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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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12話 精一杯のわがまま

 慎也とメリーは、メリーの家に向かった。


 2人がメリーの家に行くと、そこには慎也が食事をした場所に座る村長さんがいた。

「おぉ、帰ってきたか…英雄よ。

 …あのおなごはどうしたんじゃ?」


 村長さんは愉快げに言った後、尋ねてきた。


「止めて下さいよ、英雄なんて。

 彼女のことはまた後で…。

 それより、ジーンさんは…大丈夫なんですね?」

 慎也は、すぐさま否定してから聞いた。


「相変わらず(さと)い男じゃ。

 …大丈夫じゃよ。今はマリーの看護のもと、寝ておるがな。」


 村長の返事を聞いて安心した慎也は、これからのことを見据えて言った。

「剣をありがとうございました。

 それから、これからのことで相談があるのですが…。」



 村長は、慎也がメリーを一瞥した意味を理解していたが、あえてこの場で言った。

「剣は褒美じゃ、持っていけ。老いぼれには必要ない物じゃ。

 これからは…そうじゃな、新しい家と土地をやろう。それで、困らんじゃろ?」


 メリーも話に加わる。

「じゃあ、それまではウチにいる?…よね?

 だって、いる場所ないもんね。

 お父さんが帰って来たから、特別にわたしの布団で一緒に寝てあげるわ。」



 メリーは嬉しそうに話す。

 してあげる、と言いつつ、メリー自身がして欲しいことは明白だ。


 それに対して、慎也は申し訳ない気持ちで少し言葉につまる。

 でも、いつかは言う事だ。慎也はそういう厄介事を後回しにはしない。

 これも、会社で学んだことだ。



 慎也は屈んで、メリーに視線をあわせて言う。

「メリー…オレはこの村を出て行かなければならないんだ。

 しなきゃいけないことが見つかったんだ。」


 メリーは驚きを隠せずに言う。

「そんな…。帰って来たばかりなのに…。

 ……いつ出発するの?」


「準備が整えば…明日かな。」



 メリーはショックを隠せない様子でしばらく言葉を発しなかった。

 メリーは良くも悪くも、賢くて、いい子だった。

 駄々をこねるわけでもなく、涙ぐみながら言った。


「今日は…今日は一緒に寝てくれる?」


 慎也は、メリーが思春期の大事な時期を、父親がいないで過ごしたことを思って言った。


「…分かった。もちろん、マリーさんがいいって言ったらだけどね。

 オレは、少し村長さんと2人で話があるんだ。また、戻ってくる。」


 慎也はこれ以上、メリーを見ていられなくて、足早に村長と村長の家に向かった。




 最初に話し合ったのと同じように、向かい合って椅子に座った。

 最初に、話しかけたのは村長だった。


「あの子は…メリーは、すごくいい子なんじゃ。

 母親が大変なことが分かっておるから、わがままを言えんのじゃ。

 メリーの精一杯のわがままを受け止めてやってくれ。」


「分かりました。

 …自分なんかが役に立つのなら喜んで。」


「そう自分を卑下するでない。

 それはそうと…あのジーンと一緒に捕まっておったおなごはどうしたんじゃ?」



 慎也は村長に、彼女がパール王国の王女であったこと、

 そして、自分が彼女に会いにパール王国に行くつもりであることを言った。


 すると、村長は笑って言った。

「メリーにしり込みする男が、王女に会いに行くんか!

 おもしろいのぉ。

 なら、あの剣もきっと役に立つじゃろう。

 なに、お主はこんな小さな村に収まる器ではないと思っておったよ。

 じゃから、出ていくことはそんなに気にせんでええ。

 ただ…暇が出来たら帰ってきてくれ。メリーも喜ぶし、村をあげて歓迎するぞい。

 ここを故郷(ふるさと)と思ってくれたらいい。」



 村長は慎也の生き急いだ様子から、なんとなく行くあてがなかったことを察していた。

 慎也は胸が熱くなって、涙が出るのを抑えるのに必死だった。



「もちろん、パール王国までの地図や旅の道具は出来る限り準備してやろうぞ。

 それと…もう1つ餞別(せんべつ)じゃ。」


 そう言って村長が箪笥の引き出しから取り出したのは、巻物だった。


「わしには子供も孫もおらん。

 『いなかった』んじゃのうて、『いなくなった』んじゃがの。

 それがきっかけで村を作ることを決意したんじゃが…。

 それはいいとして、魔法について、もう1つ教えておこう。

 魔法は、広く知られているのも多くあるが、ほとんどは生活に使う魔法で人を殺せるような物ではないんじゃ。

 なぜなら、魔法は適性がなければ使えんし、適性は遺伝の影響が大きいから親から子へ教えれば十分なんじゃ。じゃから、その家にのみ伝わる魔法というのが数多く存在するんじゃ。

