3話 手は素直
慎也が目を覚ますと、木目の天井が見えた。
(ここは…どこだ?)
完全に覚醒していない状態ながらも、状況を把握しようと身を起こした。
布団…というか毛皮の上に寝ていたようだ。
そして、近くで話しかけた女の子が座ったまま寝ている。
(オレは倒れたのか?…そうなら、この子には迷惑をかけてしまったな。
しかし、あどけない寝顔で可愛いものだ。
看病してくれて、疲れたのかもな。今は起こさず、後で起きたら礼を言おう。)
慎也は女の子の寝顔を眺めつつ思った。
そして、鼻の片方にに違和感があることに気付いた。
擦ると小さな綿のような物が詰めてあることに気付いた。
(少し…赤い?
もしかして…鼻血を出したのか?)
慎也が、倒れた時に鼻をぶつけたかな?と思っていると、引き戸が開いて、綺麗な女性が出てきた。
「あら、起きたのね。良かったわ。」
よく見ると、近くで寝ている女の子とよく似ていて、母親であると予想出来た。
「いろいろご迷惑をおかけしたようで申し訳ない。
見ず知らずの者を、こんなに面倒まで見て頂いて本当に感謝しています。」
慎也は、働いている時の形式ばった物ではなく、心からスッと言葉が出てきた。
「ふふっ、迷惑をかけたのはお互い様でもあるから、そんなに気にしなくていいのよ。
…この子は疲れて寝ちゃったのね。いつもはもう寝ている時間だものね。
もう寝るように言ったんだけど、あなたのそばを離れなくてね。
村長に会いたいらしいけど、外も暗いから今日は家に泊って、明日会いに行った方がいいわ。」
温かみのある笑顔で、答えてくれた。
慎也が、やさしい言葉に胸がいっぱいになりながら、さらに感謝の言葉を述べようすると、
「…んっ…。あっ…お兄さん、ごめんなさい!」
女の子は気がつくやいなや、慎也に謝罪を述べた。
「起こしちゃったか。
どうして謝るんだい?
自分としては面倒をみてもらったようで、すごく感謝してるんだ。」
慎也が素直に言うと、女の子は言いにくそうに事の説明を始めた。
「お兄さんが倒れそうになって…わたし、助けなきゃ!って思って…
それで、近づいて支えようと思ったんだけど……
…その…お兄さんがふらふらって私の方に来て…
手が…
私の胸に当って…その……
『ぐっっ!』って、揉んできたの。
わたし、そんな経験初めてで…びっくりして…パンチしちゃったみたいで…。
血がいっぱいでるし、お兄さんは地面に倒れこんじゃうしで、その後はお母さんを呼んで…」
女の子は、後半は顔を真っ赤にさせながら、説明してくれた。
慎也も、女の子の膨らみ始めたささやかな胸を思い出し、顔が赤くなっていくのを感じた。
顔を上げることが出来なかった。
お母さんが助け舟を出してくれた。
「とりあえず、お腹がすいたでしょう?
用意してあるから、食べながら少し話をしましょう。
いろいろ困っているみたいだし、出来る限り力になるわ。」
「ありがとうございます。」
慎也は再び深く頭を下げてお礼を述べた。
そして、体の感覚を確かめるように、ゆっくりと立ち上がった。
お母さんをまだ少し顔の赤い女の子の方を向いて、少し困った顔で話しかけた。
「メリーは…もう寝た方がい」
「わたしも話を聞く!ちょっと寝ちゃったから、もう大丈夫。
山で遭難したなんて初めて聞くし、気になって眠れないわ。」
女の子はお母さんの言葉をさえぎるように大きな声で答えて、すくっと立った。
「…すでに寝ていたのに、説得力はないけど…
こうなったら、絶対に自分の主張を通すのは誰に似たのかしら?」
お母さんは困ったように微笑みながら移動し始めた。
慎也が付いていこうと歩き出す時に女の子の声がボソッと聞こえた。
「誰に…って、……お父さんに決まってるじゃない…。」
慎也はお父さんはどこにいるのか聞こうとして、振り返って言葉が出なかった。
女の子の瞳は悲しそうに揺れていた。