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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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8話 決意

 慎也は朝早くに起きた。


 昨日の朝に知ったことだが、この世界の朝は早い。

 魔法があるせいなのか、科学が全然進歩していないので、基本、太陽の出と入りの間が活動時間だ。

 しかし、魔法があるおかげで慎也もそれほど苦労することなく生活出来ている。



 慎也は、緊張で本番を失敗する性分ではない。

 どちらかと言えば、緊張感がある方が上手くいくくらいだ。

 大事な場面ほど冷静になれる、そんな珍しいタイプだ。


 しかし、今日は違っていた。

 いつも朝はなかなか起き上がれないのに、今日は、変に目が冴える。

 漠然と不安が体中を廻っているのを感じる。



 もうすぐ日の出、といったくらいだが、もう出ようと思った。

 メリーに会って、止められたら困るという気持ちがあった。

 慎也の理屈で言えば、応援はされても止められる理由はないのだが、何となく止められ…下手をすれば、泣かれてしまう予感があった。



 村長が起きていなければ、準備体操でもしていればいい。

 最低限、視線が交わる距離まで殺されずに移動できなければ、話にならない。




 そっと扉をあけて、食事をしたテーブルのある部屋に行くと、お母さんと出くわした。


「…これを持って行って。簡単な昼食よ。」


 慎也は受け取ると言った。

「…ありがとうございます。

 村長さんに聞いたのですか?」


 お母さんは首を振ってから、俯きながら言った。

「聞いてないけど、分かるわ…。

 あの人があの男に付いていくことを決めた時と同じ顔だもの。

 いや…あの人の方がまだ、すがすがしい顔をしていたわ。今でも思い出す…。

 …あなたを引きとめてあげなくて、ごめんなさい。

 もちろん、あなたを心配する気持ちはあるのだけど…それを言葉にしたら薄っぺらい言葉になってしまう確信があるわ…。

 …こんなんじゃ、メリーに嫌われてしまうわね。」


 泣きそうなお母さんを見て、慎也は決意が固まった。

 もう決して崩れない決意が。


「…メリーには黙っておいて下さい。

 もし、帰って来なかったら、また旅に出たと言って下さい。

 では…行ってきます。」


「あの人と本当に同じ顔になったわ…。

 最後に聞いて欲しいの。私の名前はマリー。

 あなたの帰りを待っているわ。

 ごちそうと…怪我を治す準備をして。私は珍しい治癒魔法を使えるのよ。

 だから、ちゃんと帰って来てね…。たとえ、1人でも…。」


「はい…。

 マリーさん、ジーンさんは必ず帰してみせます。

 それが…自分の使命だと信じているので。」



 慎也は、マリーさんが何か言いたそうなのに気付いていたが、家を後にした。






 慎也は、村長の家の前に着くとすぐにノックはせず、体をほぐし始めた。

 もう何度もしたことだが、今後のことをシミュレーションする。


 単なるシミュレーションでさえ、手に汗を握る。

 しかし、心はぶれていない。ただ、今は何もない空間を見つめる。



「おはよう。

 準備万端のようじゃの。」


 村長が慎也が外にいるのに気付いたのか、出てきた。

 それほど大きくないリュックを一つを背負っている。

 そして、リュックを地面に下ろすと、1本の剣を取り出した。


「約束の剣だ。持ってみなされ。

 これは特別製でな、魔力が通りずらい鉱石を使って出来てあるんじゃ。

 切れ味は大して良くないが、今回は役立つじゃろう。」



 慎也は剣を鞘から外し、軽く振ってみる。

 振れなくはない。重く感じるが、そんなに振り回す技術もない。

 振り終わると、ズボンの後ろ方で、ベルトで挟んだ。


「いい剣ですね。ありがとうございます。

 …ところで、この剣はそのリュックより大きい気がするのですが…?」



 村長は少し自慢げに説明する。

「昨日、ちらっと言ったがの、高度な魔法による物じゃ。

 空間が広がっているだけじゃなく、重さも軽減されるんじゃ。

 ただ、小まめに魔力を供給しなくてはならんのと、リュックに蓄えられておる魔力が切れると、中身を全部失う羽目になってしまうから、使ってる者は少ないの。

 1回に供給する魔力は少ないが、長時間使えば馬鹿にならんしの。」



「それは、すごいですね。

 ところで、マギーという魔法使いがいる場所はどれくらい離れているんです?」


 慎也が聞くと、村長は


「歩けば3日くらいかの?」


「ええっ!そんなにかかるんですか?」


 慎也は、今日にでも対決するつもりだったので驚いた。

 すると、村長はドヤ顔で言った。


「移動手段は任せておけと言ったはずじゃ。

 …取り敢えず村を出るぞい。」




 村長と慎也が村を取り囲む柵を出て、村人から見えないことを確認し、村長は指笛を拭いた。


「何かを呼んだのですか?」


 慎也が聞くと、村長はにやにやしながら言った。


「まぁ、待っておれ。すぐに来る。」



 少し待っていると、山の方から何かが猛スピードで近づいてくるのが見えた。

 慎也が、時折ジャンプしてるなぁ…などと思っていると、その姿が確認できた。



 1匹のオオカミである。

 慎也はこの世界に来たばかりの時に、山で遭遇したことを思い出し、足がすくむの感じた。

 しかし、どうにか背を向けたい気持ちを抑え、視線を交えようと試みる。

 すると、急に村長が話しかけてきた。


「こいつはのぉ、一族の中では異端での、人間に興味があり、いきなり襲ってくることもなかったんじゃ。

 村を作る時には、大神様との仲介役もやってくれて世話になったもんじゃ。」


 村長は親しい友人のことを話すかのごとく穏やかな目をしていた。


 オオカミの大きさは、オフロードに強そうな乗用車くらいあった。

 慎也が山で出会ったオオカミと大して体長は変わらなそうだが、断然ゴツかった。

 普通の人なら4~5人は乗れそうだ。



「さて…行くかの。

 速いから落とされんように気をつけるんじゃぞ。

 飛ばせば30分でも着きそうじゃが…わしも年だしの、2時間くらいはみてくれ。」


 村長がそう言うと、オオカミは『伏せ』のような体勢になった。

 村長は、慣れた様子で乗ってしまう。



 慎也は、少し躊躇った後、よろしくお願いします、と頭を下げてから乗った。


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