第十話
自分たちの背中の広さを超える大きなリュックを背負い、いつもの待ち合わせ場所に向かう。冷たい空気が皆の耳を冷やして、どんどん赤くしている。
思っていたよりも荷物は重くなくてどんどん足が進む。身長の高い幸璃が縦に並ぶ四人の先頭を歩いていて、街灯の薄明りが幸璃の影で暗くなっていた。
少しだけ歩みを遅めて、怜利の横に並ぶ。
「怜利?寒い時ってその任務の服どうするの?」
「あ、そっか知らないよね。実戦だと上着が邪魔になるから、基本的に標的から一キロ圏内に入ったら脱ぐことがマナーみたいになってる。」
なら今は着てても大丈夫なんだな。
「ありがと~」
そう言って、悠希さんの方に行こうと思ったら、怜利が肩に手を置いてぐっと引き留めてくる。
「ん?怜利なに?」
また真横に戻って小さな声で話す。
「悠希さんも、成羅と同じで寒さを感じない。彼女には常に保温術式がかかってるから。」
そうなんだ、としか感想が浮かばなかった。
任務で貸与される衣はとにかく薄着で常人なら寒さで凍えているはず。いくらこの町でも、深夜は氷点下を下回るほどになると思う。気にしたこともないけどね。
案の定、幸璃が橋に着く前に寒くて怜利に上着を投げられていた。一体怜利はどこから上着を捻りだしているんだか。
悠希さんが手に大きな水の球を出していた。幸璃が上着を整えてあげながら、怜利に悠希さんが寄ってにこにこしながら話す様子を見ていた。
見ていると、怜利は手を振って、掌の真ん中に火の球を出す。赤い炎が熱を放って陽炎が起こっていた。それにしても真ん丸なものを作れるのだな。
そのまま四人を囲むように火の玉を走らせながら、いつもの鉄橋へと辿り着いた。流石に真夜中三時となると車も通らない。
まだ明かりの点いている駅の方のビルが暗闇の中で光って輝いていた。
橋の真ん中まで来ると怜利が荷物を下ろして、アーチに跳び上がり、いつもの黒いコートを羽織った。
幸璃がアーチになっている橋をよじ登って、怜利の横に並ぼうとするが、途中で道路に飛び降りた。真っ赤な掌を見ながら、悔しそうに顔をしかめる。
「怜ちゃん、誰を待ってるんですか?」
そう言って、怜利の横に跳んでくる。同じアーチの上に居る私を見もしないで怜利に話しかけている。怜利は依然として無言だ。
それから明が橋に着いて、荷物の確認を怜利以外の三人で。明は、薄茶色の髪から飛び出るふさふさの耳を悠希さんに向けながら、警戒していた。知らない子でも、変わらず何を考えているのか分からない明。
雪が降り始めた。正月が開けて、このタイミングで雪が降ることが何年もなかった。久しぶりで何か新鮮な気持ちになった。橋の上の怜利は、私の方を見て何か言いたげな目をしていた。仕方ない。
「氷術 氷核」
空に向かって手を伸ばし、術式を放つと、雪の粒が一気に大きくなった。怜利は満足げに空を眺め続けていた。そんな怜利を見ていると、黒色のボロボロになった水筒を私に向けて飛ばしてきた。
水筒を開けると、湯気がたくさん漏れて、甘い香りが鼻に上がってきた。
いつもの甘くてほのかに苦いココアだった。何も変わらないココアの味が妙に優しく思えた。
そうして遅刻組二人を待つことになった。流石の怜利も雪を眺めるだけでは一時間以上は待てないらしい。
「怜ちゃん?残り二人はいつ来るの?」
アーチの上を走ってきて、怜利に話しかける悠希さん。優しそうな声の端に呆れと苛立ちが滲んでいた。
「んー。分からないかな。ゆっくりいよう。」
いつにも増して棒読みの言葉。待たされる気持ちもわかるが、怜利が何も言わずに待つ理由が分からないこともない。
橋の上で、幸璃といつの間にか来ている陽が組手をしていた。
「あれ、陽来てるね。」
そう言って七メートルはありそうな高さから跳び降りた。流石に私は跳び降りる気が起きなかった。しかし、悠希さんは事もなさげにぴょんと降りてしまった。
八神家は皆バケモノなのかもしれないと思えてきた。
