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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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24話 明日まで待ってな…

 慎也は、ステラが部屋を飛び出していってから、魔法の練習をしていた。


 しかし、より魔法の精度を上げるどころか、今まで出来たことすら上手くいかない。



「…だめだ。」

 慎也は、仰向けに寝転んで思った。


(やっぱり…どれだけ集中できるかは、重要だな。

 最初は少しずつ魔力を流して、徐々に魔力を強くしていく…

 頭では分かってるつもりなんだけどな…)




 慎也は、ステラのことを考える。

(……ステラは、どうしたいんだろう?

 行商人みたいな話だったから…また、仕入れをして次の街へ行くんだよな…。

 オレの行き先なんて関係ないよ…なぁ…?


 …目的地がないから、いろいろ旅をしているように見えるオレと一緒に行くつもりだったとか…?

 それなら…まぁ…パール王国まで一緒に行くのは問題ないか。

 あぁ…でも、その前に旅をし続けるつもりな訳じゃないことを言わないとなぁ。


 そういう自分のことを、ちゃんと言わなかったのが原因かな…

 ステラとしても、いろいろ考えがあるんだろうし…ちゃんと話さないとな!)



 慎也は、ようやく昨日の夜からのもやもやを少し片付けられて、すっきりした。

 意外と時間がたっていて、もう日が暮れそうである。


 そんな時に、ステラは帰って来た。




「…ただいま……ごめんな、勝手に飛び出したりして…」

 ステラが、様子を(うかが)うように慎也と少し離れた距離で声をかける。

 しかし、そこまで深刻そうな顔はしておらず、ちょっとした悪戯をした後の子どものような笑みを隠しきれないような顔だった。


「おかえり。

 …何で出て行ったのかは分からないけど、気にしてないからいいよ。

 オレも…ステラともう少し話をした方がいいって考えてたところだから…座って。」

 慎也は和やかに言った。



 ステラは、嬉しそうに慎也に近づいて、向かい合うように座った。

「あたいも慎也と話したいと、思ってたんや。

 …あたいの方こそ、さっきのことはなかったことにしようって言うつもりやったんよ。」


 ステラが笑顔で言う。

 慎也は、正直なところ、出て行った理由が不明で気になってはいるが、なしにするつもりだったと言われ、もう聞けなくなり、本題を切り出した。



「ステラとは、お互いにこの後どうするとか、あんまり話してなかったよな…。

 一緒にいる時間は短いけど、いろいろあって……

 出会いだって突然のことで…契約の魔法結んで…看病して貰って…連れ去られて……。

 お互い、迷惑かけたり、かけられたり…

 それなのに、オレは自分のことばっかで、これからのこととか全然話さなくて…。

 これからも協力できるところは、協力するべきだよな?

 …ごめん。気がつかなくて。」


 慎也は、恥ずかしそうにステラから少し目を逸らして言った。

 ステラは、慎也の言葉を聞いて、すごく喜んで答えた。


「…そんな謝らんでええんよ。

 あたいが、勝手に慎也とまだ一緒にいたいって思ってて、勝手に怒っただけなんやから。

 あたいこそ…いろいろ迷惑かけてごめんな?」



 慎也は、ようやく気持ちのすれ違いが解消されたと、喜びの表情を見せながら言った。

「いいんだ。

 オレとしても、もちろん、ステラがついて来てくれれば助かるし、嬉しい。

 ただ…オレはずっと旅を続けるわけじゃなくて、次のパール王国が目的地なんだ。」


「パール王国が目的地?

 何があるん、パール王国に?暮らしやすい、ぐらいしか聞いたことあらへんで。

 …まぁ、あたいは拠点をパール王国にしても全然問題ないんやけど。」

 ステラは、疑問を聞きつつも、それ以上に、慎也に一緒にいるのが嬉しいと言われたことで舞い上がっていた。



「…まぁ、約束があってね。

 人と会う約束をしてるんだ。」


「約束?

 あまり交流が盛んでないパール王国の人と?」

 ステラの頭の上にはハテナマークが飛んでいる。



「一方的に言われただけで、約束と言えるかも怪しいんだけど…さ。

 でも…会いに来て、待ってる…って言われたからね。」

 慎也は、少し照れたように言う。


「えっ?…女の人なん?」


「え?…あぁ、たぶんちょっと年下くらいの女の子だな。」


「……。」


「ステラ?」


「…好きなん?その人のこと…。」

 ステラは、(すが)る様な目で慎也に聞いた。



「いや…そんなんじゃない……と思うけど…。」

 慎也は、困ったように誤魔化して答えた。




 そこには、ステラの今まで見たことのない、年相応の顔で話す慎也がいた。

 ステラはショックで、頭がまっしろになる。


「…ステラ?大丈夫か?」

 慎也が、心配そうに覗き込んでいるのに気付いた。


「……あたい、これから用事があったん思い出したわ。」

 そう言うと、出かける仕度を始めた。


「えっ?今からか? もう暗いぞ?

 何で急に……。」



 ステラは、慎也と目も合わさずに出て行った。






 それから、慎也とステラはすれ違いの生活が続いていた。

 夜は慎也が、寝た後にこっそり帰って来て、朝早くにいなくなる。

 まったく話さない訳ではないが、何かと理由をつけて、避ける理由を教えてくれない。


 慎也は、旅の準備と魔法の練習をして日々を過ごす。

 しかし、魔法の方は始めた時のように上達しない。

 我流の限界もあるが…あれほど楽しかった魔法に、没頭できないでいた。




「ステラ!

 待って、大事な話があるんだ…。」


 出発の日が刻一刻と近づく時、慎也はすぐに逃げてしまうステラを、ようやく捕まえた。


「……明日…明日まで待ってな…。

 明日の朝は…時間取れそうやから…。」



 ステラの何とも切なそうな顔を見て、慎也はステラが行ってしまうのを認めた。


 慎也の出発も明日に迫っていた。


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