだから、───仕事は仕事だって割り切りやがれ!

ガキの精神衛生上とか身体的とか偉っそうなこと言いやがって!いや確かに悪いけど!それでもガキを理由に早く帰そうとする態度が気にくわねぇ!

ここまできて俺のストレスによる不機嫌は絶頂を迎えていた。

もともと些細なことでイラつく短気な性格も相まって、最悪なほど機嫌が悪かった。

「滋!帰るぞ!」

俺の怒声にウトウトしていた滋がビクッと体を竦ませた。慌てて隣に走ってくる。

あ、やべ。滋に当たるとか───。

ちょっとした罪悪感に苛まれる。

「ちょっと、お父さん!大きい声出さないで───」

その一言で。

プッツンと何かが切れた。

「父親じゃねーよ」

突然の俺の言葉に幼稚園の先生が絶句する。

「俺は、こいつの保護者であって、父親じゃねぇ」

そう言って返事も聞かずに滋の手を引いて幼稚園を出た。

俺はただ、苛立ちを幼稚園の先生の驚愕の表情で紛らわせれたことに満足して歩き続けていた。

───隣で滋が、どんな顔をしてたかも気づかずに。



その翌日のことである。朝から雪が降っていて、とても寒い日だった。

前日の晩に何話しかけてもぼんやりとしてたから、なんかおかしいとは思っていた。

突然、幼稚園から電話があった。

『───昼休みが終わってから滋君がいなくなりました』

電話先で昨日の先生が泣きながら話したことにしばらく呆然とする。

「は?」

『申し訳ありません!少し、目を離した隙に…っ!』

ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続ける先生じゃ今は当てにならないので、割と年配の先生に代わってもらう。

その先生の話では、今日は珍しく朝から情緒不安定で、同じクラスのガキんちょに突っかかったり、泣いたりと大変だったらしい。

また、そのたびに俺の名前を呼んで、ごめんなさいと言っていたとか。

こりゃ本格的にお父さんと話つけなきゃね、と言っていた隙に脱走。

話をするのではなく、話を『つける』というところに注目していただきたい。

……どこの子供に虐待する父親だ。

「警察へは?」

『まだです』

「わかりました。俺も心当たりのあるところ探します。それで見つからなかったら通報するかどうか話しましょう」

『はい』

電話を切って汗ばむ手で半休を取る手続きのためにペンを握る。

初めてかける手間が脱走かよ!

とか思いつつ、心臓の音がドコドコ太鼓のように鳴るのを必死で抑えようとしていた。

大丈夫だ。こんな平社員のガキなんか誰も誘拐なんかしない。

でもあいつ割と可愛い顔してっからなぁ!どこぞの変態が連れて行くってこともあるかもしんない。

人生最大というぐらいの焦りが全身を貫く。

いや、あいつ、男だし。いやいや、ショタコンとかいう性癖の奴もいるし。

別に人の性癖にケチをつけようとは思わないが、それに当てはまる者が側にいるとまるで落ち着かない。

会社を出るときにはすでに駆け足だった。

思い当たるといっても半年で俺とあいつが一緒に回ったところなんて数はたかがしれている。

ほとんど毎日幼稚園と家の間を往復してたのだから。

何度も同じところを確かめに行き、道を通りかかった人に携帯の写真を見せて滋を見たかどうかを訊く。

全然めぼしい収穫なんてなかった。

───ちくしょう。

「ちくしょ…っ!どこだ!滋!」

不安で仕方ない。

怪我をしてたらどうしよう。

それが例えば一生残る傷だったら?今のご時世、男の子だって顔に傷があったら大変だ。無邪気に公園で泥だらけになって遊ぶ時代は過ぎ去った。今では怪我をしてたら人為的であることがほとんどなのだ。

携帯が鳴る。幼稚園からだった。

『あ、あの、滋君の…えーっと』

昨日の先生から話を聞いたのだろう、俺をなんと呼ぶか迷っているようだった。

「大川です!なんすか!」

『滋君、見つかりましたか?』

「まだです!」

『そろそろ、警察に…』

「もうちょっと捜させてください」

なんとなく、この時、真っ先に滋を見つけるのは俺じゃないとダメな気がした。

『でも、大川さん、あなたもう3時間捜しっぱなしですよ?あなたが風邪を引いてしまいます』

「俺が引くなら、あいつだって引きます」

言い切って返事も聞かずに電話を切る。

3時間。そう言われるととても寒くなってきた。

「───つーか、滋はなんで脱走なんか…」

ふと、幼稚園の先生の言葉が甦る。

“お父さん、ごめんなさいって…”

───え?マジで?

