23話 首都オーフス(ステラ)
ステラは目を覚ました。
隣を見ると、慎也はまだ眠っている。
(あたい…勝手に怒って…先に寝て…。
どんな顔で、慎也と話せばいいんだろ…。)
ステラは、音を立てないように布団を出て、仕度をすませる。
そして、そっと部屋を出た。
ステラは、街をとぼとぼと歩いていた。
(……どないしよ…これから…
仕入れもしてへんし…買い付けるにも、お金もあらへんし…
…計画性ないんやよなぁ…あたいって…)
ステラは、朝も早く開店していない店が多い中で、小さなオシャレな軽食屋を見つけた。
そして、そこで朝食を取ることを決め、店に入って行った。
「…大丈夫かい?」
ステラは、店の切り盛りする女主人に声をかけられた。
その時になってようやく、自分が朝食を食べ終わらずに、ぼーっとしていたことに気がついた。
「すんまへん!
…すぐに食べ終えます。」
「いいのよ、慌てなくて。
…他にお客さんもいないしねぇ。」
女主人は、和やかに言った。
よく見ると、時間も早いせいか、客はまだ他にいない。
「…何かお困りでしたら、相談に乗りましょうか?」
女主人はそう言って、ステラの前の席に腰をかける。
ステラは、自分よりも年上の女主人に、自分にも把握しきれない気持ちを相談したら、何か分かるかもしれない…、そんな気持ちになった。
「あの…聞いて貰ってもいい…ですか?
あたいは商人で…全然大したことあらへんのやけど…
いい話があるって言われて…でも、そんなうまい話あるわけなくて、もう死ぬかもしれへんってなったんです。
…そん時に、助けてくれた人がおって…すごいやさしい、ええ人なんです。
やから、自分は少しでも役に立てたらって思うんやけど…全然ダメで…逆に困らせて…。
……何言ってるか分からんですよね?
あたい…バカやから、ははっ。」
ステラは、暗い感じで話をしていたのに気付いて、最後は笑って誤魔化した。
女主人は、やさしく微笑んで言った。
「…そうねぇ…やさしいけど、鈍い人っているわよねぇ。
私は…まず、自分の気持ちを伝えることが大事だと思うわ。」
「…自分の気持ち…?」
ステラは、自分がどうしたいかというのを、自分でもよく理解してなかった。
「そう。鈍い人には、きちんと言わないと伝わらないわ。
でも…伝えて、断られたら、すぐに諦めなきゃダメよ。
やさしい人は、粘るとわがままを聞いてくれたりするけど…そのうち上手くいかなくなるわ。
…もちろん私だったら、こう考えるってだけだから、絶対に正しいわけじゃないわよ。」
女主人はそう言うと、新しい客が来て、その対応に行ってしまった。
(…自分の気持ちを伝えて…断られたら諦める…か
できるかな…)
ステラは、部屋に戻ってきた。
少し緊張して戻ってきたのに、慎也はいなかった。
ステラは、座って自分の気持ちというのを考え始めた。
(あたいは……どうしたいんやろ?
慎也には…感謝しとる。
あん時、慎也が来てくれへんかったら、あたいは死んでたやろうし。
だから、恩返しをしたい…役に立ちたいって思うんやけど…
慎也は全然自分のこと話してくれへんし…
あたい、信用されてないんかな…
あたいは慎也を信用しとるけど、慎也は…
…あたい、バカやしなぁ。)
ステラは、どんどん気持ちが落ち込んでくる。
ステラは、ふと気付いた。
(…ちゃう!
考えなあかんのは、あたいがどうしたいか、や!
あたいは……慎也と一緒にいたいんや。
やから、慎也は頭がええのに、自分がバカなことが気になるんや。
…やから、慎也がこれからどうするのかを話してくれてなかったんが悲しいんや。
……ついて行きたいって言うて、断られたら諦める……できるかな…あたいに)
ステラの中で、ひとつの答えが出た。
不安はたくさんあるし、まだ、上手く伝えられるか自身はない。
でも、自分のあやふやな気持ちが、形になった。
それだけで、大きく前進した気分だった。
…慎也が帰ってきたら聞く、そう思いつつ、気持ちを高めていた。
慎也がなかなか帰って来ない。
時間としては、決心してから大してたっていないのだが、ステラには長い時間がたったように感じた。
少しずつネガティブな感情が心を支配していく。
(…慎也は、あたいのことどう思っとるんやろ…?
あたいのいいところって…あるんかな?
昨日の何でも屋の絡んできた人みたいに、慎也もあたいの…
お…おっぱいがでかいのがええとか言うんかな!?
そしたら、あたいは…あたいは…)
そんなステラの思考が、ごちゃごちゃになったところで、慎也が帰って来た。
(帰って来た!?
聞かな!…聞かなあかん!
え…えっと…)
ステラは、まとまらない思考を振り払うように立ち上がる。
そして、口から出たのは…
「……あたいのいいとこって…どこ?」
立っているステラ、座っている慎也。
頭の回っていないステラには、慎也の視線が自分の胸に注がれているように感じた。
ステラは、何でも屋の時のような嫌悪感ではなく、恥ずかしさと、自分の女としての部分を意識されている嬉しさが混じって、顔が真っ赤になるのを感じた。
「――バカ!!」
ステラは慎也の顔を見れなくなって、言い捨てて、部屋を出る。
部屋を飛び出したステラは、急に顔を赤くしたり、心配そうな顔をしたり、1人百面相をしながら街を目的もなく歩く。
いろんなところを歩いている内に、気持ちが落ち着いてきた。
(大丈夫!今度こそ、上手くいくはずや!)
ステラは、今度こそ慎也に自分の気持ちを伝えることを決めた。
そして、意気揚々と宿を目指す。
ステラが宿を飛び出してから、それなりに時間がたち、もう日は沈みつつあった。