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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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36話 訓練の日々

 まだ日も昇っていない薄暗い時間に、慎也とルーイは訓練場を目指す。

 今までの生活とは全然違う生活の始まりだった。



 訓練の最初は、全員での基礎トレーニングから始まった。

 しかし、そのメニューは余りにも過酷なものだった。

 慎也は集団に遅れないように、見よう見まねで必死についていく。


「そこ、遅れてますよ。」

 副団長のアナセンの指示が響く。

 その声は慎也のイメージする体育会系のものとは異なり、淡々とした、けれども威圧感のある声だ。

 訓練は、朝の身支度をするかのごとく淡々と、慎也を除いて脱落者を出す気配もなく進んでいく。


(き…きつい……。

 みんな、何でこんな殺人的なメニューをこなせるんだよ?

 かなりの人数がいて、オレよりも明らかに幼いやつや、ひょろいやつもいるのに、何でオレだけ……

 そんなに体力ない方だっけか…)


「そこ、ズルはしないで。

 別に魔力を使うのはいいですが、同じ動きをしている振りをして楽をするのは止めなさい。」

 アナセンに誰かが注意される声が慎也の耳に入る。


(魔力を使うのはいい……か。

 指示がなくても、魔法を使うことは当然していいことなのか。

 当たり前だよな…実戦なら使うわけだし。)

 慎也は、自分の固定観念を恥じた。


 身体強化の魔法をかける。

(これは、魔力をあまり消費しないようにしないと、この後の訓練で困るな。

 魔法を使うタイプにも体力をつける以外の目的があるかけか…。)



「兄ちゃん、これは何をしてるの?」


 慎也は、いつの間にかルーイが自分と並走していることに、目が飛び出るかと思うくらい驚いた。

「ルーイこそ何してんの!?

 そこらへんで見てるか寝てるって……」


「何かぐるぐる回ったり、面白そうなことしてるし、一緒に遊ぼうかと思って!」

 ルーイは楽しそうに言う。


「いや、遊んでるわけじゃ…」

「慎也くん、少し来てください。

 他の人はいつも通りのメニューを。」

 先頭で指示を出していたアナセンに呼ばれ、他の兵の注目が一瞬慎也に集まる。

 慎也は、注目を集めたことに恥ずかしさを感じつつ、怒られることを覚悟して急いでアナセンのもとに向かった。



「…騎士団に入団したわけではありませんが、ここの訓練に参加するからには、ここのルールに従って下さい。

 まず、私語厳禁。これが絶対条件です。

 そして、基本的に『見て学ぶ』。……まぁ、少しは出来ているようですが。

 魔法はそう簡単に誰かに教えれるものではありませんからね。

 最後に……これが1番難しいのですが、余力を残さないで下さい。

 限界まで追い込んで、限界を迎えたら訓練の途中でも抜けて構いません。

 いいですか?」


 アナセンの説明を受けて、慎也はふと気になったことを聞いた。

「1つだけいいですか?

 限界まで追い込んで訓練した後に、何か非常事態になったら、どうするのですか?」


「当たり前ですが、今も門番や警備などの任務に当たってる兵士が、訓練をしている兵士とは別にいるので基本的には大丈夫ですが、いざとなれば『聖なる癒し』を受けるので大丈夫です。」


「『聖なる癒し』……?」


「今は、このような話をしている時ではありません。

 詳しくは、訓練の後にでも誰かに聞いてください。」


「あっ、すいません。

 すぐに訓練に戻ります。」


 慎也は、話をしながら少し体力を回復出来たので、気合を入れなおして訓練に向かう。

 ただ、頭ではあることが引っかかっていた。

(『聖なる癒し』ねぇ……

 そういえば、稽古をつけるって言って模擬戦をする前にも、回復系の騎士がどうのこうのって言ってたっけ。魔法なのかな?)




 気合を入れなおして訓練に臨んだ慎也だったが、訓練はどんどん本格化していき……

 ちょうど、朝飯の時間で1日目はギブアップすることになった。



(情けない……。

 オレはもっともっと強くならなきゃいけないのに。)

 慎也は午後は、細胞活性の魔法を自分にかけて、宿で療養するしかなかった。




 そして、2日目、3日目…1週間たってもキブアップするまでの時間は長くなっても、途中でギブアップすることは変わらなかった。

 慎也は、進歩のない自分に落ち込んでいたが、ある変化が起き始めた。

 騎士団の兵士が、食事や休憩の時に声をかけてくれるようになったのだ。


「最近の若いもんは、限界まで追い込むこと出来なくいかん。

 それに対して、坊主はなかなか見どころがあるぞ。」


「最初は、コネでも持ってる成金やろうがいきなりBランクにしろって言ってるのかと思ったら、なかなか根性あるじゃねぇか。

 オレらでも、任務の方が楽に思えちまうぐらいキツイのによ。」


「剣の持ち方からなってねぇな!

 オレが基本だけ教えてやろうか?」


「変わった魔法を使えるのですね。

 雷の魔法を使う人は少し見たことがありますが、全然印象が変わりました。

 威力はあってもまったく正確性のない、ただ上から雷を落とすしか出来ないイメージだったので……。」



 その中で、気になっていたことの話を聞くことが出来た。

「怪我してねぇか?

 怪我したら、ちゃんと治してもらえよ。」


 慎也は、アナセンの言葉を思い出しながら聞いた。

「それは、『聖なる癒し』のことですか?」


「は?違うよ。

 回復系の魔法を使えるやつに治してもらえって意味だよ。」


「……『聖なる癒し』は魔法じゃないんですか?」


「おまえ、そんなことも知らないのか?

 『聖なる癒し』は魔法じゃねぇ。

 あれは、この国の王族のみが代々使える特殊能力みたいなもんさ。

 ちょっと怪我したから…みたいに使ってもらうもんじゃねぇの。」


「非常事態に備えて、使ったりすると聞きましたが…。」


「……まぁ、そうだな。ごく稀にな。

 実際、『聖なる癒し』をかけて貰いたくて、ランク持ちになろうとか、訓練を限界までやろうってやつが多いから、この国は小国ながら高い軍事力を持ててるんだしな。」


「なるほど……。

 何で、『聖なる癒し』にそこまでの魅力が…」


「そんな『聖なる癒し』なんて、まず普通は関係ない話だから、気にすんな!

 それより、もう休憩終わるぞ。早く準備しろ。」


「あっ、はい。」



(確かにそんなことを気にする前に、今は目の前のことか。)

 慎也にとって、辛くも充実した日々が続いていた。

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