そういえば、時々、俺を見ては口をパクパクさせてたっけ。

「え?嘘だろ?」

───自分だって、お父さんじゃないって言ってたじゃねぇか!

頭をかきむしる。

どこだ。まだ行ってないところって!

ふと、思い出した。

最初に、滋と会った場所。駅前の、ベンチ。

すぐに大通りに出てタクシーを拾う。

いてくれと、ただそう願いながら。



駅前は混雑していても、ベンチの前はすいていた。

この時間帯の子供の姿はよく目立つ。

正直言って、ベンチに座ってるのを見て、心底安心した。

「───滋!」

行き場が無さそうに足をブラブラさせてた滋が俺の声に顔を上げた。

そして目を丸くする。

「大樹さ…」

「お前ふざけんなよ!」

俺はそう言うやいなや滋の二の腕を掴んでベンチから降ろした。

俺の剣幕に滋が体を竦ませ、近くにいた人が顔をしかめて去っていった。

二の腕を伝って手の平を握る。

酷く、冷たかった。

「大樹さん、ごめんなさ…」

温めるつもりで抱きすくめた。

鼻も頬も赤くなっている。

「謝んなくていい」

無事を確かめるために背中を何度もさすった。

「え?」

「あってるかどうかはわかんねーけど、俺が悪い」

「そ、そんなこと」

滋が首を横に振った。

前はその必死さを嬉しくて笑ったが、今はなんだか泣きそうだった。

強く抱きしめ直す。

「ごめん。父親じゃないなんて言って、悪かった!」

滋の頭をかき混ぜるようになでくり回す。

ひぅっ、と息を吸い込んだのが聞こえた。

大きな泣き声を上げて滋が俺の首にかじりついた。

「ごめん、滋」

「僕が、き、来てから、大樹さん、い、忙しくなって」

「うん」

嗚咽混じりに話すので、苦しそうだ。

背中を叩いて続きを促す。

「だ、大樹さんは、い、忙し、い、からっ、違うお家にまた、行くのかなって」

滋が鼻をすする。

「そんなの、いっ、いやだな、って、お、思って」

「うん」

滋がしゃくりあげながら強く俺にしがみついた。

「───お父さんは、大樹さんが、いいなっ、って」

ヒクヒクと喉を痙攣させている。

宥めようと背中を一定のリズムで叩く。

「俺も」

滋の頭を撫でた。

ちくしょう。涙は出るときは出るのだ。

「お前が息子がいい」



「おーい、滋起きろー」

相変わらず寝起きが悪い。

「よい子の幼稚園児は起きてる時間ですよー」

滋が背中を向けた。

うるせえとか、思ってらっしゃいますね?

問答無用で布団を剥ぐ。滋の前髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。

「遅刻するっつってんだよ!とっとと起きて支度しろ!」

滋がまだぼんやりとしたままの目で起き上がった。

「おはよう寝坊助。早く飯食って歯磨いて着替えろ」

「……うん」

いつも通り支度を終えた滋を脇に抱えてバス停まで全速力で走る。

「お、おはようございます。大川さん。またギリギリですね」

「こいつ起きないんですよ」

「あらあら」

先生が苦笑いする。

「ほら、いってらっしゃいっ」

バシッと強く滋の背中を叩いて前に押す。

「うわっ」

滋が目を丸くした。

「今日は残業しねーから、早く迎えに行くぞ」

「うん」

滋が嬉しそうに笑った。

「行ってきます、お父さん」

バスに揺られる自分の息子の背中を、俺は見えなくなるまで見送っていた。



いかがでしたか?

父と息子の話が好きなんです。個人的に。

なんか、お互い可愛く見えてくるから不思議ですよ。


いつか、滋が中学生になったのも書いてみたい……かもしんない。


読んでくださり、ありがとうございました!

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