31話 ルーイの説教
部屋に戻ると、ルーイが不思議そうに慎也に尋ねた。
「兄ちゃん、何であんなに怒ってたの?」
「それは…」
慎也は、アンナの態度を理由にしようしたが、少し頭も冷えて答えを変えた。
「ずっと会いたいと思っていたイリスがわざわざ会いに来てくれたのに、寝てて気づかなくて話どころか見ることも出来なかった自分が情けなくて……。」
「自分が情けないのに、あの姉ちゃんを怒ったの?」
ルーイは、まだ不思議そうだ。
「……あぁ。」
慎也が認めると、ルーイはぷりぷりと怒り出した。
「いけないんだよ!
自分が悪いのに、人のせいにするのは、やや…、やろ…、やりすごし?って言っていけないことなんだよ!
今度会ったら、謝るんだよ。」
慎也は、苦笑しながら答える。
「そうだな。そうする。
それと、『八つ当たり』って言うんだよ。」
ルーイは、あっと自分の間違いに気づき、言った。
「そういうのも八つ当たりなんだよ!」
慎也はついに堪え切れなくなって笑いながら言った。
「くくっ…それは、ちょっと違う。
どっちかというと、今のルーイの方が近い…くくくっ…。」
「そうなの?」
ルーイは、不思議そうな顔に戻って言った。
それから、慎也とルーイは予定通り何でも屋に向かった。
何でも屋に行くと、受付には例の『休憩中だから呼ぶな』の看板が立っている。
(今の時間は、普通に考えて仕事を貰いに来る人がいるはずの時間なのに……)
慎也が呆れていると、奥から社長のポポポが現れた。
「おぉ、来たな。
仕事を取ってあるぞい。」
「ありがとうございます。
…メシアさん、また休憩中なんですね。」
「メシア?
あぁ、この前はメシアじゃったか。
この国は、国が持ってる兵たちが優秀だからそんなに仕事がないしの。
だいたい休憩中じゃ。」
社長は愉快そうに言う。
「へっ?この前は、ってことは」
「今回の仕事じゃがな…」
慎也の質問は、強引に無しにされ、社長直々に説明を受ける。
「ランクを一気にあげたいじゃろう?
実は、その子を保護した件はなかなか厄介な依頼だもんで、Cにはすぐにでもできるんじゃが…
今回は一気にBを狙うぞい。」
「そんなおいしい話があるんですか?」
慎也は先ほどの質問は諦め、合いの手を入れる。
「うむ。
Bランクを片っ端からぶっ飛ばせば、貰えるじゃろ…たぶん。
この国のBランクはほとんど城の兵隊で、ちょうどいいことに稽古をつけてくれという依頼も来てる。
お金も貰えて、ランクも貰えて、危険はない。
これほどいい方法はないじゃろう?」
慎也は少し考えてから聞く。
「……その依頼はあなたに来ていたんじゃないんですか?」
「そのとお~り!
でも、ほら…めんどくさいじゃん?てへぺろ。」
慎也は唐突に湧いた殺意をなんとか押しとどめ言った。
「常識的に考えて、無理でしょう?
Bランクの稽古をランクなしがつけるとか。
それに、片っ端からBランクを倒せる実力はまだありませんよ。」
「いいんかい?そんなことで。
Bランクになれば、愛しの姫さんに会えるんじゃろ?」
ポポポは茶目っ気たっぷりに言う。
「へっ、それはどういう…?
というか、なぜあなたがそのことを!?」
慎也が驚いて聞くと、社長はこともなげに言う。
「わしゃ、これでも何でも屋の社長じゃから情報はいろいろ持っておるしの。
Bランクなのは推測じゃが……姫さんを誘拐したんはわしらでも手こずる相手じゃった。
わしは直接対決なら負ける気はせんが、あいつは逃げ隠れが上手かった。
それをランクなしが倒したとは公表できんじゃろ。
せめて、Bランクなら世間的にも知名度はあるしの。
なんじゃ、知らんかったのか?」
「……知りませんでしたし……挑発されて、Aランクになって会いに行くって言っちゃいました。」
慎也は、引きつった顔で答えた。
「あ~……が・ん・ば(ハート)。
Bになったら、わしも少し稽古をつけてやるかの。」
社長は珍しく(内容は)まともなことを言った。
「……よろしくお願いします。」
慎也は、そう言うしかなかった。
暇になって机で寝ていたルーイを背負い、気持ちの乗らない足取りで城の方を目指す。