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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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34話 兵士に稽古③

 剣士の新手は、風の魔法を混ぜてきたことだ。



 流れるような止め処ない剣技の途中に、急に1歩下がる剣士。

 慎也は、予想外で切り込むことなど出来ない。


 そこで、剣士は突風を発生させる。

 それだけで攻撃力のある攻撃ではないが、目を開けておくのが厳しく、慎也の動きは止まる。


 さらに剣士は、今まであと一歩で決着をつけれないことを反省し、単純に前から切りかかるのではなく、自身が回転しながら水平に切りかかり、慎也の後頭部を狙う。




「兄ちゃん、うしろ!」


 ルーイの声に慎也はハッとし、第6感ともいうべき感覚から頭を下げると、頭スレスレで剣が通っていく。

 慎也は、頭の上を死の恐怖が通る感覚にぞっとしていると、すかさず剣士の重い蹴りを腹に喰らい吹っ飛ばされる。



 慎也が立ち上がるのを待ってくれるはずもなく、剣士は慎也に切りかかる。

 慎也は剣を落としており、かつ地面に崩れていて、とても避けれそうな体勢ではない。

 今度こそ終わった、と周りで見ていた兵士たちは思った。




「そこまで!」

 剣士と慎也の間にアナセンがいつの間にか割って入っていた。

 剣士は、ラリアットのごとく腕一本で止められる。

 流石に、Bランクでも上位に位置するあいつには勝てなかったか……と、周りの兵士が思っていると驚くべきことが起こった。



 剣士と慎也の間の地面から、下から上に雷のごとく大量の電気が立ち上ってきたのだ。



「まぁ、引き分けといったところですかね。

 その子の声がなければ、後頭部を狙う攻撃は避けれなかったでしょうが、最後の魔法の発想は素晴らしかったですしね。きっと、一発逆転でしょう。」

 アナセンが冷静に解説を加える。


 慎也は、もう最後の魔法に魔力を込めすぎて、魔力切れ寸前である。

 話を聞くために何とか立ち上がるが、ふらふらしている。


「まぁ、これ以上稽古を続けるのは厳しいですかね。

 予定の半分も終わらなかったので、依頼の報酬は大きく減額させて貰います。

 ランクの件ですが、1対1の対人戦に限れば、十分Bランクでもやっていけるでしょう。」


 慎也は、ランクの話にハッと顔を上げる。

 しかし、まだアナセンの言葉は続いていた。


「しかし、まだまだBランクどころかCランクも名乗れるか怪しいところがあります。

 たくさんあるのですが、1番は経験の少ないことですね。

 今回の相手はだいぶオーソドックスなタイプの相手でした。

 特に、火の玉を連発できる彼は明らかに魔法を主力にするタイプなのですから、最初から強引に接近戦に持ち込めば、無駄に魔力も使わず、手の内もさらさないで済みました。

 他にも……これは私の勘ですが、対多人数に弱いでしょう?」


 慎也は、事実を言われ、驚きを顔に出してしまう。


「対戦中にあまりにも相手にしか注意がいってませんし、1対1の接近戦であんなに押されていては、乱戦は無理に決まっています。

 うちの兵士には、『Bランクを名乗るなら、Cランクを同時に3人は相手できないようではダメだ』と言っています。

 あとは…範囲攻撃にも弱いんじゃないですか?」


 慎也は、『?』を頭を浮かべていると、アナセンは何やらしゃがみ込んだ。

 そして、何か小声でつぶやいている。


「例えば、こういうことです。」


 アナセンは両手を地面につけているだけで、慎也には何なのか分からない。

 慎也があたりを見回していると、ふと靴に砂が入ってきたことに気が付いた。


 地面が砂になり、慎也を中心に蟻地獄のように砂が下がっていくのだ。

 慎也は、慌ててその中心から離れようとするが、動けば動くほど埋まってしまう。



 あっという間に膝も隠れ、もうすぐ下半身が全部埋まりそうなところで止まった。

「私の魔法は珍しいですが、火や風などでも広範囲に攻撃する魔法は多数存在します。

 これも経験不足と言ってしまえば、それまでですがね。」


 慎也は、身動きの取れないみっともない体勢で言われる評価が胸に突き刺さって痛かった。

(AランクどころかBランクも貰えないんじゃ、イリスに会えるのは何年…いや、何十年先なんだろ……

 …いくら、朝・晩に欠かさず素振りして、少しでも空いてる時間があれば魔法の練習したって、それをずっと続けてる人に勝てるわけねぇよな。

 この国で3人しかいないAランク……遠すぎるよ。)



「しかし、最初に言いましたが対人戦で1対1に限れば、その実力はBランクでも上位に入るでしょう。

 国としても、優秀な人材は1人でも多いに越したことはありません。

 そこで、期間限定でここの訓練に参加してみてはいかかでしょうか?」


 アナセンの提案に、自然と下がっていた慎也の顔は再び上がった。

「ここのって……騎士団のってことですか?」


「そうです。

 訓練の中でBランクに必要な能力が身に着いた時点で、Bランクをあげましょう。

 私たちとしても、珍しい戦い方をする相手と共に訓練をすることはいい経験になりますし、別にこの人数に1人くらい増えても何も問題はありません。

 ただし、今回みたいに報酬や給与みたいなもの出せませんがね。」


 アナセンの説明に、慎也は即答した。

「お願いします!

 自分はどうしてもAランクにならないといけないんです。」



 アナセンが話をしている時は、必ず静かにしていた周りの兵士がざわついた。


「私語は慎みなさい!」

 突然のアナセンの威厳の籠もった一喝により、遠くで稽古している者まで動きが止まり、静寂につつまれる。



 アナセンは慎也に向き直って、穏やかな口調に戻って言った。

「そうですか、いい目標ですね。

 それでしたら、私はBランクですから、少なくとも子供の相手をするかのように私に勝てるようにならないとダメですね。

 頑張って下さい。

 ここの訓練は日が昇ったら、始めますから遅れずに来てください。

 慣れるまでは、朝食は食べない方がいいでしょう。

 何か質問はありますか?」


 慎也は少しためらってから恐る恐る聞いた。

「……なぜ、朝食を食べない方がいいのですか?」


「決まってるじゃないですか。

 全て戻してしまうからです。

 あぁ、忘れていました。明日は休養日でしたね。明後日から来てください。」




 慎也は、心身ともにボロボロの状態で帰途に着くのだった。

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