表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

第八話

 教室に戻るとやけに静かでもう皆の姿はなかった。教室の後ろのドア付近に、片付け忘れたバケツがおいてある。

舘先生にみんなのことを訊くと、保健室の先生が精神操作術式で落ち着かせて、帰らせたらしい。明日は、学校にみんなを集めてこれからの事を指導すると言っていた。

「あれ?舘先生オレたちはどうすんの?」

この馬鹿は相変わらず何も聞いてない。

「疾風たちは、今日の夜中から移動でしょう?」

と先生が返す。そんなに優しくしなくてもいいのに。

 陽が少し暗いからだろうか、机に足をぶつけて叫ぶ。いつも靴を履かずにぷらぷらしているからだ。


 それぞれが机の中の道具箱をランドセルに詰めた頃に、舘先生が呟く。

「俺も、君たちを応援してるからさ。生きててくれよ?」

俯きながら言う先生の姿に、皆それぞれが言葉を詰まらせていた。私たちは頷くことしか出来なかった。

 教室の鍵を締める舘先生に疾風が言う。

「オレたちほんとにつえーからさ。帰ってきたらまたあいつらに術式教えるから。そんな心配すんなよ。」

バカなりの言葉だったんだろう。先生は顔を見せないようにして、顔を何度も何度も拭った。

つられて私たちの頬も湿りだした。

 廊下からカラカラと音がした。滲む視界で怜利が空のバケツを両手に持ってきているところが見えた。

怜利は私たちの様子を見て、言葉を詰まらせるように見えた。でも、明るい声で

「雨漏り受け止めたくて」

とか言い出した。皆吹き出して、先生も落ちる雫は拭わずに、教室の鍵を開け直した。


 校舎から出た。すっかり外は暗くなって、乾燥した砂が敷き詰められた校庭が、月の明かりで照らされていた。

「じゃあね、みんな~!がんばって~」

いつもの先生の声がした。校舎の方が影になっていってよく見えなかったが、何人もの先生が手を振っていることだけは分かった。

私たちは振り返しながら正門に向かって歩いて行った。

 校門を出ると怜利が口を開く。

「今から三時間後、一月四日午前一時半に緑のアーチ橋で集合しようー。」

それぞれが、了解、と言って帰路に着く。私も家に帰ろうか。


 夜の暗い道は何か不気味だった。電柱が音を立てながら、チカチカと灯りを照らす。

今日は一日が長かったなあ。朝に爆弾が落ちて、お昼は世界一番の術者が学校に来て、で、真夜中に家を出ると。かなり忙しい一日だ。


 家の玄関を開けた。もう姉ちゃんも寝ているのだろうか。

「ただいまー」

そう言っても帰ってくる言葉はない。寝ているんだな。

 とりあえず冷蔵庫を開けて、暗い中を手探りで瓶のコーヒー牛乳を出した。全然冷えてなかった。冷蔵庫の裏に手を伸ばして、妖力を注入する。

飲んで驚いた。甘くなくて、ラベルに顔を近づけてみる。糖分オフだった。にがい。

 ランドセルを壁際において、炊飯器の中の乾いたお米をお皿の上に出しておく。冷蔵庫を開けて、一昨日の残り物の、二つの器の上に置いた。

 洗濯機の中から、タオルを出そうと思って開けてみたが中は洗剤を入れたままの服が入っていた。

まだ洗ってないようだ。蓋を閉じて、洗濯機のボタンを押す。ゴウゴウと引っかかるような音が混ざったまま回りだす。


 そうこうしているうちに一時間が経ってしまった。リビングの机の上にメモを置いて、怜利にもらったリュックの中にメスティンと水筒を入れた。それから服を入れたかごの中から服を二着入れた。

 床に飛ばしてあった寝袋を畳んで、袋に詰めた。リュックはそれらを入れても全く隙間が空いていた。詰められるようなものを考えたが、そもそも役に立つものは少ないという事に気が付いて、お菓子箱の中に入っていたせんべいと、チョコを入れておいた。


 リュックを背負って、玄関の前に置いてあった誕生日に貰ったきり開けてなかった靴を開けてみた。

明るい茶色で気に入らなかったはずなのに、今はとても良いものだと思った。もう一度リュックを置いて、玄関に行く。土間に靴を置いてみた。灰色の床に浮いた赤色の今の靴とは違って落ち着いた色だった。


 リュックを背負い直して、玄関に行った。そうすると、姉ちゃんが玄関のところに立っていた。

「行くの?」

短くそう聞いてきた。なんていったら良いのか分からなくなって、言葉が詰まった。

「いってらっしゃい。」

姉は、それだけ言って頭を掻きながらまた中の方へ戻っていった。

その後ろ姿に

「行ってきます」

と言ってみた。

 姉ちゃんは、振り向かずに小さな声で、

「まってる」

とだけ言う。


 私は、自分の家に一度、別れを告げた。

怜利の家へ向かう道に足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