37話 世間知らず
訓練を始めて2週間がたとうとしていた。
慎也は、朝食を兵士たちと一緒に取っていた。
「おめぇ、すげー世間知らずなんだな。」
「はぁ…すいません。」
慎也としては、全く持ってその通りなので否定のしようがない。
「別に、謝らなくていいんだけどよ……。
じゃあ、何で団長が全然顔を見せないのも知らないのか?」
そう聞かれて、慎也は団長の顔すら知らないことに気が付いた。
「そうですね、どんな人かも知りません。」
「まじかよ。他所者でも噂ぐらい聞いたことあるもんだけどな……。
この国にはAランクが3人いるって話は聞いたことあるか?」
「はい、聞いたことあります。
そして、そのうちの1人が社長で、肉弾戦タイプだってのも。」
「何でも屋としてやってるなら、そこは知ってて当然か。
話を戻すと、うちの団長も数少ないAランクの1人なんよ。
そんで、来ない理由は訓練が嫌いだからなんさ。」
「訓練が嫌いって……それで許されるんですか?」
「まぁ、訓練の間に遊んでるなら問題だけど、警備の仕事とか一応ちゃんとやるし、何よりここの騎士団じゃ、相手になる人がいないからな。
あの人はもう別格さ。
副団長が無理やり訓練に出したこともあったけど、副団長を含めてBランクが5人まとめてかかっていったのに、あっさり返り討ちにしちまったからな。
この騎士団は、訓練が嫌いだけど強い団長と、真面目に訓練する副団長でバランスよく成り立ってるってのは有名な話さ。」
「はぁ~、知りませんでした。
Bランク5人を返り討ちって…半端ないですね。」
「そうさ。
だから、普通はAランクを目指そうなんてやつはそうそういない。
Cには是が非でもなりたいし、Cになったら死ぬまでにBにはなりたいって言うけど、Aを口に出せるのは現実を知らない子供くらいさ。
おっと、こんなとこに子供じゃねぇのに、Aになるとか言ってるやつがいるの忘れてたや。」
兵士たちの間で笑いが起こった。
慎也は表面上は愛想笑いをしていたが、心の中では涙を流していた。
(Aランクが遠い……。)
2週間がたち、慎也もだいぶ訓練についていけるようになってきた。
さらに、訓練の後半は実戦形式で行なわれるため、慎也は急速に対応力をつけていった。
慎也は元々どんな魔法があり、どんな戦闘スタイルがあるのかを知らな過ぎたのだ。
自分が参加する時だけでなく、周りの訓練する姿を見るだけで収穫は大きかった。
例えば、1対1では、長い詠唱は命とりであるため、魔法の大技はまず見られないこと。
逆に、複数対複数では、上手く前衛・後衛の役割分担をできていると一気に片付くこともあった。
しかし、全体を通してみると、仮にランク持ちであっても極力魔法は乱用せずに魔力切れをかなり警戒していることが伺えた。
1度対戦すると2度目には必ず、ランクなしでは対戦中に対策をたててしまう慎也は、この短期間で騎士団の中で確実に実力を認められつつあった。
食事が終わり、そろそろ訓練が再開されるかという時に副団長のアナセンに慎也は声をかけられた。
「ふむ……慎也くん、あなたの上達は目を見張るものがあります。
そこで、もう2週間後、あなたが訓練を始めてからちょうど1か月後にあたる日に、Bランク昇格をかけて模擬戦をしましょう。
大丈夫ですよね?」
「えっ!あと、たったの2週間ですか?
恥ずかしながら、自分はまだ訓練を最後までこなせたことはないのですが……
なので、あと2週間と言わず、もっと訓練を続けたいです。」
慎也は驚きを隠せずに答えた。
実は、慎也はだいぶ訓練をこなせるようにはなったが、魔力が切れたり、実戦形式の訓練で攻撃をくらって気絶したりと、ここ2週間で最後まで訓練を終えることは1度も出来ていなかった。
「それはいいのです。
最初にも言いましたが、訓練はただこなすことに意味はありません。
限界まで追い込むことが重要なのですから。
加えて、最近、魔物の大量発生が各地で見られていて、国の方針として騎士団をあげてこの問題に対応することに決まったのです。
もちろん、国にも人を残しますが、訓練をこのような形で行うのは難しくなってくると思います。
そして、騎士団の兵士が大勢抜けると、あなたは何でも屋として忙しくなってくると思いますから、遠征前がちょうどいいのです。」
「…そういうことなら、了解しました。
よろしくお願いします。」
「別に心配しなくても、今回の模擬戦でBランクになれなくても、今後ずっとなれないわけではありません。
何でも屋として実績を積んで、Bランクに認められるという手もありますから。
それに、あと2週間あるんですから、学べるところは学んでください。」
アナセンは柔らかい笑みで言った。
慎也は、残りの2週間を有意義なものにしようと心に決めて、訓練に臨むのだった。