表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
11/47

10話 決戦

 慎也が比較的長めの階段を降りると、そこには家の面積よりは明らかに広い空間がひろがっていた。

 慎也はキョロキョロはせず、目だけで周囲を観察する。


 階段を降りた両方の壁側には、本棚があり、ずらりと本が並ぶ。

 本棚の先は円形に少し広い空間があり、その空間の中心には、しっかりした机と椅子が1つずつある。



 そして…その奥にはカプセルに入れられ、液体に漬けられた人が2人いる。

 中の人間は裸で、1人は男、1人は女だ。

 慎也は、胸に感じる熱い気持ちを表情には出さないようにしながらゆっくり歩を進めた。


(…人質がジーンさん1人でないのは大きな誤算だ…が、2人とも必ず救い出して見せる!)




「君は魔力をくれるとして、私は何をあげればいいんだ?」

 さっきより丁寧な態度で男は言ってきた。


「…交渉する気があるなら、顔くらい見せたらどうだ?

 誠意のかけらもないな。」


 人の家のテーブルを蹴飛ばす相手に、誠意もくそもないのだが、男にはツボだったらしく笑いながら答えた。


「ははっ…そうだな。」


 フードを取ると痩せこけた男の顔が現れた。

 髪は薄く、その外見だけなら、ガリガリなおっさんに過ぎないが、目が異質だ。

 常に焦点が定まっていないかのようで、そこしれない闇を抱えている。



「小さな村でおまえの噂を聞いてな。

 大体のことは想像がついた。

 『魔法に魅せられた人間』か…。確かにな。

 魔法の才能は生まれでほぼ決まる。どんなに努力しようが王族には勝てない。

 だったら、他人の魔力を貰うしかない。…誰でも思いつく。

 どうせ、マギーっていうのも偽名なんだろ?」


 慎也は、男に危険を感じさせないギリギリのところまで近づいて言った。



「いかにも。私はそんな名前ではない。

 …しかし、おまえは分かっていないことがあるようだな。

 どっちに主導権があるのかということがな!

 ここにいる限り、無限に近い魔力がある。あの生贄どものおかげでな。

 ジーンの方はそろそろ力尽きそうだが、ストックが十分にあるからな。

 …要求はなんだ?」


 男は慎也に杖を向けて言った。



 この状況は慎也の予想外であった。

 もともと情報が少なかったので、全てが予想通りいくとは思っていなかったが、この状況は慎也のシミュレーションになかった。

 今、必要とされているのは、莫大な魔力を持ってるいる人間がそれを売ってでも手に入れたい物を言うことである。そして、それがこの男に叶えられ、さらにもっともらしい理由がいる。

 元の世界でも友達に比べて、欲の少なかった慎也にはなかなかの難題だった。

 ジーンが力尽きそうだと言われたことも、焦りに繋がっていた。



 そして…


「…その女が欲しい。

 オレの女にしたい。」



 ジーンの横でカプセルに入ってる女の人はかなりの美少女だった。

 こんな状況でなければ見とれていたことは間違いない。

 肌が病的なほど白く、長い金髪が腰まである。

 栄養不足なのか痩せているが、その割に胸は大きめで、そのアンバラスさも男を誘惑する。

 慎也が思いつく、最大限の欲だった。




「…そういうことか。

 では、交渉決裂だな。」


 男は笑みを浮かべながら言った。

 慎也はとっさに剣を抜いてしまう。


「元からやる気まんまんなわけだ。

 そうじゃなきゃ、あの態度はおかしいか。

 …しかし、もう少し交渉の勉強をしておけよな。

 王様に王女の奪還を頼まれたんだろうが、すぐに要求したらバレバレ過ぎるだろ。

 …まぁ、この装置は、本当に必要最低限以外の魔力を強制的に奪う装置だから、交渉はどうせ裏切るのだがな。ちょうどいい時に来てくれたよ。」


 男は笑いを噛み殺しながら言った。



 慎也の理想は…というかシミュレーションしていたのは不意打ちだったので、ここからは出た物勝負だった。命の取り合いなど経験のない慎也は、口はかさつき、のどはカラカラだった。





 先に動いたのは慎也だった。

 ほとんど、無意識に半歩、足を前に動かしてしまったのだ。


 それを見て男が詠唱を始める。

 慎也は、まずい!と思い、視線に出来るだけの力を込め、『あ』と言わせようとする。



 すると、男は驚いた顔して詠唱が止まった。

 慎也は、チャンスだと思い、土を蹴る。




 男は思った。

(馬鹿め!

 初級魔法でも人を殺せるくらいの威力が出せる私には、この距離で十分なのだ!)


 そして、杖の先から大きな獣を殺すかのような大きな炎が飛び出す。


 しかし、よく見ると杖の先には誰もいない。

 そして、反対側から土を蹴る音が聞こえた。



 男が素早く反対側に目を向けると、目の前には剣を振るう慎也の姿がある。

 頭目掛けて振られる剣を、()()って間一髪で避けた。

 かすって血が流れる。



(くそっ!何が起こった!あいつはどこに…)

 男は、すぐに慎也の姿を探した。


 すると、慎也は2、3歩跳ぶようにバックステップを取っていた。

 男は、すぐさま杖を向けると、着地のタイミングを狙って、今度は威力よりも速さ重視で炎を放った。


 すると、またそこに慎也の姿はなかった。



 男は無限に近い魔力があるこの場所では、どれだけの軍勢が来ても勝つ自信があった。

 そのため、この状況は男を非常に混乱させていた。


(なぜだ!なぜ、当たらん!

 この距離で避けるなど、どんなに鍛えても不可能だ。

 それにこいつは避けてる様子が無い。消えるんだ!

 魔法だとしても…詠唱してる様子も声も聞こえない。なぜだ!)




 慎也の方は逆に冷静になっていた。

(剣を振る練習をしてない自分は、振っても遅いし、狙いがずれる。

 だったら、突くしかない。そして、足音を出来るだけなくす必要があるな。)





 男には慎也が空間のあらゆる所へ瞬間移動しているように感じられた。

 それは、悪夢だった。

 いつの間にか近くにいて、魔法を放つ頃には、ずっと離れている。

 驚異的な跳躍力を見せたり、ただ止まっていたりする。



 その時、慎也はゆっくり歩いていた。

 男を目を見て、自分が見せたい場所にいるように視線に力を込めて送る。

 同時に、足音を立てないように1歩ずつ着実に近づいていく。


 あと、1回虚像を見せれば、男の胸に剣を突き刺すことが出来る。

 それくらい近づいた時だった。




「くそ~!!…この女がどうなってもいいのか!」

 男は杖を後ろに向け、カプセルの方を見ようとする。




 慎也はまずい!と思った。視線が外れれば、虚像は見せられない。


(オレは…きっと誰かを助けるためにこの世界に来たんだ。

 死なせてたまるか!!!)



 慎也はオオカミ相手に初めて力を使った時と同じような感覚を感じた。





 男は、王女を人質として使えることに気づき、気持ちは絶望に近いところから急に浮上した。

 しかし、それは一瞬のことだった。

(これで形勢逆転…

 

 …首が回らない!

 なぜ、こんな近くにこの男が!)


 男は、慎也の瞳が視界から外せなかった。

 全身が固まったように動かない。

 …心などとっくの昔に捨てたはずの男の心には恐怖しかなかった。


「なぜだー!!!」


 慎也は、胸に剣を突き刺した。

 男の胸元から血が溢れ出し、ゆっくりと後ろへ倒れた。




「…終わった。」

 慎也は、力が抜けて座り込んでしまいたい気分だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