6話 村長と話そう②
村長は、昔を懐かしむような口調で語る。
「メリーの父親のジーンは、それはいい男じゃった。
腕っ節が強く、それでいて魔力もわしと同じくらいじゃった。
みんなから頼りにされ、この村にこんなに人が集まったのも、ジーンの人望によるところが大きいんじゃ。
じゃがの…村での生活も安定して、ようやくのんびり出来る、そんな時じゃった。」
村長の様子が変わる。
くやしくて、くやしくて堪らない…そんな顔だ。
「村を訪ねてくる1人の魔法使いが現れたのじゃ。わしよりは若いが、いい歳をした男じゃった。
そやつは、自分のことを『魔法に魅せられた人間』だと説明したんじゃ。
そしてな、世界を旅していて、たまたまここを見つけた、とな。
少し村で休ませて欲しい、と言うんで、滞在を許可したんじゃ。
皆、珍しい来客に積極的に話しかけた。
男は村の外の話をして皆を楽しませた。
そして…その頃は今と違い、他所者に名前教えないということは徹底してはなかった。
村人は皆、魔法を悪用などせんし、来客などなかった。
そして、その男が滞在して3日目の夜じゃった。
男は自分はこの村を出るから、皆を集めるように頼んできたのじゃ。
わしが皆を集めると、男はジーンを見つけ、こう言ったんじゃ。
『私は何人もの村人の本当の名を手に入れた。
私は、自分より格段に魔力の弱い者なら自由に操れる。自由にだ。
殺すことも、他の村人を殺させることもな…。
ジーン、流石にお前は操れない。
お前が私に絶対服従を誓うのならば、村人には一切、危害を加えないと誓おう。
まだ、幼いメリーにも…だ。…どうする?』
男の言う通り、自分より魔力が格段に落ちる者しか操れないんじゃが…
自分から望んで…となれば、話は別じゃった。
そして、ジーンはそれを了承したんじゃ。
後は男に怖いものは、この村にはなかった。
わしは確かに魔力はあるが、ジーンのように戦闘に向かなかったからの…。」
慎也はいろいろ分からないことが多かった。
少しの間、沈黙を保って、整理してから村長に尋ねた。
「つらい話をしていただいて、ありがとうございました。
…これがこの村で本名を呼ばない理由…ですか?」
「そうじゃ。
自警団のしっかりあるような大きな街なら別なんじゃろうが、この村ではこうすると決めたんじゃ。
…すまんの。おぬしはしっかり名を教えてくれたのにのぉ。
じゃが、みんなで決めたことをわしが最初に破るわけにもいかんくての。
おぬしのように…綺麗な瞳をした人が悪者のわけがないんじゃが。」
慎也は雰囲気に居たたまれなくなって、話題を変えた。
「魔法について、もう少し詳しく教えて貰っていいですか?」
村長は努めて笑顔を作って答えた。
「そうじゃった、そうじゃった。
自分にどんな才能があるかは誰もが気になるところじゃ。
じゃが、すぐには魔法は使えん。勉強が必要じゃ。
でものぉ、15歳を超えておるなら、才能があるかどうかは大体分かる。
調べちゃろう。」
そう言って村長は握手を求めてきた。
慎也は話の繋がりが分からなかったが、取り敢えず手を重ねた。
村長はぐっと手に力を込めながら話かける。
「魔法がどのくらい使えるかは、魔力と適性によって決まるんじゃ。
魔力が少なければ、特に適性の高い魔法しか使えん。
逆に、魔力が多くても、適性の低い魔法は無駄に魔力を使って大した威力もないんじゃ。
そして、今は魔力を測っとる。
魔力を流すことで、自分より低い魔力の者に対してはどれぐらいか分かる。
わしより多いことはまずないじゃろうが、その時はわしより上としか分からん。
そしたら、まず間違いなく、人の中ではトップクラスじゃろうな。」
慎也は魔法を仕事に出来るのは50人に1人というのを思い出して、期待しないように自分に言い聞かせていた。
(正直…魔法はかなり使ってみたい!
それに、どんな魔法があるかは知らないが、武術も使えない自分がこの世界を生き抜くにはあって損はないのは明らかだ。
それより…この魔力検査はいつまでかかるんだ?)
「あの…まだですか?」
慎也がおそるおそる尋ねると、村長は目を点にしていた。
「…ふむ……わしよりは魔力は多そうじゃな。
あのジーンが、わしの出会う生涯最高だと思っておったんじゃが…。」
慎也は、村長がどれくらい多いか理解していなかったので、少し迷った後に聞いた。
「え~っと…村長さんはどれくらい魔力があるんですか?
それと、村長さんより魔力の多い人は世界にどれくらいいるんですか?」
「そうじゃな…まぁ、経験則になるが、平均の1000倍くらいかの。
魔法を仕事に出来るかどうかは適性より魔力が問題じゃからな。
わしより上となるとなぁ…100人はおらんじゃろ。
だいたいは王族とかじゃ。
じゃが、ある程度魔力が多ければ、適性が重要になってくるんじゃ。
ジーンより魔力の少し多いわしが、ジーンを助けられないようにのぉ…。」
慎也は村長の説明に心躍るのを感じた。
そして、最初は反対されると思って言わなかった考えを述べた。
「村長さん…自分は、そのジーンさんを助けに行こうと思います。
もともと、あの山で死んでもおかしくなかったんです。
だったら…世話になったメリーとメリーのお母さんに恩を返したい。
だから、そのために魔法を教えて下さい。」
慎也は真剣な声で言った。
「…だめじゃ。
魔法はすぐには使えないんじゃ。知識だけならまだしも、鍛錬が必要じゃ。
何より、魔力が高ければ強いわけじゃなくての。
さっきも言うたが、得意魔法の種類などが重要になってくるんじゃ。
何より危険すぎるしの…。」
村長はすぐに否定してきた。
それが慎也の身を案じての物であるため、無碍にすることは出来なかった。
慎也は目を閉じて考え込む。
集中力が増し、周りが気にならなくなる。
そして、目を見開き言った。
「…では、魔法は必要ありません。
それに、1人で行くわけではありません。
村長さんも手伝ってくれますよね?
村長さんが今、出来ることを教えて下さい。
そして、敵の目的などを出来るだけ詳しく。」
村長さんと視線が絡み合う。
慎也はここだけは引く気はなかった。
自他共に認める理屈タイプではあったが、今は…この世界に来てからは直感ばかりに頼っている。
理屈で考えれば、今すぐ助けに行くのは合理的ではない。
どう考えても、魔法を覚えてから行くべきだ。
しかし、慎也はすぐにでも行かなければならないと感じていた。
そして、村長は口を開こうとしたり、閉じようとしたりを繰り返してから答えた。
「……分かった、手伝おう…。」
「ありがとうござ…」
慎也は、人のいい村長が断ると思っていたので、了解を貰えて、喜んでお礼を言おうとすると…
「だめじゃ!!」
村長が言った。
「…えっ?」