28話 パール王国
慎也は、何でも屋を目指していた。
「まずは、仕事の話をしに行かなきゃならないんだけど…。
……ルーイは大人しくしてろよ?
後でいろいろ説明してあげるから。」
慎也が話をしている最中も、ルーイは周りをキョロキョロして、物珍しそうにしている。
「わかった!」
返事だけはいい。
(絶対分かってないな…。
しかし、どうすっかなぁ。
ありのままを話すべきか……信じて貰えるかも心配だよな。)
慎也は、少し憂鬱だった。
何でも屋に入る。
雰囲気はラナースと変わらない。
時間帯が中途半端なので、人もほとんどいない。
少し異なるのは、規模がパール王国の方が小さく、ラナースでは3つあった受付が1つで、席数もそれほど多くない。
「すいません、ラナースで受けた仕事の報告に来たのですが…。」
慎也は、会員証を見せながら、受付に言った。
パール王国の受付は、ラナースのように若い女性ではなく、ちょっとそっけない感じのおばさんだった。眼光が鋭いのが印象的だ。
「……ちょっと待ちなね。」
少し値踏みするような目で慎也を見た後、奥へ行った。
さすがに、歳がそれなりであるだけあって、慌てる様子もない。
「ここは何をするところ?」
ルーイは、見る物全てが珍しいらしく、相変わらずキョロキョロしながら聞いた。
「ここは、オレの仕事を貰うところだよ。
だから、これからもよく来るだろうから、物を壊したりして迷惑をかけないでくれよ。」
「うん!」
いつも返事だけはいいルーイに、慎也が苦笑していると受付が戻ってきた。
「…こっちよ。」
受付のおばさんは、受付のところに立て札をして、最低限の仕草で指示をする。
立て札には、『休憩中だから呼ぶな』と書いてあった。
(……それは許されていいのか?)
慎也は、疑問に思いつつも顔に出さずについていく。
「ようこそ~!
よく来たね~。 さぁ、座ってくれい。」
かなり陽気なじいさんが言う。
ガリガリな体で、笑顔が特徴的で目が開いているとは思えない。
口を大きく開けて喋る。
「わしは社長のポポポだよ。
こっちは、受付のモリーだよ。
よろしくね~。」
社長は、まだ慎也が座っていないのに矢継ぎ早に言う。
慎也は、あまりの衝撃に立ちつくしている。
「…あたしの名前はモリーじゃない。
…メシアだ。」
社長とは別の椅子に座っている受付のおばさんが、訂正をする。
そして、なぜか一人お茶を飲んでいる。
社長のお茶すらない。
「僕はルーイだよ!
よろしくね。」
ルーイはニコニコして言う。
そして、指示された場所に飛び乗るように座った。
慎也は、まだ立っていた。
(…つっこみどころが多すぎて、どうしたらいいんだ…オレは。
まず、社長の名前は…偽名だろ? …いや、ありえるのか?
というか、同じ職場の人の名前は間違えないだろ…普通。
受付の態度もおかしいし……もうどうでもいいや。)
慎也は、これからある意味自分の上司になる人に愕然としてなげやりになった。
そして、もう流れに身を任せることにした。
「…慎也です。 よろしくお願いします。」
慎也はそう言って座った。
社長は笑顔で慎也に話しかけた。
「おぉ、君が慎也くんか~。
話は聞いてるよ。
いや~、仕事が早いね~。
で、原因は龍で、連れてきたと。
どうするんだい? こっちで保護するのが普通じゃが?」
慎也は、驚きを表情に思いっきり出した。
「お! 当たったか~、これは。
いや~、適当に言ったんだけどなぁ、ひゃっひゃっひゃっ。」
社長は、変な笑いをする。
「すごいね! 見ただけで分かるんだ?
僕なんか、いい人と悪い人の違いもわかんないのに。」
ルーイが、尊敬に目をキラキラさせて言った。
慎也はもうここから立ち去りたい気持ちで一杯だった。
しかし、そんなことをするわけにはいかない。
「…ルーイは、オレが責任を持って保護する、というのではダメでしょうか?
それが出来ないのであれば、もっと人がいない場所に居させてあげたいのですが…」
「そんなんだめだよ!
兄ちゃんは、兄ちゃんなんだから、僕と一緒にいなきゃいけないんだよ!」
ルーイは怒った顔で言う。
「ひゃっひゃっ。
気に入られたもんじゃのう。
しかし、そうするなら条件があるでぇ?
ランクをAに上げてくれ。
ランクAなら、保護してると言っても何とかなる。
それまでは見つからんように、な?」
社長は笑顔で言う。
慎也は、条件付きとは言え、こんなにあっさり認めて貰えるとは思わなくて驚いた。
「…分かりました。
その条件を満たせるように頑張りたいと思います。
すいません、でも、私はそのランクというのを知らないのですが?」
「ランクを知らんとな!?
おっくれとる~。
ランクは3つ、A・B・Cじゃ。
普通の何でも屋はランクなしじゃ。
ずっと関わりのないやつも一杯おるが、ちっと頑張ればCはいけるぞい。
じゃがのぉ…そっからは大変じゃ。
この国が大きくないせいもあるが、Aはこの国に3人しかおらん。
もちのろんで、その1人はわしじゃが、もう歳でのぉ…今もAの実力かはあやしいの。」
社長(自称ポポポ)は1人で、深く頷きながら説明する。
「じゃあ、僕もランクAになる!」
ルーイが手を上げて元気よく言うと、陽気に社長は言った。
「それはおもしろいの!
きっと、すぐになれるし、この国は戦力不足だから大歓迎じゃ。」
「…ランクAになるまでは、その子のことを隠しとかなきゃいけないのに、無理に決まってるじゃない…。」
今まで黙っていた、受付のメシアは冷静に言う。
場の空気が凍った。
「……そういうことで報告は以上です。
じゃあ、まぁ、仕事は頑張りますので、ルーイ共々よろしくお願いします。」
慎也は、そう言ってルーイの手を取って部屋を出ようとする。
すると、受付のメシアに声をかけられた。
「…仕事取っといてやるから、小まめに顔出しなよ。」
慎也は一瞬きょとんとしてから言った。
「えっ?…あ、ありがとうございます。
…じゃあ、失礼します。」
慎也とルーイは、何でも屋を後にした。
「楽しかったね!
次はどこ行くの?」
ルーイはニコニコして言う。
「…ちょっと、休憩を兼ねて食事にしよう…。
精神的に疲れた…。」
慎也は、まいった様子で答えた。
「いいよ!」
ルーイにとっては、何でも楽しいらしい。
慎也とルーイは、近くにあった食堂に向かった。
慎也たちが扉を開けて入っていく時に、すれ違い様、慎也の顔を凝視する人がいた。
慎也はそれに気づかず、中へ入って行く。
その人は、慎也の後を追って店内に戻って行った。