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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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22話 首都オーフス(慎也)

 慎也は眼を覚ました。


 昨日の夜はステラとのことが頭を離れなくて、なかなか寝付けなかった。

 そのせいで、寝起きも悪かった。


 なかなか覚醒しない頭で、最初に浮かんでくるのはステラのこと…

 ステラの布団に目を向けると、もうそこはもぬけの殻だった。

 思わず、溜め息が出る。





 慎也は、仕度をすると、部屋を出た。

 いろいろしなくてはならないことがあった気がしたが、考えがまとまらない。

 しかし、部屋でもんもんとしているのも、嫌だった。



 慎也は、何でも屋に訪れた。

 すると、意外なことに何でも屋は賑わっていた。


 話を聞こうと思っていた受付は、列が出来ている。


(…なんか…本当に会社みたいだ。)

 朝早くに来て仕事を貰う。

 その風景は、慎也にとって少し懐かしくもあった。

 まだ、仕事を請け負うシステムを理解していない慎也は、食事を取ることにした。


「おまえさんも仕事に(あふ)れちまったんかい?」

 面倒見の良さそうなおっさんが、自分も食事を手に慎也の横の席に座った。

 パッと見、どこにでもいそうな感じだが、近くで見ると腕は太く、腕を曲げると力こぶが服の上から分かる。


「いや……昨日、入会したばかりなんで。」

 慎也は、新参者であることを言うか悩んだが、ステラのことで多少なげやりな気分だったので、考えるのを放棄してそう言った。



 すると、おっさんは意気揚々と説明を始めた。

「お~、新入りかい!?そうか、そうか。

 まぁ、ここのやり方は簡単だから、すぐに分かるぞ。

 依頼は、基本的に早い者勝ちだ!

 んで、受付にやりたい仕事を言うと、受付が今までの達成状況とかから、ゴーサインが出るかどうか。

 まぁ、簡単な仕事から埋まっていくわな。」


「基本的…ってことは、例外もあるのですか?」

 慎也は、ほとんど食事は終わっていたが、説明を聞きたいという態度を取って言った。


「危険な仕事は、やりたいやつが少ないから、受付が個別に声をかけるんだ。

 まぁ…おまえさんも、自分で仕事を取らずに、貰えるようになれば、いっちょまえだな!」

 ガハハと笑いながら、おっさんは言う。


 慎也は、話に付き合ってくれるなら都合がいいと思って言った。

「…話は変わりますが、あまり手持ちのない状態で、パール王国に行きたいとしたら…あなたなら、どうしますか?」



「んんっ?……

 パール王国か。また、辺鄙なとこに…。

 そうだな、やっぱり馬車の金を貯めるのが無難じゃねぇか?

 山越えは、なめたら痛い目にあうからな。

 …しかし、パール王国なんかに何しに行くんだ?

 年取ってから暮らすには、いい国だって言うけど、若いもんが行って楽しいもんはねぇぞ?」


 おっさんは、難しいことを考えるのは嫌いだと言った様子で説明した。

 慎也は、もっと新しい選択肢が出てくることを期待してたので、少々残念に思いながら、軽く誤魔化して、席を立とうと思って言った。



「いや…単なる観光で…」


 バシっと、いい音がして、大きな手が慎也の肩に置かれた。

 そして、慎也の後ろの人が、おっさんに声をかける。



「……彼を借りてもいいかな?」


 社長だった。


 おっさんの顔は、目を見開き、口を開けて、驚きを顔全体で表現していた。

 そして、首を勢いよく縦に何回か振る。


 いつの間にか、周りは静まりかえっていた。


「…少し世間話でもどうかな?」


 社長としては、にこやかに言ったのかも知れないが、全く感じられない。

 慎也の返答に選択肢はない。


「……はい。」



 慎也は、驚いたおっさんの顔は、この雰囲気じゃなきゃ大爆笑ものなのにな…などと、現実逃避しながら、昨日と同じく奥の部屋に入って行った。





「…本当に大した用事はないんだ。

 ただ、君が暇そうで、私も少し余裕があるから、話を聞いてみたいと思っただけなんだ。

 こんなことで受付の人を使うのも悪いかと思って、直々に出向いたんだ。」


 社長の何でもない言葉にも、プレッシャーを感じながら思った。

(…受付の人を使って欲しかった。どうせ、受付も手止まってたし…。)


