33話 兵士に稽古②
稽古は全く休憩を挟まず続けられ、3人目が慎也の前に出てくる。
(ここまではあっさり終わってるから構わないけど、疲弊した後の連戦は厳しいよなぁ。
出し惜しみせず、どんどん行くしかないな。)
慎也は、相手がBランクに格上げになったことに気を引き締めた。
「それでは、はじめ。」
騎士団副団長のアナセンが合図をする。
今度の相手は、合図とともにバックステップで下がりながら、慎也に向かって直線的に火の玉を飛ばしてきた。
(魔法による遠距離攻撃か。
初めてのタイプだな。
中距離にいると、剣は届かないのに、相手の魔法は避け切れないし、ここはいっそのこと…)
慎也も斜め後ろにバックステップを取りながら避けた。
その結果、かなりの距離が開くことになった。
相手はどんどん火の玉を放ってくる。
もし1つでもくらえば、動きが止まって集中砲火をくらうのは目に見えている。
慎也は足は止めずにそれを避けつつ、手を前に突き出す。
すると、手の平に電気が目に見えて帯電し、バチバチと音をたてる。
それを放つと、かなりのスピードで電気の玉は、相手に向かっていく。
慎也が暇を見つけては練習してきた魔法の中で、最近できるようになったことの1つだ。
しかしながら、この攻撃は惜しくも避けられてしまう。
そこからは、魔法戦が続いた。
幻を見せるには、少し距離が離れすぎている。
そして、手数では相手が、1つ1つのスピード・威力では慎也がそれぞれ優位で、均衡が崩れない。
流れ弾が、アナセンの結界にぶつかり消えていく。
(くっ……行くしかないのか?)
慎也としては、この後の戦いも考え、これ以上ムダ打ちは出来ない。
被弾覚悟が突っ込むことを考えつつも、いいイメージが湧かず、踏ん切りがつかないでいた。
その時、慎也の思考が乱れていたせいで、放ったばかりの電気の球と火の玉が、慎也のすぐ近くので衝突してしまった。
しかし、それは慎也にある閃きを生ませた。
慎也のイメージでは、火と電気は衝突などしない。
だが、元が同じ魔力あることと、実際に衝突したことから、属性に関係なく魔法同士がぶつかれば、優劣は魔力によって決まるのでは……そんな考えが慎也に頭に過ぎった。
動きを緩め、今度は両手に電気を帯電させる。
そして、込める魔力は先ほどよりもずっと高密度に。
そして、慎也は均衡を破るべく前に出る。
慎也に対峙していた兵士は、表情に出さないが内心は焦っていた。
(こいつ、いつまで魔法戦についてこれるんだ?
オレは、この魔法の力が認められてBランクになったはずなのに……。
こんなに動けて、魔法も使えるとは想定外だ。
オレの方が、球数が多い分、先に魔力が切れてしまうかもしれないが、接近戦では無理だしな……。)
その時、慎也が動きを緩め、前進してくるのが見えた。
(チャンスだ!
流石に、そこまで魔力はなくて、無謀な攻めに出たか!
ここは一気に……)
兵士は今まで以上に球数を増やし、慎也に向けて集中砲火を始めた。
近づいてる分、避け切れないはずなのだが……
(手で叩き落としてるだと!?
バカな!どれだけの魔力を込めてるんだ?)
兵士の放つ魔法は、ある程度は避けられ、避け切れない分は手で叩き落とされてしまった。
何とか食い止めようと力を振り絞って魔法を放つのだが……ある時から、全然当たらなくなってしまった。
魔法が当たると思うと、慎也の姿はいつの間にか移動している。
悪夢を見ているかのようだった。
そして……
慎也は、堂々と正面から剣を首に突きつけ、勝利を得た。
(はぁ、はぁ……。
危なかった。相性もあるのかもしれないけど、Cランクとは格が違うな。)
慎也は、呼吸を整えつつ、額の汗をぬぐった。
「剣士かと思っていれば、魔法もなかなかに使えるのですね。
流石です。
では、次はBランクの中でも上位に位置する彼と戦って貰いましょう。」
アナセンに紹介されて出てきたのは、正統派な剣士のタイプだった。
体格は普通といったところだが、露出した腕が太い。
かなり鍛えこんでいるのが、よく分かる。
「はじめ。」
慎也は、先ほどかなり動いていたので、疲れがまだ残っていた。
幻を見せる前に、一気に詰め寄られる。
Cランクの大男もなかなか武器を使うのが上手いと思ったが、今回の相手とでは比較にならない。
剣筋に無駄がなく、それでいて力強い。
対等に戦うことが出来ず、どうしても慎也ばかりが後退してしまう。
このままではジリ貧だと、相手が上から切りかかってくるのを受け止めようとした時だった。
(おっ、重い!
それにこれは……魔法がまとってるのか!?
威力が半端ない!!)
兵士の剣には風の魔法がまとっており、魔法で身体強化しているにも関わらず受け止められない。
その結果、慎也は大きく体勢を崩してしまう。
剣士はその隙を見逃さず、素早く切りかかってくる。
稽古を見てる者は、誰もが終わりだと思った。
しかし、剣士は剣を止め、1歩後ずさった。
(危なかった。
なんとか反撃している幻を見せて今回は凌いだけど、どうにかして距離を……)
慎也が作戦立てようとしている間にも、剣士は切りかかってくる。
剣士は、厳しい訓練で身に着けた経験で、相手に余裕を与えてはいけないと感じていた。
状況としては、慎也が防戦一方。
しかし、何とか魔眼の力で決着が着くのは防いでいる。
剣士の身体能力は非常に高く、慎也は魔法で底上げしているにも関わらず、距離を取れない。
慎也は作戦を立てる余裕もなく、何とかしのいでいる。
そして、新手を仕掛けてきたのは剣士だった。
「兄ちゃん、うしろ!」
ルーイの声が辺りに響く。