7話 自分の居場所
村長は少し怒ったような調子で言った。
「だめじゃ。
この村と大した関係のないおぬしを、あの男のところに連れて行くなど出来ん!
わざわざ死に行くようなもんじゃ。
…それより、さっきのアレは何じゃ?
急に思ったように喋れんくなったと思ったら、了承していた…
まるで…自分の口じゃないようじゃった。」
慎也は混乱した。
手伝ってくれる、と言ったと思ったら、すぐに断られた。
そして、それは自分のせいらしい。
慎也は目を閉じて思考する。
(村長さんはオレに了承させられた?
そういう魔法があるならば、実は魔法を使えると疑うはず…たぶん
そうではなくて、経験と知識ともに豊富そうな村長さんが知らないならそんな魔法は存在しない。
と…なれば、オレ固有の魔法もしくは能力である可能性が高い…)
慎也は説明するのをためらったふりをして言った。
「あれは…人に言うことは避けていたんですが…しょうがないですね。
今は、ほとんど無意識で使ってしまったんですが、あれは私の特殊能力です。
視線が絡まると相手を思いのままに操ることが出来ます。
勝算がまったくなくて、言ってるわけじゃありません。
オオカミもそうやって退けたんです。」
村長は驚いた様子で言った。
「なんと!魔法を無意識で使ったと言うんか!
この村の者でも、座学の途中で使ってみたいという明確な意思と知識で持って使用出来たんじゃ。
そんなことは初めて聞いたぞぃ。
…それに個人特有の魔法など…作り出したならともかく、もともと持っているなど…あり得るのか?」
慎也は、自分の説明がこの世界では現実的にありえないことだったことを悟った。
しかし、慎也は焦りを押し隠し、強引に話を持っていった。
「そんなことはどうでもいいんです。
今、お聞きしているのは、自分の誘いに乗るか乗らないかです。
別に村長さんが断るのならば、1人で行くまでです。」
行くのは当然だと言わんばかりに平然としている慎也を見て、村長は悩んだ。
そして、どちらも声を発しない時間がしばらく続いた。
「…分かった。
おぬし1人を行かせるわけにはいかん。
……ひとつ教えておくれ。…どうしてそこまでジーンを助けることにこだわる?
恩があるのは想像出来るが…命には代えられんぞ…。」
村長はいきなり年をとったかのごとく、覇気がない様子で言った。
「それは……自分の進むべき道であると信じているから…
…なんて言えたらカッコいいですけど。
そんな大した物じゃなくて、ただ何かすべきことがあって欲しいだけなのかもしれません。
何かにすがりたい…とも言えるかもしれません。」
慎也の様子があまりにも切実で、村長はこれ以上行くのを止めるようには言えなかった。
村長が顔をあげると、その瞳の奥には静かだが、並々ならぬ闘志があった。
「いろいろと準備が必要じゃな。
今日の出発は無理じゃ。
それと…わしに出来ることと敵の情報じゃったな?