「…これでも、私はそれなりに長く生きているからね、いろんな人物を見てきた。

 君は…強いだろう?」



 社長は、これでもかと目から威圧感をかけてくる。

 しかし、今日の慎也の精神状態は、まったくもって本調子ではない。


 慎也は、目をそらし、言葉を(つむ)いだ。

「…大したことは…ないです。

 どれくらい強ければ、強いのかも分かりませんし…。

 ただ…1対1はそれなりに出来る方かもしれません。

 複数人が相手は…かなり弱いと思います。」



 その時、服が擦れる音がした。

 慎也が前を向くと、首元に短刀が当てられている。


「…本当に、それなりなのか?」


 社長と視線が絡み合う。


 魔眼を使い、動いていないように見せて、首を動かす。




 しかし、剣先は一緒に喉元を追っていた。

 慎也は、剣先が追ってきたことに驚き、魔眼の効果が切れてしまったので、降参のポーズを取った。



「…おもしろい。

 魔法か?それとも、錯覚か何かか?」


 社長は、見た目では分からないが、テンションが上がっているらしく聞いてきた。

 慎也は、逆に、なげやりだった気分から、一気に精神が研ぎ澄まさせた。

 慎也は、科学の発達していないこの世界で、錯覚を知っていたことに、社長の博識ぶりを感心しながら答えた。



「…秘密です。

 これを破られるとなると、私は手も足も出ないことになるので。」


 社長は、慎也の拒否したのを当然と受け止め、言った。


「…それは、魔物にも通用するのか?」


「…近距離でなら、おそらく。」

 慎也は、視線が合わないとダメなことをぼかして答えた。




 社長は、少し考え込んだ様子を見せた後、言った。

「……あの食堂での声が聞こえてきてな…。

 おまえの話し相手の声がでかかったのだ。盗み聞きではない。


 …急ぎの話ではないのだが、パール王国に関係があって片付かない仕事がある。

 受ける気はあるか?」



 慎也は、おっさんには今後関わらないことを心に決め、頷いて言った。

「…パール王国に行くことは、決定事項なので、内容に問題がなければ受けます。

 それに、もともとここで仕事をして、馬車のお金を稼ぐつもりだったので。」


「ふむ…。

 実はな、パール王国へ向かう途中の山で、魔物らしき生き物が目撃されている。

 市民への被害はほとんどないのだが、山賊の死体が数体発見されている。

 魔物に、人間を判断する能力があるとは思えんが、傷跡は明らかに人間がつけた物ではない。

 …そこで、事実関係を調査して来て欲しい。

 傷跡からは、かなり強い魔物と予想出来るが、おそらく1匹だ。

 君の能力は、かなり適していると思うが…どうだ?」


 慎也は、少し間目を閉じて考えてから、言った。

「……報酬は、どうなるのですか?」


「調査だから、報酬は大したことないが…現場までは馬車に乗れる手配をしよう。

 そして、報告はここでも、パール王国でもどちらでも構わん。

 …君にとっては、悪くない話だろう?」



 慎也は、かなり足元を見られている…とは、思ったが、たしかに悪くない話だった。

「……そうですね。

 受けたいと思います。

 出発は、いつになりますか?」


 社長は、若干の頬笑みを見せて答えた。

「そうか、受けてくれるか。

 …余裕のある馬車を聞いてみるから、明日また来てくれ。

 遅くても、1週間以内には出発出来るだろう。」



 慎也はせめてもの反撃として、部屋を出る際に社長に声をかけた。

「…社長、良かったですね、経費が浮いて。

 いくら調査とはいえ、強い魔物が出るのにあまりに弱い人は使えませんし、でも、強い人はお金がかかりますし…ね?」


 社長は少し苦笑いをして答えた。

「…その頭が切れるところが、抜擢の一番の理由だよ。」


 慎也は、部屋を後にし、社長の威圧感に精神が削られたので、宿に戻ることにした。





 宿の部屋に戻ると、ステラが座って体育座りをしている。


(……ステラの件、何も考えてねぇや…。

 …というか、何だ、この雰囲気?

 喧嘩中のカップルじゃないんだし…。)


 慎也は、心の中で大きく溜め息をついて、座り込む。


 ステラが俯いていて、顔も合わさず、会話も生まれない。

 慎也は、精神的に疲れて宿に来たのに、さらに削られていく。

 慎也は、仕方なく自分から、差し当たりのない話題を振ろうと思って口を開こうとした時だった。



 ステラがすくっと立ちあがって言った。

「……あたいのいいとこって…どこ?」


 慎也には、ステラの顔が泣きそうに見えた。

 慎也は真剣に考えを巡らした。


 ステラの方を見ながら、言葉にしようと思いつつも、下手なことを言うと大変だと思ってしまい一瞬の間が生まれた。



 その時、ステラの顔が真っ赤にになり、言った。

「――バカ!!」


 ステラは、そのまま部屋を出てってしまう。



「オレが何をしたって言うんだよ…。」

 慎也の呟きが、部屋に(むな)しく響いた。そして、慎也は寝転がった。


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