表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

第五話

 屋敷に戻り、少しだけベッドに寝転がっていた。怜利はいつものことだ、とか言って研究棟の二階でトレーニングをしている。

そろそろご飯だ、とか言って帰ってきたはずなのに、ご飯の香りなんてちっともしない。


頑丈なこの建物がギシギシと鳴るほど激しい運動をしているのだろうが、

 窓辺においてあった怜利のコーヒーカップを流し台に運んでいると階段から音が立った。この静かな足音は怜利だろう。

「そろそろ行こうか、」

そう言って汗だくのまま研究棟の扉を開けて、屋敷へ繋がる道を歩いていく。

 「ねえ、成羅。今日学校行くの遅くなるから、先行ってていいからね。」

適当に返事を返す。そんなことはいつものことだと思っていたのだ。これまで一度も怜利から言ってきたことはなかった。

「三時間目は体育だからね!」

「あ、そうだね~。また疾風と組手かなぁ。」

笑みをこぼす怜利。でも、どこかぎこちない。焦っているような。そんな気が漂っていた。それにしても今日は静かだ。


 「しっつれーい。」

音を立てて襖が開く。いつもならいるはずの皆がいない。者数が少なすぎる。何か良くないことが起きたのかな。

「あれ…?皆は?」

そう聞くと、お盆を取った怜利はワンテンポ遅れて口を開く。

「昨晩、長野の分家屋敷が襲撃を受けてね…。復興に向かわせてるんだ。」

言葉が出てこなかったので、口を閉じておくことにした。

 怜利は遠い目をしながら、厨房の中を覗いている。

「うん、彩もいないっぽいね。炊き出しに行ってくれてるのかな?ほら、」

そう言って、カウンターを飛び越えて炊飯器の方へと歩いていく。

「どれだけ食べる?」

このくらい?、とでも言いたげに米を盛ったいつもの茶碗を見せてくる。いつもよりは少ないが、お腹が空くような量ではない。

「そのくらいでいいよ、ありがとー」

茶碗を渡してくれた。怜利の手元を見ると、盛るのが下手で、米粒が手首についていた。やってないことは出来ないのだ。なぜだか安心する。


 「いただきます」

二人で声を合わせた。

 今日は、焼鮭と昨日のすき焼きの汁を使った野菜炒め。味噌汁は蟹だった。

怜利の癖が発動した。ご飯を食べているときは相当なことがない限り食だけに集中する。

「ねえ、怜利ー。三時間目間に合う?」

首をこくこくと縦に振る。そう聞いた時には既にお米が終わって、最後の味噌汁タイムになっていた。


 「ごめん、成羅先行くね。先生に、帰ってるって伝えてくれると嬉しいかも。じゃね」

手を振る。襖を閉じる手が急いでいるのが見えた。足音が消えると、異様なまでの静けさだった。

あぁ、一人だな。


 学校へ向かった。

「おはよー!」

この元気な声はこなっちゃんだ。

「おはよ~」

こなっちゃんは、ちっちゃくて元気な可愛い子で男女問わず人気だ。本当羨ましいくらいすごい。

 歩きながらゆっくり話していく。今日の授業はあれだーこうだー。昨日の夜は何したー。こうでああだー。って繰り返す。そんな時間がたまらなく楽しい。

ただもう学校についてしまう。

 「あれ、そういえば怜ちゃんはまだ帰ってこないの?」

こなっちゃんが言う。

「いや、今日帰って来たんよ。あいつ今日は遅刻してくるって。」

きょとんとした目でこっちを見てくるこなっちゃん。私もつられて首を傾げてみる。でもその目が私を捉えていないことに気が付いた。

「ねえ、成羅ちゃん、あれ、なに?」

振り向いた。校庭の方へ、黒く輝るなにかが宙を下っていた。

 こなっちゃんの方に向き直り、抱き着いて地面に伏せた。


 その瞬間、爆発が起きた爆音が空気に伝播していった。妙にぬるい風が押し寄せて来ていた。

私は気休めの対呪術式をかけて、体を覆った。うずくまって、耐えようとしても一向に熱風が来なかった。ものすごい爆音が風と共に吹いた。

 顔を上げて、校庭の方を見た。

 舘先生と陸弓先生が結界を張っていた。結界の中は業火で紅くなっていた。

「こなっちゃん、こなっちゃん」

何度呼んでも、こなっちゃんは酷く怯えていた。揺さぶっても反応がない。

能力を持たないこなっちゃんは慣れていない。体中が震えきって、フリーズしてしまう。


 こなっちゃんの右腕に、呪力を込めてある腕輪を嵌めて、走り出す。

正門から入っていったら時間が立ってしまう。校庭とこの道の間にある用水路を渡って、先生の結界に術式を重ねていく。この前の対呪術訓練の時にやったことと同じだ。出来る。

 校内から生徒である術者が出て来て、皆、術式を重ねる。勢いを殺すために結界を重ねるが、火力の高い爆弾なのだろうが、どんどん結界のラインが広がってしまっている。


 幸璃が二階の方から飛び降りて来て、陸弓先生の方に寄っていく。先生の左腕に怜利の呪力が込めてある数珠を渡した。すると一気に結界が収縮していき、爆弾ごと消え失せた。

どうやら事なきを得た様だった。


 陸弓先生は、膝をついて結界のあったところを見つめていた。

幸璃が数珠を持つと、珠が外れてバラバラになった。


 幸璃の方に向かっていった。

「おはよう、」

この巨人は、ぼーと地面に落ちた数珠を見つめていた。

「あ、成羅か。おはよお」

口を開くとすぐに珠を拾い始める。

「壊れちゃったよ、怜利にもらった呪具。」

どうしたらいいのだろう、とでも言いたげな声に驚いた。幸璃も術式を使える者ではないが呪具を大切にしていたのだろうか。

「怜利ならまたくれるよ」

「うん」


それにしても、いきなりあんな爆弾が降ってくるなんて。今まで無かったはずなのに。

少しだけ嫌な予感がした。


 みんなそれぞれ昇降口に向かって歩いて行った。職員会議という事で、一時間目が休講となった。

 「なー成羅ー。怜利まだ帰ってないん?」

疾風が訊いてきた。机の上に座っている。周りに呼ばれてるのに聞こえてないのかずっとこっちを見てくる。

「今日は午後からだって、」

「そうなんね」

そう言って秒速で机から後ろ回りをして呼ばれたサッカーの方へ行く。

 「なんだあいつ」

そう言ったら、誰かが後ろから言う。

「成羅ちゃんの事が好きなんだよきっと、」

耳が一気に音を聞こえなくしようとする。背筋が震えた。まるで百目鬼にでも睨まれたように。


振り返って

「そういうこと言わないでぇ!」

と叫んでしまった。

「せいらちゃんおちつけ!」

と笑いも含む声で彩が慰めてきた。

とにかく笑いまくる亜美。

笑い声が胸の中で反射して物凄くざわついた。

 「あーもう。寝る。」

机に突っ伏す。顔が火照っていて嫌な気分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