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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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46話 半年後

「おっ、来たかの」

 何でも屋の建物の中から、外の様子をのんびり眺めていた社長が穏やかな笑顔でつぶやいた。



 慎也とルーイが楽しそうに話をしながら、何でも屋に入ってきた。

「社長、おはようございます」

「おはよーございまーす!」


「はい、おはようさん。

 今日は、おまえさんたちに合った仕事はないから、鬼ごっこでもしとくんじゃな」


「はーい」

 社長の『鬼ごっこ』の単語に嬉しそうに反応して、ルーイは嬉しそうに答えた。

 一方で、慎也はため息をついて、憂いを顔に出した。



 慎也とルーイが何でも屋を後にしようとしていると、社長が声をかけた。

「慎也くん、姫さんのところにも顔を出すんじゃぞ。

 大した用がなきゃ、会いに行っちゃいかんと思うてるようじゃが、わしからの仕事だとでも思っておきんしゃい。」


 慎也は社長と目を合わせると、軽く会釈をして何でも屋を後にした。



 ◆◆◆



 慎也とルーイの鬼ごっこはいつも慎也が鬼だ。

 ルーイは全力で(・・・)逃げる。


 そして、基本的に2人の鬼ごっこは人気の少ないところで行われる。

 今日の舞台は、国境近くの安全な森だ。


 ルーイの全力は抜群に速い。

 本来の姿ではないとはいえ、その機動力はそこらの動物や魔物であっても、まず及ばない。

 木々の隙間をすり抜け、連続した機敏な方向転換。

 それどころか、木の幹を足場にして立体的な動きも見せる。


 慎也はルーイまであと少しのところに近づき、目の前に木がある。

 方向を変えるには若干の時間がかかる。

 この絶好のチャンスをものにするべく、慎也は勝負をかける。

 慎也の手がルーイに届きそうになった瞬間、ルーイの姿が右でも左でもなく、消える。


 慎也の手は空をかき、ルーイは木を利用して後ろにいた慎也の上を跳び越し、慎也の後方に移動する。


「兄ちゃーん、早く来ないともっと逃げちゃうよ?」

 ルーイが、慎也から少し離れたところで首を傾けている。


「ちょっと……ちょっと、待ってくれ」

 慎也は肩で息をしながら、荒い息を一生懸命整えようとしている。

 疲れてはいるが、瞳には諦めは見られない。


「いつも同じ手にはひっかからないよ!」

 ルーイは舌を出し、再び逃げ始める。


 身体能力では全く持って相手にならない慎也だが、いつもやられっぱなしではない。

 確かに、この『訓練』を始めたばかりの頃は、半日かかっても1日かかっても捕まえられる気配もなく、社長に呆れられていた。

 しかし、最近は自分の能力を活かして、虚像や行き止まりに見せかけるなど工夫を凝らすことで捕まえられることも少しずつ増えてきて、時間を区切って勝負という形になった。

 それでも、見失うわけにはいかないし、息が切れるのは演技ではない。

 それに、ルーイだって学習する。同じ手は効かない。

 勝率はまだまだルーイが勝っている。



「時間だ。

 ルーイ、終わりだ。ルーイの勝ち!」

 慎也がタイムアップを告げる。

 そして、慎也は大量の汗を(ぬぐ)うよりもまず大の字に倒れこんだ。

 今日は慎也の負けで、社長のつける訓練は終了した。


 慎也がBランクになり、そして強くなることを誓ったあの日から、慎也はAランクの3人に訓練をつけて貰っていた。

 もっとも、熱心に手取り足取り教えてくれる人など1人もいないが。


 社長はよく訓練をつけてくれる。一見訓練とは思えないが、理には適っている。しかし、実戦にどう活きるのかが分かりづらく、慎也としてはもどかしい気持ちもある。

 受付の自称メシアさんは、実は国のお抱えの魔法使い。水系の魔法が得意で、大規模な魔法も1人で使え、この国で唯一の召喚魔法を使える人物。イリスとも仲が良く、イリスのためだったら私用でも魔法を使う。多くの名前を使い、本名は不明。多忙であるため、めったに訓練は受けれないが、訓練は魔法が次々飛んでくるから、防ぐか避けるかしろというもの。慎也は、単にストレス解消なのではないかと思っている。

 団長は……




「おい、仕事に行くぞ」

 休憩していた慎也とルーイのもとへ団長が声をかける。


 団長は無表情で口数が少ない。

 何の前触れもなく、急に現れる。

 訓練も直接何かしてくれる訳ではなく、たまに自分の任務に同行させるだけ。

 アドバイスも一切ない。

 要は、『見て学べ』ということだ。

 実戦形式ではあるが、効率は悪い。


 慎也も最初は気づかなかったが、初めてパール王国に入国する時の門番はこの人だった。

 攻撃力・速さ・技の多彩さにバランス良く(すぐ)れ、細かな変化にも気づき、抜け目がない。

 しかし、自分のペースでしか行動できず、協調性がない。

 さらに、実戦ではない訓練は大嫌い、と何とも扱いづらい人物なのである。



 今回の仕事は、団長と慎也とルーイで異常発生しているゴブリンの殲滅(せんめつ)が任務……らしい。

 『らしい』というのは、森の奥で前方にゴブリンがうじゃうじゃいる光景を見て、慎也がそう判断しただけで、教えて貰ったわけではないからだ。


 団長は、まだ気付かれていない位置から、小声で詠唱をつぶやいた後、剣を1振りした。

 長剣で振り切るだけで、かまいたちが起きそうだが、今回は距離も離れているので、魔法によるかまいたちだ。

 そのかまいたちは、2~3匹のゴブリンを切断した。

 そして、大勢のゴブリンの目が一斉に慎也たちに向いた。

 その時、すでに団長の姿は慎也たちの側にはなかった。



「また、これか……」

 慎也は、いつものごとく(おとり)として使われたことに溜め息をついた。

 事前に何の話もなく、始まる時も合図もないこの囮作戦は、慎也たちに注意が向いている間に団長が大量駆逐するので、効率的ではあるが、慎也たちにはたまったものではない。


「今日は、この状態で行こう」

「いいよ~」

 最初の頃はルーイに龍化して貰って凌ぐことも多かったが、相手を見て慎也は自分の力で乗り切ることを決めた。



 慎也たちがのん気に話している間にも、ゴブリンたちは猛スピードで走ってくる。

 その足音は地響きのように鳴り響く。


「団長を真似てみるか」

 慎也は、国王から貰った剣を腰から抜き、肩に担ぐように構える。

 そして、詠唱してから右上から左下へ一閃。


 雷が剣から発生したかの如くの光量。

 瞬間的に膨大な魔力を練りこんだその攻撃は、もはや1人の人間が繰り出す攻撃とはかけ離れていた。



「よし、行きますか」

「うん、ぼくも頑張るよ」

 慎也とルーイはマイペースな会話を交わした後、素早く駆けだした。

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