2話 森を出れば
慎也は黙々と歩いていた。
しかし、頭の中では先程のことばかり考えていた。
(あの感覚は何だったのだろう?
今まで感じたことのない…感情とかそういう次元を超えた感覚だった…ような…。)
そして、また、そのことを考えていることに気づき、頭をふった。
(このことは考えても答えが出ないから終わりにしたんだ。
今の問題は、このジャングルみたいな場所で生きてはいけないから、ここを抜けること。
食料もないことだし、無駄なことは考えず、最低限しか疲れないように進むこと。
今、重要なのはそれだけだ。
ここがどこか。異世界だとしたら、なぜ移動したのか。
そういうことも気になるが、ここを抜けれなければ、考えても意味はない。)
慎也は、異常とも言える強力な理性で、努めて何も考えず歩を進めていった。
なぜか歩き疲れた訳でもないのに、瞼が落ちそうな感覚があったがそれ以外に特に問題なく進んだ。
そして、少なくとも早歩きで1時間は歩いた頃に、視界が一気に開けた。
「…村だ。」
慎也は、立ち止まってポツリと呟いた。
目の前には、昔の日本を思い出す木造住宅が主流のそれほど大きくなさそうな村があった。
慎也は安心して、ホッと一息ついてから村へ向かって一歩踏み出してから、また止まった。
(言葉は…通じるのだろうか?
いや、通じる訳がない。そうすると…かなりの難関だな。
ただでさえ、状況が複雑なのに言葉を使えないとなると…困ったな。)
しばらく慎也は、異世界から来た事をジャスチャーで伝える方法を真面目に考えていたが、ないないづくしの現状を思い出し、腹をくくって歩き出した。
山から下りていくと、高い所から見ているので、村の様子が分かってきた。
村は平らな土地にあり、山から村へは柵はないが、それ以外は高い木の柵で覆われている。
柵より高いのは物見台くらいで、特に高いとか大きい建物もなく、小規模な村のようだ。
建物は100はないだろう。
(森にあんなに危険な生き物がいるのに、そっちには柵をせず、他には柵をするのはよく分からんな。
物見台もあることだし…人同士の争いが多いのだろうか…。)
慎也は日本では実感のなかった戦争を思い浮かべ、生きていける自信が無くなっていくのを感じた。
そんなことを考えていると村はほぼ目の前になっていた。
(おっ、第一村人発見!)
慎也は、家の裏手の方から中学生くらいの女の子が出てくるのを見つけた。
慎也が好んで着るパーカのような服とは異なり、チャックなどの複雑な機構の存在しない服装だ。
この世界の生活水準はそれほど高くなさそうだった。
建物にしても、服にしても、よくて江戸時代くらいだろうか?
慎也はいろいろなことに思考を巡らせつつも、話しかけるかどうかを少し悩んだ。
そして、本当は大人の方が良かったが、言葉が通じなければ、女の子はすぐに逃げるだろうし、そしたら村の中でも中心的な大人を呼んでくるかもしれないという打算もあり、話しかけることにした。
「すいません、ちょっといいかな?」
慎也は、営業スマイルを心掛け、やさしく尋ねた。
「いいですけど、何ですか?
…お兄さん、この村の人じゃないですよね?服装も変だし…」
後々は美人になりそうな、おとなしく賢そうな女の子が答えて、かつ質問してきた。
慎也はまず、言葉が通じたことが衝撃だった。
そして、言葉が通じないと決め込んで、会話のパターンを考えていなかったので言葉に詰まった。
事前にいろいろな可能性を考慮する癖が染みついている慎也はアドリブが苦手だった。
「…もしかして、怪しい人ですか?大声出しますよ?」
慎也がすぐに答えないので、女の子は一歩後ずさりながら言った。
慎也は慌てて、説明しようとする。
「怪しい人ではない!…説得力はないかもしれないが…。
実は山で遭難して、たまたまこの村を見つけたんだ。
それで、出来れば村で中心的な大人を呼んできて欲しいんだ。」
「山で遭難ですか?それは聞いたことがないですけど…。
まぁ、いいです。村長さんの家まで案内してあげます。
付いてきて来て下さい。」
女の子は、不思議がりながらも、慎也が困っている様子なので助けてくれるようだ。
慎也は何とかなりそうだと、ホッと一息ついて、お礼を言おうとした時だった。
「ありが…」
慎也は、急に目眩がして、足元が覚束なくなった。
女の子は、慌てて慎也を支えよう近づいた。
「大丈夫ですか!えっ?…きゃー!!」