13話 旅立ち
マリーさんの許可が出たので、慎也とメリーは、メリーの部屋で眠ることになった。
慎也は、『年上の余裕を持って』と言い聞かせて、メリーの部屋に入る。
メリーと慎也はすぐには寝ないで、おしゃべりの時間を楽しんでいたが、楽しい時間はあっという間に過ぎていくのだった。
そして、もういい加減に寝ないとマリーさんに怒られるという時間になった。
「…そろそろ寝ないといけないな。」
慎也が何回目かの同じセリフを言うと、メリーはしぶしぶ了承した。
そして、2人して横になろうとし、慎也はメリーが布団にしっかり入るように、自分は少しはみ出して寝ころんだ。
「枕は…1つしかないの?」
慎也が聞くと、メリーはいたずらが上手くいった子供のように言った。
「わたしはここで寝るからいいの!」
そういって、慎也の腕を無理やり引っ張り、腕枕の状況を作った。
慎也は腕枕は初めての経験だったので思った。
(これは…明日の朝はすごいことになりそうだ。)
そして、メリーがあまりにもくっついてくるので、大人の余裕も崩れ始め、慎也は落ち着かなかった。
それでも、頑張って寝ようとしていると、メリーが言った。
「ねぇ…もっと好きにしていいんだよ?」
メリーは腕枕に使っている慎也の手の平を自分の胸の上にのせる。
慎也は、一瞬言葉に詰まる。
この世界に下着という物がないのか、それとも、メリーが着けていないのか…
手の平から薄い肌着越しに、柔らかい感触と小さな突起を感じる。
その感覚は甘美で、慎也の思考は完全停止した。
それでも少しして、慎也は熱いヤカンに触れたかのように慌てて手の平を遠ざける。
「メリー…初めて会った時のことは意識がなくて…その…あれは偶然なんだ。
こういうことは、もっとゆっくり時間をかけて、相手を知って…ね?
…それにメリーにはまだ早いんじゃな…」
慎也が何とか誤解を解こうと、暗い中でも目が慣れてきたので、メリーの方に体を向けて言った。
しかし、不用意な発言はメリーは傷つけた。
メリーは慎也の言葉を遮って、泣きそうになりながら言った。
「早くない!
全然、早くない…よ。
わたしと同い年で子供を産んだ子だって知ってる。
わたしみたいなお子様じゃ、ダメだって言うんならはっきり言ってよ!
……それに相手を知る時間をくれないのはあなたじゃない…。」
ついに、メリーは涙をこぼす。
それは、14歳とは思えない静かな泣き方だった。
慎也は…言葉に詰まる。
ここは日本ではないことを痛感させられる。
子供の道徳観念も、年齢差に対する考え方も全然違うのだ。
慎也はここで気のきいたことを言える男ではなかった。
だから、素直に気持ちを言うことにした。
メリーの頭を撫でながら、静かに話し出す。
「オレは…魔法なんて誰も使えない…こことは全然違う場所から来たんだ。
それで、あの山に迷い込んで…本当に困ってた。
だから、メリーを見た時はすごく嬉しかった。
ほっとして、緊張の糸が切れるのを感じた…実際、倒れちゃったしね。
メリーは命の恩人なんだ。
初めて会ったのがメリーだったから、今こうしてられる。
悪い人だったら、大変なことになってただろうしね。
だから…メリーはオレにとってすごく大切な人なんだよ。
子供だとかそういうんじゃない。
…傷つけたくない。立派に育って欲しい。…そう思ってる。」
しばらく、沈黙が続いた。
慎也はもっとメリーが言ってくるかと予想したが、メリーは何も言わなかった。
メリーは顔を見られないように、慎也の胸板に顔をくっつけた。
そして、2人は抱き合うような形で眠りについた。
次の日になって、朝は、慎也が出発するというのもあってバタバタして過ぎていった。
ジーンさんはたまに起きて食事を取ったりはしているらしいが、まだ弱っていて、慎也は大して話をすることが出来ないで出発することになった。
慎也とメリーはどこか余所余所しいところがあったが、お互いに自分の気持ちを告白したことで、今まで以上に通じ合っている部分もあった。
ただ、お互いにそれをマリーさんに知られるのが恥ずかしかっただけで。
そして、村長の家にメリーとマリーも一緒に行くことになった。
「本当にもう出発するんじゃな…?」
村長は名残惜しそうに言った。
「ええ。
新しい世界を楽しみたいんです。」
慎也が本心からそう答えた。
「そうか…ええことじゃ。
旅に必要な道具は、このリュックに詰めておいた。
あの空間拡張の魔法がかかっておるから、魔力の供給を忘れずにな。
お主の魔力なら、このリュックのせいで魔力切れを起こすこともあるまい。
魔物には気をつけるんじゃぞ。
あれは人と同じく自然界の生態系から外れたもんじゃ。
逃げるか、殺すかしかない。飼い慣らしたり、食べたりは出来ん。
…ではの、本当に気をつけるんじゃぞ。
帰ってくれば、いつでも歓迎するからの。」
慎也が村長の心遣いに感謝しながら、出発しようかという時だった。
「待って!」
メリーが飛び込んできた。
メリーはぎゅっと慎也を抱きしめ、最後に感覚を自分に沁みこませるようだった。
そして、離れて言った。
「これを…貸してあげる。
すごく貴重で人に貸したりするものじゃないんだけど…。
でも、わたしはもうお父さんに教えて貰うから大丈夫なの。
だから、『貸して』あげる。
…忘れずに返しに来てね。」
最後の方は、メリーは涙を堪えて言った。
慎也が受け取ったのは、メリーが魔法の勉強に使用していた『魔法入門』という古そうな本である。
「…ありがとう。
必ず、返しに来る。
じゃあ…行くね。また…。」
慎也も上手く言葉に出来ずに、何とか別れを告げた。
しかし、メリーと慎也には言葉以上に伝わるものがあったので問題なかった。
そして、慎也は姿が見えなくなるまで見送られて旅立った。
初めまして、この小説を書いてるヤギーです。
読んでお分かりになると思いますが、これで一段落です。
ここまで、いかがだったでしょうか?
読みづらい点などありましたら、今後の参考にさせて頂きますので、アドバイスお願いします。
少しでも暇つぶしになれば幸いです。
引き続きよろしくお願いします。