27話 歩くの飽きた
慎也は、ルーイといろいろな話をした。
そして、強く感じたのがルーイの常識の無さ。
まず、ルーイは1人で出かけるのはこれが初めて。
そして母親に、人間に近づかないように強く言われているのに、すでに慎也と仲良く話している。
他にも、細かく約束事があったらしいが大して覚えていない。
慎也は、成り行きとは言え、ルーイに出会って仲良くなったことに運命的な物を感じていた。
(ルーイに、人というのを正しく理解させてあげたいな…。
……時間がかかりそうだが…時間はあるし、悪くない。)
暗くなって休んでいる慎也は、横で休んでいるルーイに声をかける。
「もう暗いし、今日はここで寝ることにしよう。」
「えっ?
僕はまだ全然眠くないよ?」
「…普通はどれくらい寝るんだ?」
「う~ん、1週間に1回くらいはちょっと寝るくらい。
でも、寝ようと思えば、寝れるかも。」
そう言って、ルーイは慎也にくっついて寝転がる。
慎也は、頭を撫でながら言った。
「…そっか。
じゃあ、これからは毎日、夜は寝よう。
…オレが見張りをしてるから、ゆっくり寝るといい。」
ルーイは、頭を撫でられて気持ちよさそうにしながら言った。
「じゃあ、兄ちゃんも一緒に寝ようよ。
…見張りなんていらないよ。
人間は違うらしいけど、魔力を抑えられないやつだって、僕に挑んでくるなんて…ほとんどないよ。」
慎也は、魔力を抑えられないやつが魔物だと思い当たった。
(…まぁ、たしかに相手の力量を測れないのは人間くらいか。
……ルーイに人の姿をさせておくのは、そういう点では危険だよなぁ。
元の姿だったら、よっぽど組織的に、かつ計画的にやらなきゃ、ルーイを捕まえることなんて無理だしな…。 …というか、龍には魔法が効かないって話だから、この世界じゃ無理か。
何にしろ、オレがそばを離れなきゃ大丈夫な話か。)
ルーイは眠たくないと言っていたが、慎也が頭を撫でていると、慎也より先に眠ってしまった。
慎也とルーイは仲良く眠りについた。
次の日の朝、慎也とルーイは歩き出した、のだが…
「もう歩くのあきた…。」
ルーイは立ち止まってしまった。
慎也としてもだんだん話のネタがなくなってしまったし、街の様子の話などは、ルーイの街への興味を増させるばかりだった。
そして、景色はずっと変わらず木々ばかり。
到着予定はこのペースだと、3日くらいかかりそうだ。
「…止まったらいつまでたっても着かないぞ?
ゆっくりでも歩き続ければいつかは着く。」
慎也が諭すように言うと、ルーイは元気よく答えた。
「飛べばいいんだよ!
すぐに着くよ。」
そう言うと、しゃがみ込んでギュッと腕も縮める。
そして、光を放って龍の姿に戻った。
慎也は魔法を使って、ゆっくりと言い聞かせるように言う。
「……ふぅ…分かった。
でもルーイ、2つ約束してくれ。
1つ、人前では姿を変えないこと。
もう1つ…飛んでるのや、着地を人に見られないようにするんだ。
遠回りしてもいいから。」
『ん、わかった! 早く捕まって!』
ルーイは元気よく答える。
慎也は、絶対分かってないな…と思いつつ、背中からルーイの首に捕まった。
『いっくよ~! 手を離さないでね。
離しても、空中で捕まえあげるけど。』
慎也には、ルーイが変身する前だったらどんな顔をしてるか、目に浮かぶようだった。
(ニコニコしてるんだろなぁ…。
……オレも楽しまなくちゃな。)
空の旅は予想以上に快適だった。
最初こそ羽をバタつかせるので、かなり揺れたが、一度飛び上がってしまうと滑空飛行が多く、ほとんど揺れない。
スピードも高度も抑えてくれているのか、バイクに乗っている時のような爽快感がある。
…速く飛べないだけかも知れないが。
「気持ちいいな。 …最高だ。」
慎也が言うと、ルーイが答える。
『街に入った後も、たまには一緒に飛ぼうね?
一緒にいろんなところを見てみようよ!』
「そうだな~、それもいいな。
でも、取り敢えずは街をいろいろ見てみよう。
パール王国は街並みがきれいで…たしか、劇とかが有名だから。」
慎也が村長に貰ったメモを思い出しながら言った。
『…げきってなに?』
「あぁ、そっか。 知らないよな。
…楽しい物だよ。
楽しみにしとけ。」
『うん!』
ルーイは、喜びを体で表現して、ぐるっと横に1回転する。
「わっ!!
…バカ、危ないだろ。」
慎也とルーイが、楽しく空の旅を楽しんでいると、早い物でもう街が見えてきた。
「これがパール王国か…。
大きいなぁ…。」
大きな街並みが広がっている。
自然と調和した綺麗な街…というか国だ。
緑があり、川も何本も見える。
そして、一際大きな建物…きっとあれが城なのだろう。
日本の城とは、全然違うが、ヨーロッパの宮殿とも違う…4つの丸い大きな塔がオセロの最初の状態のごとく並んで建って、くっついた形をしている。
(……あそこにイリスがいるのかな…。)
『イリスって誰?』
「えっ?
あぁ…オレがこの国に来た理由を作った人さ。」
『ふ~ん。
…いい人?』
「…すっごくいい人だよ、たぶん。」
『そっかぁ。
じゃあ、僕もその人に会いたいな!』
「そうだね…。」
慎也は、ルーイの頭を撫でながら答えた。
慎也は、ルーイに森のはずれに着陸させると、人間の子どもの姿に戻させた。
そして、入口に続く門へ向かう。
「……おい、待てよ。
見ない顔だな…?」
門番に止められた。
門の柱に寄りかかっていた制服を着た門番に声をかけられた。
慎也は、門番がいることに気づいてなかったので、驚きながら答えた。
「あっ…、はい、初めてです。
でも…私は仕事で…ほら、会員証。」
門番は無言で慎也たちを、しばらく見てから言った。
「そうか……通っていい。」
慎也は、門番に止められたのは初めてだったが、逆に好感が持てた。
国民に対して、しっかり責任を持ってるように感じたからだ。
ただ、門番は若そうなのに威圧感があって、もう少しフレンドリーだったらな、と思った。
こうして、慎也はようやくパール王国入りを果たしたのであった。