橋の真ん中で格闘を繰り広げる幸璃と陽。見ているとすぐに分かるが、幸璃は物凄く手加減をしている。何度も蹴りを浴びてはいるが受けたとしてもまず脚で衝撃を逃がすのだ。そう、簡単に出来るものではない。
陽の蹴りもコンクリートの壁を壊せるほどで、決して弱くないはずなのだが、これを見ていると弱そうに見えてしまう。
幸璃がついに攻撃に回って、貫手を放つ。次の瞬間、見えなくなるほど早くなっていた幸璃の腕を右手で掴む怜利。いつそこに来たのかも分からない。
驚いたのは、陽が貫手を受けるはずだった一方的な展開に見えて、怜利が幸璃と陽の間に入ったことで、陽の蹴りが怜利の頭に打ち込まれていたことだ。もちろん怜利は左腕で受けている。
こいつらの戦闘スキルは、異質なものだった。
それから、怜利と陽、怜利と幸璃の組手が始まる。どんどん激しさを増していった。当然バケモノ達の蚊帳の外にいる女子三人で少し離れて、話をしていた。
めちゃくちゃ寒い寒い言う明を、かまくらに閉じ込めてみたりもした。
東の空の雪雲が淡い橙色に染まり始めた。そこから一気に光が差していく。
「じゃあ、そろそろ、疾風呼んでくるね。」
怜利は穏やかな顔で言って、脱いでいたコートをもう一度羽織って、走り出した。
もう朝になってしまった。
排気ガスの匂いと、人の視線が、嫌だと明が言った。車が多く通るこの橋からも少しだけ移動することになった。
橋を渡った駅の方に向かう。雪が降り続けていた。息が白く立ち込めて、陽は上着を忘れたらしく、酷く寒がっていた。
明がマフラーだけを貸して、若干不思議な格好になった。
駅に着いた。
「おーやっと来たか!遅いよお前ら、」
とバカの声が聞こえてきた。歩いてきたみんなは驚き、肉まんを食べている怜利と疾風を見つめた。
肉まんが食べたいのか、何も言わずに、幸璃が売店に入っていく。
「ちょっと怜利速すぎじゃん?」
と明。肉まんにかぶりつく怜利が言う
「ん、めっちゃ走ったから、たぶん、疾風の家から十分かかってないんじゃないかな?」
と聞いて、ドン引きする一同。普通なら一時間は軽くかかるだろうと思っていた。いくら何でも速すぎるのだ。早朝だからと言って、車を追い越す小学生ってどういうことだ…。
悠希さんが、ピザまんとあんまんをそれぞれ買ってきてくれて、遠慮する明と、あっさりともらう陽と私に分けてくれた。
温かいものを食べて、フツーに朝食のようになってしまった。
悠希さんが、出発しよう、と言った。しかし、怜利は無表情で口を挟む。
「実はもう一人来る。」
そのもう一人がいつ来るのか予定が立たなかったため、集合時間を変えなかったらしい。陽が、ゆっくりでよかったじゃん、とか言っていたがまあ、その通りなのかもしれない。
「次の電車で来るはず」
そう言って、売店の前で待つことになった。既に七時を過ぎていた。
ぼーっと待つこと二分。
「おまたせしました!」
と聴きなじみのある声がして、悠希さん以外の全員がその声の方へ向いた。
屋敷の料理長で、クラスメイトの酒田 彩だった。
「彩!?」
皆揃ってそう言った。彩の手には、黒豚肉まんが握られていた。
私たちが彩と話している様子を見て、怜利は静かに口角を持ち上げる。
「行こうか。」
その一言で、七人全員が怜利について行った。
皆様こんにちは。
change the World本編を、ここまで読んでいただきありがとうございます。読者の皆様のおかげで、10話も投稿できたこと嬉しく思っております。日々の励みとして、私の生活の支えにもなっていただいて感謝しきれません。
実は、の話を致しますと、こちらctW(略してです!)は、私が八歳の頃から密かに紡いできた物語であります。それを今リライトにリライトを重ね続け、皆様の目に触れられる文章に仕立て投稿してる次第であります。
拙いものではありますが、今後とも読んでいただけると嬉しいものです。
ではまた。




