43話 褒賞
パール王国のとある酒場では、騎士団の兵士たちが大いに酒を飲み交わし、話も盛り上がっている。
「北もすげぇ大変だったんだぞ!?
けどやっぱり、Aランクっちゃあ、違うね!
話で強ぇって聞いてても、あんなガリガリのじいさんが肉弾戦なんかやれるわけねぇって実は思ってたけど、本気になった時は見た目から筋肉ムキムキになって、動きは速ぇは、攻撃は半端なく強ぇは、魔法は効かねぇわ……最強だ!!!」
「わかってねぇな、東で繰り広げられた魔法の雨嵐を見てねぇからそんなことが言えるんだ。」
「これじゃから若いもんは……西の隊長の戦いは、経験の長いわしでも見たことのない境地じゃった。
つまり、今まで本気を出してるように見えても、まだまだ底を見せてなかったちゅうことじゃ。
……速すぎてわしには何にも見えんかったわい。」
ガンッと、杯を置く大きな音がする。
酒場の注目が集まる中、まだ若い兵士が酔っぱらって顔を真っ赤にして大きな声で言う。
「みんなわかってないッス!!明らかに今回大変だったのは南ッス!
唯一Aランクのいない中、相手はかの有名なフェンリル。巨体で力も強いくせに、動きは速く、ウチのBランクがまとまってかかってもロクに近づくことさえ出来なかったッス。
もう、国境ギリギリ。あそこの担当の兵は、みんな死を覚悟したッス。
そんな時に空から颯爽と1頭の龍と1人の男が現れ、状況は一変したッス。
その男は、雷の魔法を自由自在に操ってフェンリルを翻弄し、味方につけてる龍の攻撃で着実にダメージを与えていったッス!すごすぎたッス!!」
「ん~、けどよぉ…結局それは龍が味方にいたからなんじゃねぇの?」
「そうそう。
龍は地上最強の生き物なわけだし。」
「つーか、男だってあの昇格試験のやつだろ?
そこまですごいとは到底…」
若い兵士は机を両手で叩くと朗々とまた語りだした。
「そこがわかってないって言ってるッス!!!
龍はまだ子どもでフェンリルより全然ちっさかったッス。
実際、龍のブレス攻撃もフェンリルに少しずつしかダメージは与えられなかったッス。
けど、あの男は昇格試験の時より数段凄まじい魔法を連発して、フェンリルを追い詰めていったッス。その姿は『雷帝』とでも言うのがぴったりだったッス。
そして、最後は刺し違える覚悟でフェンリルの懐に潜り込んで剣を突き刺し……」
兵士たちの話は尽きることなく、夜は更けていった。
◆◆◆
「これから、先の大型魔獣襲撃時に国の守護に貢献したことへの対する褒賞を与える。」
魔物の襲撃があった次の日、城の一角で小規模ながら厳かに式が行われていた。
出席者は国王に始まりパール王国の重鎮たちであった。
その中には、王女であるイリスや騎士団の幹部たちもいる。
そして、今回の主役は慎也とルーイだけであり、慎也たちの前に国王が、左右にその他の参列者がいる形になっている。
「宗田慎也殿と白龍ルーイ殿は、パール王国に甚大な被害を及ぼし得る事件において、特別危険指定の魔獣に果敢に立ち向かい王国を守った功績を讃え、国王より恩賞が与えられる。
さらに、
慎也殿がBランクの実力があることを
慎也殿とルーイ殿が共にいる時はAランクの実力があることを
認め、今後一層の活躍を期待します。」
重鎮の1人であろう男が朗々と慎也とルーイの功績を讃えた。
そして、国王から直々に恩賞が授けられる。
「今回の活躍を讃え、この剣を授ける。
今後も有事の際には我が王国の助けとなることを期待している。」
国王から与えられた剣は、刀身が透明でシンプルでありながら美しい。
慎也は恭しく受け取った。
「緊張してましたね。」
「うん、すごい緊張した。
急な話だったし、偉い人ばっかりだったから。」
式の後、城内の1室で慎也はイリスと話をする機会を得た。
ただし、2人だけというわけではなく、ルーイと世話係のアンナもいる。
ルーイがアンナに興味を持ったため、慎也はイリスと話ができる時間を得た。
アンナはルーイの対応をしながら、露骨に慎也に眼を飛ばしている。
「でも、いいのかな?
他にも、賞賛されるべき人はたくさんいると思うんだけど。」
慎也は式が少人数で行われたことが疑問だった。
「他の方にも褒賞は与えられます。
Aランクの方々をはじめ、騎士団の方たちにはもっと大々的な形で。
ただ、慎也さんの場合は少し特殊でしたので。」
「特殊って?」
「白龍が戦いに加わったことは否定しようのない事実ですから、国としても認めています。
でも、ルーイくんが白龍だと公知してしまうのは危険だということになったのです。」
「なるほど。
たしかに、ルーイは知らない人にも簡単について行くようなところがあるからなぁ。」
慎也は苦笑いを見せる。
「私は慎也さんに与えられた剣を見て驚きました。
恩賞が与えるのは予想してましたけど、まさかこの剣を選ぶとは思いませんでしたから。」
「えっ、これってそんなにすごい物なの?」
慎也は改めて剣を手に持ち、じっくりと眺める。
確かに城下町の武器屋に並んでいる物と比べれば、十分に高級感はある。
しかし、装飾は何もないし、誰にでも分かるすごい剣という感じはしない。
「当然この国有数の業物ではありますが、それ以上にお父様にとって愛着のあるものなんです。
その剣は、お父様がまだよく動けた若い頃に愛用していたもので、苦楽を共にした剣ですから。
確かに今は魔法主体になって、接近戦をするようなことがなくなったので、もっと有効活用してくれる人にっていうことなのでしょうけど……それでも、手放したくなかったはずですから。」
イリスは不思議そうな顔をしている。
(それは……暗に『娘に頼む』って意味なんじゃ……)
慎也は国王の裏に込められた意図が読み取れた気がして、プレッシャーに冷や汗が背中を伝った。
「イリス様、そろそろ時間です。」
アンナがイリスに話かける。
そして、慎也を一瞥するがその瞳は冷たい。
「そう……。
慎也さん、お父様も今は忙しいけれど、一段落したらゆっくりと話をしたいと言っていました。
また、その時にお会いしましょう。
……私ももっとゆっくりとお話したいですから。
もし、ちょっとしたことでも何かあればアンナに声をかけて下さいね。
アンナはどこにでも飛んで行きますから。」
「私がこんなやつのために、そんな伝言役みたいな……」
アンナは不満そうな態度を見せる。
それに対し、イリスはくすっと笑いをこぼし、悪戯をする子どものような顔で慎也に言う。
「慎也さんにはアンナがいろいろ迷惑かけてるかもしれません。
でも、アンナは基本的に誰にでも礼儀正しい態度で接するんです。
ただ、慎也さんのことになると感情を抑えられずに言葉も少し荒くなってしまうようですが、本当は慎也さんのことをちゃんと認めてるんです。
特に、昨日の活躍はすごいって大絶賛してたんですよ?」
「イ、イリス様!?
それは……その……」
アンナは恥ずかしそうに顔を俯かせる。
その姿は普段のギャップも相まって非常にかわいい。
「アンナさんの行動はイリスを思っての行動だってわかってるから。
イリスこそ何かオレにできることがあれば、何でも言って欲しい。
全力で力になるから。」
「はい、ありがとうございます。」
イリスは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
アンナは少し不貞腐れた顔をしていた。