 パール王国もおそらくそうじゃが、王族や貴族が力を維持出来る理由じゃな。

 …わしの魔法は引き継ぐ者がおらんのじゃ。

 ほとんどの村の者では魔力が足りんし、ジーンはちまちましたのは適性がなかったんじゃ。

 もし、お主も適性がなかったら、旅の駄賃にするがよい。」


 そう言って、村長は巻物を慎也に手渡した。


「何から何まで…ありがとうございます。」


 慎也の声は少しかすれていた。





 慎也がメリーの家に戻ると、ちょうど夕食の準備をしていた。

 マリーさんが今まで見た笑顔の1.5割増しの笑顔で言った。


「おかえりなさい。

 もうすぐ出来るから座って待っていて。

 今日はたくさん作ったからじゃんじゃん食べてね。」


 慎也はマリーさんの指示に従いつつ、メリーがマリーさんと一緒に懸命に料理作っている姿を微笑ましく見ていた。



「待たせたわね。

 それでは食べましょう。」


 明らかに3人前を超える豪華な料理を前に、3人は席について食べ始めた。

 そして、笑い声が絶えない楽しい食卓だった。

 慎也は孤軍奮闘したが結局食べきれず、多くが残って食事は終わった。



 片付けも一段落ついて、メリーが洗い物を進んで始め、マリーと慎也が席についていた。

 すると、マリーがそっと話し出した。


「…今日、この料理の下拵(したごしら)えをしている時に、あの人(ジーン)はいっぱい食べるからたくさん作らなきゃって思って…ふと、涙が流れていることに気付いたの。

 あの人ために料理をするのは、何年ぶりなんだろう…って、考え出したら、涙が止まらなくて。

 …正直、無理だと思っていたわ。

 冷静に考えれば、武骨でもなければ、魔法もしらないあなたが帰って来れる訳がないわ。

 ……あの人を連れて帰って来てくれて…本当にありがとう。

 それに、いい顔になったわね。

 今までは、『生きていくことに必死だ』って顔に書いてあったわ。

 誰だって、必死で生きているんだけど、その中でも楽しみを見つけていかなきゃね。」


 慎也は何も言わずに、マリーさんの話を聞く。


「…こんなことを私が言う権利はないんだけど…お願いがあるわ。

 あの人みたいになっちゃダメよ。

 こんなに長い間、自分が大事にしている人を放って置くなんて最低よ。

 …病み上がりだろうが何だろうが、明日から今までの分を少しずつ返済するために私とメリーに奉仕することが決まっているの。」


 マリーさんはお茶目に言った。

 慎也は苦笑しながらも、明日からの微笑ましい姿が思い浮かんで温かい気持ちになった。


「…頑張ります。

 それでも…出ていくことは決めたので。

 あの…本当にお世話になりました。見ず知らずの自分を…」


「止めてちょうだい。

 あなたがお礼を言うと、それ以上に感謝している私はずっとお礼を言い続けなきゃいけなくなるわ。

 …旅に出るのは止めないわ。

 けど…疲れたらいつでも帰って来るのよ。

 …私がジーンの物を全てそのまま残しておいたように、メリーの心にはあなたの場所が残っていくわ。

 別に責任を取れとは言わないわ。誰もが経験することよ。

 ただ…しばらく帰って来なかったら、私はメリーを1人旅に出す許可を出しそうだわ。」



 慎也には、自分に故郷が出来たのを実感した。

 そして、ジーンの部屋がきれいに掃除されて残っていたのを思い出し、メリーの心にもそうやって自分の場所があると言われたことが、嬉しく心に響いた。



 慎也とマリーは、メリーが大量の洗い物を終えるまでの時間を、穏やかに話しながら過ごしていった。


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