わしはいわゆる後方支援の魔法しか役に立ちそうなのは使えん。
相手が相手じゃしの。
じゃが、移動は任せてくれ。遠いがすぐに着くようにしてみせちゃるわ。
相手の情報はほとんど分からん。
禁忌とされるような魔法を平然と使い、魔力も優れておる…くらいしかの。
おそらくじゃが…ジーンよりは戦闘能力はないんじゃろうな。
そうでなければ、わざわざ脅さずにジーンを倒せばよかったはずじゃ。
…何か必要なものはあるかの?」
慎也は少し考えてから言った。
「…剣を一振り欲しいです。
あまり重くなくて…技術がないので、性能がいいのがいいんですが…。
あとは…大丈夫です。
出発は出来るだけ早い方がいいので…明日の朝、出発します。
すぐに正面突破するとは言わない…と思いますが。」
「…剣は村で最高の一振りを用意しよう。
しかし、防具はいらんのか?その服が防具の代わりになるとは思えんのじゃが…。」
村長は聞くと、慎也は答えた。
「…この服で行くことに意味を持たせるつもりなので、いらない…と思います。
荷物に余裕があれば持っていきたいところですが…。」
「それはわしがどうにかしよう。
かなり高度な魔法じゃが、荷物の重さと体積を軽減できる魔法があるしの。」
村長は久しぶり笑みを浮かべて言った。
「ありがとうございます。
それで…私も明日の作戦を考えたいのですが、どこか居場所が欲しいのですが…。」
慎也はどうにか能力を使いこなすために少しでも時間が欲しかった。
村長にいろいろ頼み過ぎて申し訳ない気持ちになりながら言った。
「それなら、メリーの家に戻るがよい。
断られたりはせんよ。」
村長は笑って言った。
こうして、長い話し合いは終わった。
「メリー、ちょっと話し相手になって欲しんだけど、いいかな?」
慎也はメリーの家に温かく迎えられ、お母さんは忙しそうなのでメリーを捕まえて言った。
「いいよ!
わたしの部屋に来てよ。はやく、はやく!」
メリーは二つ返事でOKした。
慎也は村長の家のことが再現出来るか、他にも何か出来るのか試したかった。
(メリーには申し訳ないけど…お父さんを助けるためだから許してくれるよな?)
慎也は申し訳ない気持ちになりながら、適当な話題を始めた。
「メリーはもう魔法の勉強をしてるの?」
「もちろん、もう14歳だもん!
もう詠唱もいっぱい覚えたんだよ。
でも、きっとお父さんかお母さんと同じ系統の魔法だけどね。」
「お父さんとお母さんの系統以外の魔法も覚えたの?
偉いね。」
「へへっ。だって、もしかしたらってこともあるしね。」
慎也は思った。
(こっちの世界もアイコンタクトが普通なのかな。
今まであまり感じなかったけど、メリーとは目線が外れない。
これは…チャンスだ。)
「…まだ魔法の勉強はしてないんだよね?」
「…うん、まだしてない…えっ?ううん!してるって言ったじゃん。」
「そうだっけか。
お父さんとお母さんの系統以外は勉強しないよね?」
「…うん…って、そうじゃなくて、してるって!」
「あれ?まだ魔法の勉強はしてないんだよね?」
「…だから!……してるって!」
メリーは思うように答えられないことに混乱していたが、自分の答えを言えた。
(警戒されるとダメなのか?
…ただでさえ、相手に言わせたい言葉言わせるだけじゃ役に立たないのに…。)
「ごめん。ごめん。
ところで、魔法って威力が増すごとに詠唱が長くなる…だよね?
威力が結構あるのに、詠唱がすごく短いってことはあるのかな?」
メリーは首を傾げて言った。
「魔法の強さが強くなると、どんどん詠唱が長くなるのは常識じゃん!
それがやなら…簡単な魔法にバカみたいに魔力をかけるか、その家の秘伝の魔法じゃないと…。
王さまとか王子さまなら使えるかもね。
魔力をこめる方はすごく効率が悪いって話だし、魔力に余裕のある人なんて、まぁいないから、あんまり聞いたことないなぁ。」
その話を聞いて、慎也は危機感を抱いた。
(オレの想定が当っているのならば…それはマズいな…。
本当にわざわざ死にいくことになりかねない…。)
慎也が深刻な顔をしているの気づいて、メリーが心配そうに慎也を見た。
その時、机の上から勉強に使っていたであろう紙が1枚、床に落ちた。
メリーは気づいていないようなので、拾おうとした時だった。
「あっ、ありがとう。
って、あれ?」
メリーは慎也の方に1回手を出して、何かに気づいて引っ込めた。
「どうした?」
「お兄さんが落ちた紙を取ろうとしてくれたと思ったんだけど…気のせいだった。」
メリーは恥ずかしそうに笑って誤魔化した。
(…これは…いけるかもしれない。)
慎也の瞳に希望の光が灯った。